ユキ
武器庫から自室へ行って、深呼吸をする。自室はやっぱり落ち着くと旅行する度に思う。実際には一時的に帰ってきただけなんだけれど。
城のベットも中々のフカフカ具合で好きではあったのだが、メイドもいて、いかにも貴族の装飾って感じのがチラチラ目に入ってきて落ち着く事は出来なかった。
ベットに座り、杖を「収納」に仕舞う。
どうせなら道具も創造して、その道具も仕舞ってしまおうか。旅をするんだし、テントと寝具と、包丁にも使えるナイフと、鍋と、食器に保存食…は要らないかな。時間が止まる「収納」の中に入れるんだし料理人に頼んで作ってもらえばいい。
結依と歩の2人には街で別行動をした隙に買ったと言えばいい。
「「創造」っと…テントには…時空魔法を控えめに。これでテントの中は20畳位の広さになったわね。テントの中に寝具を…そうだ。テーブルとか座布団も入れようかしら?「創造」!銀ナイフはやっぱり綺麗よね。食器は適当で「創造」っと。
うん、こんな物ね。」
連続して創造を行ってノーコストで創り上げ、ユシフィルが魔法をテントに施した時点で既に「こんな物」で済ませられる物ではないのだが、ここにそれをツッコミする人物はいない。
創造した物を収納してある程度満足し、やる事を失くした私はこれからどうしようか悩んでいると唐突に、「コンコン」と扉を大人しくノックする音が聞こえる。気配も足音も感じなかった。
暗殺者や忍者のような現れ方…これは、私の友人のユキちゃんこと小雪だ。
私がいいよと言う前に静かに扉は開かれる。
「…おかえり。ドワーフの国、行ってたけどどうしたの。」
「ただいま。そっか、あの視線はユキちゃんのだったのね。納得いったわ。」
ドワーフ国に入る前に視線を感じた事があったが、そういえば気配はまるで感じなかった。普段のユキなら私に視線を感じさせる事はしない筈なのだが、私が滅多に行くことの無いドワーフ国に飛んで来て少なからず驚いたのだろう。
こくり、とユキが頷くと今度はじっと見つめ返される。
「で、何かあったの?」と目が告げている。
付き合いが長いと言われずとも目を見たらわかるのだ。
「ちょっとね、日本国で遊んでたら勇者召喚されちゃったのよ。それで一緒に来ちゃった子達もいてね、どうせだし武器でも用意してあげようかなぁって思ってさ。完全にお節介なんだけれどね?」
「…ユシフィルが、召喚されたの?
………どう考えてもおかしい。弱い神ならともかくユシフィルみたいな力の強い創造神が簡単に召喚される訳ない。」
そう言われてみればたしかに。
私はこれでも、そんじょそこらの神より強いと自負している。
人口も多く、あらゆる世界の中でも大きい方であるシフィルで唯一神をしているから強い信仰もある。
基本、召喚魔法は自分と実力差がある程召喚する事は難しくなる。私を召喚する事は人間では絶対に無理だ。
ではなぜ、私は召喚された?
考えられるのは幾つかある。
ひとつは「ランダム召喚」単純にガチャとか、宝く○の1等とかの感覚でたまたま超激レアが出てしまった可能性。
もうひとつは、「巻き込まれ召喚」。
本当は私を召喚させる筈ではなく、結依と歩だけが召喚されるだけだった可能性。なのに、恐らく私が2人の近くに居たせいで巻き添えをくらったのだろう。
一応、他にも「私より強いものが召喚した」「私達を召喚する為に生贄を用意した」などの選択肢はあるがそれは有力な線にはなり得ない。
召喚直後、城内に私の他に強いものなど感じなかったし、もし私達を召喚する為に生贄を捧げていれば、私が召喚されることで国の人口そのものがなくなっていた可能性もある。国を救って欲しいと願っているのにそれでは本末転倒だ。
しかしランダムで知り合い…ましてや恋人が一緒に召喚されるか?そう考えると、ますます私が2人に巻き込まれた線が1番確率的には高くなる。
召喚されたとき、「3人も」と言われていた。
一定ランク以上の人間を1人か2人をランダムに召喚し、尚且つその指定された人間の周囲の人間をも召喚…だとすれば辻褄が合いそうだ。
「ふむ。」
「わかった?」
「そうね、少なくとも本来私を召喚しようとしてなかった。多分巻き込まれたんじゃないかしら?」
「それなのにユシフィルが力を貸す必要はあるの?」
中々核心を突いてくる。
しかしもう武器もお願いしてしまったし、少しだけ関わってしまったから気まぐれに召喚されてしまった2人を助けてやりたいなぁと思っている。
それを今更覆すのも気が乗らないもので。
「うーん、たまには育成も悪くないかなってね?」
「ユシフィルは、いつも怪我はしないけど無意識に何かやらかす。…そうゆう意味で心配。」
「うっ」
「それと、その世界の水準をわかっていないとユシフィルの場合とんでもない物ばかり創って周りから騒がれる。確実に。」
「はい…。」
ユキちゃんは、とても強い子です。
妹みたいに可愛いけれど、芯がしっかりしていてクールだ。
実際、ハルという気分屋なお姉さんがいる。ユキとは対を成すように暖かい性格をしているが基本妹に任せきりで、妹以上に妹をしているような姉だ。
「私もついていく。街で偶然出会ったように装えばパーティに入れる。」
「えっ、助かるけど…いいの?」
「なにをやらかすか心配。」
「そんなに!?ハルの事は?」
「姉さんは、私の分身が世話してるから。」
既にユキのなかでは決定事項になったようだ。
淡々とした口調であるが、ユキなりに心配してくれているのがわかる。
けど着いてくるなら道具もいるわよね?
ユキは勇者召喚されていないから「収納」を持っていない。
なら似たような機能をもった鞄とか…
「もう持ってる。」
「思考を読まれた!?」
「ついでに言うと、色んなものが入ってるからいつでも行ける。」
「さすがユキちゃん、準備万端ね。明日、ドワーフ国に行ってから戻るけどユキちゃんは?」
「ギルドがあれば、明日登録しに行こうと思う。ユシフィルたちが来たら話しかけやすい様に困ってそうな雰囲気とか、やってみる。」
慣れ親しんだユキの居場所なら簡単に見つけられる。
ある程度歩いたら私がそれとなく誘導しつつ動く事ですぐに合流出来るだろう。
「そういえば、日本で遊んでいたなら姿と名前はどうしてるの?」
「勿論日本人の格好よ。名前も琴瀬七夕って名乗ってるわ。」
そういえば私は何もかも偽証しまくっていた。
私の気配は分かっているはずだから、会った時に私がわからないということは無いはずだけど。
合流したあと鑑定されることを考えるとユキのステータスも偽証する必要がある…のだが、私と同じく隠蔽と変幻のスキルを持っているから私がユキにする事は特にない。
「ユキちゃん、ステータス見てもいい?」
「鑑定スキル?うん。」
名前「ユキ」
年齢「5950才」
性別「女」
種族「???」
状態「健康」
称号
「冬の申し子」
「暗殺者」
スキル
「細剣術」「短剣術」「杖術」「水魔法」
「風魔法」「土魔法」「氷魔法」「影魔法」
「闇魔法」「重力魔法」「時空魔法」「並列思考」
「分身」「隠蔽」「変幻」
「言語・文字理解」
流石、強い。
けれど結依と歩は鑑定が使えるから、すぐに異常と言うべきステータスが見破られる。
だから私と同じようにステータスを隠蔽、として変幻させる必要がある。
「私と同じく召喚された2人にも、鑑定スキルがあるから…ユキちゃんのステータスを隠さないと色々ね。なにしろ勇者よりすごく強いもの。」
「なるほど、わかった。……これでどう?」
名前「ユキ」
年齢「17才」
性別「女」
種族「人間」
状態「健康」
称号
「冬の申し子」
スキル
「細剣術」「短剣術」「水魔法」「氷魔法」
「闇魔法」
「バッチリね」
「実力を隠すのは少し、面倒。」
「わかるわ」
「なら勇者を辞めればいいのに………。」