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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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035 : 新しい呪い


 まあ、いろいろとイヤ(ステキ)事件(であい)もあったが、それも含めてクレジオシテでの主だった活動は終わったといえる。

 これからしばらくはマシュケが主導で、社交界と裏交渉的な部分に活躍の舞台を移すことになるのであろう。

 副大臣と財務大臣のお墨付きであるので、目的も分かっているだけに3国共同での舞踏会で盛大に紹介してもらえるそうである。


 大変にありがたいことであるので、やはり日頃の行いがモノを言うのであるぞ。

 きっと自国だけに収まりきらぬ大器と判断したのであろう。うむ、やはり秘めたる才能というものは、隠していても片鱗がにじみ出てしまうのであるな。


 今までのような市井での活動に関しては今後も継続していく予定なのであるが、ストレアージュに約束してしまった以上、なにをどうするにしてもそれだけというわけにもいかなくなるであろう。なにより、今後は賢者として名が知れてしまうので、隠すにしても活動にはそれなりの変化が出るかもしれぬ。

 とはいえ、買い食いは大事なので今後も継続していく予定である。っていうかやる、絶対。


 足に関しては大切に大切に保管しておる。ちゃんと足の裏には消えない塗料で顔を書いておいた。

 魔族の切れ端は、普通であれば魔力が拡散して溶けるように散っていくのであるが、我にかかれば保存程度は造作も無い。

 こういう初めて貰った贈り物というのはずっとしまっておいて、イベントの時に大事にしていたというのが発覚するのがいいのであるぞ。きっと感動のあまりにキュン死するであろう。

 あ、ただし瀕死のイケメンがいいこと言うところに関しては、アリだと思うのだ。他人事であればたぶん男女問わずそういうの好きであろうと思うのだぞ。

 なのでそういう場面はちょっと見てみたさある、メモっておこう。


 なお、あのあと秘書官殿に手を振って微笑んだら副大臣閣下同様の渋い顔をしておった。

 ふたりで一夜を過ごし、我は大事なものを貫かれ秘密まで共有した仲だというのに、まったくつれないものである。

 イケメンはやはり信用してはいけない。


 それはそうと。

 諸処の事情はさておき、そろそろ出発の時間である。

 舞踏会の都合でマシュケ開催ではないので、旅立たねばならぬ。


 なので、商業ギルド前でレミッテンの隊商とともに小さなお別れであるぞ。これより、街はずれで王宮の者達と合流し、共に隣国へ向かうことになるのだ。

 寂しくなんかないので、お見送りは少数でよいのだ。


「あなた方がいるあいだ、この街もずいぶん賑やかだったと思います。またどこでも騒がしくなって噂に聞こえてくるのを楽しみにしてますよ」


 まず、マシュケ商業ギルド長のベルアーノの挨拶。

 スラムでの資金協力や後押しなどを密かにしてくれていた。世話になったのである。


「いろいろ厄介になったのだ。これで街ともお別れであるな……」


「色々お世話になりました」


「うー」


 あとの見送りには、スラムから大勢来てしまうと大混乱する、ということで代表の者だけが来ている。

 なんと、元ギャングの彼である。今や立派な取りまとめ役である。


「賢者様はどこでも暴れてくれると面白いと思うぜ。俺らも、そのうちすっげーコトにしとくんで! アン様やクェルも次に来る時を楽しみにしてくれよ!」


 満面の笑顔。いい面構えになったものだ。

 ナイフをちらつかせて脅しに来ていたような輩が、ずいぶん成長したものである。


「うむ、其方も達者でおるのだぞ」


「いつまでも元気でいてくださいね」


「うー」


 握手あんどハグ。にぎにぎ、ぎゅー。


「おう、任せてくれよな。立派にしてみせっからよ!」


 あいかわらずの元気いい挨拶。此奴、最初から勢いはあるものな。


 アンは名残惜しそうにしておるものの普通だし、クェルはいつもの様に元気いっぱいである。

 しかし我はというと、先日の大宴会でだいたいのお別れ的なところは終わっているものの、こうして改めて挨拶されてしまうと、どうも別れを惜しんでしまう。

 なんというか、あの時の余韻に浸ってしまう感じなのであるな。


 コレではどっちが教師だかわからぬ。

 とは言え、さすがに今日は泣いたりしないのであるが。


 そんな我に、レミッテンが背中から声をかけてくる。


「導師……おっと今はもう賢者ですね。3ヶ月間、ずいぶんお楽しみだったみたいですからな。まあ、そういうのもいいんじゃないですかね?」


 明らかに、満足行くまで別れを惜しんで来いという意味である。

 ぐぬう、どいつもこいつも。

 まあ、もはや此奴もすっかり我の専属商人みたいになったし、めんどくさいことは任せてあるので、せいぜい儲けてもらいつつ我の財布としてこれからも活躍してもらうのであるぞ。


「む。我は賢者であるからして、その……なんだ。このようなことは数多くあるのであるから出会いや別れなどいちいち惜しんだりせぬのであるぞ」


 などと思いつつも、こう、出発までだらだら時間を使ってしまうのであるが。

 仕方なかろう、向こうが別れたくないに決まっておるのだぞ。気を使うのは魔王として当然であるのだ。


 レミッテンが頃合いを見計らって合図してくる。


「じゃあ、そろそろ出発しますよ」


「……うむ」


 馬車の荷台に乗り込む。

 車輪が動き出し、パッカポッコと馬の足音が妙に響く音を背にしながら、後ろから手を振り合った。

 見えなくなるまで精一杯全力で振り続けた。


 ……あの馬鹿者め。泣くなら姿が見えなくなってからにするのだ。我には多少遠いぐらいなら余裕で見えてしまうのだぞ。

 我は今日は泣かぬのだぞ、笑顔でお別れするのだ。


 なので、姿が見えなくなったあとは馬車の奥に引っ込む。

 我はつよい子なのだぞ。


 すると、見守るようなアンの顔が目の前にあった。


「オルレア様、そんなに無理しなくてもいいんじゃないです?」


「うー」


「よいのだ。これからも先のこともあると考えると、いつまでも引きずるわけにもいかぬと思ってな」


 クェルも心配そうに声をかけてくるが、ここは我慢である。

 魔王はえらいので、必要なときにはちゃんと自制できるのであるぞ。たぶん。


 そんな我を、アンがこう、そっと抱き寄せてくれたりするのであるが、今日に限ってはちょっと頼ってよいのか悪いのか微妙な気分になりつついるところに、クェルに頭をぺしぺし叩かれたりして、結局だいたいいつも通りな気がする。


 まあ、馬車の中に引きこもりっきりなのであるが、街を出るまではこんな感じでよいのではないかと思う。

 女々しいと言われようがどうしようが、魔王は自分勝手で傍若無人であるのだ。

 だいたい、たった3ヶ月しか過ごしておらぬのだぞ。なにより、たまたま気まぐれの結果としてスラムで教鞭をとっただけである。もしかしたら似たようなことをどこかでするようなことがないとも言えぬのだ。

 なので、いつまでもこうして引っ張るわけにも行かぬ。


 たしかに嬉し寂し切ないのもあって、ぐんにょりぷもぷもな感じなのは否定しないのであるが、それはそれとして新たな旅立ちをしないといけないのである。

 まったりの新たな地平を目指さねばいかんのだ。


 などと決意を新たにして馬車の荷台でうずくまっておった我に、外からレミッテンが声をかけてくる


「お、賢者様。新しい旅を祝福してるのか、今日はまたすごくいい景色ですよ。マシュケで一番いいんじゃないですかね? こんな絶景なんて見たことないですよ」


「む……?」


 なんであろう。

 でも、見てしまうと里心ついたりしないであろうか。


「やー、こんなの初めてですし、せっかくですから見とかないと一生後悔しますよ」


 商人も長いであろう此奴に、一生とまで言われてしまうと気になる。すごく気になる。

 そこまで言うのであれば仕方がない。魔王たるものなんでも一応は目にしておかねばならぬ。


 そして、ちょっとだけ外の景色を見てみれば、目に飛び込んできたものがあった。



 スラムの高台。





 あ  り  が  と  う     ま  た  ね





 街を抜けるときには絶対に見えるように、大きく書かれた字があった。


 たった8つ。しかも曲がっている。

 なのにどうしようもなく意味がこもった文字。


 しかも、我が見る今だけのために。


 あんなの、塗料を用意するだけでも、なけなしの貯金をかき集めて切り崩したに決まっている。

 みんなの人生と生活と夢の詰まった金を、ただただ我らへの感謝のためだけに使ったのだ。

 もしかしたら届かないかもしれないのに。


 こんな大人数の夢と念のこもった大規模儀式呪文、防げぬに決まっているであろう!

 くそう、あのおろかものどもめ。あんなことよりもっといい使い道があるし、いろいろ教えたではないか!

 まったく無駄なことをしおって!!


 魔王にこんな、こんな呪いをかけるなど。

 このようなこと、されたら……逆らえぬではないか。


 気がついたらもう、顔がぐしゃぐしゃであった。

 泣いておらぬぞ、呪いに決まっておる。でないとこんなどうしようもなくならないのだぞ。

 人間に一方的にここまでのことをされるなど、思っても見なかった。

 圧倒的すぎて、なにも出来ないではないか、我。


 あまりの光景に、まったりの深奥を垣間見たような気もする。

 たしかに一生ものである。


 我、どうしてよいかまではまだ分からぬが、感謝は不死の魔王も殺せると知った。


「これで……よかったのであるな」


「そう……ですね」


「ふぇ……ひっく……」


 この新しい呪いは、我の心に深く刻むのであるぞ。


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