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009 : 反省だけなら魔王でもできる

 盗賊たちを放り込んだ後。

 隊商の者たちが起きる前。


 正座でアンに説教されていた。

 我、魔王なのに。


 罪状はもちろん、鎧の魔族に関して(やっかいごと)の安請け合いである。


「やってしまいましたね?」


「……ぐむ」


 やってしまった。

 すごくやってしまった。


 だって、目の前であんな微妙な顔されて放っておけないのだもの!


 まあ、我の正体はバレたりしないであろうが、それでもさすがにやり過ぎの自覚はある。

 ほんとだぞ?


「私はオルレア様の意向に従うだけですからなんの問題もありませんけどね?」


「ぐぬぬ」


 笑顔が痛い。すごく痛い。

 あと、このままだとまた600年前と同じことになりそうな気もする。

 我ぇー、なんていうかー、そのぉー、ちょーヤバくなーい?


 うむ……ちょっと失われし古代語でごねてみたが、もちろん状態は変わらない。


「だからと言って、放っておくわけにも行かぬであろう?」


 この辺、もともと我の封印とか近くにあっても困らないような感じの辺境(はしっこ)だし、3王国とか言ってたし。

 3国以上が関わってややこしいことになったら最後、周りを巻き込んでだいぶめんどくさいことになるに決まっている。


 個人の問題だったものに身内が口を出し始めて、さらに部外者が出てきて責任がどこかいったまま話が一人歩きを始めるようなものである。

 ほら、こういう我みたいな余計な善意の第三者が我が物顔でえらそうにでしゃばってくるであろう?

 そのうち本人の都合そっちのけで、それを肴にどんちゃん騒ぎになる。

 そうなるともう、10年戦争の始まり(いっちょあがり)である。

 そういう、隣の家が夫婦喧嘩でうるさいみたいなのは勘弁して欲しいと思うのだ。


「まあ、さすがに魔族ぐらいは我がどうにかしてもよいかなと」


「寝る前だけど余ってたからもったいないのでつい食べちゃった、みたいな言い訳してもだめですよ?」


 あいたたたたたた。

 でも我、食べても太らないのだぞ!


「それで、どうするんです?」


「それな」


「あれだけ偉そうに言っておいてどこにも見つかりませんでした、じゃ済まされませんよ?」


「まあ、見つけること自体はあまり問題はないであろう。生命探知に関して我の右に出るものはおらぬであろうし」


 実際、感知や探索で困るような気はしていない。

 むしろ、どういう相手でどういう対応がよいのかだ。


「それより、鎧に関して言っていたことが気にかかる。普通、空間を歪ませるような術は、我のような呪いなどに属するか空間系の操作術だと思うのだが、話によると、どうもずいぶん気軽にぱかすか撃ってきているような印象を受けるのだ」


「そうですね。動くたびに曲がるとか言ってましたから、なにか特別なことでもしているんでしょうか」


 正直、妙である。

 そもそも空間はそう気軽にぽんぽん曲げるものではない。

 時間や空間に関するものは強力な術だが、それゆえに事故率も高く、比較的めんどうくさいのだ。


 だから、普通は限定して使う術であることが多い。

 無限袋などの限定空間に放り込んだり、ゲートなどで決まった場所と場所をつなげたり、呪いで継続的に歪ませたり、一定の場所に防壁を張ったりする。

 空間に負荷をかけること自体はそれほど難しいことではないが、継続的だったり連続で行うとなると随分話が変わるのだ。


 だから、もしそんな気軽にどこでも空間を捻じ曲げるような奴がいたら、それは伝承級と言うより伝説級の魔族であり、魔王と同等ぐらいのクラスを意味する可能性がある。

 だって空間をぐにゃぐにゃ好きに曲げられたら誰も近づけぬであろう?


「鎧に何か仕掛けがあるとも考えられなくはない。そもそも、それほど強力でありながら人間に対して力を使いまくるというのが理解できぬ」


「人間、ついうっかりで力込めると死にますからね……」


 ほんとにな。

 カエルを力入れて握ったらまずい感じなのである。

 だから、普通はカエルがうざったいなーと思った時には手で払うぐらいで、いくら深夜にカエルが大合唱でうるさかったからって、田んぼを全部まるごとぐつぐつと沸騰させてしまうというのは、さすがにやりすぎだと思うのだ。


 なお、カエルはさっぱりした鶏肉っぽくてそれなりにうまい。

 足くらいしか食べるところないのだけど。


「なぜそこまでせねばならないのかよくわからないが、まあ、考えても出てこないことは詮ないので考えないぞ」


「……そういうお方ですよね」


 うむ。まったりには考え過ぎは禁物なのだ。


「ところでアンよ」


「なんでしょうか」


「そろそろ正座やめてもよいか?」


「だめです」


 だめだった、ぐすん。

 この後、めちゃくちゃ説教された。


 や、でも人生には、勢いも大事だと思うのだよ、我。

 悩んでもよいのだが、結果の出ないウチに悩むべきではないというか、やってみてから次回のために悩めばよいと思うのだ。

 人間であれば失敗の出来ないこともあるのでまあわからなくもないが、死なないのだしやってみてからでもよいのではないかな。


 だめ?

 あ、だめですかそうですか。


 ちなみに我、血が流れておるわけではないから、正座しても足しびれないのだけどな。

 とか言ったら更におこられました。ふええ。


 なんだか我、此奴に頭上がらない気がしてきた。魔王なのに。



***



 隊商が次の村についたところで、我はちょっと所用があるということでレミッテンとは一度別れることにした。


「なるほど、用があるのなら仕方ありませんね。我々はしばらく街にいますので、よろしければお立ち寄りください」


「できることなら我もそう願いたい。もし間に合うようであればせっかくなので厚意に甘え、世話になりに行こう」


 あたりまえではあるが、レミッテンにはものっすごいさわやかにドヤ顔をされた。くそう。

 どう見ても完全に図星なのでなんとも言えない。

 きっと此奴のことだ、昨晩何が起こったかは知らずとも、なんかあったことくらい察しておるだろうし。

 あと、後ろからのアンの笑顔と視線がすごく痛い。


 うわぁん、我、だからコミュニケーションは苦手なのだってば。

 泣くぞ。

 こうなったらはやいところやることをすませて、厚意のるつぼで溺れるように甘えまくるのだ。


「それで、どうなさるおつもりで?」


「うむ、その鎧とやらがいそうな森全体を呪う」


「呪いますか」


「呪うぞ」


「だいぶ物騒に聞こえるのですが、それ大丈夫なのですか?」


 ああ、そうか。

 言葉が悪かったな。


「別に、呪うと言っても現実にはだいぶ違うので安心してよいぞ。我の領域として把握し、地図を作るようなものだ。だいたいのものは見つけられるので便利なのだ。」


 我、呪いしか出来ないのでな。

 探索の時には一度、印を付けるのだ。そうすれば、たいていの探しものはできる。

 散らかってる部屋から物を探すには必須なのだ。

 ずっと残るような呪印であると本当に呪われてしまうので、いつまでも持たないのは難点ではあるが。


 お、アンがずいぶんと感心しているような顔をしている。

 うむ、主人を褒めるがよいぞ。


「ところで、移動に関しては徒歩を考えているが何かあるか? さすがに死竜などを喚んでしまうとえらいことになるのでだな。空間をつなげてもよいのだが、今回は相手が相手だけに空間系の移動が危険な可能性があるから、それは避けたいのだ」


「夜であれば私が飛行でお連れできます。既に午後ですので、準備だけしておいて備えれば効率的かと思います」


 影の移動であれば阻害される可能性もあったのでそれもどうかと思っていたのだが、飛行であれば問題ないな。

 それ採用。


「ではそれで行こうか。我が場所を特定するので、そこへ向かうぞ」


「御意」


 うむ。

 夜まで、村で茶の一杯ぐらいは楽しめそうである、すばらしい。


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