魔力とは
結依の造った光はぽんっと弾けるように消えた。
集中力と魔力を消費し、疲れたのか「ふぅ…」と声を漏らす。
「そうね、回数を重ねればもっと良くなるわ。助言するとしたら、属性魔法…自然界に存在する魔法は生み出すんじゃなくて力を借りるつもりでやった方がいいわよ。疲れるだろうし。」
「…七夕すごい。今の見ただけでそんなにわかるんだ。力を借りる…かぁ。確かに凄く疲れたよ。あとでまたやってみようかな。」
「本当に七夕何者だよ!普通わからないだろそんなの!?」
ツッコミありがとう。
「次は歩の番だよ」といい笑顔で言うとまた歩にドン引きされた。
かなしいなー(棒)
「…ちなみに、七夕も持っていないスキルの筈だが助言はあるのか?」
「ん?そうだね。最初だし、屈んで手を伸ばして…自分の手の影をうねうね動かしてみたらどうかな。」
「助言できるんかい。その通りにやってみるけどさ。」
歩は屈んで手を伸ばす。こちらも結依同様に難しい顔をして初めての魔法に挑んでいる。
まだ感覚が掴めていないのか、影はぴくぴくとしか動かない。
よく見てみると、影に魔力が乗っていない。
イメージだけが先行している状態だ。
「ぴくぴくしてるけど…私にもわかんないや。」
「ダメだ、わからん。七夕にはどう見えた?」
ふはは、私に助言を求めるか。
勿論ちゃんと見ていたから言うよ。
「歩は、イメージは出来てるんでしょう?」
「ああ。右へ左へと手を振るように動かそうと思っていた。」
「なら、あと足りないのは影に乗せる魔力だね。」
「魔力…ってどうゆうものなんだ?」
「あっ、それ私も気になる!」
結依も魔力が気になると言うが、さっきの光魔法は出来ていた点から魔力をちゃんと使えていた。恐らく私のを良く見たことによる直感だったのだろう。
なるほど、歩は見本を見れていなかった事からピンと来れなかったのか。
ありとあらゆる魔法が使える私だが、癒しの勇者として専念すると決めた以上、ステータスにないスキルを使うわけにもいかない。
「結依は…直感だったと思うけど出来ていたよ。そうじゃなきゃちょっとでも光を生み出せないし、そこまで疲れていないよ。」
「ほんと!?やった!」
直感型でない歩が魔力をわからないのは、身近に魔法なんて無い世界に住んでいた事もあり「魔力ってなんだよ。どこにあるんだよ?」という事になっているのが原因の筈。
ということで私はピーンと思いついた。
「歩、後ろ向いて。魔力問題を何とかできると思う。」
「お、おう。後ろ向いているだけでいいのか?」
「まずはね。いくよ」
歩の背中に自分の手を添え、手に魔力だけを集める。
擬似魔力を認識させる事で、歩の眠っていた潜在魔力を起し、魔力を探しやすくなる。。
多くの生き物は核、人間で言うなら心臓の近くに魔力の源を感じる事が出来る。私が手を添えているのはその丁度後ろだ。
「…なんだ?これ。」
「わかった?私は触れていないわよ。」
「七夕、七夕。私にもすごい力感じる!これが魔力なんだね!」
「そ、同時に出来るから結依もやる?」
「「出来るの!?」」
同時に言われた。そうか…これも人外なのかな…。
私が後ろ向いてと促すとクルンッと回って後ろ向いた。
結依は魔力に関してはある程度出来ているから歩より弱めに、尚且つ身体全体に魔力が通りやすくなるように心掛けてみる。
魔力が通りやすくなった分だけ、魔力の節約になる。
例えで言うと、ライトの使用がMP3だったのがMP1になる…と考えてくれればわかり易いと思う。
歩の方も「起こし」から「通し」に変更しようかな。
「わ、わっ…すごい、わぁ…染みる…」
「おぉ…?なんだこれ、さっきとは違うが…結依と同じのをやっているのか?」
「そうよ、もう歩の眠ってた魔力は起こしてあるから移行させたわ。二人とも気持ちがいいでしょう?」
「うん、気持ちいい。」
「なんだか…温泉みたいな感覚だな。」
マッサージ師にでもなった気分だ。
しかし、私が魔力の加減を間違えると相手を喘がせてしまったり、効果を出せなかったりもする。魔力の質を変え、殺す目的でやれば魔力だけでも充分に殺せる。
突然日本から異世界へ召喚された2人はそれを知らない。
だからふたりとも出会ったばかりの私に背を向けられたし、隙が驚く程多い。
2人には私が過保護なくらいに護らなければならない。
冒険に1人は寂しいからね!
「言っておくけれど、
私以外に背中を向けと言われて、言う通りに向かないようにね。」
「そうだな…。ここは日本じゃないからな。」
「わかった!」
歩はわかっている様子だが、結依はわかっていないんだろうなぁ。日本は背中見せても擽られる程度で済む国だ。わからないのも無理はない。
「通し」を終わらせ、歩の魔力がスムーズに通るようになると先程の影ぴくぴくがヌルヌル動くようになった。
私が影の手を上にと言ってみたら、それも出来るようになった。
どうやらコツを掴んだようだ。
影を自由自在に操れる様になると使いようは様々になる。
まず1つは敵の足を引っ張ることで心を乱したり転ばせたり出来る。難易度高くすると影の世界へと引きずり込める。
引きずり込めば周りは闇の世界。時間が経てば経つほど心は壊れていく。
え?やった事あるのかって?勿論あるよ。
■■■
魔力マッサージの後は身体を休ませる為に部屋に帰した。
その後はメイドさんに城下町に行く許可を貰えるか聞いた。流石にメイドさんの一存では許可出来ないため、すぐには容認されなかったが、城の騎士が2人護衛に着くのを条件に認められた。
近々城下町に行くならと件の資金も予定より早く貰えたそうだ。
金額は、銀貨5枚と金貨が2枚だ。
貨幣価値についてメイドさんから聞き、詳しく教えて貰った。
日本円に例えるとこうなる。
小銅貨1枚100円
銅貨1枚、1,000円
鉄貨1枚、10,000円
銀貨1枚、100,000円
金貨1枚、1,000,000円
この世界で光熱費と保険金、お化粧代も無い。
必要なのは市民税と家賃、生活費。それだけだ。
月に銀貨1枚もあれば1人でも暮らせる額らしい。
出店で要求される金額の殆どは小銅貨。
つまり、何が言いたいかと言うと…
王様は結構奮発してくれた、ということだ。
流石に現代日本価格で言う250万円も貰えるとは思ってなかった。
それに装備も用意すると言っているのだから尚更驚きだ。
武器は…貰うより買った方がいいか…?
いや、鍛治職人の知り合いならいる。
私の世界に転移したらすぐに会えるし、時空魔法で改造してあるポケットの中にはお金も沢山持っている。
過保護過ぎるかもしれないけど付加魔法なら私がしてやればいい。
そうと決まればトイレ直行ね。
明後日になれば城下町へ行くことができる。
逆に言ってしまえばそれまでなにもやる事が無い為つまらないなと思っていた。だからその間だけ分身に変わってしまえばいい。戻る時も同じようにしてやればいいし、完璧よね!いでよ分身!
「出てきたよ。本体がいない間は「通し」を明日1度はやって、それとなくやればいいのよね。」
「よくわかってるね、じゃあね」
「いってらっしゃーい」
私は自分の世界、シフィルに転移した。
ドワーフ族の鍛治職人であるジグは腕が良い。魔力の通りやすいミスリルの持ち味を最大限に活かしつつ鍛えてくれるだろう。
「変幻」を解いてユシフィルとしてドワーフ族の国へ向かう。
私はシフィルに遊びに…もとい、色々下界のようすを見るために降りることが多い。
なので私専用の身分証明書カードがある。
このカードを見せると大体皆の顔が強ばって急に畏まり出す。
そんな態度しなくてもいいって言っても無駄だから、最近は面白いなぁと思って楽しんでいる。
風魔法で飛んで移動をする。前に来た時と特に変わりがなく、争った跡がない。
「うん、変わりが無いようで何よりね。」
門の前になって降りる、…と視線を感じた。
飛んできたからか。騒ぎが大きくなる前に門に入ろう。
警備員のドワーフにカードを見せてさっさと通り過ぎる。
やっぱり畏まられた。