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直政いじめられる。

直政と彼の上司である「虫山」とは本来気が合っていたわけではない。何処か合わない取り合わせだと思っていた。それでも、お互いにトラブルを避け、上手くやって来たつもりであった。しかし、何処かで事態は進行して、ある時、何かのバランスが崩れ、偶発的に見える出来事になったと思われる。偶発的に見えるのは表向きだけで、虫山の場合、意図的・意識的・意志的であろう。驚いたことに、子供でもあるまいに、直政は『虫山教授』の「イジメ」の罠の中に捕らえられている自分を発見した。

何故なのか、原因は特定できない。しかし、全くと言っていいほど思い当たる節がないわけでもない。

先日、マリーの元に「地質調査」の話しがやって来た。マリーの専攻は鉱物学である。少し専門が違う気もするが、マリーも地質はみれないわけではない。直政の専攻は物理である。直政も地質調査を行ったことがある。この手の持ち回りは名誉な物と考えられているのかもしれない。直政はマリーの一本気な性格を考え、大いに不安になっていた。

マリーは出掛けて行った。度を過ぎた「接待」の連続でも、マリーは料理に箸一本つけなかったそうである。順調にいっていたに思われた調査が風雲急を告げた。活断層かもしれない地層が発見されたのである。団長・副団長以下のえらいさんは構成員を一人ずつ特殊な方法で懐柔していったが、マリー一人は折れなかった。

「地層の上にたかが田舎のスーパー一軒建てるのに、断層も何もないだろう」

マリーは辞表を提出し、大阪に帰って来た。国際問題を恐れるの余り、委員会はマリーよりもその亭主である直政を標的に定めたかどうかは、定かでない。

さて、虫山は年老いている。この人間の小さな男には、一人「甥っ子」がいる。甥っ子のコネを利用しようとしている。甥っ子は同じ大学に勤務している。名前を『山中渓司(やまなかだにつかさ)』と言う。「政治学」の非常勤講師である。まだ歳は若い。馬鹿の一つ覚えのように言われるアレ、新進気鋭の何トカと言う奴である。多少性格に下卑た卑しい所もあるが、一応ハンサムで女生徒受けもいい。さて、この男の恐ろしい所は色々あるが、さる大物政治家と昵懇な所である。その政治家の二世が、これから政界に打って出ようという時に「勉強会」を立ち上げた。山中渓はこのような会の会員だった。人間、何か物欲しい所がなければ、このような会に入るだろうか?このような会が全ていかがわしいと言っているのではない。この会がインチキ臭いと言ってるのだ。この会の中心課題は「憲法改正」。たかが、1970年代で・・・。毎度、この会は反対者をゲストに招き、晒し者にし、吊し上げた。「虫山叔父」もこの会に招かれたことがある。そこで、晒し者を十分観察した。山中渓はここでは有能なスタッフなのである。

山中渓も二世もともに「ボンボン」であるが、二世はつまらない人間であるが、山中渓には見るべきものがあった。それだけに残念である。二世はいずれ総理確実と言われていた。これらの人間はわれわれとは心の内容が違うと思われる。

金と欲の世界に飛び込んだ山中渓は以前、自分が下調べしてきたことを、ペラペラと喋った。二世はそれを機嫌よく聞いていたのであるが、一つ注文をつけた。それは、それだけでも十分過激な内容だったのであるが、もう一つ飛び越えた内容にすべきだと言ったのである。山中渓は少し考えて・・・

「若先生がそうおっしゃるのであれば・・・」

魚心あれば、水心有り。個別的自衛権から集団的自衛権に踏み出した、初めての一歩である。山中渓は感激をもって語る。しかし、憲法改正、集団的自衛権は以前から、彼の持論である。だから彼は芝居してたのである。

「あいや~感激致しました。今から私は若先生の発見された立場に飛び越えて行こうと思います。流石は若先生。お見逸れ致しました」

この恐ろしい勉強会は東京で行われているけれども、大阪でも行われている。虫山はこの会合に、今度直政を連れて行こうと考えた。一度狙った獲物は決して逃さない。虫山かまきりは蟷螂の斧で直政をズタズタに引き裂いてやろうと考えた。

そして、そういうわけで、直政は無理矢理虫山に連れて来られた。ホテルの会場に着くと、舞台の上ではけんけんがくがくと議論が繰り返され、その話しを聞かされた。舞台の中央で得意げに話しているのが、山中渓らしい。学内でも顔を合わせたことがない。初めて見る顔だ。どうでもいいが、今日は二世の若先生は休みらしい。

やがて舞台を変えてレセプションになった。山中渓が顔を下げてやって来た。

「叔父さん、お久し振りです。海老原助教授ですね。お噂はかねがね・・・」

社交辞令を言い、

「海老原先生、今日のわたしどもの議論は如何でしたでしょうか。是非一つ御教示願えませんでしようか」

周りは聞き耳を立てる。物理学の助教授に政治のことを聞いても分かるわけがないだろうと思うが、こんなものは思惑があるのに決まっている。

「いえ、わたしなどは門外漢ですし、これといって別に政治思想もありませんし・・・」

当たり障りのない受け答えをする。敵はあの手この手で攻めてくる。余計なことを言ってはいかん、と思っている直政に、酔いが回って来た。直政は品行の正しい男だけれども、酒には少し汚かった。

「わたしの政治に対する考え方は妻のそれと同様です」

周りは「おお!」っとどよめいた。

(それでは、嫁ハンに聞こうではないか・・・)


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