- First episode -
「はぁぁ…」
放課後、教室に残っているのはすでに僕だけになっている。他の皆はそれぞれ部活動の見学に行っているようだ。
「絶対部活に入れとか…無理に決まってるじゃんか…」
部活動参加が義務付けられているこの虹ヶ原学園に来たのが間違いだった。毎日「~部入らない?」と声を掛けられるのは、人と関わるのが苦手な僕にとっては地獄である。しかし、いいなって思った部活が1つある。手芸部だ。人と関わることが少なそうだったから選んだと言ったら妹に怒られるけど、一番強い理由はそれだろう。
「…よし、いこう」
遂に決心した僕は、手芸部のある被服室へと向かう。いいなとは思ったものの、一度も行ったことはない。初めての場所に行くことは、僕にとって戦地に赴く様なものである。
被服室の前についたころには、僕の鼓動は相当高まっていた。やはり入るための勇気はまだ出せてない。しばらく部屋の前にいて勇気が出るのを待つとしよう。…と、思ったその時だった。
「…なに、してるの」
突如後ろから声が聞こえた。落ち着いた女性の声だ。驚いて思わず声が出そうになったが、必死にこらえる。
「…新入生…?」
話しかけてきたその人は、僕の様子など気にする素振りもなく、淡々と質問をしてくる。
「は、はい。手芸部に、興味があって…」
やっと絞り出した。きっと情けない声だろうが、この際仕方ない。
「…入って」
その女性は僕に手招きすると、被服室に入っていく。手芸部にはあんな人もいるのか、とある意味関心をもちながら、ドアの前に立つ。
「あら?ねえ久美、その子新入りさん?」
「…そうみたい」
僕の姿を他の部員の人も見つけた様で、こちらに微笑みかけてくれた。
「…早く入って」
久美と呼ばれたその人に促され、恐る恐る部屋に入る。
「かわいらしい子連れてきたじゃない。私は部長の高瀬由紀。この静かな子は恐黒久美。これかよろしくね」
母親のような優しい笑顔で自己紹介された僕は、
「そ、双我麗亜です。よろしくお願いします…」
自己紹介でしか返すことができなかった。