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春を呼ぶ雪だるま

作者: 猫柳ゆめ


 四人の女王によって四季が廻る国。その国に、冬がやってきました。

 街には雪が降り、建物は色付く電飾で輝き、冬の女王の魔法で動く雪だるまが作られ、子どもたちは大喜びです。

 ある日、一体の雪だるまは、一人の少女と出会いました。少女の名はルナ。雪だるまとルナは、すぐに仲良くなりました。

 しかし、いつまでも一緒に居られるはずがありません。雪だるまは、寒い冬の間しか、生きていられないのです。ですから、雪だるまは、短い冬の間だけ、ルナの遊び相手になるつもりでした。

 けれども、冬が終わる気配は、やってきませんでした。


 街には雪が降り続き、気温も下がる一方です。国の人々は、終わらない冬に、まいってしまいました。昨年は、年が明けて二月も経てば、春がやってきたのですが、今年は、年が明けて二月が経っても、雪が降り続いています。

 このままでは、いずれ、食べるものが尽きてしまいます。そうなれば、この国は滅びてしまうでしょう。国には、混乱が広がりました。

 そんな中、国王様が、おふれを出しました。国王様も、この事態に困り果て、国中の人々の力を借りて、春を呼ぼうと決めたのです。

 このおふれは、たちまち噂になり、我こそはと、たくさんの人が、冬の女王の居る塔へと足を運びました。しかし、雪は降り積もるばかりで、何も解決しませんでした。


 さて、この噂は、ルナの耳にも届きました。

「あのね、雪だるまさん、冬の女王様を、春の女王様と交代させると、ご褒美が貰えるんだって」

 ルナは、家の外で、おふれの噂を、雪だるまに喋りました。外は寒く、雪が降っていますが、雪だるまは家の中に入れません。温かい家の中に入ると、雪だるまは溶けてしまうのです。

「でもね、穏便に済まさなきゃいけないんだって。女王様が戻ってこれなくなると、次の冬が来なくなっちゃって、大変なことになるらしいの」

「へえ、そりゃあ、難しそうだなぁ」

 雪だるまは、ルナの話に、相槌を打ちます。

「それでね、ルナも挑戦したいってパパに言ったら、ダメだって叱られたの」

「そうかい。パパはきっと、ルナのことが心配なんだろうね」

「……それでも、ルナ、ご褒美が欲しいんだ」

「だけど、ダメだって言われているんだろう?」

「……勝手に挑戦したら、パパ、怒っちゃうかなぁ」

 雪の中で、ルナが首を捻ります。

 雪だるまは、ルナの願いを叶えたいと思いました。けれど、ルナのパパに内緒で、塔に居る女王様に会いに行くなんて、できません。ルナの家から塔までは、少なくても、三日はかかるのです。

「ルナは、どんなご褒美が欲しかったんだい?」

「あのね、ルナ、冬が終わっても雪だるまさんと遊びたいって……だから、国王様にお願いして、魔法をかけてもらいたくて……」

 ルナは、はにかんで言います。

 雪だるまの心は、嬉しさでいっぱいになりました。

「だけど、やっぱり、ルナを行かせるわけにはいかないよ」

「……うん」

「そのかわり、オレが、女王様に会いに行ってみよう」

 雪だるまは、胸を張ります。ルナの顔に、笑みが浮かびました。

「ほんとに? 雪だるまさん」

「ほんとうだとも。ルナの願いを、国王様に届けてこよう」

 ルナは頷き、家の中から、マフラーと手袋を持ってきて、雪だるまに渡しました。雪だるまが寒くないようにと、気遣ったのです。雪だるまは、寒さに強く、マフラーや手袋で温かくなることは苦手ですが、ルナの気持ちを受け取り、マフラーを巻き、手袋をつけました。

「それじゃあ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい、雪だるまさん!」

 笑顔のルナに見送られ、雪だるまは、塔へ向かい出発しました。


 雪だるまが、塔へ到着したのは、ルナの家を出てから三日後のことでした。

 塔の前には、人がたくさん並んでいます。雪だるまは、その列の後ろに並びました。どうやら、みんな、冬の女王に会いに来た人のようです。

 長い時間が経ち、いよいよ、雪だるまの番になりました。扉の前には、槍を持った侍女が居て、雪だるまを見ると、表情を和らげました。

「あなたは、女王様の魔法で作られた雪だるまですね」

「ええ、そうですよ」

「では、塔に入ることを許可しましょう」

 侍女が、扉を開けました。雪だるまが中に入ると、そこは、外よりもずっと寒く、天井からは、今にも氷柱が落ちてきそうです。雪だるまのように、寒さに強い生き物でなければ、すぐに凍えてしまったでしょう。

 あまりにも異様な光景に、雪だるまは、いったい何があったのかと考えながら進みます。

 冬の女王は、塔の最上階に居ました。

 雪のように真っ白なドレスを着て、豪華な椅子に座っています。美しい顔立ちですが、どこか、顔色が悪いようにも思えます。

 雪だるまは、床に膝をついて、頭を下げました。

「ああ、わらわの作った雪だるまじゃ。そなた、無事であったか」

「毎日、元気に過ごしていますよ、女王様」

 冬の女王は、ほっと息を吐きました。

「ところで女王様、国中が混乱していることは、ご存知ですか」

「もちろん、知っている。けれど、どうしようもないのじゃ。おまえが、わらわの作った雪だるまだから、申すがな……実は、魔力を奪われてしまい、何も魔法が使えなくなってしまったのじゃ……。このようなこと、恥ずかしくて、側近の侍女や、おまえのような者にしか言えぬ……」

 冬の女王は、雪だるまに、今の話を誰にも喋らないことを約束させます。それから、雪だるまに、頼みごとをしました。

「わらわの部下が、西の魔女のもとへ向かっている。あやつが、わらわから魔力を奪ったのじゃ。どうか、そなたも、西の魔女から、わらわの魔力を取り返すことに、協力しておくれ」

 雪だるまは、もちろん、頷きました。まだルナの家には帰れませんが、ルナの願いを叶えるために、今度は、西へ向かって出発しました。


 塔から西へ進むと、やがて、小さな森がありました。この森の中のお城には、春の女王が住んでいます。

 雪だるまは、魔女の住処を尋ねるため、城に立ち寄りました。

 この城にも、塔と同じように、たくさんの人が居ました。みんな、春の女王に会いに来たのです。

 雪だるまは、また、列の最後に並びました。

 雪だるまが春の女王に会えたのは、もうじき陽が沈む時間でした。夕焼け色に染まった部屋の中で、雪だるまは、春の女王に挨拶をしました。けれど、春の女王は、雪だるまの挨拶も聞かずに、怒りっぽい声で言いました。

「あなたも、わたくしに、早く春にしろと言いに来たのですか」

 春の女王は、雪だるまより先に会いに来た人たちに、冬の女王様を説得するように言われて、疲れ果てていたのです。

「それは違います。オレは、魔女の住処を訊きに来ただけです」

「なに? 魔女の?」

「そうです。訳あって、西の魔女に会わねばなりません。ですから、もし女王様が居場所を知っているならと思いまして」

 春の女王は、一度深呼吸をして、心を落ち着かせました。それから、雪だるまに問います。

「それは、冬の女王に関係があることですか?」

「ええ」

「……ならば、教えましょう。西の魔女は、ここからずっと西の、山の奥に住んでいます」

 西の山奥、と雪だるまは覚えます。忘れないように、しっかりと記憶して、城を出ようとしました。

 そのとき、雪だるまは、春の女王に呼び止められました。

「わたくしは、街の寒さに耐えられず、塔へ近づくことができません。冬の女王が、寒さを和らげてくれなければ、何もできないのです。ですから……頼みましたよ、雪だるま」

「もちろん、必ず、街に春を呼びましょう」

 雪だるまは、今度こそ、城を出て西へ向かいました。


 西へ歩いて八日目、ようやく、山の麓に到着しました。雪に覆われた山には、獣道さえありません。

 雪だるまは、道なき道を歩いて、山を登り続けました。

 そして、頂上付近に、小さな小屋を見つけました。

 小屋の扉を叩くと、中から返事がありました。

「あなたは、西の魔女ですか?」

「そうだとも、私が、西の魔女だとも」

「あなたに用事があるのです。開けてもらえませんか?」

「開けないよ。私には、誰とも会う用事がないからね」

 それっきり、何を言っても、西の魔女は返事をしませんでした。

 困った雪だるまは、解決策を考えます。

 と、そこで、冬の女王の部下の存在を思いましました。けれど、周りを見ても、人も動物も居ません。いったい、女王様の部下は、どこに行ったのでしょう。

 雪だるまは、小屋から離れて、女王様の部下を探しはじめました。雪の中や、木の上を探しますが、見つかりません。

 翌日も、雪だるまは、女王様の部下を探します。

 そして、探しはじめて三日目、ようやく、女王様の部下を見つけました。彼女は、魔女の魔法で、大きな木に縛り付けられていたのです。

 雪だるまが、部下を助けて、事情を話しました。

「やっぱり、西の魔女が、女王様の魔力を奪ったのだ。どうにかして取り返したいのだが、策はあるか、雪だるま」

「西の魔女は、どうして女王様の魔力を奪ったのか、知っているかい?」

「魔女は、自分の魔力がなくなると、誰かから魔力を奪う生き物だ。美しい我が女王様に嫉妬して、魔力を奪ったのだろう。西の魔女は、たいへん醜いと聞いているからね」

「それなら、美しい人間には、会ってくれるのだろうか?」

 雪だるまは、ふと思いついた策を話します。


 そして翌日、雪だるまは、魔女の小屋の扉を叩きました。

「誰だい」

「オレは、雪だるま。西の魔女の噂を聞いて、ここへ来たんだ」

「そうかい、雪だるまがいったい何の用事だい?」

「実は、オレは、悪い魔女に、魔法をかけられてしまった、隣の国の王子なんだ。どうか、あなたの魔法で、オレを人間に戻してくれないか」

 雪だるまは、嘘をつきました。けれど、これはすべて、冬の女王の魔力を取り返し、ルナの願いを叶えるため。冬の女王の部下は、扉の影になる位置で、息をひそめて槍を構えています。

 少しして、小屋の扉が開きました。

「おやおや、これは、見事な雪だるまだね。けれど、ほんとうは、人間なんだって?」

「そうだとも。魔法を解いてくれるかい?」

「良いだろう、ただし、アンタが、私の言うことを聞くならね」

「お安い御用さ、約束しよう」

「それなら、少し待っておくれよ」

 そう言って、魔女は、杖を取り出しました。杖を構えて、呪文を唱えます。けれど、呪文が最後まで唱えられることはありませんでした。冬の女王の部下が、魔女の隙をついて、魔女の気を失わせたのです。魔女は、冷たい雪の上に倒れました。

 雪だるまは、部下とともに、小屋の中に入ります。小屋の中には、鳥かごがあって、中に珍しい鳥が三匹、入っていました。その鳥こそが、冬の女王の魔力だったのです。魔女は、この鳥を食べて生きていたようです。

 気を失った魔女から、冬の女王の魔力を取り返し、雪だるまは、部下と一緒に山を降りました。


 何日もかかって、ようやく街に戻ると、雪だるまは、すぐに塔へ向かいました。

 冬の女王に鳥かごを渡すと、冬の女王は、さっそく、かごの扉を開けました。中から出できた鳥は、嬉しそうに飛び回り、冬の女王の体の中へと入っていきます。

 その後、冬の女王が指を鳴らすと、塔の中の雪や氷が、一瞬で消えました。冬の女王に魔力が戻って、街の雪もだんだんと弱くなります。

 冬の女王は、ようやく塔から出ることができ、ずいぶんご機嫌です。そのまま、冬の女王は、雪だるまを連れて、国王様のもとへと向かいました。

「おお、おお、ようやってくれた! まさか雪だるまに救われるなど、思ってもみなかったぞ!」

 国王様は、ずっと塔に閉じこもっていた冬の女王の姿を見て、とても喜びました。そして、雪だるまに、褒美をやろうと言いました。

「雪だるまよ、望みを聞かせよ」

 雪だるまは、ルナの笑顔を思い出します。

「冬が終わっても、溶けない魔法を」

「ふむ? それだけかね?」

「それが、ルナの願いですから」

 雪だるまは、旅の間、ずっとつけていたマフラーと手袋を見て、答えました。国王様は、何も言わず、ただ、雪だるまに魔法をかけてくれました。


 それから、雪だるまは、三日かけて、ルナの家に戻りました。

 雪だるまを出迎えたルナは、冷たい雪だるまに抱きつきました。

「おかえりなさい、雪だるまさん! あなたのこと、とても噂になってるの!」

「そうかい。なんだか、照れるなぁ」

「ねぇ、国王様は、魔法をかけてくれた?」

「もちろん、ルナの望み通りに」

「やったぁ、嬉しい!」

 雪だるまは、ルナと手をつなぎます。家の中に入っても、暖炉の前に立っても、雪だるまが溶けることはありません。

 ルナはとても喜び、雪だるまに、名前をつけてあげました。

 こうして、ルナと雪だるまは、冬が終わっても、ずっと仲良く暮らしました。



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