第九話 「オフの日」
「おっしゃぁっ!久々の我が家だぁ!」
「もう、仕事が終わって家に着いた瞬間これなんだから…」
クレイドが居間の椅子にどっかりと座り、ウェインはその姿にうんざりしてる。恐らくこれがいつも通りの光景なんだろう。
「そんな所で寝てしまわないで、ちゃんと風呂に入りなさい!」
「うるせぇなぁー。テメェが先に入りゃ良いだろ?」
「ったく…ご飯ぐらい作っといてね!」
「へいへーい」
ウェインが結んでいた髪を解き、長い髪が露になる。
ん?あれ?この人妙に女っぽい気がする…。
「ウェインさん、貴方ってどっちなんですか?」
「え?どっちって?」
「性別ですよ性別。男だよね?」
「えっ…」
「ふっ…くくっ…ふふふ…」
「笑うなぁっ!えっと…私は女だよ。仕事中は男装とかしてるから勘違いされるけどさ」
「えぇっ!?」
しかし、よく見ればそうかもしれない。若干着痩せしてるから胸が見えないけど…それなりにあるみたいだ。いやでも男の娘の類だと思った。別に残念だとか思ってない。
「まぁ間違えるのも無理はねえさ。こんな魅力も糞もねえ女だからな」
「お前いい加減にしないと本当に凍らすからな?」
「おぉこわ。お前の「凍結」は恐ろしいからこれぐらいにしとくわ…」
「宜しい。よし。ラルダちゃんだっけ?お風呂行こっか!」
「はーい」
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「わぁ…広ーい!」
「ここは私とクレイしか住んでないから正直こんなに広くなくて良いんだけどね…分かる?このお湯、私達が帰って来た途端に湧くように設定されてるの」
「何それ便利。ていうかクレイってクレイドさんでしょ?なんでクレイって言ってるの?」
「クレイドは仕事名。あいつの本名はクレイっていうの」
「別に変わらんでしょ」
「言っちゃダメ」
そんな会話をしつつ、私達は湯船に浸かる。温かいお湯というのは堪らない物だ。生前は風呂なんて嫌いだと思ってたけどやっぱり恋しくなるんだなぁ。
「そういえばラルダちゃんに兄弟とかって居るの?」
「いねぇです。一人娘ですよぉ…ていうか気持ちいいですこのお湯ぅ」
「あはは。お湯の威力は強烈なようだねぇ。もうとろけてる所見ると初めてだなぁ?」
ウェインさんがそんな事を言って私の頰をグリグリしてくる。お風呂に入るのは初めてではないけど、なんかこのお湯凄い疲れがほぐれる。このままじゃダメにされる!
「そんな事より…ウェインさんとクレイさんって夫婦なの?」
「なっ!…ちょっと違うよ…。その…友人っていうか幼馴染っていうか…」
「いいカップリングだと思うよ。お幸せに」
「人の話を聞けーぇい!」
そう言ってウェインさんが顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がる。満更でもないそうだな。ていうか案外大きいのね。やっぱ着痩せするタイプじゃん。何が魅力も糞も無いだ。魅力まみれだわ。
「うー…ダメになりそう…。あったかいし、気持ち良いし…」
「なんか凄いとろけ具合だなぁ。そろそろ上がる?」
「やだ」
「即答で言うのはやめて欲しいなぁ。自分の魔力で感電しちゃうよ?」
感電すんのか…。あっ、でも電気風呂みたいになって良いかも。
「それも良いかも…」
「電気風呂みたいになるって思っただろうけどクレイが入ったら大爆発引き起こすから、お願いだから出てぇっ!!」
「出る。お風呂の存亡がかかってる」
「そうね…」
クレイさんの魔力が何か察しが付いたので風呂を上がることにする。しかしウェインさんもウェインさんで中々良い感じの人だ。うーん…普通の格好して仕事すれば良いのに…。まぁそれはともかく、おじ様と言い、クレイさんやウェインさんと言い、私の周りには良い人しかやって来ない。生前は控えめに言ってやばい奴とか普通に絡んで来たから嫌だったけど、こっちではそう言う事も無いようだ。嬉しい。
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体を拭き終わり、自分の服を着ると、あることに気付いた。
「なんか綺麗になってる」
「クレイが洗ってくれたんだね。クレイは家事は一通り出来るし、家事に関する魔力も持ってるから効率もいい。家事に置いてクレイの隣に立つ人は居ないよ」
「あの人凄くない…?」
家事できる系男子!そういうの好き!
「さっ、ご飯食べに行こ」
「わーい。ご飯ご飯!」
彼の作るご飯とは一体どんな物なのか…。森では肉とか果物とかが主だったから野菜とか魚が食べたいなって思ってる。まあ異世界でそんな贅沢言ってられないけど。取り敢えずクレイさんがどんなご飯を作ってくれているのか楽しみだ。
そんなワクワクした気持ちを抱えながら、私達は居間に戻った。