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風の便り•終章

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夏も近いある日、マリーの元に一通の電報が届いた。

《母死ス》

マリーは家の中で、紙を握り締めたまま、ずっと立ち尽くしていた。見えない左の目から、涙が流れた。

父が死んだ時、母はマリーの病気を(おもんぱか)り、スイスでの葬式には呼ばず、直接日本へ会いに来た。母はマリーを優しく抱き締めてやった。今度はその母が死んだ。マリーは天涯孤独と成った。ブレネリは以後、姿を現す事は無かった。

「地元の友人よりも、隣の友人」

本当で、「義を見て為ざるは」の岡山の善さんは、マリーの一番の保護者に成った。

岡山の幡随院長兵衛ばんずいいんちょうべえ、岡山の善さんは(堅気)、高校時代、高校野球をやっていた。

「お若け〜の、お待ちなすえ〜」

その伝手(つて)もあって、友人は岡山よりも、野球強国広島に多い。この家も広島の伝手で買った物である。

これ以後、マリーは何かを決したように動き始める。

マリーは毎日生駒山に出掛けるように成る。

何をしているのか?多分鉱物の物色でもしていると、人は言うのであろう。マリーは近所のガキから『キュラー夫人』とあだ名され、「気違い発明家」だと思われている。実は鉱物学者である。生駒如き浅き山に、発明の材料は転がってないだろ。では、何をしているのであろうか?又誰かが言うように、人生最後の趣味の蒐集であろうか?

大阪と奈良の県境に、暗峠(くらがりとうげ)と言う所がある。近鉄奈良線の『枚岡(ひらおか)駅』で下りて、生駒山地を登って行く峠道になる。この道は綺麗に舗装されていて、峠の一歩手前で、三方に分かれている。北は生駒山山頂。東は奈良盆地。南は大阪府民の森、鳴川(なるかわ)園地。

大阪府民の森・鳴川園地は、ハイキング・コースの休憩所。暗峠頂上から生駒稜線を縫う信貴生駒スカイラインにすぐ出て、南にチョボっと行くと鳴川園地の裏口。最短コースである。裏口は藪の繁みを掻き分け、と成ってございます。園地は綺麗なトイレ、白木のテーブル、ベンチ等が設えてあり、平らな場所で、球が転がっても止まりそうである。綺麗に頭を刈り揃えられた四角いアフロの植え込みが、迷路のように面白く成っている。清潔で掃き清められた園地は、夕方近く成って来ると、光線の影響で清涼感を与える。マリーのお気に入りの場所である。良くマリーは、人っ子一人いない平日、自然の中、宙に浮いた座標点を、一人楽しんでいた。

鳴川府民の森中に大原山山頂がある。この辺では、社長・生駒山に対する、支店長である。西に下ると、旗立山(はたたてやま)に至る。

『枚岡駅』の一つ大阪寄り・南西に『瓢箪山(ひょうたんやま)駅』と言うのがある。瓢箪山と言うのは、『瓢箪山駅』近くの古墳の名前の事だそうであるが、『瓢箪山駅』から登って行くハイキング・コースは、大阪でも非常に親しまれたコースと言わねばなるまい。非常に手頃、便利な『らくらく登山道』が付いている。車でも登って行けるよう舗装されている。中々たおやかな道で、近くの部活のトレーニングにも活用されている。

『瓢箪山駅』近くのこの辺りの山は、古墳の瓢箪山と名前がゴッチャに成っている。その結果、瓢箪山はこの辺りの山・大原山や旗立山等を漠然と指す物として、一般名詞化されている模様だ。

そして、その『らくらく登山道』の中腹には、木組みで作ったジャングルジムの展望台『展望休憩所』がある。足下に、美しくもない大阪平野を美しく見下ろせる。

この日、マリーは生駒の山中を巡り、鳴川府民の森でお手製の昼食を摂っていた。一人ベンチに腰掛けていると、風が涼しく成って来た。薄オレンジの夕陽が傾き、垣根の足下に黒い影が、浸入して来そうな気がする。マリーはやれやれと重い腰を上げ、足を引き摺って、麓の街まで下りて行く。山の日の暮れは早い。頂上は昼でも、麓は夜だ。途中で道を失う。

細道を抜け、『らくらく登山道』の出口である山門に到達する。山門は夕陽で強烈に赤黒く染まっていた。影は色濃く、やがて全てを浸蝕して行く。

『展望休憩所』まで到達した。山の下、既に灯りが灯っている。一斉に灯った星の宇宙に涙が(こぼ)れた。

「わたしは誰なんだ?誰か家族がいた筈だ。

ーーわたしの故郷は確かヨーロッパで、わたしは王女でもあり、科学者でもあった。

ーー沢山の家来にかしずかれ、何不自由のない生活・・・身内には大いなる使命感と情熱・・・

急がねばならぬ。急がねばならぬだろう」

大急ぎで山を下り、民家を縫って小走り、駅前のアーケードの商店街を潜り抜け、電車に飛び乗ると、あっと言う間に内に舞い戻った。

何人かの人が待ち受けていた。

「海老原マリーさん、われわれはあなたがお帰りに成られるのを、お待ちしていました。

あなたはご主人を亡くされ大変ご苦労されました。

多くの人達が心配され、わたし達を寄越したのです。

ーーーーーー

今度行く所は大変親切で良い所です」

その後、風の便りで、マリーがやがて亡くなった事が報らされた。


それ以後

良秋は精神的懊悩から引き篭もりになった。スピーカーは今回動かなかった。良秋の反対勢力四天王が暗躍した。新たな敵の出現。誰それがどうしたの、こうしたの、取材して広めて歩く。村八分にする。鶴見や緑はそう言った所。彼は非暴力者に成った。面白いとは思うが、打ち上げた感は否めない。理想は素晴らしいが、現実に合わない。普通の生き方をして貰いたい。神様がいつか自分を救いに来てくれると神懸かっている。永遠に救いは訪れないだろう。ガンジーのように積極的非暴力主義者でないのが残念だ。

不破は野球を早々と引退し、政界入りを目論んでいる。


某日、テレビで選挙番組をやっていた。某候補者が当選したらしい。

「え〜、それでは、今回見事、初当選を果たされました、政界の若きホープ、次世代の星、お父さんは元大臣、『政界のハンマー・ヘッド・シャーク』こと撞木(しゅもく)候補です。候補お目出度うございます。今のご感想は?」

「有り難う御座います。これもひとえに国民の皆・皆さま方のおかげです。えっ?今何だって?人喰い鮫なんて、止めてくれんかねー」

「候補、末は総理か大臣ですね」

「あはは、まだまだ、とてもおこがましいです」

「候補の政策は、憲法改正、アメリカと共に戦争でしたね」

「何処からそんなデマを?いやいや、私は平和主義者ですよ」

「果ては、核兵器ですか?」

「キミ〜、さっきから何を言っとるんかね?何の権利があって?一寸放送を止めてくれんかね。キミ名前は?何処の局?何てアナウンサー?」

「先生の政策を知ってもらうのにいい機会だと思いましてー。良かれと思いましてー」

「馬鹿かね、キミは〜。さっ、早く放送を止めてくれと言っとるだろがー。カメラを止めろ」

「アヘってるから気付かないと思ってたのに」

「・・・。お前、何処の回しもんだ?」

「被曝者の回しもんですけど」

「カメラを止めろと言っとるだろが!この馬鹿もんが!」

《それではそちらに、マイクをお返しします》

「よし、カメラは止まったな。SP!、SP!(首を)ふん!」

アナウンサー「すいません。遅れました。緊張の余り大が止まらなくてー。もう始まってるのか?早いなー。それでは、今度見事当確いたしました、撞木鮫です」

「裏へ連れて行けと言っとるだろが、この馬鹿SP」

「こいつ、動かなくて」

「当たり前だろが。この役立たず。

お前、不破って奴の差し金か?はたまた通りすがりの酔っ払いか?解った。革命家だな。危険分子は処分しないとな。ホレホレ。身元を全部調査、調べ上げて、一生干してやるからな。覚悟しておけ」

「二世だから気付かないと思ってたのに・・・(親の七光り・バカァ?八百長選挙?)」

「ホラ、少し動きましたよ」

「お前はクビだ!お前はクビだ!お前はクビだ!」

「あっ!今蹴った!殴った!見て!見て!見て!暴力!暴力!堪えてつかあさい」

「殴ってない。蹴ってない。裏へ連れて行けと言っとるだろが!山中渓のせいでバカばっかだ」

「あっ、御前様、大変です。カメラ回ってますよ。一応ピース」

「お前らみんな魚のエサにしてやるからなーーーっ!(虚空に響いた。・・・・・・アッ)」

一寸アヘったか?

「目が離れてる」

アナウンサー「そっ、そしたら、小田原のカマボコにしてくっ、喰うんかい?一応、ツッコんどいた」

テレビの前で、山中渓は涙を流していた。

「若先生、ご立派に成られて」

戦後、眠っていた妖怪が、又ゾロむくむくと頭を(もた)げ始めた。





終章


ある日の事、瓢箪山の麓にある、ある内で、少女が庭で変わった石を見付けた。

不思議な石で、どの図鑑にも載っていなかった。光に(かざ)すと、中が透き通り、瓢箪山の夜景のようにキラキラと輝いた。

少女は喜んで、母に話すと、それをペンダントにし、見せびらかした。

少女は、所謂「不治の病」と言う奴で、入退院を繰り返していた。

ペンダントを着けてから暫くすると熱が出た。大汗を掻き、発作が起こり、息が出来なくなった。大急ぎで病院に運び込まれた。

幾度かこう言う事を繰り返す内、少女は段々良く成って行った。

ある晴れた日の事、少女は庭に出て、母親にこう言った。

「お母さん、わたし、今日とっても気分がいいの」


(完)


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