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第二十七話 「謁見」

 吹っ飛ばされたにもかかわらず、目立った外傷が無い降臨者を見て、魔神王は少したじろぐ。そんな魔神王を尻目に、降臨者は手を握ったり開いたりを繰り返したり、ぶらぶらさせたりと不思議な動作をして、こくりと頷きこう言った。


「ふむ、感覚が元の世界の物になったな。これならお前達とも対等に、いやそれ以上の戦いが出来る」

「俺達が戦いを放棄すると言えば?」

「別にそれでも良い。何せ、俺の仕事は戦意ある者を斬る事。戦意が無い者を斬ることはない」

「そうか……あっ」

「どうした?」

「お前は人間族の陣営に加味していた筈だ。その事について聞かせてくれないか?」

「別に構わないが、特に面白くも無いぞ?」

「あちら側の内情が知れれば問題ない」


 魔神王は降臨者との戦いを一旦取り止め、あちら側の内情を聞き、弱点を探る事にした。サテラは二人の切り替えの速さに驚きを隠せなかった。


 _____________


 魔神王とサテラペアが降臨者に示談を求めている時、こちらでは聴取が行われていた。私の首筋に剣を突き立て、抵抗すれば刺すという条件での聴取である。


「なるほど、彼がそういう事を…」

「言うことは言いましたよ…。そろそろ剣を下ろしてください」

「そうですね。あぁそうだ。最後の質問です」

「はい?」

「貴方には両親が居ましたか?」


 そう聞いてきた。両親が居たか、と。当然だ、居たに決まっている。私が龍帝について行くと無茶を言ったにも関わらず、普通に見送ってくれた両親が。優しくて、とても明るくて暖かな両親が私には居た。だけど、それは貴方に奪われたんですよ、剣聖…。


「居ましたよ…。当然です、だけど…」

「だけど?」

「だけど人間族に全て奪われました。故郷も、両親も全て」


 私は吐き捨てる様に、言った。復讐の対象がここに居るにも関わらず、悔しい思いを孕ませながら。しかし、剣聖の顔はそれを聞いた瞬間、一瞬驚き、そして

 可哀想な人を見るような目で私を見てきた。ぽろりと目元から何かが落ちた。そこからどんどん溢れ出てきた。


「なんで…そんな顔が出来るんですかっ…!」

「えっ?単純に貴方、いえ。長耳族の子供達は可哀想だな、と思っただけです」

「可哀想…可哀想!私達をこうしたのは貴方だ!あの時の戦いだって…全部!」


 彼女はきょとんとした顔をした。記憶が無いからか。でもそれは拭いようのない事実だ。許されることではない。私は歯を食いしばって魔力を振り絞り、『雷槍』を展開しようとする。しかし、それは彼女の行動によって止められてしまった。


「そんな恐ろしい顔、女の子がしてはいけませんよ。それに、憎悪に満ちて間違った道に進む事なんて貴方の両親は望んでいないでしょう」

「っ!」


 抱き寄せられた。突然の事だったから『雷槍』も崩れた。あぁ、なんで落ち着いてしまうんだ私は。このゼロ距離なら刺し殺せる筈なのに。どうして。


 私が自分に問答していると、剣聖は私を引き離し、こう言った。


「ありがとうございました。質問は以上です。それで、思ったのですが…貴方に復讐は似合わない。それに、()()()()()()()()()

「え?」

「一度はあっさり終わってしまった命。二度目はどう終わるんでしょうね?」

「えっ?それってどういう…」


 剣聖は剣を抜いた。その剣は不思議と鏡のように透き通っていた。私はその鏡に見惚れてしまった。それからいきなり眠気に襲われて、私はその場で眠ってしまった。


 ____________


 眼が覚めると、視界一杯に青空が映った。どうやら仰向けにされてたらしい。私は自らの体を起こして、場所がさっきの場所とは明らかに違う事に気付く。


「いい匂い…」


 見渡すばかり花畑。様々な花が咲いていて、常に花弁が散っている。


「一体ここは…?」

「僕の自慢の庭は気に入ってくれたかな?」

「だ、誰!?」


 花畑に見惚れていると、背後から声がした。私は声がする方に振り向く、しかし、そこにはその姿は無かった。少しキョロキョロしていると、再び声がした。


「上だよ上」

「あっ…」

「やぁ。元気そうだね、弦橋美玲さん」


 私が死んだ時、もう一つの人生を歩ませてくれたあの神がそこには居た。

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