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第五話 「アレンジ」

「さてと、ラルダ!お前の弓を作るぞぉ!」

「わーい!」


 待ちわびた。待ちわびたこの時を。弓を作って貰う時を!というのも昨日父にお願いしたらすんなりOKを貰ったのだ。やっぱりこの父は神か何かだと思う。


「ねぇねぇ!どんな弓を作ってくれるの?」

「うむ…。通常式かなあ。扱いやすいし、変容(アレンジ)出来るし何より高威力だ。父さんのも通常式だが、かなりオススメだぞ?」

「じゃあそれでお願いしまーす!」

「よぉし。分かった」


 そう言って父は作業に取り掛かった。弓作りには時間が掛かるらしく3、4日掛かるのだそうだ。良いだろう。3、4日ぐらい待ってやろうじゃないか!


 _____________


 三日後、母が出掛けてる途中、一人来訪者が来た。背が高くて、顔に黒い傷が多くある男。歴戦の戦士って感じだ。その男は家に来るなりこう言った。


「おぉ?あの幼かったロッドが子を持つとは。いやはや、時の流れというのは速いものだ」


 ロッドとは父の名前だな。んで母がリイアと。私の名前って何処から来たし。まあいいや。んで、父の方をチラリと見ると彼は訝しげな表情をしていた。


「なんで僕の名前を知っている。僕は貴方のような人は知らないのだが」

「当然だとも。君が知ってる僕の姿ってのは()()()()姿()だしね。うん、そうだな。エルドラードという名前を聞けば思い出すかな?」


 エルドラード?確か理想郷だったような…。いやこっちの世界では龍族の頂点に立った者に与えられる【龍帝】という冠位を持った龍の一人だった筈。本で見た。それに【龍帝】は人じゃない。じゃあ偽物だな。偽物カエレー!


「うーん…娘さんにまで睨まれる始末とは…。さては僕があげた世界史を読ませたな?はぁぁ…。全く、人間化は慣れないし疑われるしでいい事ないなあ。仕方ない…これで分かってくれるかな?」


 そう言って手の包帯の結び目を解き、腕をこちらに見せる。包帯がはらりと落ち、包帯で隠していた物が明らかとなった。


「綺麗…!」

「嘘…だろ?ホントに貴方があのエルドラードなのか?」

「だからそう言ってるじゃあないか」


 そこにあったのは明らかに人のものでは無いもの。蒼白く光る鱗。鋭く黒く光る爪。そこには龍の腕があった。控え目に言えば凄い綺麗だ。


「これはとんだ無礼を働いてしまったな…すまない」

「なぁに。僕は【龍帝】だが他の【龍帝】に比べれば下の下、駄龍さ。だから普通に接してくれると嬉しいな。昔のようにね」


 私の父親は昔この人(龍?)と何かあったらしい。え?めっちゃ凄くないそれ。有名な人と関係持つとか凄いんですけど。何があったんだろう。聞きたい。聞こう。


「お父さん。この人とは何かあったの?」

「あぁ。この人はね、僕に弓をくれた人さ。最も、姿は違うがね」


 弓をくれたのか。そう…。なんか普通だ。もっとこう何かあると思っていた。しかし、なんでそんな有名な人がこの家にやってきたんだろう。そんな疑問は、次の言葉で直ぐに解決した。


「貴方がエルドラードなら、約束通り弓を作ってくれるんだろ?」

「うん…。でも弓自体はもう出来ているのだろう?」

「あぁ」

「なら僕がするのはアレンジだけだね」


 そう言って二人は父の作業小屋へと向かっていった。私も勿論ついて行く。完成をこの目で見届けたいからね。


 ______________


「これだな。タラキヤの木を研磨して作ったんだが…」

「ほう」


 父が出してきたのは至って普通の弓だった。生前、使っていた弓に酷似している。サイズは小さいが。


「タラキヤの木だけじゃあ、耐久性で支障が出るな。僕の龍鱗でそれを補おう」

「頼む」

「簡単な仕事さ」


 そう言って【龍帝】は森の奥の方へ歩いていった。何しに行ったんだろう?考える暇もなく、父に肩を押される。


「行ってこいラルダ。これを持ってな」

「え?袋と金剛包丁?あの人殺せってこと?」

「違う違う。鱗を剥いでこいって事だ。ほら!」

「わわっ!分かったよ。行ってくる!」


 私は【龍帝】の向かう方へ向かって走る。走る内に森に入り、薄暗い空間を走る。暫く走っていると、奥に光が見えた。キラキラ光っている。私はそこに向かって走った。そしてそこには一。


「…貴方が本当の【龍帝】エルドラード?」

「クルルルルルルル…」


 そこには蒼銀の鱗に包まれた銀龍が座っていた。身体に纏っている蒼いのは本に載ってた彼の所有魔力の「雷帝(エレキシカル)」によるものだろうか?周囲が暗いのでとても綺麗だ。見とれちゃいそう。そんな事を思っていると、エルドラードが長い首をくねらせ、自身の背中辺りを指した。


「そこを剥いでいいの?」

「…」


 エルドラードがコクリと頷く。私はそれを確認し、後ろへ回る。すると、彼がフセの体勢を取った。鱗を取りやすくする為だろう。背中によじ登る。鱗がビッシリだ。私は身を切らないように丁寧にゆっくりと鱗を剥いでいった。



 袋に一杯鱗を詰め終わった時、持てないことに気づいた。


「どうしよう…ってわぁっ!?」


 おろおろしていたら突然宙に浮いた。いや、くわえられたのだ。エルドラードはそのまま直進した。どうやらこのまま家へ戻るらしい。私は彼に任せ、抵抗せず宙吊りになっていた。


 家の前に来て、父が手を上げる。そこにポスッと落とされる。


「どうだラルダ?綺麗だったろう?」

「うん!すっごい綺麗だった!」


 父に抱かれながら感想を言っていると、後ろから聞きなれた声が聴こえてきた。そちらに振り向くと…。


「いやぁ…久々に龍に戻ると疲れるねぇ。ん?どうしたんだい二人とも?」

「…!」

「おいエルドラード!服!服が!娘に見せれない!」

「ん?服?あぁ。しょうがないだろう?体躯が大きくなるんだし服だって破けるさ」


 父に視界を防がれたが、残念だったな。私は見た。男性の立派な肉体を。ちゃんと鍛えたらああなるんだなぁ。うん。眼福!


「まぁなんだ。鱗は結構剥ぎ取られたみたいだし、早速アレンジしていこうか。どれ、弓を貸してくれ」

「はいよ」

「よし。「磁塊化」…と、北か」


 彼がそう言った途端、弓が蒼白いボヤっとした光に包まれた。もしかしてさっき龍状態だった時に纏ってたのって磁気なのだろうか?


「貼り付けていこう。鱗にも「磁塊化」を掛けて…うん、こっちは南だな。一発目からちゃんと出るとは珍しい」


 北と南。磁石…。あぁ!N極とS極か。こっちでは方位で言い表わすんだ。成る程成る程。そんな事を思っていたら、貼り付け作業が終わっていた。早い。でも鱗がまばらで不恰好だ。あんな弓は使いたくないなぁ。しかし、そこで終わりではなかった。

 切り始めた。鱗の大きさを合わせるために。パラパラと落ちる欠片が一つ一つ輝いて綺麗だ。

 出来たのか、そこらに落ちてた木の棒を引き、打った。棒はそのまま真っ直ぐの方向へ飛んで行き、木の幹に突き刺さった。


「出来たよ。これは君だけの弓だ」

「わぁ。ありがとうおじ様!」

「お、おじ様…?まぁいいか…。試しに一発撃ってみると良い」


 そう言われて彼からひとつの棒きれを受け取る。この世界に来てもうすぐ3年。案外短かったが、再び弓を引ける事を嬉しく思う。私は標的となる木に狙いを定め、弓を引く。ギギギ、と軋んだ音がする。これだ、この音を聞きたかった。


「ん?」

「どうしたエルドラード」

「いやあの子、初めてにしては姿勢がしっかりしてないか?」

「気のせいだろ?」


 私は矢(棒きれ)を放った。狙いは奥の木。バシュンっと音がした。凄まじいな。放った矢は空を切り裂き、凄まじい風圧を纏い、木に突き刺さる、とは行かず木に着弾した時点で棒きれが反動と衝撃に耐えきれず壊れた。凄まじい威力だ。完璧だな。


「良いねこれ!」

「君は弓の才能があると思うよ。初めてであんな威力で飛ばせるんだから」

「あたりま…。ううん。今のは偶然だよ。もっと上手くならないと」


 当たり前、と言おうと思ったがここが異世界で、尚且つ私は私であって私でない事を思い出し、やめた。私はあくまで長耳族の子供。決して全国十六位の記録を持った女子高生では無いんだ。そう思いおじ様の方を見ると、弟子を見るような目でこちらを見ていた。


「なあロッド。この子は僕が面倒をみてもいいかい?」

「え…。いや僕は別に構わないが…。リイアがどう言うか分からないぞ?」

「奥さんには僕が言うよ。この子は弓の道に進むべきだ。奥さんがこの子をどういう娘にしたいか分からないけどね」


 あのお母さんを説得するのは至難の業だと思うな。絶対に食い下がって来ると思うし。

 私はそう思いながら、ついさっき貰った弓をマジマジと見つめていた。

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