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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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011 : 鎧の正体

「……っ」


 うわー。


 我、白髮褐色の幼女にすごい剣幕で睨まれておる。目には涙が滲むほどに。


 伸び放題の髪、立派な角、幼いながらも魅力的な肢体。

 魔族はその性質上、外見にその素性が現れる。なので、強いほど見目麗しいかゴツいことが多い。

 そういうことを考えても、此奴はだいぶ素性が良いと言えよう。力の塊のようなところがある。

 それを鎧に閉じ込められ、力をうまく使われていたのではないだろうか。


「ふむ。其方、鎧に閉じ込められておったのか。だが、もう大丈夫であるぞ」


「う……」


「う?」


「ぅわ……」


「ぅわ?」


「うわああああああああ!」


 うむ。

 ぜんぜんそんなことはなかった。


 幼女がいきなり泣きながら、怒りに任せて身を震わせるほどに力を込めた。

 それだけである。


 繰り返すが、感情的にすこし力んだだけであるぞ?

 それだけで周囲の空間が「壊れて」おる。

 地が裂け、世界が割れ、天が泣き喚いておる。

 我らを倒せと轟き叫んでおる。


「うむ、アンよ。これ、もしかしてだいぶヤバイのではなかろうか」


「もしかしなくてもだいぶマズイと思います」


「やはりそう思うか?」


「そろそろ責任逃れが痛々しいです、オルレア様」


 ごまかそうとしたが許されなかった。ぐすん。


「あああッ!」


 幼女に巻き付いている呪鎖が何の抵抗もなく、まるで糸くずのように簡単にちぎれる。

 ちぎれるというか、幼女の怒りだけで綿毛のようにふわふわと塵に帰る。

 力を失った鎧は、彼女がそこから出るまでもなく飴細工のようにへしゃげて、ちぎれ飛んでいく。


 そして、幼女はゆっくりと、その細くしなやかな腕を大きく振るう。


 腕がどこかに当たるとか当たらないとかではない。

 ゆっくりと力を込めて大きく振るだけで、周囲の空間が「壊れる」のだ。

 我とアンのいる空間がよく焼けたパイ皮のようにぱりぱりとひび割られていく。

 もはや割るというか引き裂くというか触れる空気が全部壊れていく。


 天が渦巻き、地が叫び、木々に至っては悲鳴を上げることすら許されない。

 たった腕の一振りで、もはや天変地異の大災害である。

 おそらく周辺ではこの世の終わりだとか言われてるんでなかろうか。


 それを、アンは影に潜ってやり過ごし、我は呪いでやり過ごすのであるが。


「……あ」


 さすがに、今回は我の服まではそうもいかなかった。

 ビリビリとまでは行かないが、それでも相応に生地の端々がボロボロの切れ端にされていく。

 それをどうにも出来ぬまま黙ってみているしかない。つらい。

 たしか、魔術も曲げると言っておったものな。


 我もこれほど怒らせるまで気が付かなかったのだが、恐ろしいことに幼女のこれは魔法や魔力ではなく、あまりに強すぎてとんでもなく規格外の【腕力】なのだ。


 いま我らの周りで起こっている世界の終末みたいな光景は、此奴が怒って力を入れているだけなのだ。


 鎧によって増幅されていたわけでもなく、幼女の魔力が変換されていたわけでもなく、鎧が力を封じて弱くしていただけなのである。

 だから、なにをしたのかよくわからなかったし、鎧のせいだと勘違いしたのだ。


 しかも、さっきまではそっと手を差し出したりしていた事を考えると、気を使われていた可能性すらある。

 純粋に力であるから魔法でも何でもないし、当たり前のように空間が歪んでいたわけだ。

 まあ、強すぎて空間や魔法が歪むほどのそれを魔法でないと呼んでいいのかどうか、もはや不明であるのだが。


 ただ、感情的に力んで腕を振るっただけでこれを出来てしまう彼女は、だいぶ苦労している気がする。

 だから誰かが鎧を作ったのだ、きっと。

 周りにとんでもない被害を出さないように。

 彼女が少しでも困ったりしないように。


 それを……我が壊してしまったわけである。


 幼女にとって鎧は、壊されてしまったら、烈火のごとく我を忘れるほどに怒るくらいには大事なモノである。

 すごい悪い気しかしない。

 わりと、だいぶ、なんというか、かなり。


 だから、ふと言葉が出た。


「すまぬな、お互い、一張羅が台無しであるの」


「……!」


 何かを意図した言葉ではないのであるが、幼女がその言葉に今までにないくらい反応した。

 今までなんの反応もほとんど示さなかった此奴が動揺するほどに。

 怒りに任せて振るおうとしていた腕が一瞬止まるくらいには。


 なるほど、そうであったのか。うむ、ひどく申し訳ないことをしてしまった。


「我も、この服が気に入っておったからな」


「…………っ!?」


「其方も、あの鎧……服を気に入っておったのだろう?」


「あ………ぁ」


 どうやら図星であったらしい。

 此奴、あの鎧が服として相当のお気に入りだったようだ。

 だからきっと、我の服を壊した、ということがわかってしまった。

 そして……悲しみをわかってしまったら、もう、怒れないのだ。


 服でこれくらい怒るのであるから、きっと素直で純情であるのだろう。

 残ったのは怒りに任せた後悔と悲しみだけである


「っあ……ぅ、ぐす……ひっく…………ぅあ……うわああああ……」


 うぐぐ、こんどは泣かせてしまった。


 なんか幼女の服を破って裸にして泣かすとか、すごいヒドイやつな気がする。

 悪の大魔王だってこんなことはしないと思う。したけど。

 しかもこう、いたずら半分みたいな感じでやらかしたのであるからして、罪悪感ハンパない(イジメカッコワルイ)

 我、割りと泣かれるのは苦手なのだ。


 しかも、事態はまったく好転していない。

 腕をふるって天まで震わせ、あとは恐怖の大魔王が降ってくればすべて完璧というのは避けられたが、それでも、此奴が精一杯我慢しながら泣くだけで周囲は大惨事である。


 それがわかっておるから此奴、反応が薄かったのだ……健気なことに、今も必死に泣くのを止めようとしておる。

 己の感情が地を揺るがすことを知っておるのだな。

 自分を少しでも制限してくれるこの鎧は宝物だったのだ、きっと。


「……ふむ。泣くな、と言っても無理かもしれぬが、泣くな」


「……ぐす、ぅう…………」


 こんな言葉にも反応して必死に泣き止もうとしているところを見ると、本当に悪いことをした気がする。

 いまの此奴には、服を壊されたことと壊してしまったことへの悲しみしかないのだから、泣くのをやめろ、というのはひどく酷なことではある。


 自分の大事な大事な宝物を壊され、それでついカッとなって他人に同じことをしてしまった時の気持ちは、誰だっていたたまれない。

 きっと自分でもどうでも出来ないのだろうし、我にだいぶ責任があるので、まったりを執行せねばなるまい。


「服を着れるようにしてやるから、もう泣くな」


「………………っ!???」


 すごい反応で、こいつはいきなりなにを言っているんだ、みたいな顔をされた。

 まあ、うん、わかる。

 期待半分、あきらめ半分なのもな。


 おそらくは鎧を作る時も大変であったのだろう。

 あれほど丁寧に術を結び組むのは、なかなかに苦労がいるものである。

 それをさっくりと壊した我が言うので、期待しつつも、半信半疑という感じなのではなかろうか。


 まあ、普通はそうであろうな。

 幸いなことに、我はあまり普通では無い。


「そのトンデモ腕力さえ、どうにかなればよいのであろう? そうすれば普通の服が着れるのでな、着替えることも出来るようになる」


「……っあ、うぁ………………ぁ……!!?」


 うむ、具体的に言ったら思いっきり期待された。明らかに抑えきれない喜びで一杯そうである。

 ああわかったわかったから泣くな。着替えることくらいで泣くな。

 そんなこと考えもしなかったって言う感じなのはわかるが泣くな。


 無理も無いとは思うが、其方にはもっとまったりしてもらう必要があるのだ。

 でなければ我がすごく悪い魔王みたいではないか。


 いやもしかすると世間的には悪い魔王かも知れないが悪い魔王だけど悪い魔王じゃないのだぞ。

 あとこの際、ついでだから魔王っていう時点で悪い意味というのはおいておくのだ。


「であるからして、まずはとりあえず落ち着いてそこへ直れ。落ち着かんとうまく行かぬかも知れないであるからの」


「……っ、ぅ……」


 本当は別にそんなことはないのであるが、そう言っていたほうが収まりが良いと思うのでそうする。

 感情をあけすけに晒すのはそうしてもよくなったら思い切りすればよいのだ。

 いまはまだその時ではなかろう。


「……」


 我の前でおずおずと必死に自分の気持ちを抑える幼女。

 うむ。こういうところはなかなか健気でかわいいであるな、此奴。

 周りの天変地異さえなければ。

 期待で岩が浮いとる浮いとる。


 感情がそのまま周辺状況を左右するほど力が有り余っているのは、さすがにやってられぬであろう。

 此奴はそれをずっと圧し殺していたのだ。

 そんな悲しい我慢はさせたくない。


「よし、では始めるぞ。つよいのつよいの、とんでけー」


「……」


 あ、いますごく軽蔑するような目で見られた。ぐむぅ。

 これでも強い呪いなのであるぞ?


鎧子の外見はイラスト一覧の方にありますので、よろしければどうぞ^_^

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