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題名のない灰色日記  作者: すずしろ
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氷の洞窟と私。

 鴇羽館を出て、私は氷結洞へと向かうための準備を始めます。ギルドにいた人から話を聞く限りでは、先日訪れた樹氷森林ほどではないですが、そこそこ深い森の奥にあるという事でした。問題はその後で、氷結洞内部はとにかく複雑に入り組んでいて、地図を書かないと間違いなく迷うとか何とか。しかも内部のほぼ全てが氷で出来ていて、氷を主食とする魔物がいる為、たとえ地図を描いていても百パーセント信用できないんだと。

 とまあ、随分と冒険には向かなさそうな場所ですが、氷結洞そのものは幻想的で、樹氷森林と比べても遜色のないような美しい場所とのことでした。


 兎も角、私は準備の為に街へと繰り出していました。必要そうなものは羊皮紙とペンですが……鞄の中にあったような気がするので、ベンチに座って探します。幸い、今日は晴れなので安心して腰掛けられますね。

 ゴソゴソと中身を探っているとそれらしき物を見つけたので取り出してみると……良かった、想像通りの羊皮紙とペンでした。というわけで、紙とペンは問題なし、次は念のために保存食を買っておきましょう。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「すみません、保存食を買いたいのですけど」

「ああ……って、もしかして君はスキュラを倒した魔法使いかい?」



 道具屋に入るや否や、そんな事を言われました。



「え? ええ、まあそうですけど……」

「ああ、やっぱりね。やる気無さそうな目をしてるって聞いたし」

「何ですかそれ。っていうか、情報源はどこですか、そいつちょっとぶっ飛ばしたいんですけど」



 流石に温厚な私でもそんな事を言う輩を許すことは出来ないので、ギルドの前に逆さ釣りにしておくくらいはしますよ?



「ま、まあまあ落ち着いて……スキュラを倒したって言うのが広まったからこの町ではそれなりに有名人だよ、君」

「そうなんですか? じゃあちょっとまけてもらったりとか……」

「残念ながらそれはダメかな」



 私の願いは一瞬で砕かれました。無念。



「まあ、それならそれでいいですけど……保存食を買いに来たんですけどありますか?」

「ん、あるよあるよ。雪国だからね、保存の利くものじゃないと中々長期間置いていられないんだよ。この辺に置いてあるものは大体そうだから、好みのものを選んでくれよ」



 そう言われた場所にあったのは、干し果物や塩漬けの肉。珍しいものと言えばオリーブオイルや、ワイン漬けのチーズ、凍らされたチーズがありました。



「これって普通に食べられるんですか?」

「うん、食べれるけど凍ったチーズの方は加熱して食べてね」

「ほうほう……なら、これとこれと……これを頂きましょう」



 ◇◆◇◆◇◆◇



 私は買い物を終えた後満足気に店を出ました。店主さんもニコニコ笑顔で正しくウィンウィンと言うやつですね。

 買ったものは気になっていた冷凍チーズと、保存のきく黒パンと塩漬け肉、それと果実酒に漬け込まれていたチーズですね。果実酒に漬け込まれていた方は直ぐに食べないといけないらしいので、氷結洞に向かう際に食べる事にしましょう。


 という訳で、私は駅に向かいました。まだ昼頃というのもあって、それなりに人通りが多く私の噂も多少は届いているのか、私の事をちらちら見ている人はいました。



「……そんなに私有名人になっちゃったんでしょうか?」



 たまにくる視線から逃げるように小走りしながら私は駅に向かいました。やっぱり恥ずかしいんですよね。



 と、それはそうと駅に着いた私は氷結洞の方向へと向かう馬車を探します。確か氷結洞は樹氷森林とは反対の方向──なので、西の方向へ向かう馬車に乗ればいいですね。



「えっと……西に行く馬車は……あれですね、すみません。この馬車、いつ出発します?」

「こいつならもう出発するぜ、乗りたいなら急ぎなよ」

「あ、乗ります乗ります。料金は前払いですか?」

「おう、そうだよ。何処に行くつもりだ?」

「氷結洞の近くまで行くつもりなんですけども」

「それなら銅貨八枚だ」

「わかりました」



 私は財布から銅貨八枚を御者さんに渡すと、馬車の中に入ります。リューさんの馬車がやはり特別製だったのか、中はひんやりと冷たく、カンテラの炎が仄かに空間を暖めてくれる位でした。



(乗合の人はいるのでしょうか……?)



 ぼんやり窓を眺めていると、何人かの人が乗ってきました。年齢層もばらばらで、親子の方もいましたね。

 私、意外と話をぼーっと聞いてるの好きなんですよね。特に意味もなさそうな日常の会話とかを聞くと、その人の生活が垣間見えたりして好きですよ。と、そんな周りの声に耳を傾けているとゆっくりと馬車が動き出しました。ぼんやりと意識が薄れていきました。ぼんやりとした意識の中で何か言い争うような、そんな声を聴きながら私は微睡みの中へ落ちました。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「お客さん、終点だよ」

「んぇ……?」

「氷結洞の付近だ。あんたの目的はここだろ?」

「あ、ああ……そうです。ありがとうございます」



 私が馬車を下りると、空の馬車は元来た道を引き返していきました。欠伸をしながらぼーっと真っすぐ見ていると、目の前には薄青に仄かに光る洞窟がありました。恐らくあれが氷結洞なのでしょう。

 周りをきょろきょろ眺めていると、樹氷森林と同じように番兵さんがいました。



「氷結洞に行くなら許可証いりますか?」

「お? ああ、いるよ。持ってるかい?」



 私は言われたとおりに許可証を出します。番兵さんもそれを見ると、偽物でないと確認を終えた番兵さんは氷結洞へ続く道を開けてくれました。



「ああ、君以外にも氷結洞の中へ入っている人たちがいるけど……まあ、特徴的な子たちだからもし鉢合わせてもあまり喧嘩とかにはならないでくれよ?」

「……へぇ……わかりました」



 私は半分それを聞き流しながら氷結洞へと入っていきました。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 洞窟に入って見ての最初の感想は、氷の洞窟という割には寒くなかったというのが一番最初に出てきましたね。単純に風が無いからでしょうか?

 目の前に見えた景色は、透き通るような氷が複雑に絡まり合い迷路になったような所に、穴のある天井から差し込む光がキラキラと乱反射して確かに幻想的でした。



「確かに綺麗ですね……何かお土産のようなものになりそうなのはあるんでしょうか……?」



 私は言われた事を思い出して、羊皮紙の上に簡易の地図を作りながら、ブラブラと歩いていると――



「そこを退いてくれーーーー!!!!!」

「は?」



 突然のそれに、成すすべなく正面衝突。怒りのあまり目の前の何かに魔法を叩き込もうとしましたが、後一歩の所で留まりました。偉い。



「ったく、この馬鹿! 勢いに任せて突っ走るからだろ! 申し訳ねえ、そこの馬鹿が何も考えずに走ったばかりに……」

「馬鹿はどっちだ! お前が余計な事言わなかったらぶつからなかったろうがこの馬鹿!」



 んだと!? やるか!? と、私を尻目に二人の世界で火花を散らしています。何なんだこいつらは。



「……えっと、もう行っていいですか?」

「あ、ちょっと待ってくれ!」

「何ですか?」

「いや、その突然ぶつかっちまって悪かったな」

「……いいえ、お気になさらず。全く、全然、これっぽっちも気にしていませんので」



 私はそう言ってずかずかと奥に進んでいきました。何と言いますか、空気が独特すぎて着いていけないんですよ……



 ◇◆◇◆◇◆◇



 しばらく歩いて、地図もそれなりに書いていたのですが、改めてそれを見てここの複雑さを理解しました。確かにここは地図無しで歩けば迷うはずです。何より、時折見かける氷を食べている魔物を見るのですが、ああやってここの洞窟が複雑化するんだなぁ、とか思いながら進んでいました。


 しばらく進むと、大きく開けた所に出てここなら休憩出来そうな気がしたので、私は結界を張って邪魔をされないようにしてから昼食を食べ始めるのです。出る時に買った果実酒漬けのチーズを黒パンに挟んで、ドライフルーツを挟んでいただきます。



「ん……美味しいですね。お手軽ですし、果実酒漬けなので風味や味も違ってきますし……」



 むっしゃむっしゃと食べていると、後ろの方から気配……というより、地鳴りのような足音が聞こえてきました。

 そして次の瞬間――



「おおおおおおおお!!!!」



 魔物の群れと一緒に先程出会った2人組がここに突っ込んできました。またですか。

 私は極力気にしないように、隅の方で最後のサンドイッチを食べて、気づかれないようにそおっと抜け出そうとしたのですが……



「あ、さっきのやつ!」

「げ……」



 はい、見つかりました。こっち来ないで下さい。あの、後ろの魔物着いてきてるんですけど。

 という訳で、私は全力で逃げました。だって面倒事嫌いですし。



「な、なんで逃げるんだよ!?」

「貴方後ろが見えない馬鹿ですか!?」

「ば、馬鹿とは何だよ!」

「馬鹿ですよ!! 私と話すにしても先ずは後ろを何とかしてください!」



 そう言うと、言葉が通じたのか二人の少年の片割れ、赤髪の少年が振り向いて、両刃剣を構えました。



「しゃーねぇな……! オラァ!!」



 次の瞬間、剣風が吹き荒れ一緒に呼ばれてきた、アルマジロと呼ばれる生物に似た魔物が吹き飛ばされていきます。なむなむ。

 と、何も考えずにそれを見ていると彼の攻撃の合間を縫って、青いアルマジロが飛んできました。そう、変にぼうっとしていたせいで魔法を咄嗟に唱える事が出来なかったのです。



「危ないっ!」

「ひゃあっ!?」



 私が棒立ちしていたその時、少年のもう一人の方──青髪の少年が光る弓を引き絞り、私を襲おうとしたアルマジロを撃ち抜きました。



「はぁ……兎に角、話はこいつらを片付けてからさせてもらいますよ? それと、謝罪もさせてもらいますね」



 これは……私はまた厄介そうな人と冒険する流れなのでしょうか? 私の不安はまだまだ尽きる事は無さそうです。

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