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008 : 盗賊団と罰

 アンが盗賊団とその頭目を捕まえてきた。

 事を荒立てたくないので、行商の連中にバレないよう我々と彼らだけで話しあいである。


 アンについてはなにも心配してはいなかったが、むしろどう捕まえるのか興味があった。

 今回わかったのは此奴、影使いでもマスタークラスだということだ。

 割りと影の王とか影の使者とか死の影とかいい感じの二つ名がついてしまうレベルのやつ。ヤバイ。


 まあ、ひとことで言うと術の手際がとんでもなく綺麗で美しいのだ。

 ぐちゃぐちゃ結びが大得意な我としては、アンの魔術の結び目は綺麗すぎて泣けるレベルである。

 此奴、手芸の趣味でもあるのではなかろうか。かなり手慣れておる。

 複雑な術より基礎の単純な術のほうが、そういった差は出やすい。

 上級者になるほど、とんでもなく基礎が上手いのである。


 どうりで、つたない呪いにあれほど綺麗な結びだったわけである。

 たぶん、そうでないと意識的に許したくないのだ。

 見た目のかわいい菓子とかを食べたくない気持ちみたいなものだ。


 なお、我はもちろん、人形の菓子だろうとひよこ型だろうと頭からバリバリである。

 ハート型などはまず間違いなくまっぷたつである。形あるものは滅びるのである。


 しかしなんというか。

 アンは、謎めいて妙に美人悪役ぶっている割に、付き合うたびにどんどんいじらしい態度になってきた感じである。

 もしかするとアンも我と同じくぼっちだったのかも知れぬ。などという感じに思う気もする。

 まあ、なんにせよ、まったりするならよいのではないだろうか。


 それはさておき。


 頭目の話によると


「好きで盗賊をやってたんじゃない。あの魔族に村が滅ぼされたからだ」


 ということである。


「ふむ。まあ事情があろうとなかろうと盗賊は褒められたものではない。それはそれとして、(おもんばか)る必要はあるがな」


「ぐ……たしかに事情が苦しいとはいえその通りだ。そこは反論できない」


「そもそも南に対する嫌がらせ的な意味もあったのではないのか?」


「っ!?」


 お、コレ反応するのか。

 よーし、我、はりきってしまおうぞ。


「そもそも村人ではないのであろう?」


「……っ!!?」


 うむ、可愛いぞ。

 だいたい其方ら、訓練され過ぎなのだ。

 村をなくした素人の盗賊はこんなに統制が取れたりしないのでな。

 集団での白兵戦闘は半ば練度で決まる。整列して足並み揃えるだけで普通は大変なのだ。連携行動となればなおさらで、基本配置すら個々の技量がモノを言う。

 だというのに組織的すぎるであろう?


「いや、聞いた話によると南がぶいぶい言わせておるので、聖王国では大変なのであろう? で、そんな時期に微妙な場所に魔族が出たとなれば、南の関与などを疑うものもおるであろうと思っただけだ」


「……」


 黙秘。

 まあ、どこかの軍か傭兵であろうな。

 いつバレてもよいように傭兵だとは思うが。

 南の者は治安が乱れないほうが良いに決まっておるし、もしちょっかい出したいなら困っておる聖王国のほうが可能性が高いのでな。

 こうも黙秘で肯定してくれるとありがたい事この上ない。


「嫌がらせ、と言ったが、其方、斥候として調査を兼ねておるのではないかな? 南の動向を探るには盗賊であれば表向きは正規ではないから自由に動けるだろうし。どうせ適度に汚れ役を演出しておるだけなのでないか?」


「ちっ……なんでアンタみたいな小娘のくせに切れる導師が、こんな普通の隊商にくっついてるんだ?」


「まったり諸国漫遊の旅だ」


「……」


 なぜ黙るのだ。

 ここ大事なところなのに。


「なんにしても感心できぬが、ストレアージュの状況は大丈夫であるのか?」


「まあいい、アンタには話しておいて良さそうだ。例の魔族はどうしようもない。だから、それに関して南がなにか企んでるのであればどうしようもない。だが、準備ができるのであればまったく対応策がないわけじゃないってトコだ」


 ふむ。

 聖王国は当時、我を封じる中心となった古い国だ。

 なにかおもしろ仕掛けやびっくり必殺技があってもおかしくはない。

 もしかしたらゲートが残っていたり、発達したりしているのかもしれないし。


「南を治安の悪さで牽制しつつ様子見と奥の手か。ううむ、それは果たして良いことなのかどうか。まあ南のことはさておき、魔族に関しては我がなんとかするしかなさそうであるな」


「……やめたほうがいい。ずいぶんと自信があるようだが、いくらアンタたちでもアレには勝てないぞ?」


 アンに一方的に捕まっておいてそう語るということは、普通とは異質の強さということか。

 興味深い。

 というか、すでに魔族と一戦交えておったのだな。


「よほど強いと見えるな、その魔族とやらは」


「アレは強いとかいうレベルじゃない。もはや戦いですらない……」


 なんかすごいことになってきたようだぞ。


「曲がるんだ、何もかも。武器も、鎧も、魔法も、人も、心もだ」


「曲がる?」


「何人たりとも触れられないんだ、アレは。曲がるとしか言いようが無い。歪むでもいい」


 空間歪曲かなにかだろうか。

 そのような防御を張ってしまえば、普通なんでもマズイことになるのはわかるが。

 あとたぶん心は曲がらないで折れる。


「ふむ、とりあえず思い当たるところはあるのだが、その言い方だと範囲系の魔術のようにも聞こえるな」


「そんなんじゃない。そんなんじゃないんだ。あの鎧の魔物が動くたびに、世界が曲がっていくんだ……」


 うむ、此奴よくそれだけの恐怖体験を話せるな、と思うような感じになってきた。

 きっとだいぶひどい事になっていただろうに。少々気の毒である。


「良い。それ以上無理に話さずとも、我がなんとかしておく」


「……死ぬぞ?」


 此奴、脂汗を流しながら他人の心配なぞよく出来るものだ。

 我だったら泣くぞ。

 きっと捨てられた子犬とか放っておけないタイプではなかろうか。


「ふむ。よいことを考えついた、このことを隠蔽する代わりにひとつ頼んでもよいか?」


「なんだ?」


「あとで、街に行った時、豪華な飯を我に奢れ。自腹でな」


「……!」


「一切の反論は許さぬぞ。我が行くまでに自力でなんとかするのだ。街では行商の者と共に居る。わかったら部隊をまとめて街に報告しに行くがよい」


「……っ、アンタは……!」


 あうとー。

 まあ、いろいろと主張したり言いたくなる気持ちはわかるのである。

 わかるのであるがアウト。半分引っ掛けたのであるがアウト。

 盗賊であったことは事実であるし、ここで青年の主張をされてもしかたないし、我を気遣ってもらってもしかたないのである。

 さすがの我も、まったくの無罪放免をするほど甘くはないのだ。


「うむ、反論は許さないといったのでな。盗賊の件も兼ねて、そこでしばらく反省してもらおうか」


 空間を呪い、歪みを作ってぽいっと放り込んでおく。ごごご。これでよし。

 朝には我らも出発してしまうし、半日ぐらいはちょうどいい反省房(おしおき)だろう。


 まったりにも、時には本人が納得するだけの罰は必要だと思うのだ。

 喧嘩とか反省とかその場限りで、わだかまりとかない方がいいであろう?


盗賊たち「ここどこ……(でれない」


頭目さんは説明受けてるけど、部下はいきなり金縛りにあった上にダストシュートに放り込まれるようなもんなのでだいぶかわいそうな気もします\(^o^)/

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