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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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013 : まあそうですよね


 うむ。

 幼女はひとしきり泣いて、ひとしきり地面と戯れて、ひとしきり我らと触れ合って疲れて寝てしまった。

 いつまでも裸ではなんなのでアンが手持ちの布とローブをかけてやっていたが、いちいち感動して泣いておったしな。怒ったり泣いたり笑ったりでいろいろ疲れたのだろう。

 きゅっと布をつかむ様子などはなかなかに可愛かったのだ。


 ちなみに、思い切り走ろうとしてうまく走れずに転んで、我に吹っ飛んできた時は色々危なかった。

 此奴、これでもやはり力は強いのだ。岩石が飛んできたかと思うぐらいにはひどい衝撃であった。

 走り回っても問題はないぞ、とは言ったが、問題がありそうな気もする。

 というかあれだけの呪いを食らっておいてまだこれだけ強いのかと思うと、なかなかにすさまじいものがある。


 なんというか100人分の食事を作る鍋をひっくり返して空っぽにして、そこに残った香りだけでも涙流して喜ぶほどの旨さと感動があるくらいには強い感じなのである。

 むしろ、此奴どうやって世界を滅ぼさないようにしておったのか、そのほうが気にかかるくらいである。


 しかしその辺の事情を考えれば、この幼い姿もきっと自らを押し込めたい気持ちの現われなのであろうなと思うと、いろいろいじらしくてたまらない。


 魔族が姿を若くする理由はいくつかある。

 基本的に、力の放出を抑えるため、自身の実力を示すステータス、単に趣味の3つである


 ある一定より姿を若くするのは難しい。

 なぜなら、能力が一番発揮しやすい、とする姿を取るのが一般的だからである。

 うまそうな料理はうまそうな器のほうが映えるのである。そのため、生物的に、もしくは目的として一番有利な姿になることが多い。

 つまり、強い魔族であればあるほど、見目美しくなる傾向にある。

 我の場合もそれほど無理しているわけではなく、素直に突き詰めた結果にほかならない。


 それをわざと変則的にするのであれば、冷めにくかったりしたほうがいいとか、わざわざ見せつけるのに凝った器を使うとか、単に好みである。


 であるが、此奴の場合はきっと、器の口をせまくしたかったのだ。

 そうすることにより、細口の水差しのように少しでも力が収まるのではないかと。


 うむ。なかなかに健気である。

 そのような此奴を放っておけない我としてはやはり……


「で、オルレア様。そろそろ現実に帰ってもらってきてよろしいですか?」


「むむ、我がせっかく、事実を直視しないようにしていたというのに」


 そうなのだ。

 なぜ、我がやたらと幸せな考えだけをこんなに長いことだらだら巡らしているかと言えば、ひたすらに認めたくない過ちを認めたくないからである。



 目の前に広がる、この半壊した南部大森林である。



 なんというか、どう見てもこの世の終わりがスキップで蹂躙していった感じの、プチ世界滅亡な光景である。

 まあ、天が渦巻き、地が裂け、森は悲鳴を上げる事すら許されなかったのであるから、当然といえば当然なのであるが。

 あとは待ってましたとばかりに、恐怖の大王とやらが世界の終わりを告げるラッパを吹く天使を従えて降臨してくれば、それこそいい感じに完璧だったのだが。そんなあぶないところを、寸前で阻止したのである。

 そう、誰にも知られることなく、人から魔王と呼ばれながらも我は人類と世界をひそかに救ったのだ。


 うむ、すまぬ。あまりのことの大きさにちょっと正当化してみたかったのである。


 しかし、来た時はちょっとした湖くらいにしか思わなかったものが、もはや最終戦争が起こったあとみたいな感じである。完全に地形そのものが変わっていてえらい状態であるし、かなりどうしようもない。

 それでも、どうやら村や街道筋までは被害が及んでいるわけではなさそうで無事であるのだが、そのぶん森林の壊滅状況がひどい。

 ひどいというか、これはもはや森林ではなく、森林のようなものである。

 かつて森林と呼ばれしものでもいいかもしれない。


 ひとことで言うと、だいぶアレな感じである。

 ぐっちゃんぐっちゃんのぎったんぎったんである。


 いっそのことアレ地と呼ぶのはどうだろうか……うむ、いろいろダメな気がする。

 なにはともあれ、真っ青で冷や汗だらだらモノなのである。


「……それでこれ、どうしましょう?」


 ぐむう、現実に引き戻された。

 アンはアンでやはり真っ青であるので、此奴もどうしようもないに決まっておる。

 まあ、こういう時はあまり使いたくない奥の手しかないのであるが。


「うむ、我にひとつよい考えがある」


 ぱああ、とアンの顔が明るくなる。


「おお、さすがはオルレア様。それで、どのような?」


「逃げる」


「……」




 きっぱり。

 一瞬、すごく気まずい空気が流れる。


 アンに、うわー、まあそうですよねー、しかたないですよねーみたいな顔をされる。

 いたたたた。


「その、いちおう聞いておきますが、どうにか出来ないんですか?」


「考えてもみるがよい。我、呪いしか出来ないのであるぞ? 呪いの森とかにしてもよいのであればともかく、我がなにかしても呪われた土地にしかならないのだ。それに其方とて、闇系の術ではろくな事にならないのであろう?」


「いやまあたしかに、私も闇とか影とか壊すとか苦しめるとかじわらせるとかばかりなので、生産的なことはないですけども」


 そうなのだ。

 我もアンも、物を捻じ曲げるとか隠すとか埋めるとか崩すとか足引っ張るとかそういうのは得意であるのだが、戻すとか育てるとか治すとか最悪に相性が悪いのである。

 ついでにいうと、いま眠っておる此奴もいまは普通に腕力があるだけなのでどうしようもない。


 伝承級のすごい魔族が3人寄り集まっても、なんのいいアイディアもないどころか悪化させるネタしか持っていないのである。

 強力なツッコミ役だけが3人集まっても誰かボケてくれないことにはどうしようもないのだ。

 というよりむしろ、誰かが近づいてこない内に逃げないとヤバイ。


「なにも出来ないのであるから仕方がないのである。 こういうときこそ落ち着いて出来る者に任せるのだ」


「正論なのにすごく間違ってる気もするんですが」


「我は魔族をどうにかしたのである、だから人は森をどうにかすればよいのだ。物事は適材適所であるぞ」


「すごく……魔王らしいです」


「うぐぐ、それを言うでない」


 おかしい、我、いたいけで純真な幼女を保護して手厚く面倒を見てやっただけであるのに、どうしてこんなことになっておるのであろうか。


「そういうところも嫌いじゃないですよ」


「それ絶対ほめておらぬであろう」


 まあ、それはさておき。

 いろいろ悩んでも仕方ないので全部ほっぽらかして逃げた、うむ。


 なにも出来ないのに足しにはならぬし、なによりこんなことがバレたらあまりに魔王すぎて大変なのである。

 だいたいこれ全部、幼女がしたことであるし、こんな力こそパワーで、それこそパワーでパワーなことは我にはどうしようもないのだ。


 どうしようもないときはどうもしないのに限る。

 正々堂々とばっくれるが勝ちである。


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