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部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした  作者: クラヤシキ
第五章 新たな大地編
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第六十一話 「慈悲なき不朽の刃」

 私達がおじ様とサテラに怪我が無いかを確かめていると、『戦殺』とクレイさんが戻ってきた。


「やぁ、二人とも。早かったね」

「あぁ。一応雑魚共は一人除いて全員気絶させた」

「ふぅん。それよりモチヅキはどうしたんだい?結構息が上がってるけど…」


 確かに見た感じ外傷は無いみたいだけど、息が荒い気がする。それに、顔色が少し悪い。


「劇毒を貰ってな…。レイシュのお陰で少し…っ、進行が遅れてはいるが…時間の問題だ」

「劇毒だって!?クレイ、急いでモチヅキを降ろすんだ。解毒をする」

「やめろ…。解毒は進行を活性化させてしまう。だから、やめてくれ…」


 おじ様はその目力に圧倒されたのか。少し気圧されて頷いた。『戦殺』はそれを見て頰を緩めた。私の膝の上に座っているサテラがそんな『戦殺』を見てこう言った。


「どうしてそんな怖い顔するんですか?」

「えっ…」

「笑った時にゾワっときました」

「…あぁ成る程。昔、妻にもそう言われたな…ははっ」


 言われたのか。ていうかあの人の奥さんってどんな人なんだろう。やっぱり凄い人なのかな。奥さんもこっちに来てるんだろうか?流石に無いか。


「それよりも、だ」

「?」

「剣聖が黒くて長い剣を持って出てった時から、チャゼル君が居ないんだ」

「え?……あっ本当だ。外に出たら危ないのに…」

「僕が探しに行くよ。見落とした自分が悪いからね」

「おじ様が行くなら私も行くよ」

「私も行きます」

「なんだいなんだい?サテラはあれだとしてもそんな姿になっても懐いてくれるんだねぇ君は」

「姿だけだからね」

「そうかい。じゃあ、行こうか」


 おじ様の後ろに付いて歩き、私の後ろにサテラが付いて歩く。いつもの隊列みたいなものだね。懐かしい。

 久々のおじ様の後ろ姿だ。小さかった時は大きな背中だと思ったけど今は私と同じくらいだ。案外背が小さかったんだな。とか思って歩いていると、おじ様が急に立ち止まった。位置はちょうど隠れていた路地から出て、浜辺に出た所。


「おじ様?どうしたの?」

「……あぁ。戻った方がいいな。チャゼル君が無事な事を祈ろう」


 そう言って元来た道を戻って行った。私はそんなおじ様を呼び止める。


「ちょっとおじ様!」

「あの戦い方は不味い。剣聖らしからぬ戦い方だ」

「え?」

「近づくだけでも巻き込まれる。戻ろう」

「…。うん」


 おじ様の声音はいつもとは違って、重く感じた。故に私は、いう事を聞く他無かった。


 _____________


 魔剣を見て怯えているゼルシアに剣聖はその魔剣の切先をゼルシアに向けて言う。


「立ちなさい。『戦殺』の斬撃なんて貴方にとっては屁でもないでしょう?」

「えぇ…そうね…。でも貴方とは戦いたくない」

「今更そんな事を言いますかね。真打を抜いてあげたのに、見たら見たで戦いたくないと戦線放棄。意味不明です」


 剣聖は魔剣の切先をさらに近づけて、首にあともう少しで刺さる所で止めて続ける。


「言っときますけど貴方にだって武器はある。膨大な魔力量と強力な『腐敗』の力。それにこの大量の黒い砂だってどうせ貴方の物なんでしょう?魔術師であれども『腐敗』の魔力なら幾らでも、私をレジスト出来ると思いますけどね、私は」

「……っ」

「この魔剣は確か…下位の旧英雄でしたっけ?貴方は上位の旧英雄です。もしかしたら勝てるかもしれませんよ?」

「……じゃあ…」

「あっと、言い忘れました。貴方達旧英雄に与えられている加護ですけど、当然彼にも与えられてるんですよ」

「『剛壁』ね…。それがどうかしたかしら」

「私にも同じとまではいきませんが与えてくれるらしいです。これで貴方と私は同等ですね」


 剣聖は首を傾げて笑顔を作った。それを見てゼルシアは絶望した。

 何故か。『剛壁』という加護は風化による破損や素の耐久力を上げるだけではなく、あらゆる状態異常も通さない様になるという物だからである。

 そんな加護があの魔剣だけでなく、剣聖自身にまで与えられるとなると、ゼルシアの『腐敗』は完全に遮断される。戦った所で勝負が見えている。一方的にやられる。だけど何故か、ゼルシアは絶望の中でもう一つの欲に囚われていた。それは………戦ってみたいという欲だった。


「『腐敗』を遮断してきたのね…。いや、流石は旧英雄殺しの旧英雄、容赦無いわ。はははははっ」

「どうしましたか?」

「面白いわ。圧倒的に私が不利な勝負、受けてたとうじゃない。それがそいつの願いならね」

「その答えを待っていましたよ」

「ほら、じゃあ立つからこの危なっかしい物を下げなさい。動けないじゃない」


 剣聖は突き立てていた剣を下げる。そして、ゼルシアは立ち上がり、二人で向き合う。初めて立ち会ったときもこうして向き合った。


「今度は出し惜しみ無し。勝ったら生き延びて、負けたら死の、真剣勝負」

「当然です。そして私は…彼に選ばれた以上、必ず勝利します!」


 先手は剣聖だった。前振り無しの横薙ぎ。ゼルシアはその横薙ぎに素早く反応し帽子を抑えながら身を屈めて回避した。そのまま、剣が空を裂き、剣が過ぎた事を確認した後、後ろに飛び距離を取った。剣聖はそれを確認した後、剣を上に上げて何かを呟く。


「(……下位旧英雄第十二級の魔力が発動するのは持ち主が最も高威力な斬撃をする時。つまりは、今だ)」


 ゼルシアの予想も当たり、黒い刃がどんどん氷で漂白されていく。完全な氷の刃とかした黒剣を剣聖が大上段から円を描く様に振り落とす。すると、刃から氷の破片が離れていき、ゼルシア目掛けて飛んで行った。その氷は一つ一つ、槍の様に尖っていた。命中すれば、肉を、骨を突き破り、身体を殺す様なそんな氷が約100以上。

 ゼルシアは指で円を描き、そこに一定時間浮遊する泥を生成する。その数秒後、無数の槍の様な氷が泥にぶち当たり、一瞬で溶けた。

 その役目を終えた泥が維持魔力を無くし、地べたにべしゃっと落ちた。そしてゼルシアが瞬きをして次に何をするか考え、開いた瞬間だった。


「甘い」

「っ!!」


 剣聖が既に次の攻撃に備えていた。剣を後ろに置き、此方を睨んでいた。刃が半円を描く様に落ちてくる。

 ゼルシアは咄嗟に回避する。そして前に自分が立っていた位置を確認してゾッとする。砂がそこだけ飛び散り、地面が見えており、その地面も割れかけている。もしあそこに居たまま、あの攻撃を受けていたら、死んでいた。

 と、別の念が混ざり動きを遅くしたのか、剣聖の第二撃に気付けず、受けてしまった。円を描く様に回転しながら斬り捨てる一撃。円月斬。

 その剣撃はゼルシアの横腹を裂いた。しかし、それぐらいどうって事はない。ゼルシアは円月斬を終え、佇んでいる剣聖の足元を深い沼に変えた。剣聖はその沼にはまるが、加護によって効果は無い。ゼルシアは横腹から出る腸を抑えながら、剣聖が嵌った沼を見る。剣聖は一気に肩の部分まで嵌っていた。


「ハァ…ハァ…やっと動きを止めれた。この短時間だったけど…凄い時間が経ったみたいに疲れたわ…。おまけにこれじゃあ、再起は難しそうね」

「私をこんな所に埋めてどうするんですか?生き埋めにでもするんですかね」

「いいえ。きっと生き埋めにしても、貴方は過去、事象改変能力を持っている。生きて出てくるでしょ」

「まぁそうですね。ならどうするんですか?」

「これを使うの」


 そう言って、ゼルシアは黒い砂を手に持ち、サラサラと落とした。


「これは私の最終定理。土や泥、砂などをとある物に変質させる物なの」

「ラルダの最終定理と違って地味なものですね」

「そうね…そうかもしれない。まぁ、良いわ…。この最終定理が変質させるだけじゃないのは分かってるもの……」


 かさりと音がして沼の中に黒い砂が落ちる。剣聖は、彼女が死んだのだと思い、溜息を吐いた。やはり人を殺めるのはいい思いはしない、と。心の底で思う。しかし同時に、こんなんじゃ、彼は満足しないな。という思いもあった。


「結局。私じゃ無理でしたね…」


 と空を見て呟いた。瞬間だった。パチリという静電気の様な音がして、辺りの黒い砂が舞っているのに気付いた。そして…その次の瞬間、光に覆われ、大爆発が発生した。

 この黒い砂はゼルシアが死亡した際、または魔力切れを起こした際にとある異常性を発揮する。唐突に、辺りに静電気の様なものを発生させ、その微々たる磁力で浮遊する。それが連鎖していき、静電気が火を起こせる程の電力量に達する。その熱によって引火し、大爆発が起こるというものだ。


 ゼルシアは剣聖と相対した時、黒い剣を見て即座にあの魔剣だと悟っていた。そしてゼルシアは己の身を犠牲にしてでもあの魔剣を葬る為に砂浜の砂を全て最終定理にした。そして再び剣聖と相対し、魔剣を抜かせて敗北し、最終定理を起動する。これがゼルシアが考えた計画だった。


 ____________


 爆発音が鳴り響き、私達は急いで砂浜に出た。しかし、其処はもう砂浜ではなく、クレーターの様になっていた。海水が少しずつ流れてきている。


「剣聖は!?剣聖とチャゼルは!?」

「まさか…!」

「あっ、クレス!?」


 クレスが焦ってクレーターに降りる。あの爆発。普通の人間である剣聖が耐えられる筈がない。もしかしたら…。

 何やら一抹の不安を感じ、私はクレスに付いて行った。それにつられて全員で降りる。降りると、すぐそこでクレスが止まっていた。


「クレス…?」

「見つけた」


 クレスは一人の人物を抱きかかえる。それは、剣聖だった。さっきの衝撃で服はズタズタに破けているが、身体に火傷などの外傷もなく、特に目立った外傷が無かった。それなのに、目を開けようとしない。


「クレス君…どうなんだい?」

「いや、分からない。でもあの爆発でこの外傷の少なさ、多分生きていると思う…思いたい」

「…………」

「じゃあこれは眠ってるんですかね」

「分からん」


 すると、ヨロヨロと『戦殺』がクレスに近づいてきた。あの人、結構毒が回ってると思うけどまだ動けるんだね。そして、剣聖をじっと見て、頰を二、三発、強めに叩いた。

 それを見た私達はざわめいた。また叩こうとしたのでクレイさんとおじ様が止めにかかる。


「お、おい!師匠何やってんだよ!?」

「そうだよモチヅキ!幾ら自分があんまり活躍出来てないからって…」

「はぁ…はぁ…ふぅ…ぅぅ……うるさいぞ龍帝…。誰が活躍してないだと?……俺は旧英雄八十九級を撃退したんだぞ…」

「わ、悪かったから睨まないでくれ。でも、どうしてそんなに強く叩くんだい?駄目じゃないか」

「そうだよ。もっと労わってやんねえと…」


 クレスがそんな三人を尻目に剣聖を見る。すると、クレスが目を見開いて言った。


「目を覚ましたぞ!」

「えぇ!?あれで!?」

「まじかよ!」

「奴は起きるのが遅いから、毎回頰を叩いて……起こしていたんだ」

「そういうことなんですか…」

「あぁ…」


 サテラが『戦殺』を後ろから支えながら会話しているのをチラ見して、剣聖に向き直る。大丈夫そうだな。良かった。剣聖は、キョロキョロと辺りを見渡し、クレスと目が合って、顔を赤くして言った。


「な、なな、なんで私はクレスに抱かれてるんですか!?」

「いやね、クレス君が急いで駆けて行って、君を抱きかかえてずっと心配してたんだよ。死なないでほしい死なないでほしいってねぇ〜。ははは」

「龍帝!」

「……そうなんですか?」

「まぁ…。あの爆発だし、流石にお前でもって思ってな。それにお前は大事な仲間だし、失いたく無かったんだ」

「そうですか。ありがとうございます。あと、まだやる事があるので降ろしてくれると嬉しいです」

「あぁ、分かった」


 降ろされた剣聖は、地面に落ちた黒い剣を手に取り、辺りを見渡した。一体何をする気なんだろうか。キョロキョロと見渡し、ある方向に進んで行った。


「ありましたね」

「これは…」

「上位旧英雄ゼルシアの遺体です。彼女はこの魔剣を葬る為に自分の命を犠牲にしてさっきの大爆発を起こしました。私が死亡する寸前にそんな情報が流れてきたんです」


 そこにあったのは綺麗な死体だった。まるで爆発が無かったかのような感じである。


「気になったんだがお前もこいつも、なんであの爆発で軽傷で済んでんだ?」

「そうですね。本来は私は死んでたんです。ですが、この魔剣は私と彼女に対してある事象の変革を施したんです。恐らくは『剣聖の場合、死んでいた物を生きている物へ。ゼルシアの場合、なるべく綺麗な死体のままで』って感じで。有り難い限りです」

「ちょっと待て。その剣、生きてるのか!?」

「はい。生きてますよ。彼もれっきとした旧英雄です。ただし、私達の味方です」

「そうなのか……」


 クレイさんは少し、考えるような素振りをして下がって行った。


「それで?この人をどうするの?」

「斬ります。跡形も無く」


 私がえ?っと言おうとしたよりも早く、剣がブレて、死体がバラバラになり、ちりの様になった。速すぎる……。


「これで戦いは終わりです。ただこの街は滅び、爆発で多くの命が失われた。それだけは拭えない事実です。」


 剣聖が言った通りだった。街は崩壊、住人は爆撃に巻き込まれて全滅。この街は滅びた。失った物は多いが勝利は勝利だ。まぁ、私は何もしていないんだけど。

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