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第十八話 「譲術師の輪生」

「くそっ!サテラがここに行ってくれと言うからここに来たらこのザマだ!」

「………」

「サテラは…やっぱり貧血でぐったりしてる…「牽強付会(トラブルギフト)」と「痛覚譲渡(ペインギフト)」であいつに痛覚も苦痛も全部あいつにあげたせいで流血の酷さに気づかなかっ……」

「そこぉ!静かにしていろ!」


捕縛されていたのは二人。手足等から血を流し、真っ白い肌でぐったりしている女に、その女を凄く心配してそわそわしている男性が一人。


「君達かな?城壁付近を彷徨い歩いていたというのは」

「!」


男が声のする方を向き、驚いた顔をする。部下が男の手枷を外した途端、【龍帝】に掴みかかった。


「あぁ。旧魔神王の下で戦うのが嫌になり、辺鄙な街に逃げた軍隊長じゃないか。そんな人が如何なご要件で?」

「…【龍帝】エルドラードっ!」

「やっぱり僕の名前覚えてるよなあ。うんうん、悪くない。で?」

「サテラを…サテラを治療してくれないか?お前なら出来るはずだ!このままじゃ血液不足で死んじまう!」

「ほう。そちらの娘も何か覚えがあるな…。と思ったがサテラっていうのか。しかし…」


【龍帝】が腕を組み、顎に手を当てる。妙に傷が新しくみえるから不思議に思ったのだ。そう不思議に思っていると、ウェインが近づき、彼女に触れる。


「冷た…死体みたい。でも息はしてるけど…」

「……」

「ほほぅ。こりゃ興味深いわい」


全員が声がした方向に向く。そこには【土王】エスドレイジが髭を弄りながら立っていた。【龍帝】は彼に尋ねる。


「【土王】、何かわかるのかい?」

「エルドラードよ。あの小娘は「転輪」持ちじゃ」

「「転輪」だって!?」


「転輪」。それは太古の時代から存在しており、現在はかなり希少な部類に分類され、「(オール)」に並んで希少な魔力として言われている魔力。その持ち主が死した時、再び子供の姿となり、生を繰り返す呪い的な魔力。主に魔神族が所有する事が多く、この魔力を所有している魔神族は不死魔族と言われているのだが…。


「だが、あの王は奴を見たら嫌悪するじゃろうな」

「ん?何故だい?」

「覚えてないのかの?前に、ここに3回程尋ねてきた女が居たじゃろうて」

「あぁ…あの娘だったのか」


【龍帝】は思い出した。過去に懲りずにここへやってきては罵声を浴びて帰っていく女の子の事を。


「しかし転輪する時の過程を見れるのはいい事じゃな。希少だしの」

「実験じゃないんだぞ?」

「分かっとる」


サテラと言われた女がピクリと体を震わせた。皆の視線がサテラへと向く。体がへたりと倒れた。


「おい!大丈夫か!?」

「安心せい。「転輪」するだけじゃ。儂らには見ることしか出来ん」

「はぁ!?」

「ほれ、背中がウゴウゴし始めたぞ」

「?…うわぁ!?気持ち悪っ!?」


元軍隊長が過剰な反応を取る。確かに背中が別の生き物のようにウゴウゴ動いてるのは気持ち悪いが…。などと思っていたら、バリッと音が鳴り、なんか小さな物が蠢いていた。


「あぁ…?」

「成程…」


そして遂にその姿が現れる。その容姿は、幼女化したそれだった。


「っふぅー、熱かった」

「小さくなった!?」

「蛹の羽化みたいな転輪だな」

「面白い物を見れたのぉ」

「可愛い…」

「虫じゃねえか…」


その周りでは単純に驚く者や、転輪の仕方に感心したりする者、胸に来る者、引き気味な者が居た。小さくなった彼女は、少し困った顔でこう言った。


「あの…。貴方達は誰ですか?」


____________


そんな変な事態が起きている中、【魔神王】と私は湖の畔に設置してある、ベンチに座っていた。湖辺りには涼しく、気持ちの良い風が吹いていた。


「はぁ…気持ちいいなぁ」

「あぁ、そうだな」


湖に夕日、この風という最高の取り合わせの中に私は居るのだ。そして、珍しく誰も居ないこの空間。自分の思っていた事がするりと出てしまう。


「私ね、こういう風を浴びると、故郷を思い出すの」

「え…?」

「とても気持ちよくて、何処か幸せで、安心できるような風。故郷で浴びた時からこういう風が好きだった」

「…」

「でも…もう故郷は焼かれて私の故郷は無くなって、お母さんもお父さんも何処にいるか分からない…もしかしたら死んでるかもね」

「私ね、あの二人が居なくなったら、私を置いて、私の事をずっと待ってるって言ってくれたあの二人が死んだら…もう耐えられないよ…」


何故だか、目元が熱くなり、熱いものが流れ落ちる。泣いているのだ。おかしいな、対して泣くような事では無いのに…。


「うぅっ…ぐすっ……ん?」


唐突に頭に少しだけ重みが掛かる。そこを見上げると手が乗っていた。


「何してるの?」

「いや…女の子の励まし方とかまったくもって分からないが…取り敢えずこれで我慢してくれ」

「あははっ。ウェルトらしいよ。でもそういう所は好きだよ?」

「俺はラルダの事好きだぞ。部下とか【龍帝】とかとは違う意味で…」

「きゃっ」


ウェルトが急に距離を詰めてきたのでびっくりして変な声が出てしまった。密着し過ぎてドキドキする。まてまて、相手はこう見えて36歳のおじさん、そう考えれば耐えられる。


「ふむ、いい匂いだな…。安心する匂いだ」

「や、その…。や、やめてくださいぃ…」


髪の匂い嗅がれてるよぉ…!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!でもでもでも!どっちも見た目は子供だ!こんな事しても大丈夫なんだけど!やっぱり恥ずかしいよぉ…。


「………すぅ………すぅ………」

「あ、あれ…?寝ちゃったの?寝たのか…」


なんか気が昂っていたのが恥ずかしい。顔も真っ赤に紅潮しちゃったし…。うー。弄るのは私の役割なのに…。私もなんだか眠くなってきたな。そう思い、ウェルトに体を任せ、目を閉じた。


その数時間後、眠りから覚め、城に戻った時、幼女と戯れる部下達に【魔神王】が驚愕するのはまた後にしよう。

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