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第十三話 「無銘の剣空」

-《クレイ視点》-


残っていた残党共を粗方殺し終えた俺はちょっと休んでいた。懐から煙草らしきものを取り出し、火を灯す。


「ふー…」


俺には引っ掛かることがあった。【剣聖】もとい【千剣皇】が残していった言葉。「化け物」という単語。化け物っていう単語自体、異形の怪物とか圧倒的強者に付けられる言葉だと思っていた。生前で言うなら師匠がそれにあたる。


「化け物ねぇ…。俺はそんなに強くなれたのか?」


否。と自問自答する。自分は生前の世界の剣術を少しだけ真似できるだけで、【千剣皇】とかみたいにひとつの事を極限まで詰めた訳じゃない。そんな、半端な奴が強者を語れるか、と。それに自分は甘い。生前となんら変わってない。人間が涙目になりながら助けを乞えたり、泣き喚きながら逃げ出したりされるとどうしても見逃してしまう。それが昔、生前の仲間だったら尚更だ。いけない、とは思うが躊躇してしまう。


「駄目だなぁ…俺は。これじゃ最弱のままだっての」


煙草を吸う。まぁ考えててもしょうがない。取り逃した獲物は帰ってこない。そう思いつつ、煙を吐く。暫く吸っては吐くを繰り返していると、じゃり、っという足音が聞こえた。


「クレイではないか。こんな所でどうしたんじゃ?」

「あ?…って、【土王】のオッサンじゃねえか!」

「いかにも。所で【龍帝】は逃げてくれたかの?」

「おう。エルドラさんがオッサンが死んだって言ってたからビックリしたぜ!」

「阿呆。あんな小娘に殺されてたまるかいな」


そんな会話の後で二人で笑う。【土王】は生きていた。どうやら土人族は体が非常に丈夫で、斬撃では傷がつかないらしい。最も、【千剣皇】の斬撃は届いたそうだが。俺は立ち上がり、長耳族が収容されていた場所へと2人で向かう。


「しかし、この焦げ臭い匂い…お主がやったのか?」

「あぁ。長耳族は貴重な戦力だし、仲間だしな。それに手を出されるんならそいつらを殺すさ」

「そうかい。長耳族の奴らはどうするんじゃ?」

「王様が一斉転送してくれる。そう伝達しといた」

「そうか」


そして収容場所の前にたどり着く。しかし、扉を開ける前に手を止めた。何か嫌な予感がする。なんでこんな静かなんだ。布が擦れる音ぐらい聞こえるはずだが…。嫌な予感が身体中を駆け巡る。


「ちっ!!」


扉を蹴り破り、中に入る。時刻は夕刻。中は暗かったが、異様な血生臭い匂いがするのはすぐに気付いた。そして、だんだん眼が慣れて視界が多少開けた。


「あああぁぁぁ!!?」

「どうしたクレイ?ってなんとっ…!?」


そこにあったのは長耳族(エルフ)の死体、死体。皆殺しだった。首がない者も居たし、胸元に大きな斬り跡があった者も居た。


「はっ…はっ…う、嘘だろ…?なんで?なんで!?」

「お、落ち着け!まずはここから出るぞ!」


そう言って、【土王】に担がれる。未だに状況を理解出来ていない。俺が彼等に会って2時間。【剣聖】は退けた。もう来ない。この2時間、俺が殺戮を繰り返している間に何者かがここに来て、彼等を殺した。そう仮定すると。自然と【土王】を疑ってしまうが…。そんな考え事をしていると、ある、何処かで聞いたかのような声音が聞こえてきた。


「……逃げるのか?このような惨状を目にして、逃げるのか?」

「!?」

「何者じゃっ!」


俺は【土王】に落とされて、起き上がる。暗闇から出てきたのは、赤黒く染まった外套を羽織った白髪の人物だった。手に持っているのは血に濡れた長身の片刃剣。


「その容姿、【剣聖】ではないな?何者だ?」

「ふむ…。そうだな、()()()()()()()()()()()()()

「無名?笑わせるんじゃないわいっ!」


【土王】がノーモーションで「土針」を標的に向かって放つ。速度94。確実に着弾する、そう思っていた。


「ごはぁっ!?」


そう声を上げたのは、【土王】。無空からの斬撃?により右肩から左横腹に至り、血飛沫が舞う。【土王】が膝をつく。この傷の付き方、殺られた長耳族達と同じ傷の付き方だ。そして、真っ直ぐ飛んで行っていた「土針」は真っ二つに斬られていた。


「暗闇に加え、かなりの速度での魔術攻撃、感激ものだ。俺でなければ死んでいたな」


その人物はそう言った。そして、今の攻撃は完全に「因果応報」と酷似していた。いや、酷似していたのではなく()()()()()()()()


「「無空の一閃」。やはり後手に回る時は、これに限るな…」

「……なんで「因果応報」が使えるんだ?」

「「因果応報」?悪いが小僧。これは違うものだ、恐らく別物だろう」


そう言って人物は鞘に剣を納める。そしてため息を一つ吐き、こう言う。


「長耳族もその住まう森も失くした。後は、後に我々の邪魔になるであろう者を排除するまで…」

「っっっっっっっ!」


そう言って鞘から剣を少しだけ見せるようにして抜き、瞬時に戻す。俺はその行動を見た瞬間、急いで【魔神王】に俺と【土王】を転移させるよう伝達する。そして伏せる。その瞬間、俺が立っていた方向の壁が一瞬で粉微塵に切断される。悪寒が走った。不味い、不味い不味い不味いっ!!なんで「鏡界閃斬」が使えるんだ!!そして、その人物は二撃目の構えを取る。その瞬間、目の前が凄まじい速度の縦スクロールのように入れ替わった。

戻ってこれた。全員が俺等二人に近寄ってくる。ずっとここで待っていたそうだ。


「【土王】!生きていたのか!」

「なんとか、な…」

「急いで治療しよう」

「頼む…」


【土王】は【魔神王】と【龍帝】に治療され、俺は二人に出迎えられた。


「クレイ!大丈夫だった!?」

「まぁな…。最後に、ちょっとした恐怖を味わったが」

「そう…。貴方が無事ならそれでいいの」

「クレイさん、【剣聖】は倒した?皆は…?」


ラルダの言葉が胸に突き刺さる。【剣聖】には逃げられるし、長耳族の奴等は謎の人物に皆殺しにされた。俺がやったのは残党の殲滅だけだ。だが、正直に言うべきだろう。


「…【剣聖】はもう居なかった。探している途中に長耳族の生き残りを見つけたが、最後には皆殺しにされていた…。あいつらを殺した奴には勝てそうもなかった」

「………」


俺は無意識のままに嘘を織り交ぜていた。はぁ。飛んだクソったれだな俺は。


「バレバレだよ。【剣聖】には逃げられたんだね、でもその人の部下達は皆殲滅した。私が悲しむと思ったから嘘をついてくれたんだよね?ううん。私は凄く嬉しいよ」

「えっ?」


ふとラルダの顔を見ると、目にはハイライトが無く、不気味な笑みを浮かべていた。それは大人の俺でも恐怖を覚える程の物だった。


「私が【剣聖】を殺せるんだもん。皆の分の仇も、私がね」


そう言って笑顔を見せてくれた。いつもは可愛らしいと思う笑顔だが、今回は恐怖でしか無かった。


____________


場所は変わる。先程、【土王】とクレイを葬ろうとした人物は月を見ていた。彼自身、【人皇】に手を貸す訳はまったくもって無かったから、今回の戦いには不参加のつもりだったが、【剣聖】を落とした男が居るということで、興味がてら来てみたのだ。そしてこの小屋を見つけて、中に入ったら長耳族。彼を追い出そうとしたのか、魔術とかを使ってしまったのが運の尽き。彼に危害を加えたもの全てに罰が下った訳だ。


「しかしまぁ…。奴らは逃げられて安心しているだろうが…。世の中はそんなに甘くない……」


そう言って鞘から剣を抜き、大上段に構える。そして、


「「鏡天・因果応報」…」


振り落とした。その直後、遠い場所で3人が血飛沫をあげて、倒れた。

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