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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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036 : エピローグ いつもの閑話


 獣人の国、サクラシエロ。

 東国から流れ着いたという獣人たちが中心になって興した国のため、東と南の文化が溶け込んだような独特の雰囲気を醸している。そんな独自性の強い国である。


 その王都センワツヅラ、カサカエラ離宮。

 赤と黒、白と金を基調にした賓客用の外交用宿泊施設である。それだけに自国の特色を活かした豪華な建築物で、風情あふれる緑豊かな庭園が窓から見下ろせる。

 池のまわりを散策しながら鳥の歌声に耳を傾けるだけでも気分がさわやかになる、心やすらぐ敷地と言える。

 ひとことで表すと、異国情緒たっぷりでウチのイイトコ見てください的な建築物なので、まあ、ナイスなところを数えあげるとキリがない。


 そんな建物の一室だというのに、聖王国魔術院筆頭補佐官、”氷刃”フェレは悩んでいた。


 悩んでも解決しないのは分かっているが、悩まずにはいられない。

 見た目にも温かみの嬉しい感じの編み椅子に、背中をぐでーんと預けて嘆息しながら、スツールに置いた足を組み替える。


「うあー、ふざけんなー!」


 じたばた。


 やってらんない。

 最悪というのはだいたい予想の斜め上を駆け抜けてくる。

 残念なことに、そういうのはだいたい事前にわかっていないコトなので困る。


 南部3王国と聖王国の関係改善のため、このところずっとそれぞれと交渉を続けていた。

 もともとは物価の上昇により、南部3王国とは微妙な関係になりつつあったことに端を発する。


 そこに原因不明のまま謎の魔族が国境付近の森に居座り、理由もわからないままいなくなった代わりに森が吹っ飛び、その件についていろいろ質疑応答(ツッコミ)が繰り返された。

 安全管理はどうなっているのか、魔族はどうなったのか、今後どうするつもりなのかとさんざんゴネられ、把握しているようでしていない立場としては冷や汗半分になりつつ対応した。

 それで、いろいろ貸しを切り崩しつつも、あとは締めとして重職クラスの会見を設ければいいかもという、ほぼ対等な条件まで持ってきた。


 その、3ヶ月にわたって続けていた話がすべてパァになったからである。


 90日で計4回の来訪。魔術経費も馬鹿にならない。

 だというのにマシュケが突然、決まりかけていた話に泥をかけ、アルレフェティア、サクラシエロがそれに同調したからだ。

 いきなり「この件はストレアージュを通して独自に解決を付けるので、そのあと改めて」とのことである。


 思わず声を上げて裏拳で殴りたくなったが、いきなり3王国が同じ意見ということは、なにかが起こったということだ。結局、向こうが長引かせたのにいきなり勝手に独自交渉とか言われても困るし、国が関わることなので、こちらもそういった交渉には同席することになったのだけれども。


 正直、苦労がほとんど水の泡になったとしか言いようが無いが、その代わりにあれだけゴネていた森の大災害についてあっさり手放したあたり、なにかマズイことが判明したのかもしれない。

 こちらも魔王の件などがあるのでありがたい部分はあるにせよ、金と時間は帰ってこない。


 だいたい、あれだけ文句をつけてきていた南部が、聖王国でなく街と勝手に直接交渉するということ自体がありえない。地方都市を国家と同レベル、むしろ都市を優先で扱うというのは普通に考えて起こることじゃない。


 明らかになにかあったと考えるべき問題だ。っていうか頭おかしいだろ。


「うん、ちょっと世の中って自分勝手すぎませんかね」


 ひとりりごとをつぶやきながら、頭ごと背もたれに乗せつつ、ぼーっと考えを巡らす。

 こんな時には窓から入ってくるそよ風すら、文字通り煽ってるとしか思えない。


 なにせ、さわやかに無駄足を踏まされて、その上、新たな問題発生である。

 魔王が復活したのはうちの職場に対してだけなんじゃないだろうかと、憎しみを禁じ得ない。とりあえず絞めていいと思う。

 まず3回絞めた上で、はらわたをとってから塩水に浸した上で吊るし、天日干しで晒していいんじゃないだろうか。

 たぶん焼くとうまいと思う。炭火で。


 それはさておき。

 仮定として、もし本当に地方都市でありながら信頼に足る折衝になるのであれば、国としては南の件が軽くなって、北など他の地方に労力を振れるのでありがたい。

 けれども、各国の変わりようからしてどうもこのまま放置しておくにはマズイ気がする。

 だいたい、ストレアージュで勝手にそんな話進めていたとか聞いていないし。もともと板挟みで悩んでいた都市なので理解はするけれども、秘密裏にそこまで話が進んでいるというのも驚きだ。

 こっちもちょっと殴っていい気はする。裏に連れ込んで腹を2、3発ほど。


 もともと南はだいぶいい加減で気分屋でアバウトなところはあったから、商業同盟を組むまではバラバラで足踏みが取れていなかった。それが今やこの始末、聖王国にとって確実にやりづらくなっている。

 うちの商業ギルドの頭が古くて硬いのでちょっと叩き割ってやりたいことも手伝って、あまりよろしくない状況になっているし、どちらにしてもいずれ問題になるに決まっている。

 にしたって、国に話を通さないで街だけで進めるには大胆すぎるし、あの太守はそんな手を打てるタイプじゃない。

 ここもなにかあったと考えるべきだ。


 まあ順当に考えるなら、ストレアージュのどっかの誰かがなんかやらかして、森の件を含めた交渉に持ち込んだ、ということになる。


 どれもこれも物事がひとり歩きしすぎている。大予兆に魔族に魔王、急激な南部の路線変更と地方都市の独自対応。どれもまるで私の責任ではないのになぜか責任がある状態。

 世界はもう少し私にやさしくてもいいんじゃないだろうか。

 大予兆に個人的ないじめを受けている気はしなくもない。


 唯一、魔王関連が騒がしくないのが救いとは言えるが、騒がしくなったら終わりという可能性のある案件でもあって気が抜けない。

 あれから導師の足取り自体は追えているものの、なんらかの用事で南部に向かったらしく、終わったら帰ってくるらしいというところまでしか対応できない。さすがにこの状況では、南部では手が出せない。

 ある有力商人が関係を持っているらしいので、観察しながら待ちということになる。

 占術師の連中によれば、いずれまた戻ってくるとのことなので、これはこれでいいだろうと思うものの、内容が内容だけにいつまでも放っておける問題でもない。


 だが、何が一番問題かといえば「労力の割にまるで成果が出ていない」ことだ。

 打っている手がそれほど間違っているわけでもない。にも関わらず、内容がまるでついてこないということは、なんらかの異常事態が起きていると言える。


 問題は、これが異常事態だということを気付けるのはちゃんと頭が回っている人間だけということだ。

 おかげで、私の労力はさらに無駄づかいされる。


 もともと今回の話は、毎日積み上げた砂の城が、朝起きてみたら一晩で無くなっていたようなものだ。理由なんてどうでもいいから建てなおすしかない。もしくは嵐対策をする必要がある。

 だというのになんで嵐が来たかの説明と申し開きをしないといけないような、ちょっと危機管理的にマズイ人間がウチの重職にも何名かいる。こういう時の対応くらいは院長を使おう。適当に済ますにはあの人が最適だ。


「いいよね。もう、どーしたっていいよね」


 あまりのやるせなさで悲し悔しいので、ごろ寝に切り替えながら手紙にペンを走らせる。

 人物名を書いておいて「任せた」って書いておけば伝わるだろう。社交辞令が文頭文末それぞれ3行。そして用件1行、これでよし。封蝋ぺたり。


 とりあえず無茶しか言わないような連中は、首根っこひっ捕まえて洗濯物と一緒にぶら下げていいと思う。出来れば、にぶい連中は一発ずつ殴りたい。後頭部を平手で右斜め45度の強打。小気味よい音をさせてくれれば許す。

 そしてできれば、今晩の食事には焼肉フルコースをお願いしたい。よりよい仕事のために。


 考えたり説明するのは高官の役目であり、そのための官位や役職なのだから、しっかり仕事して欲しい。言われないと理解できないならそれは部下なのだし。

 なんで私が上の分まで考えて説明したり根回しをして、滞りのないようにしないといけないのだろうか。


 それはそれとして、国への書簡をしたためたあとは特にやることもない。

 積極的な折衝は丁重にお断りされた以上、今日は微妙にヒマが出来てしまう。


 まあ、せっかくなので特産品周りの市場調査(かいもの)など、してしまっていいかもしれない。

 魔術交流とか施設などの視察とかで明日以降の予定はそれなりに詰まっているが、急に出来た久しぶりのオフなので、少しぐらい好き勝手しても許されるだろう。


 う~ん、と伸びをする。

 こういう時くらいは昼間から酒飲んでも許されると思う。

 二日酔いにならないぐらいに飲んで(やけざけ)、胃もたれしないぐらいに食べて(やけぐい)、温泉入って寝る(ふてね)ぐらいの贅沢はしてもいいハズだ。

 特にサクラシエロの温泉はどこも最高だし。


 なんにしても、次の宮廷舞踏会ではちょっと動きがあるようなので、それまではちょっと離れられない。それだけに、もうしばらくは滞在する必要がある。

 なんでも、黒の賢者などという、近頃マシュケで評判の者を招くために豪勢にするのだとか。


 この時期にどこの誰だかわからないような賢者を国際の社交の場に招く、というのは、ちょっと異例のことなので、非常に興味がある。

 通常、こういう場に招かれるような特別な魔術師や賢者というのは素性が明確だ。それは彼らが知識人であり、そのためにはだいたいどこかの後ろ盾か学院などを通じて教育を受ける必要があるし、お披露目は誰かの思惑でするものだ。

 ウチにはこんなすごいヤツいるぜどうだ羨ましいだろう、ともったいぶるには、出自が明確な方が都合がいい。


 それが、この賢者は南部以外の出身だという。

 功績はあるのかもしれないが、国家が推すとしては身元不明の他国の賢者を鳴り物入りで参加させるのは不自然になる。

 なんらかのそうせざるを得ない理由があるはずで、なにもなければわざわざこんな形で喧伝しない。


 もしかしたら、魔王なりその辺の関係者が搦め手として国なり貴族なりを足がかりにしたいと、そういうことかもしれない。

 まったくの考えすぎのような気もしなくもないけれど、こういう時期には警戒しておいて困ることはない。

 なにせ例の導師と足取りが似ている。あまり嬉しくはないが、関連性があってもおかしくない。


 ただ、そうしたことを抜きにしても、いろいろと気になることはある。もし可能なら一度会っていろいろと聞いておきたいところだ。

 なにしろ、国家推薦の部外者とくれば、よほどの変人か悪人、もしくは世間知らずに決まっている。なにかを成し遂げた変わり者か出来レース以外の方が珍しい。国が紹介する以上はそのメリットがあるのだから、接触しておいて損はない。


 この時期に、わざわざマシュケが連れてくるのだ。どんな者かというのはおそらく誰もが楽しみにしているだろう。もしかすると聖王国に関連深い可能性もある。

 今日は、それを肴に一杯やればたぶん気持ちいいと思う。

 というか、そう思わないとやってらんない。


 ちくしょう、なんかナイスなこと考えないと、このいろいろと大仕事ダメになったモチベーションは収まらないんですよ!!

 今回の一方的に不利な交渉でどれだけ苦労させられたと思ってるんですか。こんなの理屈で納得できるか!

 うあー!!


 ベッドのインク瓶がひっくり返ってえらいことになった。


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