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鳥釜飯

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小松原良秋は今年、小学校に進学していた。

自転車で遠出する機会が出来るように成った。クラスの友達同士で緑地に行くことに成った。

(初めて行く緑地とはどんな所だろう・・・)

良秋は昔何度か、緑地に行ったことをすっかり忘れていた。

緑地の西側の道(古市寄りの道)を良秋達は走っていた。住宅地を抜けると植林地に出た。いつしか舗装されていない道に変わった。道の脇には背の高い全く同じ木が列を成して植わっている。昨日までの連続雨で植林地の中は赤土が非道くぬかるんでいた。

誰かが以前『服部緑地』で白骨死体の殺人事件があったと言った。ここも「緑地」に違いない。良秋はぬかるんだ赤土を見て恐怖にかられた。

『子供達の情報なので事の真偽はよく分からない』

良秋は打って出ることにした。

「ほおやったら(だったら)、鶴見緑地でも、骨、出て来るかも知れへんで」

すると

「それは、馬の骨やろ(鶴見緑地やから馬の骨、出て来んのん当たり前やろ!)」

(なんと!もう出ているのか!こわ~)

緑地では馬を飼っている。乗馬の馬。馬が死んでも、おじさん達はその辺りには埋めないだろう。

道はどんどん狭くなり、行き止まりになった。厩舎があり馬が飼われている。 見ると馬場はぐちゃぐちゃに濡れている。これ以上は行けそうもない。

「どうする?」

みんなで相談して、結局、すぐ引き返すことにした。矢張り馬は恐ろしかった。大人も恐ろしかった。社会のしきたりみたいな物も恐ろしかった。この後、マリーのうちの近くで散会した。

良秋に(そう言えば・・・)過去の記憶が戻って来た。幼稚園の頃だろうか、兄の春休みの宿題のような物に付き合って、母と三人、緑地、手前東南の水道局までピクニックに来たことを思い出した。そこはマリーのうちから比較的近い。白爪草が際限ないほど咲いていた。れんげ草が夢のように咲いていた。ぽかぽかと暖かった。

マリーの家の前に来ると思わず自転車を止めた。

(ここがマーおばちゃんのうちだ・・・)

マリーがひょっこり顔を覗かせた。

「まあ、まあ、まあ、まあ」

おうちに上がらせていただくと、マリーが自ら焼いたクッキーを振舞ってくれた。クッキーが自宅で焼けるなどと衝撃だった。

後日談。今度は、小松原の家がマリーを招待した。家が貧乏なのと、母の振る舞う料理が貧乏臭いのに良秋は恐縮した。この現代の世の中で母の振る舞う料理は「余りにも、余りにも」昔臭い。母も自分達も若いのに・・・。母の作る手料理は一様に茶色っぽくて、残念だが昔風。マリーの手作り料理はお洒落で品があってエレガント。茶色許すまじ。

「良秋くんは食べ物なにが好きなの?」

「鳥釜飯」

なぜか一同は大笑いしている。兄などは死ぬほど笑っている。なぜだか理由はどうしても分からない。

良秋が大きく成った頃、自転車がマリーの家の前を通った時、家に明かりは点いていなかった。何故か淋しい思いがした。まだ二人とも大学かも知れない。

さて、 話しは良秋が緑地より戻って来る所に戻るが、 自転車はやがてパチンコ屋の付近に止まった。良秋の父はパチンコ屋の景品を時々くれる。中にチョコレートが混ざっている時がある。それまで良秋の知っていたチョコレートは、彼にとっては極く普通のチョコレートの味であり、父のくれる新型のチョコレートは一段高いハイグレードな物だった。衝撃だった。やはり単純に美味しかった。時代も変わったものだと思う。

ぼおっと 交差点で信号待ちしてると、いきなり肩を掴まれた。前後に揺さぶられた。衝撃だった。

「小松原君!小松原君!」

一体何が起きたのか分からない。驚きの余り良秋は半分死にかけた。

「さっきから呼んでるのに・・・」

振り返ると同じクラスの高枝君がいた。

「ああ・・・(偉い力やなぁ)」

力のない声に高枝君は怪訝そうな顔をしている。

(だってこんな所でクラスメイトに会うなどと誰が思っている。しかもこちらは自転車だ。走ってる間は誰も呼び止めない。しかも相手が高枝君とは)

「呼んだのに聞こえなかった?」

怒られる始末だ。

「ここで何してるの?」

「・・・。緑地行った帰り」

「一人で?」

「いや、田中達と」

「緑地良く行くのん?」

「う~ん、たまに」

「田中君達と?」

「う~ん。一人で行く時もあるし、誰かと行く時もある」

「ふ~ん、一人で行く時もあるん」

(あれ?一人で行く時あったっけ。これから行くだろう。何だかわけが分からない)

「高枝君はこんな所で何してるん?」

「うち!あそこ、うち!」

またしても肩を引っ張られた。(見えるって!ッッッ)。高枝君は巨体なのだ。指さす方向に本当に高枝君のうちが見える。

「ああ、ほんと(そう言えば)」

ここは高枝君のテリトリー・縄張りなのか。こうやって彼は近辺、マーキングをしているのだ。鮎の友釣りを思い出す。

高枝君は鼻から太い息を吐いてご満悦である。(ほら見たことか)腕でも組んでいそうである。理は高枝君にありそうだ。

(そう言えば学年の始め1・2度お宅に寄せてもらったことがある。アレッ、幼稚園時だろか。そう言えばばどうして最近行かなくなったのだろう)

何か雰囲気でも、お互いに合わなくなったんだろうか。しばし沈黙が訪れる。

高枝君は何か魔法のバトンを振るような、得も言われぬ妙な柔らかい雰囲気で

「ところで小松原君、君はアイドルに興味がありますか?」

唐突に言った。

「??????アイドル??????・・・・・・人並みには興味があるかも、知れない」

「君は雑誌やマンガ本でアイドルの写真を切り抜いてスクラップしてる?僕はスクラップ・ブックにしている。もうかなり溜まって来ている」

「・・・あっ!そう言えば、アイドルで気に入ったもんだけはさみで切り抜いて、綺麗なビニールに入れて、綺麗なセロハンテープで止めて、一番大事な物入れる机の2段目の引き出しに大事そうに他の物何も入れずに5・6枚入れてるわ」

高枝君はさもありなんと(それでいいんだよ。それが当然なんだよ)と(うん)(うん)と声に出さずに頷いている。良秋は高枝君と自分の趣味が合ったことにビックリして(見透かされた!ああ)、超能力者でも見るようにーー大いなる違和感と多少の共感を感じてーーずっと彼のことをまともに見ることが出来ない。

「これからも頑張って下さい」

励まされた。

良秋は高枝君が離してくれたので自転車にまたがり家路についた。なぜ高枝君は丁寧口調なのだ。いつもあんなんだっただろうか?学校で話してる彼の姿を見たことがない。彼は無口なのだ。

結局、良秋と高枝君は接点がなかった。良秋は人並み位にしかアイドルは好きではなかった。良秋が高枝君を放ったらかしにしていたせいもあるが、良秋が喧嘩好きだったせいもあり、やがて避けられるようになった。そして、クラスも離れ離れになった。


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