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010 : ヤバイことってやってみたい


 村はいろいろ周辺事情による不安で大変そうではあったが、それでも茶の一杯くらいどうにかする余裕はあったらしい。このあと森へ用事で向かうことを告げ、茶と軽食のみを所望する。

 しばしのまったりを満喫したあと、すっかり日が暮れたので動くことにする。


 世間ではどうか知らぬが、我からすると森の一つや二つであれば呪をかけるのはおどろくほど簡単である。

 これ、投網やシーツみたいな感じでぽいっと投げるので慣れないと多少難しいのだが、我ぐらいになるとモノがでかいので適当に投げてもそれなりに引っかかる。

 その我が全盛期ほどではないとはいえ、綺麗に投げれば造作も無い。


「ふむ、それなりに遠くに居るようである……な?」


 しかしこの感じは……なんだ?

 我もこのようなのは知らぬぞ。

 おかしな形で荒らした痕跡が大森林のあちこちにある。

 しかもご丁寧に、獣が巣を張るような感じで、わざわざ居場所を示すような形だ。

 わかりやすい事この上ない。


 更に言うなら、適度に森のなかで、適度に街や村から離れ、適度に街道から離れている。

 もし意図的であれば、戦闘などが起こってもあからさまに被害が少なそうなところを選んでいるとも言える。

 話で聞いた通りの鎧がいつもこんな調子であれば、それは逆に謎すぎてなにかあるのではないかと警戒されてもおかしくない。


「む、不可解な。場所はわかるが、此奴なにかおかしいぞ」


「おかしい、ですか」


「そうだ。誘っておるか縄張りを示しているかのようなのだ。しかも本当に歪んだあとらしいものが散在しておる。此奴にとって空間を歪めるのは本当に日常茶飯事のようであるな」


 そのような術師はいまだかつて聞いたことがない。

 いやまあ、我がごろ寝しておった600年の間になにかあったのかもしれないが。


「とりあえず、行ってみるしかあるまい」


「御意。ではお運びいたします」


 アンに、そのままするりと腕を体に回され、持ち上げられる


「……で、なにをしておる?」


「お姫様抱っこですが、なにか?」


 手を繋いでランデヴーとか我にもアンのような翼を生やすとか、どういった形で飛行するのか楽しみにしておったのだが、なぜこのスタイルなのだろうか。


「其方、絶対コレ以外にも方法があるであろう?」


「いえいえとんでもない」


「誓えるか?」


「誓えますよ」


「よしわかった、誓約のもと呪ってやろう」


「……」


 あ、黙りおった。

 しかもそっぽまで向いておる。

 仕方ないであるのう。


「まあ、配下のまったりを邪魔するわけにも行かぬ。好きにするがよい」


「……!」


 ふう、と胸をなでおろすアン。

 まあ我が無理にどうこうと言わないのはわかっておるのであろうが、それでも気分は損ねたくないのであろう。


 まあ、たいして変わらないことであれば、好きにさせるのがよいのである。

 だいたい、もし我が逆の立場でそうしたいのであれば、確実に同じことをしている自信はあるのだ。

 自分には甘く配下に厳しくというわけには行くまい。

 欲望で他人を押しのけても許されるのは、大勢でつつき合う鍋と焼肉だけだと思うのでな。


「ありがたき幸せ……それにしても本当にぶれないですね、オルレア様」


「我を誰だと思っておる。まったりの支配者、キングオブまったりであるぞ?」


 魔王の「ま」はまったりの「ま」である。

 魔ったり王。よい名だと思うのだが、600年前は身内が盛り上がり過ぎてて流石に言い出せなかったのだ、我。



**



 月明かりの下、翼をはためかせたアンとの空中散歩を楽しんでおったのだが、しばらくすると目指す場所が見えてきた。

 というか、ある程度のところからはもう、あからさまに目立っていた。


「「うわぁ……」」


 ハモった。

 二人で顔を見合わせる。


 森の一部が綺麗なまでに丸く繰り抜かれた感じで木々がなくなっており、そこだけ地面がえぐれていて、ばかでかいクレーターができていた。

 あれ、だいたい村が一個ぐらい入るのではなかろうか。


 どう考えても目立つどころの騒ぎでなく大問題である。

 大雨が降ったらたぶん湖が出来るぞ。

 もしかすると問題が大きすぎて公表できなかったのかもしれない。


 そのど真ん中に漆黒のばかでかい大鎧がずーんと鎮座しているのだった。


「うむ。さすがの我も見たことないぞ、こんなの」


「私もです」


 どーすんのこれ、という感じで、アンとお互いうなずきあう。


 むしろコレを見て、よく戦う気になれたな人間。

 すまぬ盗賊団の連中、ちょっと見なおした。


「まあ、見るからにやりあいたくない感じですね」


「隕石でも落とさぬ限り無理だものな……」


 それを隕石でなくやったであろうことを考えるともっと怖い。

 なんで人間でこれをどうにか出来ると思ったんだろうか。

 人間は不可能に挑戦し過ぎだと思う。


 ともあれ、だらだら見ているわけにもいかぬ。


 大鎧の正面にふわりと我を降ろしてもらうと、そのまま二人で向き直る。

 高さが戦鬼(オーガ)族ぐらいはある隙間のない全身鎧だ。ほんとうに大きい。


 向こうの反応はないが、気配はある。

 それも、割りと強いヤツだ。

 鎧のヤツ、絶対の自信があるのかなんなのかは知らぬが、首一つ動かそうとしないのだが。


「さて、大鎧よ。名前がわからんのでそう呼ばせてもらう……其方がどういうつもりかは知らぬが、周辺の者が安心して眠れぬらしいのでな、どうにかしてもらえぬか、と思って参った次第だ」


「……」


 鎧は黙ったままぴくりともしない。


「返事は無しか」


「……」


 やはり動かない。

 本当にだんまりだ。

 中でなんらかの気配はあるので、明らかに聞いているはずなのだが。


「なにか事情があるのであれば、聞ける範囲であれば聞き届けよう。ただ、どうしてもそのままというのであれば、こちらの勝手ですまぬとは思うがどこかへ移動してもらおうと思ってな」


「……」


 そこで大鎧が初めて、すっ、と動く。

 動くと言っても、鎧が腕を軽くそっと動かしただけである。

 それだけで地面が揺れるような気さえする。

 というか揺れている。


 あいかわらず無言であるが、意志がない、というわけではないらしい。


「む。何か主張したいことがあるのであれば、言うがよいぞ?」


「……」


 それでも無言である。

 何も言わないまま、その手をゆっくり伸ばしてくる、のであるが。


 明らかにそれだけでズズズ、と地響きが起こり、地面が震える。


「ずいぶんとすさまじいな」


「まあ立ってられないほどじゃないですけども」


「うむ。攻撃、ではないようであるし」


 そうなのである。別に殴るとかではなく腕を前に出しているだけなのだ。

 だというのに、とにかくものすごい圧力であるのは確かだ。

 我々はこの程度ならなんとかなるが、人間だったらたぶん今すぐ帰りたいのではないかと思う。


「……」


 そして、我々が逃げないことに気を良くしたのか。

 鎧は、ズン、とこちらに一歩踏み出した。


 それだけである。

 その、たった一挙動だというのに、ぐわんと世界が揺れた。


 うむ。

 確かに話のとおり歪むのだ、空気が。

 周りの景色がすごいことになっておる。弱い者ならこれだけでも吐くのではなかろうか。


 死ぬ。これは死ぬ。人間ならたぶん3回ぐらい簡単に死ぬ。

 我はまあ、巻き込まれたところで持ち前のまったり力で問題ないが、本当に一挙手一投足で地面が震え空気が歪むとは思わなかったぞ。

 世の中ってまだまだ広い。


「どうします、これ」


「どうもこうも、どうにかするしかなかろう」


 巨体が一歩踏み出すだけでこれなら、人には対処するのも難しいであろう。

 鎧が軽くダンスを踊るだけで、軍隊の一つや二つは簡単にぽぽーんと弾け飛ぶのであろうことは想像に難くない。


 だが。

 我からすれば、この鎧、ある種の術が厳重にかけられているのがわかるのだ。

 しかも何重にも複合積層式でだ。かなり高度で複雑な魔術である。

 とんでもないマジックアイテムであり、年月を含んだ古代王国期の魔器レベルではないだろうか。


 おそらくは、鎧によりなんらかの魔術的効果が作用している気もする。

 であれば、我としてはこの鎧を呪うだけである。

 容赦なく魔術を腐らせ、叩き壊すだけである。


 というか、これ以上ほっとくと巻き込まれるし、そうなればせっかくもらった服がだめになるかもしれぬ。

 それは、まったりによくない。


 あ。

 我、破れそうという危機に瀕して、どうやらこの黒いふりふり服が割りと気に入っているようであるといま気づいた。

 うむ。我は乙女で女子であるから、お姫様願望がないわけではないのだ。きっとそうだ。


 なお、女子の定義について年齢を考えてはいけない。

 これは世界の法則である。破ると死ぬ。


「ふむ。このままでは其方に触れられぬのでな。すまぬがその鎧、脱いでもらうぞ」


 まあ、これだけの立派な魔術式に、ごりごりと錆びたナイフでぎざぎざの傷をつけた挙句、塗料と生卵をぶっかけて小麦粉をまぶした上に、乾いた上から釘で落書きするような真似をするのもどうかと思う。


 思うのだが、やる。

 我、いたずらっこだからな。


 こう、御触れ書きの看板に赤い塗料でぷっぺけぺーとか書くの大好きなのだ。

 肖像画の目に画鋲を押したりとかそういう。

 芸術のような術式に対し、漆喰の美しい白壁に泥をぶちまけてハンマーで叩き壊すようなことをするので、綺麗好きには絶対おすすめ出来ないと思う。


 呪いというのは、子供のいたずらを大人が大マジメに悪ノリする、危険極まりない術である。

 なので、こういった不謹慎な遊び感覚がないと、だいたいやってるほうがバカらしくて嫌になるのではなかろうか。

 そして、そういった面倒に付き合いきれない者はだいたい事故るのであるが。

 もちろん、大人になりたくない大人である我にはぴったりである。


 ただまあ、自分の術式をぶち壊されてもげらげら笑って呪いを上書きするような神経をしておらぬと死霊術師はできないので、だいたい性根が歪んだりしやすいのが欠点といえば欠点である。

 情報交換でさえも、他人の誕生日のプレゼントに「役には立たないけど微妙にナイスで捨てられないもの」をどれだけハイレベルなクオリティで贈り合うかという感じだものな。

 我も若い頃は……あ、いやいや控えておこう。さすがに痛い。


 そんなわけで、鎧の術式、よく出来ていて正直もったいないのではあるが。

 もったいないものをついうっかり壊してみるっていうのは、一度はやってみたいと思わぬか?


 残念ながら、我はやっちゃいけないことは割りとやってみたい方なのでな。

 こう、鎧をぱっかーんと。


 破壊したのだ……が……。


「……」


「……」


「……」


 まてまてまて、ちょっとまて。


 ……なぜ鎧の中に、水銀漬けの上に呪鎖でぐるぐる巻きになったジト目の全裸幼女が入っておる?


鎧子さんの登場です

「……」

あ、機嫌悪そうですねすいませ(日記はここで途切れている

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