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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第2章 まったりのお披露目

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038 : 肉巻きご飯女との出会い

 東っぽいようで東っぽくない、でも東っぽい。

 すると、東のようだけどまるで違う風景になる。

 獣人の国、サクラシエロはそんなところである。


 ここは首都センワツヅラ。

 九尾の姫巫女に抱かれ護られているという噂の大都市である。

 なお、そんな姫など誰も見たことがない。なかなかに夢と希望が詰まった伝説であるな。


 3国合同で行う舞踏会開催の地であり、様々な文化が入り乱れるところでもある。

 なのでこう、いろんなものが勝手に集まってくるのであろう。魔王とか。


 特に目を引くのが瓦屋根に朱塗りの柱や門構えである。白塗りの壁に赤と黒のコントラストがよく映える。そこに、金の装飾や塗りが入ると、さらに目立つ。

 我もあまり見たこと無いので、自然と目を奪われる。なかなかにステキな場所である。


 それに、なんといっても目立つのは、城の背後にある山の中腹にそびえ立つ「七重塔」である。

 まず、高いので、街のどこからでも目に入る。その上、景色とよく調和しておるし、特徴的な形なので覚えやすい。


 さらに素晴らしいことに、あの高さで木造建築物だという。技術というやつはすごいのであるな、どうやって建てるのであろうか。

 一般的に建造物は魔法に頼ると割りとヤバい。魔法ならいろいろ出来るのであるが、もしなんかのきっかけで解呪されると一瞬で潰れるのだ。

 そんな馬鹿なことをしようとするのは、魔法を見せつけたくてしかたないようなバカな魔族だけである。我とか。

 それに、魔法であればなんでも出来る代わりに、面白みもありがたみもない。


 だから、建てたものを魔法で補強することはあっても、建築そのものは技術だけで建てたほうが、ステキかっこよさを示せる。

 よくわからぬモノはすごく見えるのだ。

 それが特徴的な建物を見せびらかす意義と素晴らしさである。むしろ魔法でない分、真似がしづらい。

 ほらウチの国すごいでしょかっこいいでしょ、へへーん、と言いたい放題である。観光名所であるな。


 そんな、地味でいながらアクセントの利いた異国の景色と街の香りを楽しみつつ、市場に向かう。

 広い目抜き通りには様々な露店が並んでいて、よりどりみどりである。

 もちろん、目的は買い食い(いつもの)である。


「一応、大使で賢者で今回の賓客で目玉なんですからあまり出歩かないで下さい」


 国に着くなり我がひとりでダッシュして街に繰り出したので、こうしてアンに追いつかれながら露店めぐりである。

 世情を知るために重要な仕事である。

 この国に入ってからは、ちょうど気になっておることもあったりするので、必要なことなのだ。


「そうは言うがな、賢者たるもの、こうして街を見て回るのがつとめであるぞ」


 主に食べ物とかな。


「食べたいのはわかりますからほどほどにして、とりあえずおとなしくしてて下さい」


「なにを言うか。郷に入りては郷に従えであるぞ。つまり、それぞれの土地に行ったらそれぞれの風習をよく知る必要があるのだ」


 主に食べ物とかな。


「そうやって今回、行く先々で散々大騒ぎになったじゃないですか」


 アンに後頭部を叩かれた。乾いたいい音がした。

 素晴らしいツッコミだと思う。


「うむ。賢者たるもの、どの土地に行こうとも、民草の様子を見ておかねばならぬのだぞ。聞いただけではダメである、実際に我が確かめて調べる必要があるのだ」


 主に食べ物とかな。


「まあそういう方だっていうのは分かってますが、それでも外出の許可はとってからにして下さい」


「許可を取ろうとすると、マシュケの連中はまるで出さぬではないか。となれば実力行使しかあるまいに」


「それは勝手に外出してさんざん食べ歩いた挙句、場末の酒場で騒いで朝帰りで出発ギリギリとかに帰ってくるからでしょう」


 ダメらしかった。

 かくなる上は、情に訴えかけるのである。


「ふむ。アンもそろそろ賢者というものを理解するべきではないかな」


「なにをです?」


「まあ確かに我は、適当に好き放題やっておる。だが、出会いを大事にしておるのだ」


「出会い、ですか?」


 その手には乗りませんよ、という態度をされる。

 そんなにやらかしたであろうか、我。

 いやまあ、心当たりはありすぎるのであるが。馬車の中を串焼き肉の匂いで充満させて、あとで必死に消臭したとか。


「出会いというのは外に出ねば起こらぬものである、待っていてもなかなかないのであるぞ。我はこう、600年もの間引きこもりだったので、なおさらのこと取り戻さねばならぬ」


「……そんなものですかね?」


 あからさまに、わかってますよどうせ食べ物でしょうという顔をされる。屠殺場に行く家畜を見るような感じで。

 なぜバレておるのであろうか。


「そんなものであるぞ。案外……」


「あ、オルレア様あぶな……!」


「わぷ!?」


「うわッ!?」


 そのまま、道行くメガネの制服女性とぶつかった。

 別に痛いとか転ぶほどの勢いではなかったが、こう、アレだ。

 彼女の持っていた肉巻き野菜ごはんは、その手を離れ……行きつく先はたわわな胸の上にべっちゃりである。

 彼女の制服の白さにソースがステキに目立つ。色のつく油モノは白い服で食べると危険というやつであるな。


 だが女性にとって、服の染みとは負傷も同然である。生死を分ける死活問題であるのだ。つまり、コレほどの致命傷であれば、死んだも同然である。

 ソースの染みは血の染みなのだ。ついうっかりで心臓を一突き。


 ふう、危ないところであった、戦場なら死んでたので蘇らせてるところである。


「おおすまぬ、大丈夫であるのか?」


「まあ……これは大丈夫じゃないといえば大丈夫じゃない、かしらね」


 よそ見していた我にも責任はあるが、逆に言えばよそ見していた我にぶつかるぐらいには向こうも不注意だったとも言える。

 だが、被害は一方的かつ甚大である。さすがの我もちょっといたたまれない。

 あと、アンの視線がすごく痛い。


「とりあえずは服をどうにかするなりなんなりしようと思うのだが、どうか」


「……そうしてもらえるとありがたいですね。こっちの落ち度もあるとはいえ」


 しかし解せぬ。

 よそ見をしていたくらいでぶつかるようなことは普通、無いのだ。魔王ともなれば、その辺の有象無象の気配くらいはわかる。

 つまり、普通では無いことになる。たぶん魔術的な意味で。

 なんであろう此奴。まあ、興味本位で人の素性についてあれコレ詮索するのはよろしくないので、失礼を承知の上、興味本位で下世話に探るのであるが。


 まあ、ただ突っ立っていてもしかたないので、とりあえず拭くだけ拭いて、その辺の露店で掛け布を買う。コレで急場はなんとかなるであろう。


「うむ、とんだ災難であったのう」


「まあ、だいぶ最近ツイてないから。そういうこともあるのでしょうね……」


「ふむ、不運とな」


 女性は、気にしないでとばかりの苦笑を見せるものの、これだけ派手に染みを作ることにも慣れていると考えれば、結構ひどい目にあっているような感じでもある。

 だいぶ真面目そうであるし、よい人そうな気もする。まあこの様子では、割りと苦労性なのでないだろうか。

 ただ、そんなことはどうでもよく、大事なのはむしろその見目と態度である。

 ショートカットでクールで気さくで美人、どうみても仕事できそうである。そして制服、かといって、この辺の服装でもない。となればどこぞの事務官であろうか。


 あとなんと言うか、アレなおっさんとかにセクハラしてくださいと言わんばかりのセクシーアピールな服なので、この制服デザイナーいろいろ頭大丈夫であろうか。

 こんなアンみたいな格好の美女が近くにいたら、周りの男性諸君はいろいろ大丈夫かと思わなくもないが、まあコレを平然と着こなせる方もすごいと思う。

 ここまで堂々としていると、逆に吸い込まれそうでもある。胸とか足とか。


 いろいろ総合するに、舞踏会の参加者関係な気もしなくはないので、バレるとめんどくさそうな気もするが、そこはそれ。

 どうせほっつき歩いてる者であるのだし、我のことがそれっぽく見える話をしておくのも一興である。


「ふむ、運とはどのようなものだと思ってるのであるかの?」


「あら……哲学、それとも禅問答かしら?」


 うむ、やはり此奴、普通ではないのう。

 抽象的な質問の前提条件を聞き返してきおったぞ。こういう議論に慣れておるな。

 面白いから言葉で小突いておこう。事故をもみ消すためにも。


「まあ雑談なのでな、どちらでもあるしどちらでもない。言ってしまえば……一般的に、運とは偶然であると捉えられる。ただ、もしかすると必然のゆらぎであるかもしれぬ」


「ふふ、アクシデントの詫びとしては、随分と愉快な娘さんね?」


 あからさまにドン引きするような不思議ちゃん発言だと思うので、それをそのまま楽しそうに愉快とか思えるのは、此奴もだいぶ変人ではなかろうか。

 乗ってきたので安心して殴ろう。


「世界を不条理と考えるなら、偶然を都合の良し悪しで捉えているだけであろう。運命は必然と考えるなら、その不運もどこかで必然である。どちらも問題がないのではなかろうか」


 人は自分に都合のいい不条理、つまり幸運であれば文句は言わぬ。なら、不幸もまた本来はそうである。逆に、もし必然なら、それこそ当然なので問題ない。

 運命論の言葉遊びであるな。


「つまり、運は受け側の捉え方次第っていうことかしら?」


「運は自分ではどうにかならぬモノ、と考えた場合、そのほうがわかりやすく面倒が少ないと思うのだぞ」


「なら、この染みも、なにか必然だったり必要なことだったと?」


「頭のおかしい小娘から変な話が聞けるぐらいには。などと思っておったほうが、世の中楽しいと思うのだ」


「まあ、最近は面倒しか無いって感じですからね……」


 自嘲する様子を見るに苦労してそうだのう。


 我としては、そういう苦労はだいたいめんどくさいなーと思ってぶん投げるのだが、仕事となるとそうもいかなかったりするのであろうな。

 我とて、魔王の頃はうざくても面倒見なくてはいけなかったし。

 ……うむ、思い返してみると面倒見なかった気もするのだが。


「というかだな、いちいち細かいことを気にせず、世の中まったりするとよいのだぞ」


「……まったり?」


「だいたい、偶然と出会いは作るものであってだな。不運ならさっさと踏み倒すのがよいし、確率をどんどん増やせば、当たりのひとつやふたつ出てくると思うのだ。ハズレなど、それで充分なお釣りが来ると思うのだぞ」


 うまくいかなかったり埋もれておるほうが普通で、うまくいったり持ち上げられる方が普通でないのだ。

 それに、人生が変わってしまうような成功を、幸運とは言わないような気もする。そんな大事故だいせいこう異常事態てんごくモードは、災害と変わらぬのだ。

 うまくいかない時に出来るのは、天変地異(うまくいったとき)のために備えることだけである。


「ふふ、一理あるわね。ハズレ引き続ける覚悟はいると思うけれど」


 ふむ、賛同してくるところからすると、いろいろ噛み分けておるな。

 なかなか面白い。


「そこはハズレも楽しむ度量が必要であるな。悪いことは悪いことでないことも少なくないのだし」


「そこまで余裕持てればですけどね? 普通はそこまで楽しめないんじゃないかしら。コレがなにかのきっかけであっても、いまはまだ事故だし」


 メガネ女は、面白そうに布をめくって染みを見せてくる。

 まあ、その時点では素直に喜べないことも多いものな。


「実際、多くの場合それ自体が悪いことであるな。でも、案外そうでないものもあるぞ。子供は手間かかるほうが可愛かったりもするのだぞ」


 うむ、魔王なので子供は泣かすがな。

 泣く子は育つのだ。


「貴女もまだ子供のウチでしょう。その割りにだいぶ達観してると思うのだけど、そういう難しいことは私みたいなお姉さんに任せて、もっと短絡的でもいいんじゃないかしらね?」


 なんか上から目線で微笑ましく眺められている気もする。

 やり手であると同時に愉快な女でもある。


「気にせずともよい。我は青春を存分に楽しんでおるので、不運な方に手を差し伸べるのが同じ目にあったものとしての義務であろう」


「じゃあ、今日はごちそうさまかしら?」


「それがまったり至極であるな」


 まあそんなこんなで、彼女とはそのあと、詫びに肉巻き野菜ごはんを買い直してやって別れた。

 うまそうなので、我らもそれを買ってアンとふたりで食べた。


 こうして、アンのツッコミと肉巻きご飯殺人事件が同時にうやむやになったのである。

 うむ、やはり、出会いというのはなかなかに味わい深いのであるぞ。

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