第三十三話 「月神に会いに 前編」
南東方向に思いっきり走ったのは別に良いのだが…。疲れたし、ここ何処か分からないし…。やはり何も考えないで行動するのはいけない事だって身に染みて分かるよ。そう嘆いているときに剣聖が役に立った。
「大丈夫ですか?おぶります?」
「あっ…うん。お願いします…」
と、いう感じでおぶってもらっている。正直恥ずかしいが、こんな荒野に誰もいるわけなく、ましてや私は3歳なのであまり変な目で見られる事もない。
「そういえば貴方はどうして私にそうやって接してくれるのですか?貴方達曰く、私は貴方の故郷を焼き払ったようですけど」
「え…?あぁ。それは…復讐者として動く事を辞めたからです。いつまでも、一人にばかり固執せず、もっと大きい物を狙おうと思ったんです」
「んー。国とかでしょうか?」
「そうですね。人間族はいつでも憎いです」
剣聖とはこんな感じで少しだけだが会話をしている。この人と話すとなぜか自分も敬語で喋ってしまう。不思議な事だなぁ。ちょっと口調を変えてみよう。いつも通りを意識して…。
「私も一ついい?」
「えぇ。なんでもどうぞ」
「クレイさんを避けてる様に見えたけどどうして?」
「…あっ。バレてました?」
「バレバレだよ」
「あははは、やっぱり隠すの下手だなぁ私…。まぁ、根本から話すと、彼はなんか嫌いなんです。全く記憶が無いのに、ずっと前に出会って、やられた感じがして…なんというか、居心地が悪い、と言うんですかね?兎に角一緒にはいたくない人です…」
前に出会っていた。あぁ、前の世界でかな?確かクレイさんも転生したって言ってた気がするしそれが濃厚かもなー。
「それにしても、突然連れて来られて来たのでビックリしたんですよ?一体どこへ向かってるんですか?」
「えっと…。メニシダの滝っていう所に向かえって神様が言ってた。そこの付近に会うべき人物の根城が有るって」
「………成る程。それで私が」
剣聖は何かを察した様に言った。一体何を察したのだろうか?月神、夜、剣聖。何か関係が有るのかな?
「しかし、メニシダの滝まで軽く2日は掛かりますよ?それにここらになってくると魔物だって出て来ますし。あっ、ほらあれ」
そう言って彼女が指差した先を見るとウグイス色をした巨大な鳥が二羽飛んでいた。なんだあれ…。
「突撃鳶ですかね…。焼いて食べると美味しいです」
「もしかして無頼揚げにもなります?」
「なります。とにかく美味しい魔物です。それにあれはつがい。近くに卵があるかもしれません」
「やるしか無いですね!」
「そうしましょうか」
私は剣聖の背中から降り、弓を構える。剣聖は剣を抜き取り、私の背後に立つ。あれ?
「『救世』!貴方は矢で煽ってください!貴方に向かって突撃してきたらなるべく避けてください!」
「ええええええええっ!?」
んな無茶な。しかし今日の晩御飯が無くなると考えると、無茶をするしかない。私は腹をくくり、矢を放った。その矢は空を裂きながら標的に飛んでいき、
「ピッ!キェェェェェェェッ!!!!」
「あっ、ナイスヒットです!」
「やった!……ってこっち来てるよやっぱりぃぃ!」
片方のガタイの良い方の鳥に当たり、その鳥がこちらに向かって凄い勢いで飛んできた。少し遅れてもう片方も飛んでくる。成る程、それで突撃鳶…。
「やっぱり避けなくて大丈夫そうです」
「え?何で?」
「二羽同時に来たので。一気に斬り捨てれるなと」
「あっ、成る程ぉ」
思えば剣聖は剣聖だった。凄腕の剣士だった。これぐらいの奴なら両断出来るだろう。そう思って彼女の後ろに隠れる。彼女は剣を逆手に持ち、何やら構えを取った。そんな事もつゆ知らず、鳥達は凄い勢いで飛んでくる。そして被弾しちゃう、というぐらいの距離まで迫った時、二羽の鳥は両断された。もの凄く綺麗な断面だ。
「……おぉ…」
「ささっ、肉を削いじゃいましょう!」
「え、あっ、はい!」
あっさりとした戦闘だった。果たして戦闘になっていたのかどうかすら不明だけど。この後についてだけど大量の肉が取れたのでとりあえず焼いて食べた。やはり鶏肉だった。いつか小さな鶏も見てみたいな…と私は心に秘めた。
私達は野宿をし、起きて再び歩いて、魔物を狩って食べて眠ってを繰り返して…ついに…
「あ、あれが…」
「やっと着きましたね〜」
「長旅をした気分だぁー!」
私達はメニシダの滝に辿り着いた、が。何かが足りない気がした。
「その、根城は?」
「あぁ、太陽登っちゃいましたしね。夜まで待たないといけませんね。しかも今日は満月です。色々当たりですねぇ」
「当たり?」
「とりあえず、二日も汗も拭かずに歩いて来たのでこのまま月神様に会うのも何か忍びないので、川で水浴びしましょう」
そう言って彼女は河辺まで歩いて行って服を脱ぎ始めた。私も付いていくが、あることが気になった。
「あ、あの…」
「何です?」
「突然あの神に転移させられる、なんて無いよね?」
「な、無いと思いますよ?流石にそれはちょっと…」
どうやら彼女もあの神の本性が分かっているらしい。これは愚痴れる…っといけない。私の思考はダダ漏れだ。
『安心したまえ。君達の安全は僕が保証するよ』
「(じゃあ、私達が水浴びしてる所は見ないでね?)」
『うぐっ…!「無垢」からもそう返ってきたよ…。少しだけ見せてよお願いだから!』
「(うっさい!少しは抑えなさい!)」
『うぅ…いつまで禁欲すれば良いんだ僕は…』
まったく、と思いつつ、私も服を脱ぐ。チラッと剣聖を見る。こう見ると綺麗な人だなぁ、と思う。スラッとしてて、色白で…。日本人ウケしそうな感じだ。和服とか似合いそう。
「…?どうしましたか?」
「あっいえ、なんでもないです。さ、行きましょう」
私はとりあえず誤魔化して川へと促した。この水浴びが済んで少ししたら根城を探すとしよう。




