- Fourth episode -
この前の事件?からもう1週間が経った。これから被服室への長い廊下を進まなければならない。あんなことを起こした僕にとっては、この廊下が何キロも続いているように感じる。しかし、行ったは行ったで、部長や他の先輩ににやにやしながら見られると思うと、さすがにもうきつい。恐黒先輩はやっと普通に接してくれるようになった。先輩曰く、「間違ったものは仕方ない、今度から気を付けて」だそうだ。なんて優しい先輩だろう、僕は初めて雅人以外の人に感動した。
とまあ、こんな僕の話はどうだっていい、重要なことじゃない。とにかく、僕は今、危機に瀕しているようなものだ。このままでは3年間、変なレッテルを張られ続ける。
「今日、休もっかなぁ…」
不意に声が出る。この状況を打破するいい案が浮かぶまで、部活を休みたい。いや、
「いっそのこと部活変えようかな…」
もう部活をやめたくなった。1週間前、やる気になったばかりのはずだが、もうそんな気力は失せた。しかし、やめる、と考えるたびに、自分が情けなくなって、つい俯いてしまう。僕はそのまま立ちすくんでしまった。…危険とは、こういう時に襲ってくるものである。
「バッカ!!」
外から声がした。パッとその方向を見る。すると、野球部であろう一人の人物が僕の方をくるりと向いた。その目線の先には、僕に向かって美しい放物線を描いて近づいてくるボールがあった。このままだと当たる、避けよう。そう思っても、足が動かなかった。恐怖で足がすくんでしまったのだ。徐々にボールが迫ってくる。もう無理だ、と思った僕は目を閉じた。…その瞬間、衝撃が体を走った。体が横へ飛ぶ。地面に体が落ちたとき、僕は誰かの腕に包まれるぬくもりを感じた。そのすぐ後、ガラスの割れる音がする。
「…大丈夫?」
不意に耳元で聞こえて聞こえた声は、聞き覚えのある声だった。僕が目をあけ、声の主を見る。それは、完全に僕を抱き締めた恐黒先輩だった。僕は、驚きと恥ずかしさが同時に襲ってきたような感覚を味わう。
「わ、せ、先輩!?」
「…大丈夫そう…よかった」
先輩は、顔には出さないものの、安堵したように力を抜き、僕から離れた。
「…もうすぐ部活が始まる…早く来るように」
そう言うと、先輩はくるりと背を向け、被服室へ歩いて行った。
―僕が女で先輩が男だったら、それはいい恋愛ドラマができるだろう。ただ、僕には普通のドラマの様な恋は向いてない。きっとそうだろう。
―この日、僕は先輩に心を射抜かれてしまった―