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第二十五話 「剣豪境劍の戦い 開幕戦 弍」

 私はこの状況下で言えば邪魔者だ。剣は使えないし、魔術の使用は死を意味する。そんな奴が相手の状況に魔術行使が主な私とサテラは来てしまった。正直、足がガクガクなのはしょうがないと思ってる。子供だもの。


「震えてるね。無理して来なくて良かったんだよ?」

「わ、私は長耳族の人達を守る義務があります。族長ですから!」

「謎の敬語になったね…。魔神王殿」

「なんだ?」

「僕と子供組は剣聖を相手する。君一人で持ち堪えてくれるかい?」

「…別に構わんが、一つ頼みがある。」

「ん?」


 ウェルトがおじ様に耳打ちする。何を頼んでいるのだろうか?そんな事を思っていると、おじ様が納得した様に頷いた。そして、サテラを抱いた。ん?


「うぇ?なんですか?」

「君の「譲渡(ギフト)」が此処で役に立つかもしれないと魔神王殿が言っててね。少しばかり力を振るって貰うよ」

「…?分かりました。出来うる限りは頑張りましょう」

「ふむ、有り難い」


「譲渡」が有効。確かに。サテラの「変質譲渡(ストレンジギフト)」で私達の潜在能力を活性化させたり、「牽強付会(トラブルギフト)」で『剣が使えない』という概念をこじつければ、剣聖は弱体化を免れない。ただ、欠点として「牽強付会」は連続詠唱が出来ない。一日単位で一回きりだ。だからしっかり考えて詠唱しなければならない。


「ん?準備は出来たか?」

「あぁ、もう良いぞ」

「よしじゃあ、剣聖。あっちは二手に別れたみたいだ。俺らも二手に別れよう」

「そうですね。では私は龍帝殿の方を相手しましょう」

「では」


 そう言って剣聖は私達に向かって歩いて来る。思い出せば私はこの人のお陰で復讐や憎悪を抱く様になったんだっけ。いやぁ、まさか実際に会えるなんて。


「ラルダ…その、顔が怖いよ」

「へっ?あっ、そんな怖い顔してたかな?」

「闇が深そうな顔だったね…。まぁ剣聖に対して憎悪を抱くのも仕方ないか」


 闇が深いって…。どんだけ凄い顔してたんだ私。後で気になるから聴いてみよう。そんな事を思っていたら剣聖が口を開いた。


「初めましてですかね…龍帝エルドラード」

「うん?君には前に出会っている筈だよ?」

「それは…申し訳ありません。どうも、記憶が疎くて」

「それはどういう事かな?僕達が戦った事も覚えていないのかい?」

「えぇ。あのお方、『戦殺』の降臨者に出会った時からその前の記憶が段々と雲散して、霧の様に跡形も無く消えて行きました。ただ、同時に持ち合わせていなかった物を二つ、記憶と引き換えに手に入れることが出来ました」

「へぇ?敵同士なのに、そこまで喋るのかい?」


 私は正直、彼女が怖かった。クレイさんから聞いた彼女の人物像とかけ離れているどころか、真反対なのだ。そして転移者は持っていない筈の魔力の流れを感じる。


「えぇ。私と貴方方は敵同士であり味方同士でありますから」

「あの…」

「なんでしょう?」

「どうして転移者なのに魔力を所持しているんですか?もしかしてですけど、剣聖っていうのは…」

「えぇ。私は剣聖にして剣聖ではありません。何故剣聖と呼ばれていたかはもう覚えていませんが、これだけは断定して言えます。そして、そうですね…貴方は一つ勘違いをしています」

「え?」

「私は転移者ではありません。この世界の戦いの泥沼化を抑止するために喚ばれた、降臨者の一角です」

「!?」

「なっ、降臨者だと…?」

「はい。正しくは『無垢』の降臨者。正直言って、この異名は馬鹿にされている様な感じがしますが…」


 そう言って、静かに笑う。『無垢』…。何も知らない?どういう事なの?


「何も知らないというのは良い事です。だって、遠慮無く人を殺したり出来ますからね。それに関係だって無かった事に出来ますし。まあ、全部『戦殺』の方が教えてくれたんですが」

「関係を無かった事に…?」

「はい。どうやら私は人皇に就いていた様です。全く知らないんですがね」


 聞いているのも馬鹿馬鹿しくなってきた。私は『雷槍』を展開する。私は何故、復讐対象の話を延々と聞いていたのだろう?そう思い、自分に叱責し、放つ。


「ん?」

「あっ!辞めるんだ!」

「『流星』」


『雷槍』は私の声と共に50個ぐらいに分裂した。正直、『流星』よか『分裂』が一番合うかな。まあ名前なんて別にいいんだけど。この数なら一本は当たる。そう思っていた。


「話している時に攻撃する、えぇ。隙をつくという点でとても良い点数が貰えそうです、しかし」


 彼女の姿がブレる。刹那、『雷槍』は全て霧散した。


「私だってちゃんと警戒はしてます。痛いのは嫌いですから」

「レジストしないで下さい…。貴方が長耳族(なかま)の殺した数だけ『雷槍』で貴方を貫くんですから」

「えっ?」

「記憶が無くても私にはあります。当然の報いは受けて貰う」


 彼女はきょとんとした顔をしているが、正直どうでもいい。目の前の敵を倒すだけだ。そう思い、再び『雷槍』を展開する。


「待ってください、私が殺したってどういう事ですか?」

「恍けるな!何も罪の無い者を貴方は殺したんだぞ!」


 勢い良く『雷槍』を放つ。あっという間に剣聖の元へ飛んでいき、その身を貫こうとするが、やはり叶わなかった。『雷槍』は真っ二つに引き裂かれ、霧散する。そして剣聖が猛スピードでこちらへと向かってくる。そして、あっという間に距離を詰められてしまった。


「くっ…」

「さて、追い込んだ所でもう一度話を聞きましょう」

「君に話すことなんて無いよ?」

「龍帝、貴方に聞く訳ではありません。私はこの長耳族の話を聞くのです」


 あぁ…もう面倒くさい!

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