- The third episode -
昼休みのミーティングでは、1年にはマンツーマンで先輩が指導につくという事を説明された。既に先輩たちが誰を教えるか決めていた。僕の相手はもう察しがつくと思うけど、恐黒先輩だった。何でも、「あの久美が他の子連れてくるなんて」という驚きから、「これは久美をつけるしかない」と、先輩たち全員一致で決まったらしい。頑張ろうと思ったけど、もう無理かもしれない。
「…何ボーっとしてるの」
ふと気づくと、恐黒先輩が僕の顔をじっと見ていた。そういえば、もう放課後だ。時の流れって早い。
「あ、ご、ごめんなさい」
「…もう一回教えるから…」
先輩はさっき僕に教えたのであろうことをもう一度丁寧に教えてくれる。昨日のあの目とは違って、今は穏やかである。
「…ここまで、実践」
僕ははい、と言って作業を始める。僕が作業をしている間、先輩は自分の作品を作っている様だ。可愛らしい猫のぬいぐるみが先輩の手の中で命を吹き込まれているようだ。
「先輩、可愛いですね」
「…は?」
先輩がうっすら頬を朱に染め、目を丸くしてこちらを見ている。周りにいた皆も一斉に僕に目線を集める。僕はぬいぐるみを見てそう言ったが、言葉が足りなかったようだ。
「ああ!えっと、あの、ぬ、ぬいぐるみが…」
僕がぼそぼそっと呟くと、先輩は安堵したように元の真顔に戻った。しかし、依然と頬は朱いままだ。すると、
「あらあら、麗亜君も隅に置けないわねぇ、初めて見たわ、入部初日に先輩を口説く子」
と、声が聞こえた。声の主を見ると、部長がこちらを微笑ましそうに見ている。この様子だと、完全に勘違いされたようだ。
「いや、そうじゃなくて、あの…」
「いいのよいいのよ、まあ仕方ないわよね。可愛い物は可愛いんだから」
僕が弁明しようと試みるも、簡単にいなされた。下手に反論しようとしても、僕の言葉じゃ無理だ。その時、
「あ、部長もうこんな時間ですよ」
一人の先輩が部長に言う。僕にはその先輩が天使のように見えた。
「あらほんとね。じゃあ、1年生はこれで今日は終わり。気を付けて帰ってねぇ」
全員が再びこちらに注目する。恥ずかしさに耐えきれなくなった僕は、逃げるように被服室を後にした。