妹よ
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人の死は星の死に似ている。
巨星のように大変派手な一生を送り死ぬ人。矮性のようにひっそり亡くなる人。超新星のように迷惑に亡くなる人。中性子星のように得体の知れぬ人など。ブラック・ホールもいるだろう。
マリーは、例えば中性子星。いつの頃より、可笑しな電波を発し続け、今日に至っている。電波と呆けとは必ずしも同一ではない。目に視えない可笑しな電波が、可笑しな連中を引きつけたとも言えるかも知れない。呆ける前にしろ後にしろ。きっと迷惑に死んで、死んだ後も可笑しな物を残すに違いない。
マリーの呆けは遂に、次なる段階に突入してしまった。幻覚が視えるのである。
この間の事情に関しては、一応こう推測される。マリーは、余りにも孤独な時間が長過ぎたために、自分自身自らが、自分に語りかけるという現象が起きてしまっていた。これなら普通かも知れない。普通でないのは、語りかけられた人物が、一個の人格を持ち始めた事である。こう書くとすぐ、二重人格を連想されるだろうが、そうではない。完全に自分の体の外にいる、別の人格である。そういう例も二重人格にはあるのであろうが、そうではない。矢張りれっきとした幻覚である。最後には、幻覚は彼女の体に帰って行くのであろうが(星に帰って行くかも知れない)、体の外で良く出来た物なのであろうから、見事な芸術作品かも知れない。では、一体マリーは何を造り出したのであろうか?それは「妹」である。何と!マリーは妹を造り出したのである!
マリーは一人っ子で、子供の頃から淋しい想いをして来た。時には姉妹を欲しいと思った事もあったろう。だから、妹を造り出した。何も不思議はない。
もう間もなく「鶴見の花博」も近いある日、マリーは「妹が来るから」と言って、朝早くから用意を進めていた。一日中そわそわして落ち着きがなかった。だが、この日、妹は来なかった。
翌日もその又翌日もずっと来なかった。
「エサで釣る以外にない」
鶴見は祭りなのか?遥か遠くで祭り囃子の音が聞こえる。マリーは千里耳で、耳はいい方だ。囃子に合わせて踊りを踊る。
「こじゃんと。こじゃんと。モッチ、モチ〜。よい、よい、よい、よいっとぉ・・・・・・エンヤ・シャ・ヤッショイ(掛け声の一環)!」
何の祭りだ?
マリーは鶴見までわざわざ出向いて行き、和菓子屋で『くるみ餅』を仕入れて来た。『くるみ餅』とは、小豆の代わりに大豆を用いた『赤福餅』のパクリであって、大豆餡が柔らかにした普通の餅(何と!普通の餅!)をくるんでいる。色は胡桃色だ。鶴見の人は、祭りの日に、これをしっかり食う。伝統・しきたりとまでは言わないが、通例。大豆は小豆よりも安い。
鶴見の古老連が、仏壇によく上げるように、これを鉢に山盛り盛り、ちゃぶ台の中央にで〜んと据える。周りに苺の『ぺロティ・チョコ』をバラ撒きにして置く。撒き餌。後は仕上げを御覧じろ。
浮世絵に出て来るような、月夜風の晩。こうこうとした月。生暖かい風が緑地の葦を揺らしている。
夜更け過ぎ、風呂に入っていると、居間の所でどっかんと言う「対電波・マグナム・ミサイル」のような物凄い音が鳴った。単に軽微な地震が起きたに過ぎぬ。行って視ると天井に大穴が開いている。の割りには、回りは焦げてない。幻覚か、ホログラムの類かも知れない。故郷の星・キュラー星が君になら視れるだろう。明日には塞がっているだろう。残響が静寂に残っている。回りが単に起き始めたに過ぎぬが。
綺麗な錦のお座布には、一人の童女と思しき座敷童子が、こちらを背にエサにガッツいている。拭いた畳の匂いが新しい。エサにかかったようだ。童女の出で立ちはと、十八世紀はさしずめフランスのロココ調と言った所で、最後のフランス人形と言った所か。勝手にテレビを点けて、深夜アニメを視ている(この時代、深夜アニメがあったかどうか定かでない)。
マリー(こんな夜中に不吉な・・・)
童女「ボロ着てホッホ」
マリー(オッ、フクロウが鳴いている)
童女「三波春夫でございます」
マリー(オッ、三波春夫も鳴いているでございます)
童女「キャヤロが鳴くんで、馬ズゥ〜ラ〜カ〜?」
マリー(馬ズラも鳴いている。可笑しい。さっぱりパカラン。・・・・・・何か変だ?こんな夜中に・・・・・・子供が、「午前の」挨拶も、碌スッポ出来ないなんて!何か変だ)
童女「ゴザヨウ・おはいます」
マリー「エンヤ・シャ・ヤッショイ!
(・・・・・・。矢っ張り変だ)」
見ると、くるみ餅が思いっ切り食い散らかされている。それで、思いっ切り飛び散っている。しかも、大量残っている。丸で狸か何か、食い散らかした後みたいだ。
(狐狸の類かも知れない)
爪楊枝で「シーー・ハーー。シーー・ハーー」やっている。終わったらポイと器に投げ捨てた。
「コレコレ、後の人、使えんようになるで」
「人の使た楊枝、使うんけ?」
「わたしの言いたい事は、もう鉢を使えんように成ると言う事」
「そんなに楊枝が惜しいか?こんドケチババア!」
「どうやら大和心の節約の精神が解ってないようだな」
「矢ッ張り節約して楊枝を使うんやないけ、こんドケチババア!」
「使うのは鉢だ」
鉢なんて、入れ替えればいい。
童女は一応楊子を取り除いたみたいだ。
(解ってくれたか・・・。エライ子やなあ〜)
前に回って一度顔を確認すると、中々いじらしい顔をしている。
鼻クソをポリポリほじくっている。
童女「鼻クソをほじくるのが子供の仕事」
楊枝も使い出した。
童女「え〜、この辺に、楽隠居のキュラー・キュラ子さんは、御在宅中でしょーか?」
マリー「光衛門なら私ですが」
童女「コラテラル・ショック(身内として、巻き込まれたショックであろうか?不明)!余りの老いぼれさ加減に、垂れ流しの、下っ水、驚れーた、ホド・イーター!おっ!こまやし製薬・商品名」
マリー(驚れーた、のは、こっちだワン・フー)
虚を衝かれたとは一体この事か!この下品振り、只事ではない。これが真に本当の妹だろうか?コニチハ・コニチハ。
容姿は可愛ゲない事もない。どうやら妹は、幼い頃の容姿まんまで現れたらしい。多少疑問はあるが、そうと決まれば話は早い。
「遠路遥々大儀、御苦労であった。褒めてつかわそう。ゆるりと休まれよ。御自愛成されい。カンラ・カンラ」
「誰にゆうとんねん。こん陰気ババア」
マリーは至れり尽せりの面倒を看る。足を引っ張り、タライを持って来て、玄関で旅人さんの足を雑巾で洗う。「旅人さん、どっからきなすっただ?」。
どうして子供の姿で現れたか?妹の「メンタル・モデル」・「イデア・モデル」・「象徴としての・モデル」なのではあるまいか?妹の理想形。妹かくあるべし。
矢張りこの妹、兎角口が悪い。口汚く罵る。ヤレ、ウインナー・コーヒーだとか、ヤレ、足が痺れたマッサージせよとか、何も無い部屋だな、オイ、だとか、バアさん、若い男はいないのか?などと・・・。
「バアさんもそろそろ、若いツバメが欲しく成って来る頃だろーてよ。イチ・持つ・ローのフリコ(関係各位には、大変お詫び申し上げたい。何せ子供の言う事なので)」
マリーは呆れ果て
「一体どんなハイジが来ると思いきや、とんだ『ビッチ』が来たもんだな・・・」
「お前はハジや(中央恥辱隊(地溝帯)・ど真ん中ストレート)」
つかみ合ってると
「何か、隣が騒々しいな」
隣の岡山の善さんが、流石に気にし始める。
「ビッチ、ビッチ、ホレ、いじめてやる」
ツーンと、ほっぺを思いっ切り、つまみひねり上げてやると(暴力使用)
「死でまう。人殺ひ!」
唾を吐き懸けてくる。
気のせいか、その辺の物が溶けかけた。
「婆は保険かけてないから、やっても無駄だぞ」
「無視」
「そーか、遺産やらんぞ」
睨め付け合う。
ついに差しの勝負。
「ビッチ、ビッチ、うるせえんだよ。『ゲームセンター嵐』みたいな顔しやがって。先き攻め。先ずは定番」
「お前だって、『忍空』みたいな顔してるじゃねえか。後攻め。返し」
「おおっ!どんな顔じゃ?ダメージでけえゾ。おお〜・・・。お前の顔は、『負けん気』の男の顔。まあ、何ちゅう顔じゃな。勝てる気が丸でせんわ。『負けん気』と言うより『勝てん気』じゃな」
「お前の名前は、『しののの・ののの・のののめ・ホウキ』じゃっ。まっ、何ちゅう名前じゃな。訳がパカラン」
「お前の名前は、『西山天王山』じゃっ。この名前だけで地元では、子供に大うけ。どや〜、も〜ボチボチネタ切れだろ?」
「お前の悪そうな顔は、『小松方正』と『小池朝雄』と『三つ首塔』を足して2で割った、お井戸じゃ」
〈「史郎、わしを捨てないでくれ(テレビ・『三つ首塔』より)!〉
「オイド。オイド。お前の腹は、吉野川の激流に干してある、○ッチャイ、四番サムライフンドシ。三億。三億。ゲロみたいな餅食わせやがって」
「お前の便所は、『キイ・キュララ駅』の汲み取り便所。頭から突っ込め(和歌山の各駅停車の駅はみんな汲み取り便所)」
「中々言うように成った、姉よ」
「お前もな、妹よ」
「マリー」
「JR何とかしろ」
「マリー」
「ブレネリ」
「アーッハ、ハッハッハッハ!」
「アーッハ、ハッハッハッハ!」
手を取り合って踊る。
曲は『♩おお ブレネリ』。※ 著作権の関係上歌詞は掲載出来ません。
マリーは左手の甲を腰に当て、右手を前に出突き出し、伸ばした指先は毒蛇の舌のように、小刻みに揺れている。足取り軽くスキップ。前に行ったり、後ろに戻ったり。
唄い終えるとマリーは
「あ〜跳ビヤス・跳ビヤス(トビヤス=ハイジの父)。アーッハ、ハッハッハッハ!アーッハ、ハッハッハッハ!」
中を覗いた善さん夫婦は
「「断層オールナイト・発作マグナ(ついに気まで狂ったか!踊りなんて踊りやがって。夜中に、地震は起きるわ・・・)」」
「まあ、お父さん、ベタな」
「母さんこそ」
「ゴラン高原をごらん」
「母さん、ホレ」
「まあ、嫌ですよ、お父さん、イヤ・イヤ」
「アーッハ、ハッハッハッハ!」
「オーッホ、ホッホッホッホ!」
「ムッ・・・何やら外が騒々しいな?弟か?姉か?」
「マリー、ワイ喉乾いた」
「あ、そーか、子供ドラゴン(=コモド・ドラゴン=怪獣=ビッチ=ブレネリ)に、水か酢やるの忘れてた」
子供が出来て良かったね。
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