- The fifth episode -
気持ちのいい日差しが差し込む朝、目玉焼きがおいしそうに焼ける音が聞こえる。作っているのは僕だ。昨日の事は忘れることができないが、いつまでも夢心地のままではだめだ。
「ちょっとお兄ちゃん!まだ!?」
突然、二回からドタドタと階段を下りる音、そして妹の真央の怒鳴り声が家中に響く。
「今日何かあるの?」
「ないけどもう40分じゃん!遅れるよお兄ちゃんも!」
やっぱり真央はおっちょこちょいだ。
「…ねえ、6時40分だけど…学校、そんな早いの?」
「へっ?」
真央が改めて時計を見て、また僕を見る。彼女の顔は真っ赤だった。
「お兄ちゃんのバカ―!」
真央はそう叫んでまた2階に上がって行った。なんで僕が怒られるのか全然わからない。女の子は複雑な様だ。その時、ふと先輩を思い出した。もしかしたら、先輩もそういう一面を持っているのではないか。その光景を想像しようとするが、全く想像できない。
フライパンに目をやると、いい具合に焼けた目玉焼きが僕を待っていた。きっと黄身もトロトロに違いない。僕はそれをきれいにすくいあげ、皿に乗せる。我ながら、今日はいい出来だ。さて、呼びに行こう。
「…うわぁっ!」
振り返ると食卓に真央がいた。いつの間に戻ってきたんだろう。
「お腹すいた…」
僕をじっと見ながらそう呟く。先ほどの余韻だろうか、まだ少し頬が赤く染まっている。彼女はそれに僕が気付いていることを悟ると、頬を膨らませて見せた。
「はいどうぞ。食べていいよ。」
目玉焼きをテーブルに置いて僕が言うと、真央は待っていましたと言わんばかりに目玉焼きに手をのばす。そして口に運び、幸せそうな笑顔を見せる。どんなに彼女が怒っていても、僕のご飯を食べると気を抑えてくれる。僕にとっても、彼女がおいしそうに食べるのを眺めるのが至福の時となっている。
「ごちそうさま!じゃあいってきまーす!」
「あ、もう行くの?」
「うん、恵美ちゃんに勉強教えてもらうんだ!」
「そうなんだ、気を付けてね」
親子の様な会話を交わした後、真央は家を後にした。
「…さ、僕も食べなきゃ」
と言って、もう一度テーブルについた。