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謎の番組

10

山中渓 司は叔父の虫山と海老原夫妻を送り届けると、車をそのまま飛ばし大阪池田の自宅に舞い戻った。

閑静な住宅街に大きく美しいうち。山中渓の車がガレージに入ると、いつものように愛娘の『瑠璃葉(るりは)』が玄関にお出迎えに来てくれた。ルリハはパパの首に抱きつく。

「パパ、お帰りなさい。日曜日なのに、お仕事お疲れ様」

ルリハはまだ小学校低学年生、学校でも中々評判の(パパとママに似た)美人さんだ。山中渓自慢の娘さんだ。

「あら、あなた、お帰りなさい」

キッチンから若く美しい妻が出てくる。妻の『(かすみ)』だ。唐突だが、その昔、芸能界でアイドルなる仕事をやっていた。それを、元、同級生の司が射止めた。司は裕福なうちに生まれ金に困ったことがない。その後も何やかんやと(金が)入ってくる。当然、ルリハも金に困ったことはない。ルリハにとってパパは何でも願い事を叶えてくれるヒーローなのだ。

「パパはね、ルリのためなら、どんなことでもしてあげるからね」

「ワー、パパ、うれしー。だったらね、みんなが持ってる『安物』のファンシーな小物が欲しいな」

「よしよし、買ってあげるよ」

「あなた、あんまり甘やかさないでちょうだい」

「パパ、おみやげは?」

「 ルリが喜ぶと思って『色田のシュークリーム』を買ってきたよ」

「・・・。これ、おっさんの食い物よ・・・」

「これ、ルリ!おっさんて!おっさんて!」

「おかしいなぁ・・・これ、龍くん好きなのに・・・」

ルリハ 「だれ?」

パパ 「いや〜あ、パパが小さかった時、近所の貧民窟の貧乏な男の子」

ルリハ 「大人ぶって、そいつ、うまい、うまいって食べてたんじゃないの」

パパ 「おっさんの食い物だからね」

パパ・ルリハ 「あっはっはっは!」

ママ 「シュークリームは子供の食い物よ。大人でも時々食べたくなって食べるのよ。それ見て、おっさんが食べてるからおっさんの食い物だなんて。全く逆よ。あら嫌だ、おっさんだなんて、ルリのが

移ったわ。あなた料理がもうすぐ出来ますからね。早くしてちょうだい」

ルリハ 「ママ、ズルイー」

「ルリハは?」

「ルリハはもう食べましたよ」

「ルリハ、シュークリーム今食べるかな?」

「ルリハはもう歯を洗いましたよ」

丸で絵に描いたような幸せ。絵に描いたような家庭。このような家庭が実際にあるのだろうか。

ルリハは両親の馴れ初めを何度も聞きたがった。それを聞いてどうするかという類いの話しではなく、何度も聞きたい自慢のタネなのである。

「ママは昔、アイドルやってたのよ」

「それからそれから」

「 万博跡地でイベントやってたのよ」

「知ってる。知ってる。それから」

「そしたら、パパがサイン会に並んでいたのよ」

「パパは、ママがパパに見とれて、パパの方、向いて歌ってたって」

「そんなことないわよ。アイドルというのは、あっち向いて歌い、そっち向いて歌い、愛想を振りまくもんよ。だからそういう振り付けなのよ」

「それからどうしたの?」

「パパのサインの順番が来て、『結婚して下さい』って言うから、気にも留めず流そうとしたら・・・

『俺俺』

(?ハテナって)

『中学校の時、同級生だった、山チャン。遠目の山チャン。・・・ほら、遠目に見ると、いい男に見えると言う・・・』

知らん。

そしたら、いきなり雨が降って・・・。コンロやテントの片付け終わった後も、物欲しそうに、立っているから、何だと思ったのよ・・・。そう言や、そんな奴もいたかな?って・・・。同級生だから仕方がないので、一生使わない方の電話番号だけ、親切で、教えて上げたのね」

「パパ、しぶとかったの?」

「しぶとかったのよお。それで、毎日電話かけてきて」

「ママはOKしたの?」

「OKするわけないでしょ。痩せても枯れてもアイドルですもん」

「ママは売れないアイドルだったんだよ。だから早く芸能界を切り上げて、とうがたつ前に、パパが引き取ろうと思ったんだよ」

「ママはやりたいことが一杯あったのよ。だから、そう簡単に収まるところに収まるわけにはいかなかったのよ。ママは新規な物を目指してたのよ」

「君は一体何を目標ってたのかね?まさか裏で何か!」

「裏って何?パパ」

「私は『蚊帳』を吊って、その中で新曲をパジャマで歌おうと思ってたのよ。名前も『魚野うろ子』かなんかに変えて」

「それ絶対駄目だったよ、君ィ~」

「ねえ、裏って何?ママ」

「僕はてっきり・・・」

「ハイ、ハイ、お喋りは終わり・・・。ルリ早くお風呂入って頂戴。アンタ、芸能界に憧れんじゃないわよ」

「そうだよ、ルリ~ィ。あそこはベトナムの最前線の黒人部隊よりも非道い所だからね」

「まだお話しして、いいでしょ」

「アンタ、明日から、学校でしょ。折角いい学校入ってんだから、元取って頂戴。時間割り合わせたの?自分で合わせないと痴漢にお尻撫でられるわよ」

不服なルリハは口を唐辛子で腫れた唇みたいに尖らして、ぶつくさ風呂に入った。

ルリハに聞こえなくなると

「君があのまま売れなければ、ヌードにされるか、された奴を出してこられるのが落ちだと思ったんだ。アイドルってのはみんな芸能界に入る時に暗黙の了解というのか、ーーってのが有るんだろ?」

「どこの三流週刊誌よ。手付けヌードみたいな物撮ってないわよ」

「別にヌードが悪いと言っているわけじゃない。僕は君がいつまでもダラダラ引きずって芸能界の餌食(又は金魚の糞)になるのが堪らなかったんだ。ところが、どうだ!『大先生(おおせんせい)』の名前出した途端『イッパッチャ!(=一発や)』」

霞は「自分の意志で」芸能界を辞める決心がついた。

ルリハはお風呂場からチョコっと顔を出して

「パパ・ママ、ルリが大人に成ったら続きを教えてね」

霞は続きも最初も全部知りたいと思った。何度やっても駄目だが今回も聞いてみた。司が、いつ「大先生」や「若先生」と知り合ったのか。

司は言う。

「あるテレビ局のディレクターが新婚旅行で外国へ行った時、海岸でジュースを買いに離れた隙、現地の男だろう、カミさんを口説いていた。電光石火の早業だった。そんでもって、この世にはこんな馬鹿もいるもんだと思って、こんな番組を思いついた。『天下の英雄・君と僕』。(何処かで聞いた風なタイトルだが)。この番組は世の中にある馬鹿を出来るだけ集めようとしたんだ。自分が前世で英雄や偉人の生まれ変わりだと信じている馬鹿を集めるんだ。そこで戦わせて世界一の馬鹿を競わせる。僕はそれに出て全国大会で優勝したんだ。司会者は『君、殊勲に何を欲するや』と聞く。そこで『我、今回は、英雄を補佐する側に回りたし』と答ふ。『・・・』。それで、大先生を紹介されたんだ。大先生は『君はまだ若い。どうか息子を補佐してやって欲しい』。感動・・・」

いつもこの馬鹿話しが返ってくる。霞はこんな番組聞いたことがない。国事の事だからこれ以上聞くのも何だと、控えてしまう。しかし、亭主は私に何か隠しているのかも知れない・・・


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