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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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015 : ねんがんの服を手に入れたぞ

 腹ごしらえが終わったので、次は仕立屋である。

 順序が逆であればせっかくの服を汚すかもなのでいただけないのである。


 我が欲しいのは普段着である。

 導師らしい服が良いのであるな。

 先のふりふりなゴスロリドレスは大変に気に入ったのであるが、主に街中に限定されやすいし、なにより目立ちすぎるのだ。


 それと、なんといっても大事なのは幼女の服である

 なんでも似合いそうであるし着たがる気はするのであるが、なんでも買うわけにも行かぬ。

 どうしたものであるかの。


 金銭に関してはアンが相当量持っておるのであるが、普通の服に使う程度であれば、あとでレミッテンのところにうかがえば調達できるであろう。

 そのへんであまり心配はしておらぬのだが、それはそれとして迷うのであろうことは予想できる。

 迷うのは買い物の醍醐味であるので、それはそれで楽しいのだが。


 選択肢が豊富にある、ということは選択を余儀なくされる。

 そして、物事を責任なく選択することは基本的に楽しいのだ。


 ただ、服屋に行くにあたってひとつ大問題があった


「うむ、して幼女よ。其方、名はなんという?」


「……ない」


 この幼女、名前がなかった。


 まあたしかに水銀漬けの鎧の中であればなにも話せないし、誰か共におるのであればあんなところに出てこないであろうから、名前の必要性もないのかもしれない。

 だからといってアンに引き続き呼び名がないのも困りものである。


 しかも、うかつに名付けようものならそのまま気に入ってしまいそうなのがコワイ。

 ついうっかりここで「そうかナイであるのか」などと魔王ギャグを飛ばしたらほぼ確定しそうである。

コワイ。

 いろいろと魔王は力が強いので危険なのだ。


「ううむ。名がないとこれから何かと不便であるな」


「真名はあるのかもしれませんが、この様子ですと知らなさそうですよね……」


 そしてあからさまにわくわくされておる。

 名付けられる気満点の笑みである。

 我はそういう期待視線による遠隔攻撃には弱いのだ。

 期待されてしまうとわかっていながらついその気になりやすい、というのは古来より魔王の弱点なのである。


「……ふむ、ではクェルフェルナーサでどうであるかな」


「おお、かっこいいかわいい名前ですね」


「うむ、強そうな響きがよいのだ。魔族的には音も名を表すであるからな」


 此奴はとんでもなく強い魔族であるからこれくらい飾っても良いであろう。


「くぇる、ふぇる……なーさ……」


 幼女が決まったばかりの名前を噛みしめるように何度も繰り返す。

 あからさまに初めて小遣いをもらったような顔をしておるな此奴。

 でも其方の願いは、まだこれからであろう?


「ではクェルよ、これから服屋に行くぞ。其方の服を約束通り用意してやらぬといかんからの」


「……っ!!?」


 感極まってそれだけで泣きそうである

 本当にどれだけ苦労しておったのだ此奴。



***



 うむ。

 予想はしていたが、仕立て屋を目の前にしてクェルが感動の嵐に涙が止まらぬのである。


 なにかこう、憧れというより神聖かつ不可侵なものに出会ったような顔をしておる。

 ここまで来ると、噂にしか聞いたことのない伝説の竜を探しに秘境に出かけ、冒険の末、ついに前人未到の霊峰の頂上にたどり着き、念願かなって出会うことができたレベルなのではなかろうか。

 もはや奇跡と感動の対面と言わざるをえない。


「ふく……これもふく、これもふく、これもふく……!」


 服に触れても破れないことを確認しつつ、一枚一枚、そっと手ざわりを確認しまくるクェル。

 すでに目がぐるぐるしているので、もはやなにがなんだかわかっておらぬのではなかろうか。

 服を見るだけで感動して泣き出す幼女、というのも不思議なものであるのだが、人が喜んでいるのを見るのは幸せでありまったりである。


「世の人は己を満たすために他人を喜ばせ、その喜びがまた他人を喜ばすのであるな。よいことである」


「ばっくれてなければですけどね……」


 相変わらずアンのツッコミが厳しいのである。


「む、それは其方もそうであろう」


「ですがまあ、どこかで帳尻合わせないとこう、いつまでも現実逃避しているわけにも」


「それについてはいちおう考えておる。まあ、相手がいることであるので、我の思い通りに行くかどうかはわからぬのではあるが」


「おお、楽しみに待っておりますオルレア様」


 うむ、我とてなんの考えもなしにばっくれているわけではないのだ。

 ……ないのだぞ?


 まあそのためにもまずは服である。

 我らの身なりをととのえねばどこにも出れぬであるからな。


「そのための服であるぞ、アンよ。外見とは身分であり武器であるのだ。なぜ身支度に金をかけるのかといえば、それは見た目ひとつで人の生死どころか国の趨勢が決まるからである」


「またずいぶんと大きくでましたね」


「まあ、責任はあるからの」


 そうなのだ。

 南部のことがこのまま済むとは思えぬので、やることをやらかしてしまった以上はどうにかしなければいかんのである。


 そのためには相応に着飾って謎の変態貴族的なノリでふっかける必要がある。

 我は偉いであろうほれほれわかったらさっさと従うがよい下郎どもめそこへ直るがよいへへーんが大事なのである。

 なお、やり過ぎると大惨事になるので注意したい。


 ということで服と言うのは国家を揺るがすモノであるのだ。

 そのことを世の中の男どもはもう少し思い知るべきである。

 その気になれば、我が舞踏会に魔王鎧で乗り込んでどかーんとやればすごいことになるのであるぞ。しないけども。


 まあ、なにはともあれ服である。


 もちろん、クェルは終始目をきらきらと輝かせたまま興奮しっぱなしであり、感動しっぱなしである。

 もしかして服だけで喜び殺せるのではなかろうかというくらいには幸せにあふれていて、すべてが愛おしいようであった。

 着替えるたびに、新しい服に着替えるのは嬉しいけれども脱いでしまった服を名残惜しそうにしつつ、嬉しそうで悲しそうな顔をしながらいちいち手放すのを惜しんでいた。

 着れるかどうかにかかわらず服屋の服が全部欲しいくらいなのではなかろうか。


 そんな感じでクェルの微笑ましい様子を見ながら全員分の普段着とよそいきを用意し、舞踏会用の服に関しては採寸してもらって注文した。

 流石にドレスとなると国家だけではなく家計をも揺るがす金額なのであるが、まあしかたあるまい。

 アンの視線がだいぶ痛いのであるがしかたあるまい。


 しかたないのだぞ、ほんとだぞ?

 ほんとだってばいたたたたつねるでないアンよ。


「服を買うとは聞きましたが、ここまで出費するとは思ってませんでした」


「だって仕方ないであろうそれには必要なんあたたたたたた」


「それならそれで先に言ってください。お金がないわけじゃないですが限度ってものがあります」


「いやほらおぬしが大丈夫言うから平気かとばかり思いたいいたいいたい」


「こんな高価なドレスなんか本気で買ったら庶民の家のひとつやふたつ吹っ飛びます」


「ま、魔王だったのであるから600年の間に金銭感覚がなくなたたたたたた」


「ですから構いませんがそういう時は準備があるので先に言ってください」


「ふぁい」


 つねられたままうなずいた。

 我、なぜ半泣きで部下に叱られておるのであろうか。


「ほんとにわかってますか?」


 あいたたたたたた。


次回は閑話になります

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