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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第2章 まったりのお披露目
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041 : 舞踏会当日1 打ち合わせ


 まあ正直、舞踏会当日というものは、とにもかくにもせわしない。

 今回の舞踏会は、3国合同会議や晩餐会まで兼ねて開催されるせいで、余計にいろいろと手続きなりなんなりが多い。せっかく大勢集まるんだから、まとめてやっちまえの精神であるな。

 日数をかけて、様々なイベントがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。


 我はといえば、忙しいかと言われるとそうでもないのだが、それでもとにかくまったりしない。

 なんだかんだで、朝から予定は分刻みである。自分に余裕があるなしということに関係なく、周りがそれでは気分的に落ち着かない。

 イベント自体は夜であるのだが、その準備やらなんやらに付き合わされまくりである。

 ひとことで言うと、めんどくさい。ふたことで言うと、とてもめんどくさい。


 こうして、アンとクェルと我の3人が揃った打ち合わせ部屋で、目の前にマシュケの財務大臣閣下がいらっしゃる状態だと、とくに。


「我の貴重なドレス姿であるぞ、存分に堪能するが良いのだぞ」


「ふむ、馬子にも衣装か。小娘でも着飾ればそれなりには仕上がるものだな?」


 出会うなり、我のドレス姿を冷たく見下ろしながらこの文句である。

 ストレアージュでアンに怒られながら仕立てた特注の黒いドレスは豪華で、社交界での戦闘服としてはなかなかにイケておると思う。もともとこういう機会を想定しておったのだし。

 なのに第一声がコレというのは、なかなかにパンチの効いた言葉ではなかろうか。


「そこまで褒められるとさすがに照れるのであるぞ。我はぴちぴちの乙女であるからして、世辞でも美辞麗句を並べ立てられてしまうと恥じらうのであるぞ」


「よくもまあ、そこまで前向きに取れるものだ。黒の賢者という呼称からしても、むしろ従者のが主役らしい気がしなくもない」


 財務大臣殿は相変わらずツンデレであるな。

 きっと、我のあまりの美しさに、面と向かって我を褒めるのが恥ずかしいのだと見える。さすがはキングオブお偉いさんである。おくゆかしいのだ。


「賢者だけに人徳であるのだぞ。それで、この期に及んで打ち合わせとは、どういう要件であろうか。なにか相談することでもあるならわかるのであるが」


「この寸前まで、わざと相談する暇も取らせないようにしておいてよく言う」


「それをわかっていて泳がせるのであるから、それは好き放題泳ぐに決まっているであろう」


 我、満面の笑みでにこにこである。

 大臣、しかめっ面の呆れ顔である。


 この大臣、相変わらずあざといのだ。ついでに言うと目ざとい。

 放ったらかしにされたおかげで、我はずいぶん楽に街を散策したりで調べたい放題である。ここに来るまでの民の様子も把握できたし、お狐さまにも会えたし。

 いろいろ分かった上で我を放置プレイするのであるから、なかなかの胆力であろう。

 普通は胃痛でダウンするのである。


「なにをやらかしてくれるつもりかは知らないが、下手だけは打ってくれるなよ」


 ステキに釘をさされた。


「うむ、大臣殿には感謝しておるのであるぞ」


 まあ、マシュケとしてはもったいぶって大々的に売り出したい賢者が、勝手に街を練り歩いたり途中の街で宴会やったりである。おそらく各国も変な仕掛けすぎてよくわからぬであろう。

 賢者といえば清貧なイメージがあるので、それがお墨付きの立場になったのをいい気に変に浮かれやがって、くらいの認識の連中も多いのではなかろうか。


 たぶんいろいろ身内からの突き上げもあると思うのであるが、大臣殿は「私が責任持つから黙って放っておけ」などと不満の声を抑えてるはずである。

 普通に考えて、当日まで打ち合わせもなく放ったらかしとかいう時点で、だいぶ愛されておるのであるな。だがそれは禁断の愛、そうした許されぬ関係はいずれ悲劇が……


「その無邪気そうな顔で、どれだけ真っ黒な感謝をされているのだか」


「我が、大臣殿の愛人として囲われておる小娘として取り立てられ、それを他国にも認めさせた挙句、政治的に無視できない存在にまつりあげられる感じでひとつ」


「その微妙にリアリティのある設定はどうにかできないのか?」


 大臣殿は呆れつつも、いちいち丁寧に拾ってくれるのでありがたい。


「安心するがよい。やることはやるのだぞ」


「まあ、せめて田舎娘としてバカにされぬぐらいの器量は見せてほしいものだな。どこまで迷惑を被ってやるかはそちら次第だ、賢者殿」


 こういうところはアンみたいにキッチリしておるから困る。

 面倒は見てやるけど成果を出せ、とのお達しである。あと、作法でみっともないところを晒すなとか、そういう。

 我、打ち合わせに関しては、いまのいままで全部すっぽかしてきておるので、向こうもいろいろと思うところがあるのであろう。

 うむ、気持ちはわからなくもない。立場が逆だったら、どう考えても3発は殴る。

 成果出さないと、たぶん、いろんな所が責任を追求してきたり(げきおこぷんぷん)してヤバいのであるな。


「美味しいもの食べさせてくれると、きっとがんばるのであるぞ」


「ならば相応に働け、放し飼いにするのも限度というものがある。金の卵を生むというならともかく、悪臭しか撒き散らさないのであれば檻か屠殺場に送るしかない」


「我、やればできる子なので、長い目で見てくれるとありがたいのである」


「やれ」


「はい」


 ゆるしてくれなかった。ぐすん。


「まあ、迷惑掛けるのは確定なのであるが、マシュケだけでなくたぶんどこも混乱するので問題ないのではなかろうか」


「……確定なのか。計画は今ここで教えられないようなものか?」


 ここで嘆息しつつも動じないあたり、さすがお偉いさんである。


「どうせ驚くなら、一緒のほうが楽しいのではないかなと思うのだぞ」


「驚くのが先でも後でもまったく楽しくないが、どうせ私が悩んでも意味が無いのだろうな」


「引っかき回すのが仕事であるからな、我」


「なるほど、大した計画じゃないのはわかった」


 わかられた。


「む、それではさすがに我がバカみたいではないか」


「バカなのは元からだろう。混乱させるというのに、驚く程度で大問題ではないが問題になる。つまり、なんらかの前提を適度にひっくり返して継続的な問題にするとかなのだろう?」


「ぐむう」


 具体的にはわからないものの、プロットがわかられているというこの微妙なネタバレ感。


 アレだ、綴っている物語の展開を、読者に予想で当てられてしまった感じである。

 作者としては、そのままやると従ったようだし、かと言って逆らうとその場しのぎっぽい気もする。すでにやることは決まっているはずなのに、いろいろともにょる感じである。つらい。


 そこに、さらに大臣の追い打ちである。


「賢者殿はいい加減なようでいて、変なところで真面目で優しいからな。頭おかしいように見えて、なんらかの理はある。理であれば手綱は取れる」


「ほめておるのかけなしておるのか」


「けなしたほうが喜ぶ猫なら、軽く蹴飛ばすほうがあしらいやすいというものだ」


 なんかすっかり、我がドMな扱いである。

 これでも魔王なのでたぶんSだと思うのであるが、いじられがいのある天然ボケポジションと言われると、あながち否定出来ない気もする。


「もったいぶった我がバカっぽいではないか」


「バカだから仕方ない」


 南の国なのに言葉が冷たい、なぜだろう。


「バカとはなんだバカとは、バカと言ったほうがバカに決まっておろう」


「そういうところがまさにバカっぽい」


 大臣つよい。

 屁理屈も通じないとかどれだけ強キャラなのだろうか。


「これでも有能で使える愛されキャラなのだぞ、我」


「だから頭の回るバカだと前にも伝えた気がするのだが。有能で使える愛されバカであれば、飼い主が手綱を握るのが丁度いい」


 大臣閣下の言うことはたしかに正しい。

 だが、いくら正しくても、これはあまりにバカにし過ぎではないだろうか。

 ここまでバカを大安売りされてしまうと、ついうっかりケンカを抱き合わせで買いたくなったりもするのであるぞ。


「む……あまりバカバカ言うとさすがの我も怒るのだぞ」


「多少怒ったったくらいが可愛い小娘なのだからしかたあるまい」


 うわ、ずるい。

 この大臣殿、ここで可愛いとか挟んでくるのか。

 女の扱いうますぎではなかろうか。殺そう。


「そうやって我を愛人にしようとする手練手管からして、たくさんの女を泣かせてきたのであるな」


 そしてたそがれた目線、しかたないという嘆息。

 だがそれでも愛しい人は裏切れない、そんな微笑。

 完璧である。


「なんか気の毒そうな演技をしているから言っておくが……妻に先立たれてからというもの、私は誰も娶っていないぞ。アレ以上の女はいないからな」


 うああああああ、つよい、大臣つよい!

 なんですかこのナイスミドルパーフェクトソルジャー

 人生経験で勝っているはずなのに、人間の中身で負けている気がする。これが魔王を倒す勇者というやつか!?

 ここでマジな返事とか、いい話すぎるであろうに。


「ぐぬ……ここでそんな話とかずるいのであるぞ」


 さすがに茶化すわけにも行かない話なので、下手にツッコミを入れられない。


「オルレア様、そろそろ見苦しくなってきた気がします」


「うー」


 アンとクェルにまで止められた、かくなる上は最終手段である。


「うわーん、みんな覚えておれー!」


 夕日に向かってだっしゅである。まだ昼間だけど。

 魔王たるもの、ここで負けるわけには行かないのである。

 コレは逃亡ではなく、転進であるのだぞ。


「行っちゃいましたね……」


「うー」


「しばらくすれば戻ってくるだろう。猫など、どうせそんなものだ」


 誰も追いかけてこないので、寂しくなって戻るところまで読まれていた。くそう。


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