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第十六話 「里の郊外にて」

 ロンゴヴィギナの街から少し離れた小さな街での事、この街はとある点で【魔神王】から突き放されていた。


「さて…今日の金品はこんなもんだ」

「なんだよすっくねえな。もっとスレなかったのかぁ!?」

「そりゃあっちの奴らは警戒心だけは高いしなぁ。盗みにくいったらありゃしねえ」


 そう。普通にスリや強奪が横行する程の治安の悪さである。そのような環境で善良の民なぞ存在する訳が無い、我を心から慕う者なぞ存在しない、と旧【魔神王】に突き放され、今なお突き放され続けている。しかし、そのような治安の悪く、人も悪い街にも例外はいた。


「おっ、サテラじゃねえか。一人で飲んでてもつまんねぇだろ?こっち来て一緒に飲もうぜ?」

「あっ…いえ、私は1人でいいです」

「んー。やっぱサテラはつれないな。もうちょっとこう、オープンにしようぜ?【魔神王】に三回も突き放されたらそりゃ落ち込むけどさ…いつまでも閉鎖的ってのも、な。美人が台無しだ」


 サテラという女性がその例外である。彼女は基本的に善人と呼ばれるような人物である。ただ彼女は【魔神王】の下で戦力として務めたかった。しかし、とある女性に一つ劣っていた事に加え、この街出身であった事で【魔神王】に突き放されたのだ。彼女は諦めず、貴方の下に付きたい、と願ったが、三回も突き放され、最後には罵声も浴びた。そのせいか、心が完全に閉鎖してしまい、目の光も失ってしまった。


「お前、いつも夜ここに来ちゃ、馬鹿みたいに飲んで、泣きながら寝てるじゃねえか。そんな生活送ってるせいで、顔が酷くなってるぞ」

「…」

「今回は馬鹿飲みはさせねえ。程よく酔わせて、気持ち良く明日を迎えさせてやる」

「気持ち良く、ですか…。そういう迎え方も良いですね。じゃあ…」


 彼女は少しだけ笑みを浮かべながら、2人の男性が居るテーブルの席に座った。彼女にとって今日は久々に昔の自分に戻れた気がした日として嬉しく感じた。しかし、嬉しかったのはそこまでだった。


 ____________


 彼女が程よく酔い、だらしない笑みを浮かべながら眠ったのを確認した男性が動き出す。


「おい、寝たぞ」

「おいおい、マジでやんのか?」

「当たり前だろ。なんの為におびき寄せたと思ってやがる」

「だけどよぉ…」

「あー!ったく!そんなんだから金品の一つも奪って来れねえんだよ!捨てるぞ!」

「捨てるのはよしてくれよ…分かった!やるよ!」

「よし、それでいいんだ。取り敢えず予定した場所に運ぶぞ」


 そう言って彼らは彼女を背負って何処かへと向かう。誘拐。この街ではよくあることである。女性を付け狙う者が多く、女性は基本的に夜は出歩かない。だが、彼女はそうではなく、酒での一瞬の快楽に浸かりたいが為に、無防備のまま夜を出歩いていた。飢えた男性達にとって、格好のカモである。


「しかしなんでこんな際どい服着てるんだろうな。」

「誘ってる様にしか見えねえよな」

「だからこうして攫ってきたんだろ?」

「まあな。恨むんなら自分の見た目を恨めってんだ」


 そして街郊外の古い小屋にやってきた。男達は小屋に入るなり、彼女を両手首を縄で縛り、壁に寄り掛かるようにして座らせる。


「まっ、こんなもんだろ」

「亀甲縛りにしなくていいのか?それのが結構唆られると思うが…」

「お前も結構ヤる気だな…。いや、今回はなんつうかこう…苦しむ顔が見たいんだよ」

「は?サテラはいつも苦しみに溢れてるだろ」

「いや、そういう精神的苦痛じゃなくてな。物理的に痛ぶって痛みに苦しんで歪む顔を拝ませて貰おうと思ってな」

「はぁ…」


 腰巾着のような男性は少々嫌な予感を感じ取っていた。あんな幸せそうに眠っている女性に何をする気なのだろうか?そんな事を思って、少しながら震えていると、サテラが目を覚ました。


「…んっ?あれ…?手が…」

「おう、起きたか。いや、悪いな。ちょっとした興味で拐っちまった。だがまあ、しょうがねえよな。口車に乗っちまったお前が悪いもんな」

「えっ?…どういう事ですか?」

「端的に伝えるとお前の苦しむ顔が見たいってこった!」

「うっ!?」


 彼女の鳩尾を男の蹴りが抉る。胃の中にあった物が逆流しそうになり、それを抑えていたら別の物が込み上げてきた。


「げほっ…げほっ!うっ…苦しむって…」

「うーんちょっと違うな。強さが足りねぇのかな!」

「あぐっ!」


 再び鳩尾を抉る。今度は少しだけ宙に浮いた。胃の中にある物が逆流してくる。今度は抑えられない。


「うっ…おえぇぇぇ…はっ…はぁ…はぁ…」

「汚ねえな。でも今の顔は理想の顔だ。もっと見せてくれよ?」

「へっ…えぇ…?…うぅ…ぐぅ…」


 酒場にて飲んだり食べたりした物が体外に放出される。そのせいか、目に涙を浮かべながら苦しそうに腹を抑えてうずくまっている。

 その光景を見た男は、ゾッとした。今すぐ逃げ出したかった。しかし、今逃げ出せば俺も同じ目にあう、と思ったので逃げる事が出来なかった。男はサテラがずっといたぶられ続けるのを見る事しか出来なかった。


 ____________


 何時間経っただろうか。サテラはもう、死にたそうな顔をしていた。いたぶられ続けてる間もずっと助けを乞う様に俺を見ていた。だけど俺は動く事が出来なかった。そしてずっといたぶっていた男がサテラの髪を引っ張りながら問う。


「ふー。爪剥ぎも骨折り、裂傷もやってみたが…もう壊れちまったか?」

「…っう…あっ……」

「まだ声出せる辺り行けるな。よし、仕上げだ」

「おい待て!もうそれ以上したらサテラが死んじまう!」

「はぁ?その死ぬ間際ギリギリを保ち続けさせるのが楽しいんじゃねぇか」

「…ひっ!」


 その男が男がいる方向に振り向いた時、寒気が走った。狂気が満ちていた。逃げ出したかった。もうこの後サテラがどうなっても良いから逃げ出したかった。しかし、体が動かなかった。


「よっしゃ、首絞め行きますかね。殺すつもりでいくからたくさん苦しんでくれよ?」

「……ひっ…うっ」


 ギリギリと絞める音が聞こえてくる。たまにミシッっていう音がなっており、首の骨が折れるのではという不安に駆られる。気付けば自分はそこら辺に落ちてた鉈を持っていた。彼を止めることなんて出来ないのに。


「あっ、ぐぅ…苦し、死んじゃうっ…!」

「ひゃはははははは!イイねぇ!近年稀に見るいい顔してるよあんた!」

「お、おいっ!もうよせよ!本当に死んじまうぞ!」

「良いじゃねぇか。毎回毎回、死にたそうな顔してんだぜ?ならいっそ死なせちまった方が良いだろうが!」

「それでも殺すのは良くねえよ!後味が悪…ん?」


 ふと彼女を見てみると、さっきまでとは打って変わって、普通の顔をしていた。全く苦しくなさそうな彼女に対して、男は段々顔が青ざめていく。そして、サテラの首を締めていた腕は力無く落ち、男は倒れた。


「…ぁぁぁぁああ……あああああっ!」


 倒れた男が突然雄叫びを上げながら悶え苦しみ出したのだ。男は叫びながら周りをゴロゴロと転がったり、頭を掻きむしったりした末に、絶命した。サテラはその男を冷たい眼で見下ろしていた。


「…お、お前…一体、何をしたんだ?」

「私の魔力で私が感じてきた苦痛や刺激を全部彼に移しただけです。この通り傷だらけですけど、痛みは全くありません」

「成程…ふふっ。あー、確かに傷が多いな…。んー、取り敢えず包帯だけだが巻いとこう。野ざらしにするよかマシだろ…」

「ありがとうございます。しかし…何故あなたは仲間が目の前で絶命したにも関わらず、逃げないどころか、嬉しそうに笑った挙句、私の手当をしてくれてるんですか?」

「仲間だなんて思ってなかったよ。詳しくは言えねえが奴はとんだクズ野郎でね。いっつも拘束されてたんだよ。だから正直、お前が殺してくれた時は驚きもあったが嬉しさの方が勝ってたんだ」

「へぇ、じゃあ私を襲う気は無いんですか?」

「ない、って訳ではない。でも傷だらけだしな。まず治してからだよ、ほれ。巻けたぞ」


 そう言って男は立ち上がる。そして悩み出した。


「どうしたんですか?」

「この辺に治療師って居たかなって思ってな…。うーん…」

「それなら私、有名な治療師が居るところを知っています」

「おっ、ホントか?何処だ?」


 男が尋ねる。サテラはその問いに対して、少しだけ笑って答えた。


「ロンゴヴィギナの城下街です。連れてって頂けますか?」


 男はそれを聞いた瞬間、ある事を悟り、その場所に赴くことを快く了承した。

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