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第百二話 「北国で」

 私達はこの廃都を色々見て回った。最初見た時は人の死体とかが無いので、あまり気にしなかったのだけど、大広場に近づくに連れ、死体の量が増えてきた。苦痛に顔を歪めながら死んでいたり、首が無かったり…無残に引きちぎられた様な死体もあった。


「酷いですね…」

「どういう殺し方をしたんだろうな…此処に召喚された旧英雄っていうのは…」


 少なくとも映写機で見た旧英雄達ではこの様な殺し方は出来ない筈だ。九十級は刃物を使っていたし、もう一人は主に殴打を武器にしていた。あの中には居ない。まだ他の旧英雄は生きている。


「出会いたくないですね…こんな酷い殺し方をする旧英雄になんて」

「そうだな」


 そう言いつつ、壊れた街を眺める。所々は綺麗に建物が残っているものもあり、住めそうな感じだ。しかし、此処に来てから少しだけ肌寒い。早い所雨風凌げる場所を探さないと。


「それにしても寒いですね。人が居ないからでしょうか?」

「それも無い訳では無いと思うが、此処が北に面しているからじゃないのか?」

「へぇ。北国ですか」


 だとしたらやはり寒さが極まると雪が降るのだろうか。良いなぁ、雪。この世界でも見れたら良いなぁ。


「どうした?ふにゃっとした顔して」

「え?あっ、すいません…」

「いやいや、良い顔が見れたな…。その様子だとさっきの落ち込みから立ち直ったか?」

「う…。別に立ち直った訳ではありません…。ちょっと北国と聞いて舞い上がってしまったというか…」


 そう言うと、キョトンとした顔でクレスが見てきた。えっ…。


「可愛い所もあるんだな」

「っと…え、」


 頭を軽く撫でられた。ていうか、可愛いってなんだ。可愛いって。生まれてきて一回も言われた事ないぞ。距離があるとか、何考えてるのか分からないとか、逆に接しにくいとか色々言われたけど…可愛いって…。

 なんて色々な思いが複雑に入り混じっている時に、強い風が吹いた。


「うぉっ…これは冷えるな」

「取り敢えず何処かのお家を借りませんか?そしてシグさんに連絡を入れましょう」

「そうだな」


 そう言って私達は取り敢えず、目に入った住居に足を踏み入れた。鍵は空いていた。どうして空いているのかは謎だけども良かった。今だけお借りします。

 中に入ると薄暗いものの、衣類が掛かったソファや、炭が溜まった暖炉が生活感を醸し出している。


「おー…。暖炉もあるし暖は取れそうだな」

「そうですね。取り敢えず、連絡を入れましょうか」

「おう。暖炉を使えるか試してみるよ」

「はい、お願いします」


 そんな会話をしながら、私は『通信』の護符に魔力を通す。すると、シグさんが直ぐに応答してくれた。


『はいはい、どうだいベルデールは?』

「悪くはありません。一応連絡を入れようと繋げました。よろしかったでしょうか?」

『うん。全然良いよ。なんならラルダさんと話してく?』

「いえ…それは…。良いです、遠慮しておきます」

『あれ?ふーん、そっかぁ。分かったよ。じゃあね』

「はい、それではまた」


『通信』を終了する。暖炉の方を見るともう火が焚きつけられていた。しかし、クレスの姿は無い。と、思ったらクレスが青髪を揺らしながら、台所から飛び出してきた。手には果実や布に包まれた何かがある。


「食べれそうな食べ物が有ったぞ!」

「え!でも…大丈夫なんですか、それ」

「見た目も大丈夫そうだし、臭く無い。大丈夫だ」

「そうですけど…」


 ソファに座って、テーブルにその食べ物達を置いていく。黄色い果実、赤くて丸い果実。布に包まれた肉。そして極め付けは白い物だ。その白い物は長くて太かった。これはそう、大根である。


「この赤い果物は甘くて良い香りがしますね。たっぷり蜜を含んでそうです」

「この肉もよくよく見れば燻製肉だ。少し熱すれば食える」

「…………大丈夫そうですね」

「あぁ。だが、この白い奴だが…」

「大根ですね。私が料理しましょうか?」

「大根って言うのか?お前が料理してくれるのか。任せる」


 私は大根を受け取り、台所へと向かった。この家というか、ここの国、と言うべきだろうか。中々良い感じの物が揃っている。それぞれの瓶の中に入った液体を見て、そう思ってしまった。おそらくあれは調味料だ。


「これは…っと」


 瓶の中に入っている黒い液体を指先に少しだけ出して、一口舐める。ん、美味しい。少ししょっぱいかな?これは醤油かな。醤油ではない何かなんだろうけど。


「大根と合いそうですね…。じゃあこれは?」


 次に手に取ったのは、茶色い液体が入った瓶。これも一口舐める。……味噌か。液体タイプの味噌は初めて見るな。いや実際は味噌じゃないんだろうけど。


「うーん…。こんな優秀な調味料達を活用しない訳にはいきませんね、うん」


 私は腕を組みながら頷いた。


 その時に後ろでこっそりと覗いていたクレスは、やる気に満ち溢れているレイシュを見て、これは期待できるな、と内心わくわくしながらレイシュの後ろ姿を眺めていた。

そういえば前回書き忘れたのですが、第八章はレイシュが主人公の物語です。一度書いてみたかったんですよね、別の登場人物が主人公の話。

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