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部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした  作者: クラヤシキ
第五章 新たな大地編
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第六十二話 「私達以外誰も居なくなったこの街で」

 私達はあの後、クレーターの所に簡易的な拠点を作っって一夜を明かした。簡易的、とはいえそれは完全な住居だったんだけどね。クレイさんの製石術は凄いと思った。そこで私は一旦その住居の一部屋を借りておじ様と『戦殺』の解毒を試みる事にした。


「解毒を使えば、毒の侵攻を速めてしまうんだろう?なら寧ろ毒を盛れば良いんじゃないかな」

「うーん…。簡単に考えればそうなんだけど…。なんていうか、そう簡単には行かない気がするんだよね」

「へぇ。何故そう思うんだい?」

「勘だよ。でも解毒で侵攻を速めてしまうなら毒を盛れば良いなんてそんな簡単な事では無いっていうのはよく分かるよ。もっと複雑な物だよ、きっとね」


 私がそう言うと、おじ様は納得した様に頷いた。だからといって何もせずに放置なんてしておけば『戦殺』が死んでしまうので、どうすればいいか二人で迷っていると剣聖とサテラがやってきた。


「あれ?二人ともどうしたんだい?」

「私にも出来る事があるかと思いまして。サテラに関しては興味でついてきたそうですけどね」

「あぁ、そういえば一度毒の侵攻を滞らせたのは君だって話だったね」

「はい。完全な解毒は出来ませんが侵攻をただ遅める事は出来ます」


 剣聖は胸に手を置いて言った。彼女自体は転移者だから魔力は持っていない筈だったんだけど、降臨者になったお陰で魔力を得たそうだ。

 そんな彼女の魔力は『無垢』。ある一定量の記憶をすると全てとはいかないが記憶を抹消される『記憶消去』と『事象変革』、『過去変革』の三つを統合したもの、らしい。『記憶消去』に関しては今までに三度経験したそう。なぜ覚えているのか、と聞いた時は近くに『戦殺』が居たので、と返された。そういえば『戦殺』というのは一体何を統合した物なのか。気になるものだけど…。

 剣聖が『戦殺』の体に触れて、事象の変革を行なっていると、ふとおじ様が思い出した様にサテラに問うた。


「そういえば、サテラの魔力は概念の譲渡だろ?それで毒は消せないのかい?」

「多分消せるとは思いますけど…しない約束なので」

「約束?」

「モチヅキさんは私の魔力で『因果応報』を使えなくなりました。それで、あの戦いのような…いえ、戯れですかね、それが終わった時に『因果応報』を返そうと思ったんですけど制止されて…」

「それで?」

「『因果応報』は返さなくて良いけど、俺に対して譲渡はするなと言われました」


 この男がそんなことを。譲渡は悪質極まりないから使われたくないのは分かるけど。…ていうか久々に出会った時からサテラと『戦殺』はよく一緒に居るような。


「ねぇおじ様」

「なんだい?」

「サテラと…『戦殺』っていつも一緒に居たりした?」

「んー…。まぁそうだね。あっちに居た時は一緒に本を読んだり、何やら怪しい遊びを教えたりしてたね。それぞれの面にいろんな数の凹みがある四角い物を三つ使った遊びだったかな…?僕も混ざろうとしたけど難しくてね…」


 なんて物を教えてるんだあの男は。博打だよねそれ。もっと子供にも出来る可愛らしい遊びは無かったのだろうか、って一瞬思ったけどそんな遊びを教えれるような男じゃないか。この『戦殺』という男は。


「終わりましたよ。どうですか?」

「おぉ…。さっきよりは大分楽だ。ありがとう」

「えぇ。また辛くなったら言ってくださいね」

「あぁ」


 変革を終えた剣聖は立ち上がり、そこを出て行った。私とおじ様とサテラ、『戦殺』が残った。


「よいしょっと…」

「『戦殺』、いきなり起きちゃ…」

「大丈夫だ。あとラルダ、俺の事はそう呼ばず普通にモチヅキと呼んでくれると助かる」

「そう…っていうか今私の事名前で呼んだ?」

「…?何か駄目だったか?」

「いや、初めてじゃない?私の事名前で呼んだの」

「初めても何も、呼ぶ暇も無く何処かへ行ってしまったからな」

「そうでした」

「俺は基本的に人は名前で呼ぶ。まぁ昔は…忌み名で呼ぶこともあったか」


 モチヅキはそう言って、少し嫌な顔をした。嫌な思い出らしい。彼は少しの間嫌な顔をしていたが、ふと顔をサテラの方へ向けて、手招きした。

 サテラがそれに気づいて、モチヅキに近づき、側で腰を下ろす。


「寝癖がついてるぞ」

「え?ちゃんと取ったと思ったんですけど…」

「いつもよりは酷くないがな。おい龍帝。櫛を持ってきてくれないか?」

「はいはい。分かったよ」


 おじ様がいつもの事の様にそっけなく返事して部屋を出て行った。いつもパシられてんのかな?

 もう一度、モチヅキの方を見るとサテラを撫でていた。


「モチヅキさん、なんか良い遊びは無いですか?」

「チンチロリンじゃ駄目なのか?」

「あれ貴方凄い強いじゃないですか。もっとこう私でも勝てる様な遊び無いんですか?」

「ははは。ああいう遊びはな、相手が凄い強くても勝てる事があるんだ。いずれは、いいやかなりの確率で弱い物を引き当てる時ってのは誰だって存在するからな。何せ、皆同じサイコロを振ってる訳だから」

「つまり、私でも勝てる時はあると?」

「あぁ、なんなら今からやってみるか?」

「…やってみますか」

「決まりだな。サテラ、器とサイコロを持ってきてくれ。出来れば人も二人くらい」

「分かりました!」


 サテラが嬉々とした表情で部屋を出て行った。あぁ…純粋な子になんてことを…。将来が不安だ。


「あの…」

「なんだ?お前もやるか?」

「嫌ですよ。…ていうかあんな子供に博打を教えるなんてどうかしてると思うんですけど…」

「ん?あぁ。実際に本物の金を賭ける訳では無いから安心してくれ、それに……」

「それに?」

「サテラがそれで楽しめるなら良いのさ。なんならもっと良いものを教えても良い」

「なんでそこまでサテラに情をかけるんですか?」

「そうだな…。こっちに来てから会ってないが、妻に似ているんだよ。最も、姿形は違うんだが…何処かが似通っているんだ。だからなんだか、満足させてやりたいという思いが湧いてくるんだ。あと、何故か奴にはメルドギラスの劇毒が効かない。だからああやって触れられる。龍帝や、クレイもだな…剣聖はどこまで改変したんだか…」


 妻に似てるから、か。なるほどね。モチヅキの奥さんがどう言う人なのかますます興味が湧いて来たけど、敢えて聞かないでおこう。悲しくなってくるだろうし。ていうか今聞き捨てならない事を言わなかったか?劇毒がなんて?


「呼んで来ました!」

「…呼ばれたが一体何をするんだ?」

「またあれかぁ…」

「クレイ、知ってるんですか?」

「おう。まぁ見てりゃわかる」

「櫛を取って帰って来たらなんだいこれは?僕も混ぜてくれよ」


 サテラが全員を引き連れて帰ってきた。私とモチヅキは唖然とする。


「全員連れてきたのか?」

「はい。皆でやった方が楽しいかと思いまして」

「成る程な…。これではラルダ、一人だけやらないって言うのは出来ないな」

「え?あ…そう、ですね…」

「さて、てな訳で全員参加だ。円を描く様に座ってくれ」


 全員が座って、モチヅキの方を向く。流れに逆らう訳にはいかないので、私も参加したのだけど、正直ルールも分からないし、やりたくないのだけれどしょうがない。


「それでは全員席に着いた所でルール説明だ。この遊びではこのサイコロと言うものを三つ使って進行させる」

「「「「「「…」」」」」」」

「まずは親となる役を決めて、親が決まったら、子が金を賭ける。当然、偽物だ。あとで全員に配るから安心しろ。そして、子が全員賭け終わったら親が最初にサイコロを三回振る。そして、時計回りに子がサイコロを三回ずつ振って親と勝負する。子同士では勝負しないからな。んで次にどういう勝負の仕方をするかだが、賽を振った時に出た出目で決める」

「出目?」


 クレスが呟く。そうか、この世界にはサイコロは存在しないのか。それに気付いたモチヅキは無言で器の中にサイコロを落とした。器の中で止まったサイコロを見る。二つの賽は5の目。そして、一つは2の目をしていた。


「この様に、サイコロ三つの内二つのサイコロの目が一致し、残りの一つの目が出した数。それが出目だ。そして今回の出目は2。この場合、子が出目が3以上のを出せば子の勝ちになる。だが、それだけではない」

「?」

「この様に、全てが同じ目。揃目だった時、その揃目を出したプレイヤーが無条件で勝利し、掛け金の三倍を受け取る。そんでこの、目がそれぞれ4、5、6の場合も無条件で勝利して掛け金の二倍を受け取る」

「……」

「あと目がそれぞれ1、2、3の場合は掛け金の二倍を失うから注意な。それと、サイコロを振った時に、器からサイコロが落ちると、その時点で失格。負けだ。それと三回振って出目が出なかった場合も負けとなる。まぁこれぐらいか。分かったか?」


 何となくわかった。要するに大きい出目を出せば大抵は勝てると言う訳だ。話を終えたモチヅキは麻袋を開き、全員に筒を投げ渡した。おじ様がそれを見つめて、モチヅキに聞いた。


「モチヅキ、これは何だい?」

「その中にお前達の残機となる掛け金が入っている。中身は金貨一枚、銀貨五枚、銅貨十枚がだ。そして、当然これを全て失えば終わりだ」

「成る程ね。んじゃあやっていきますか」

「親は俺から行く」


 そう言い、モチヅキは三つの賽を持った。全員その意見に賛同する様に頷いて、それぞれが掛け金を提示し、モチヅキの膝元にある器を見る。少しして一投目がなされた。


 自分の生き残りが掛かった戦いが始まった。


 __________


「えっと…金貨二十一枚、銀貨百五枚、銅貨二百十枚。皆さんは残金零。私の勝ちですかね。」


 剣聖が金貨などを並べて数えて言った。私達の残金は確かに零で剣聖の勝利だ。一体此処まで何があったかと言うと、減っては増えて、減っては増えての繰り返しで終わらなくなった。簡単に言えば泥沼化である。チマチマ賭けていたので全然減らないし、増えなくて楽しみのない賭博だった。いや賭博なんて言えないんだけどさ。こんなの賭博をよく知ってる人におこられそうだけどさ。そこで、痺れを切らしたクレイさんが一気に全財産を賭けて勝負に出たので全員がそれに便乗した。親が剣聖の時に。

 一投目、二投目と、目無しだった剣聖だったが、三投目にて4の揃目を出し、無条件勝利、及びそれぞれの掛け金の三倍を会得。全員の所持金は儚く散っていった。


「ふぅ…。まさか一気に吸い取られるとはな」

「全くだ」

「しかし、いい遊びを思いついたもんだねモチヅキ。中々良いんじゃないか?」

「そうか?最もこれはやりすぎたら辞められなくなるから控えろよ」

「中毒性があるもんなこれ。まぁ前にやった時から負け越してるけどな!」


 男性陣が盛り上がっている。正直、トランプとかの方がやりやすくて良いんだけど紙なんて作れないしなぁ…。しょうがないか。剣聖が(偽物の)大金を袋詰めし終わり、私に話し掛けて来た。


「ラルダ、少し良いですか?」

「え?良いけど」


 何やら話がある様で私は剣聖に促されるまま、外に出た。一体何なのだろうか。


「あの神との交信ってまだ続いて居ますかね」

「あいつとの?」

「えぇ」

「…。旧英雄が現れた時からピタリと止まったね。あの赤眼の軍勢相手の時、あいつの助言があればもっといい突破方法があったかもしれない」

「そうですか……。やっぱり」


 やっぱり?と言うことは意図的な何かなのだろうか。だとしたら本当に悪趣味な神だなあいつは。


「ところでラルダ。話は変わりますが、次は龍族の棲む山へ行きませんか?海を渡りますが」

「山!?何でいきなり?」

「あそこにある霊泉なら、『戦殺』の毒を消せるかもしれないからです」

「な、成る程…。じゃあモチヅキにも聞いてみようか」

「はい」


 そう言って彼女は安心した様な顔で拠点に戻って行った。神との交信の途絶の意味を、彼女は知っているのかもしれないけど…今は良いか。


 そして次の目的地が決まったな。

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