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第百二十九話 「あの時の夕暮れ」

 私が目を覚ますと、かなり前に見たような情景が目に入ってきた。真っ暗だけど、自分の姿はしっかりと見える。そんな空間。

 だから私は衝撃を受けた。着ていた服が異世界で着ていた物ではなく、制服だったから。


「え?なんで?」


 まさかと思って、耳元を触ってみる。


「長く、ない…?ていうか髪は長くなってるし」


 間違いない。これはまさしく…。

 転生前の姿だ。

 というわけで懐かしい自分の体を己の手で触ったりして戻ったという事を実感していると、ソレが真っ黒の地面から這い出てきた。


「よいしょっと…ふー」

「ん…?うわぁっ!?」

「あ、頭付けるの忘れてた」


 ソレは己の頭を自分の首の上に置いて、叩いたり回したりして、頭を取り付けて、こっちを向いてきた。こっち見んな。


「やぁ、美玲さん」

「…わざわざ昔の体にしてきて何か用?」

「まぁまぁ、そう焦らないで。結構聞きたい事があるんだ」


 聞きたい事?自分は別に話したくもないし聞く耳持つ気もない。……でももうあっちでも死んでるわけだし変な意地張るだけ無駄か。


「うん。聞いてくれそうだね」

「だって意地張ったって意味ないじゃん」

「そうだねぇ。じゃあ、質問だ。君は僕を殺したいと思ったかい?」

「当たり前だよ。今目の前に居るお前を直ぐにでも殺したい」

「うんうん。でも、君はソレが出来なかった。殺したい、と強く思ったのに出来なかった。悔しいねぇ…?」


 そう言いながら私の横に立って、顔を覗き込んでくる。……無性に殴りたい。けど、我慢だ。


「君はあの世界で僕を殺せなかった。残念だね」

「だからなんなのさ!それの何がいけないの!?」

「また物語は繰り返すんだ」

「……へ?」

「君は君の先輩に突き落とされて転生した。またそれを繰り返す。君の先輩や、君の先輩を突き落とした人がそうやってこの物語を繰り返してきた様にね」


 ちょっと待て…訳わからん。先輩も突き落とされた?あの時は落とされて無かった。どう言う事だ?


「もしかして、君が突き落とされたのは先輩の私怨だとまだ思ってるのかい?」

「え……いやだって。そうじゃなかったの?」

「あの時は嘘を吐いたのさ。僕が生き延びる為にね」

「え?」

「君の先輩はね。君に神殺しを託したんだ。自分が果たせなかった目的をね」

「えっと…」

「でも僕だって簡単には殺される道理はない。だから神殺しが目的だって気づかない様に君を扱った。結果君は何も勘付く事なく死んじゃって今に至る訳だ」


 えーっと…。つまり、先輩があの時嫌な笑みを浮かべてたのは…気のせい?気のせいなのか?いや、でもあの顔は流石に…。


「理解した?」

「全然…。でも要するに私は帰れる訳?だって目的不達成で死んでる訳だし、次の人を送る為にも」

「うん。お疲れ様。現世で楽しむが良いよ」

「そうさせてもら…うっ!?」


 頭にトンッと手を乗せられた瞬間に一気に何かが流れ込んできた。途切れ途切れの情景。でも私の記憶じゃない。頭の中に異物が大量に流れ込んでくる感覚だ。

 私は頭を抱えて膝をついた。


「何…これっ…?」

「今まで僕を殺そうと努めてきた神殺し達の記憶。全員が失敗し、死んだ。そして君が突き落とされたあの時間、あのホームに戻ったのさ」

「あぁっ…?ああぁぁあああああああ……っ」

「情報量の多さに頭がおかしくなりそうだろう?君の次の人が失敗したら、その人は君の分のも背負う事になる。さぞかし辛いだろうなぁ」

「で、でも…。その人がお前を殺しさえすれば…」

「うん。普通に戻ってこれるし、この輪も壊れるね」


 託すしか無い。次の人に。この忌々しい奴を殺して貰わなくては。またいつ私に戻ってくるか分からない。

 たくさんの人の記憶が私の頭をぐるぐるして気持ち悪い。

 私はその気持ち悪さに耐えながらフラフラしながら立ち上がった。


「ふー…ふー…分かったよ。飛ばして」

「ん?もう決めたのかい?」

「うん。私はさっさとあっちに帰って高校生活を満喫したいの」

「そうかい。じゃあ、お疲れ様。また会える事を楽しみにしてるよ」


 私はお断りだ。もうあの駅を利用するのはこれで辞めて歩いて一つ先の駅で乗ろう。それで良い筈だ。


 なんて考えているとあの転生した時と同じ様な感覚がまた私を覆った。


 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


 目を開けたら、其処は私が前住んでいた街。夕暮れ時だって言うのに多くの人が歩いていて、賑やかさが絶えない街。


「…戻ってきたんだなぁ」

「おーい弦橋!何ボーッとしてるの?」

「おっ!?あぁ…先輩かぁ」

「なんで驚いてんの?一緒に歩いてたじゃない」

「えー…?まぁ確かにそうですね、すいません」


 私を落とした張本人。そうそう、今思い出せば一緒に帰っててあの駅のホームで突き落とされたんだった。ちょっと聞くだけ聞いてみるか。


「ねえ先輩」

「何?」

「異世界って行ったことあります?」

「…………は?」

「いえ、何でも無いです」

「さっきから頭大丈夫?勉強のしすぎ?」

「そうかもしれないですね。なんか甘いもの奢ってくださいよ」

「先輩に貢がせようとするとはいい度胸だねぇ弦橋ぃ?」

「冗談ですって」


 やっぱり覚えてないか。つまりこの世界線は少しズレたパラレルワールドて事かな。つまり私を突き落とした先輩ではない先輩、か。……自然と誰かを落とさないと駄目だな。

 なんて考えていたらもう改札口に着いていた。結構早足だな私達。ICカードを翳して改札を通る。

 そしてホームに降りて、時間を確認する。

 17:18。17:24には快速列車が此処を通過する。其処を狙って誰かつき落とそう。

 こう考えてる私ってかなりヤバい奴だな。


「先輩、次の電車の時間確認出来ます?」

「え?うん。ちょっと待ってね」


 これでほんの多少の時間稼ぎにはなるな。よしよし、次に誰を標的にするかだ。……あの中学生ぐらいの女の子。一人で電車に乗るのか。でも次は快速だぞ。

 ………あれにするか。

 と思った瞬間。その女の子と目が合った。私はそれにびくりとした。女の子の目付きは女の子とは思えないぐらい鋭く強かった。でも目が大きいからそんなに怖く感じない。

 暫く見られ続けて、時間を見ないと、と思い出して自分の携帯で時間を確認すると17:21になっていた。

 もうすぐだ。


「24分の快速が通り過ぎた3分後に来るよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 17:23。


「少し移動しません?」

「…?分かった」


 携帯を弄りながら移動する先輩を横目で見て、内心ガッツポーズした。私は女の子に近づいていく。

 ──────そして。



 女の子の後ろを通り掛かる時に背中をゆっくりと押した。当然女の子はそれに反応出来ずにそのまま線路に落ちてしまった。


「ねぇ、弦橋…?」

「ん?」

「今、落ちなかった?」

「え?………不味い、駅員さんを呼んで来て下さい先輩!」

「分かった!」


 先輩が走っていった。先輩を見届けた私は落ちた女の子を見下ろした。少し遠くから電車の駆動音が聞こえてくる。

 間に合わない。絶対に間に合わない。


 時刻は17:24。あの時の夕暮れ時と同じ時間。

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