依頼
ドワーフ国の街で、時々面白そうなアクセサリーや金属類を買いながら歩いていたが、ジグの店が見当たらず、適当に歩いていたのだが本当にお店が無さそうだ。
「ジグはどこにいるかしらね。でもまぁ、鍛治ギルドに行けばわかるわよね。きっと。」
あまり武器を扱う事が無かった為、鍛治職人に武器を頼む事は本当に稀で、杖を作るときにお世話になったくらいだったし、私は魔法特化で物理戦闘は比較的上手くない。
前に来たのは四、五年位前で、そんなに時間は経っていない。
歩いていたらふと、初心者の2人にミスリルを持たせて大丈夫なのか唐突に不安になってきた。もし盗人に狙われる事になったらあの二人にやり返す程の実力はないし、ミスリルを活かしきれない。
なら、ミスリルの他に何か作ってもらえば良いんじゃないか?
歩は、剣が重いだろうし、軽量化かショートソードが良さそう。
その剣で実力を詰んだ後にミスリルを渡してしまえばいい。
どうせそんなすぐには出来ないし。
ステータスには見えないが、恐らく経験値やレベルの概念っぽいものは感じられたから、ミスリルを装備できるまでそんなに時間は掛からないだろう。
神眼と鑑定を併用したらレベルとか見れるかな?戻ったら確かめてみよう。
…と、そんなふうに考えながら歩いているといつの間にかギルドの前を通り過ぎる寸前だった。危ない。そして恥ずかしい。
中に入って、濃厚な酒の臭いに顔を顰めつつ受付に向かう。
「ちょっといい?ジグの店とか、居場所とか知らない?」
「え?ジグさんですか?申し訳ございません、事前に連絡は致しましたか?」
もしかして、偉い立場だったのだろうか。受付の方に「あのお方に何の用なの?」みたいな顔をされてしまった。
でもジグなら、私の名前出せば来てくれる…筈。
あっ、こうゆう時にカード使えばいいんじゃん!
「えぇっと…このカードを見てくれる?」
「はい?身分証明カードですね………えっ。」
青ざめてしまった。唐突に来て本当に申し訳ない。
創造神の名前が書かれた身分証明書とか怖すぎるよねぇ、皆にとっては…。
「す、すぐに呼んで来ます!!少々お待ち下さいませ!」
「うん。そんな急がなくてもいいのよ?転ばないようにね。」
走って行ってしまった。
周りも受付の方の変貌ぶりを見ていたのかざわついている。
「何者なんだ、あの人…?」
「なんだか神聖な雰囲気を感じるような…気のせいか?」
「たまに見かける天使の方々には見えないが…羽もないし。」
「エルフに似ているが、あいつらは色々やらかして遠くにいるもんな。」
「美人だ…。」
やっぱり魔力を抑えていなければバレてたわね、これ。
魔力を極力外に出さないように普段から心掛けているし、抑える為の腕輪もしている。そうでもしないと私を見た瞬間みんな「あっ…(察し)」する為、その後私が自由に動きずらくなる。
この世界の宗教、基本1つしかないし。
「お待たせ致しました!こちらへどうぞ。」
「ありがとう。」
受付の方がノックして入った部屋にジグがいた。
前に見た時と変わらぬいい髭だ。
「それでは私はカウンターに戻ります。ごゆっくりどうぞ…。」
「ああ。すまんなメレーナ…。
それで、ユシフィル様はなんの要件で来たんだ?」
「突然来てごめんなさいとは思ってるわよ?」
「なら連絡をよこしてくれ…こちらにも心の準備があるだろう。」
心底疲れた顔で言われてしまった。本当に申し訳ない。
だって前まではジグのお店があったのになかったんだもの。
「で、要件よね?簡単に説明すると…ちょっと育てようかなって子達がいてね、そのお節介ね。」
「ふむ…剣の腕は期待出来ないんだな?」
「そうね。だからまずは軽量型の良鉄の剣と短剣、後々に使わせる用にミスリルの剣と短剣、付加魔法は私がやるからよろしくね。」
「おまっ…貴方、お節介がすぎるんじゃねえか?こっちも商売だ、金はきっちり貰うぞ。」
ついお節介を焼きたくなるよのね、守らなきゃすぐ死んじゃいそうで。
あの国は剣を用意してくれるだろうけど、その剣は重すぎるだろうし、ただの剣では不安になってしまう。
勿論、私がある程度の怪我もさせつつ完璧なフォローをするが2人と居る時の私は「癒しの勇者」でしかない。
敵を殴って倒しての物理方式フォローなんて真似をしたら「癒し(物理)の勇者」になってしまう。それは回避したい。
「勿論よ、職人にはその技術に見合った対価を支払うに決まってるじゃない。なんなら誰も受けなさそうな厄介な依頼を受けてもいいし、レア素材も言われれば殆どはすぐに採ってこれるわ。」
「貴方にそんな真似させられるわけないだろう。お願いだから普通にお金を支払ってくれ。貴方をこき使ったら俺が困ることになりそうだ。」
創造神の知名度と権力ってすごいなぁ。
とはいえ、鉱山や周辺の池や水源が私としては気になっているところだ。毒とか、澱みとかがあれば大変だからね。
勿論、掘りに行くのはドワーフ族が主になる。そんな彼らがなんの対処もせず体に害を及ぼす程の汚染になるなんて馬鹿なことはする筈も無いのだが…それでも確認したかったんだけど、それはまた今度やればいい話かな。
「じゃ、普通に支払うとして…ジグって今なんの仕事してるの?偉そうな机になんか座っちゃって。」
「前任の鍛治ギルドマスターが辞任してな。そんで多数決見たいん事になって俺が推薦されたんだ。今はギルドマスターをやっている。」
なるほど。最初の受付の「何言ってるんだコイツ」みたいな様子が頷ける。ギルドマスターにアポなしで会いに行こうとする非常識なやつなんて居ないだろう。その非常識が私だったんだけど。
思えば、前からジグは周りに「親分」扱いをされていた。腕もよく、的確に叱ってくれるし、面倒見もよい。そんな彼が推薦されるのは当たり前だったのだろう。
「そっか、近いうちに鉄の良剣と短剣の2つって出来るかしら?」
「急ぎなのか?出来るっちゃ出来るがな。」
「そうね。早ければ明日か明後日くらいで。」
そう告げるとジグは嫌そうな顔をした。
やはりギルドマスターの仕事があって忙しいのだろう。なら他のドワーフを薦めてもらうかな…?
すると、ジグが納得したようにため息をついて、私を見る。
「普段ならそんな依頼蹴ってるんだが、貴方の依頼じゃあな…わかった。良いのを鍛えてやる。」
「えっ?本当にいいの?」
「ああ。つーことで仕事を早く終わらせるからもうどっか行ってくれ。貴方がいたら邪魔だ。」
「邪魔ってなによ、でもありがとうジル。」
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ジルはやっぱり面倒見がいい。
ジルと話は済ませたし、時空魔法で細工をした私の家…緑豊かな神社へと転移する。
いくら回復要員だからといって、勇者が手ぶらというのは格好がつかない。だから私も杖を用意する。その為に帰ってきた。
あまり武器を使わない癖に所有している武器庫を見て回る。
杖は…あったあった。ついでに鑑定っと
慈愛の杖
世界樹の枝で出来た杖の第一形態。
治癒魔法の力が増し、所有している者の近くにいる仲間は治癒力、攻撃力、防御力、俊敏性が上昇する。
ただし所有している者の攻撃力が下がる。
神罰の杖
慈愛の杖の第二形態。
魔法の力が増し、形態が変わったことで物理で殴るのにも良しとなった。
攻撃は最大の防御。しかし所有している者の防御力が下がる。
極端すぎる!一体誰がこんな物を創ったんだ!……あ、私だ。
なーんて冗談は置いといて、兎も角この慈愛の杖が今の私に1番良いと言える代物だ。
デメリットで攻撃力が下がるとあるが、私の場合下がると攻撃力を私がある程度抑えなくて済むだけの話なので問題はない。