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幽霊屋敷5

23


竹河君がアニメを観に帰ってしまった後、幽霊屋敷の庭では「物まね大会」が始まっていた。

スピーカー「たけしが慕っちゃって。慕っちゃって。巨泉」

(物まね評論家)清水君「・・・」

スピーカー「で~斎藤で~。巨人の斎藤で~。巨人の斎藤」

清水「・・・」

スピーカー「僕のカーワックスこれだね。徳大寺有恒」

清水「・・・」

この時、幽霊屋敷から出て来るべら本の影が、スピーカーの目にちらりと入った。(きびす)を返そうとすると、脱兎の如く追い付いて来て

「スピーカー、お前、今帰ろろうとしてたやろ」

「してへんわ」

「嘘吐け。視えたわ」

スピーカー「・・・。なちゅかな(なんちゅうかな)。なちゅかな」

べら本「南沙織」

スピーカー「えしかし~。えしかし~ィ」

べら本「森田健作」

スピーカー「みや~その。みや~その」

べら本「田中角栄」

スピーカー「おーそれみい(棒読み)」

べら本「田谷力三(たやりきぞう)

清水君はほとんど感心して(←感心しなかった)

(流石大人達と付き合いのあるお二方、全然知らない古い物まねをよく知っていらっしゃる)

スピーカー達はそろりそろり帰ろうとする。

べら本

「待たんかい」

「・・・」

「なんで勝手に帰ろうとするねん」

スピーカーは「きおつけ」、立ち尽くす。

べら本

「もっと調べんかい。そんで、待たんかい」

スピーカー

「暗くて分からん」

べら

「懐中電灯持って来たやろ」

スピ

「持って来てない(嘘)」

べら

「お前が持って来い、ゆーたんやないけ」

スピ

(難儀なやっちゃの~ォ)

その後も何やかんやとガミガミ。

(ああ、堪らん。鼓膜がつんざく・・・)

物まねなどせずにとっとと帰ればいいものを、スピーカーはトロい。スピーカーはいざという時に成って、決断が遅いのでーー色白で、男前ではないが高貴な顔立ちのゆえにーー家族からは「グズ麿」と呼ばれていた。

「それで、キュラー夫人はおったんかい?」

「チッ、おれへんわ」

「ほな、おるまで待てよ」

「ハア~?今日は()ーへんわ」

「何でケーヘンて分かるんや。お前は予言者か?お前が『来る』ゆーからみんな、来たんやないけ」

「常ー識で分かるやろ、ほんなもん。ほれよっか、物干しはあったんかい?」

「・・・」

「建物の外に物干しはあったんかい?訊いとんねん」

「・・・」

「ほなら、建物の中には物干しはあったんかい?」

「・・・。何で物干しやねん」

「ほな、バルコニーならあったんかい?」

「言ってる意味が分からん」

「分かるやろ」

「分からん」

「鈍いやっちゃのォ~」

「鈍いのはお前や」

「(こっそり耳元で囁くように大きな声で)ベランダはあったんかい?」

「うっさいわ!」

みんなドット笑う。

「ベランダはあったんかい?気に成るノオ」

「男の喋りはみっともない」

「ほなら、建物の裏になら、ベランダはあったんかい?」

「黙れ!喋り!このお喋り男。喋り懐中電灯」

「テラスなら・・・」

「うっさい!喋るな!喋り!スピーカー!騒音!口先男!口丈男!金輪際永遠に喋るな!」

「べ~ら・べら・べら・べ~ら・べら。べ~ら・べら・べら・べ~ら・べら。も一つおまけに、べ~ら・べら」

「やかまし。べらべら喋るな」

「べらべら喋らんでどうやってコミュニケーションとるんや?」

「お前さっき、帰ろうとしてたやろ。視たゾ」

「してへんわ。しつこいの~」

「してたわ。動きで分かる」

「動いてへんわ。細かいの~。神経質やの~。潜在意識の奥でそう思ったから、そう思い違いしたんや」

「お前リーダーのくせに何で帰るんや。リーダーやったら義務果たせよ。こんじょなし」

「あほか、タイム・オーバーや。それに、オレにはリーダーとしての、べ~ら・べら、みんなを、あべ~ら・べら、無事連れて帰る、べ~ら・べら、義務がある。あっ・べら・べら」

「ほんまうっさいわ。色が白くて、こんじょなし、よ~吠える。スピッツやな。こんじょなしは今日からスピーカーやなくてスピッツな。スピッツほんまよ~喋るで~」

「お~い、みんな~、ベランダは根性があるからキュラー夫人が来るまで、最後まで残るそうや。よかったノオみんな。来たかどうか、明日報告してくれな。ほな、バイなら」

「お前何ゆうとんねん。みんな連れて帰るんやったらオレも連れて帰れ。これが辻褄の合った理屈やろ。後、オレに命令口調で話すな。べら本君一緒に帰っていただけませんか?言え」

「あほ言え。お手々繋いで一緒にお帰りですか~?あほ言え。甘えるな。獅子は我が子を千尋の谷底にはたき落とすと言う。以前からお前は見所のあるやっちゃな~と思っていたから、涙を飲んで残すんや。辛いんやで~。オレの親心が何で分からん。泣いてるんやで~、心の中で。お父ちゃんはな~、コラッ!厳しい試練を、与えてやっとるんや~。感謝せい!因みに坂本龍馬先生は倒れる時も前のめり。溝の中でも前のめり。死ぬ時も前のめり。どんな時でも前のめり。倒れる時は前のめりに倒れたいものですなぁ~・・・。男というものは~・・・。ほんで、鉢の木の話しやけど、昔ハゲの坊主が旅に出て・・・。(以上『巨人の星』か『タイガーマスク』かのパクリ)」

スピーカー達はじりじりと後退して出口を固めにかかる。

劣勢。べら本も流石にこれはヤバいなと思った。冷汗は出なかった。意外に冷静。さて、どうする?

この時、べら本は「孤独」というものを「抽象的」に考えたか?凡そ人間で、人事のように孤独を抽象的に考える人間など、果たしているのであろうか?ましてや子供で・・・。

自分という者は孤独という物が全く分からない。人から聞いた概念を基に、総合判断して、これが孤独という物か?あれが孤独という物か?自分が今置かれている立場が孤独という物か?などという人が果たしているのだろうか?感情のないロボットや独裁者でもあるまいに。

だが、今のべら本は一歩これに近かった。昔のべら本はこうは違った。もっと柔らかな部分があった。成長するに連れ「大人度」・「クソがき度」が増し、「冷酷さ度」が増した。「オレだって孤独は感じるサ」。しかし、これを社会の忌み嫌う、負け犬の妄言として棄て去り、行動することが出来るように成ったのである。

今、自分は世間のビリとして、ゴミ出しのゴミとして棄てられようとしている。自分程の人間が、何という失態。小松ならいいだろう。未来実際そう成りそうだから。とても将来、物に成りそうもないから。体が寒くて心細くて肩・胸が狭いような感覚。多少の痛みは感じる。成る程、これが孤独という奴か。社会の底辺の感情だな。負け犬の象徴。何とかこれを厄介払いしなければならない。考えろ。

その時、スピーカーが遠目にべら本の背後をチラ見したのを、素早いべら本は見逃さなかった。ふらふらと良秋が幽霊屋敷より出て来た。苦笑いが出る。奴はオレより背後にいる。べら本は「ビリで社会から取り残されるという孤独」を、良秋に取って投げつけて遣ろうと思った。

ここからが、べら本の真骨頂である。

(べら本ひろし十一歳・男。尊敬する人はベラスケス。好きな物真似は仮面『ベ』ライダー。世界中のPTAの敵、べら本ひろし参上!

恐るべきスピードの源は、冴え渡る頭脳、誇れる運動神経、しなやかな細身の体、身のこなし、尊敬さるべき反射神経、リズム感、強靭な折れない心、そして、何よりも天才的と自負して止まない勘である。

許すわん。ベ・ライダー変身トオー!)

笑いがこみ上げて来る。

(思い出した。読んだ探偵小説に似たような場面があったっけ・・・。フフ・・)

「ベラモートォー!ベラモートォー!ベラ・モット~ォオオオ!」

べら本鳥は三度啼いた。三度目は何故か声がかすれていた。

べら本ひろしはこのべら本・記念碑的名前を、1秒間に2度、心中唱える事が出来ると豪語する。凄い頭の冴えだ!

スピーカー(あほが・・・)

やにわに、スピーカーを追い越すや

「シーッ、・・・。誰か来る。警備員だ。逃げろ」

凄まじい勢いで、辺りを蹴り飛ばし、鎖をかい潜って、べら本一人、逃げた。スピーカー達も必死で後へ続く。

良秋一人取り残される。オタオタと屁っ放り腰で、良秋も急ぎ始める。

と、良秋の頬にスラーッと風が擦れ違った。気がした。風の囁きで「来テヤッタゾーッ・・・ヤッタゾーッ・・・ッタゾーッ・・・ゾー」。聞こえた。気がした。

今度は上からも声がする。

「おい、来てやったゾ」

マリーの声に似ている。

いよいよギョッとして振り返ると幽霊屋敷の二階の窓に影が動いた・・・気がした。

「おい、おーい来てやった。来てやった、云うてるやろがー」

耳の中で空耳の声がする。

出入り口は一ヶ所。マリーがスピーカー達と擦れ違って入って来れる筈がない。

その時、屋敷の二階の窓からバルコニーに誰かが飛び降りる幻覚がした。飛び降りた人物はこちらを見て笑っている。その顔は・・・・・・・・・・・・薄暗がりで良く分からない。

良秋は全身からスーッと汗が引き、顔は蒼ざめ、ふぐりまで凍りついた。

物凄い顔で出入り口に駆け込むと、最後の一人森やんのでっかい尻が鎖につっかえているのが分かった。

「ドカンカ!コラア!」

思いっ切り蹴り上げた。

森やんはコルク栓のようにスポンと、前に飛び出しころころ転がった。。歩道の白いガードレールがなければ、危なかったかも知れない。前は、車がビュンビュン走ってる道路だ。〈天は、後日、良秋に、これに見合うだけの罰を与えた〉。

「小松が蹴った!小松が蹴った!」

森やんは大騒ぎだ。(ムムム、ムムムム・・・少し、漏れた・・・)。

良秋は「ヒヤーッ!」奇声を上げ、自転車を求めて、闇の中に消えて行った。

一同暫し、アッケにとられていたが、やがて我に帰り。

「ザワザワ」

「何や、誰もおらへんやないけ」

「自分の声と聞き違えしたんとちゃうか?」

その時、何処からともなく「カツーン」「カツーン」と音が、近付いて来るのが分かった。総勢耳を澄ましていると、何やらやって来る。

その男は、ほおの下駄、真ん丸眼鏡に真ん中分け、四角張った顔立ち、紅い法被(はっぴ)に紺のもんぺ、背中には桃太郎のような(のぼり)・・・みんなの前を走り去って行った。

みんなは口をポカーンと開けたまんま。

「何や、アレ?」

「さあ・・・?」

茜太郎(あかねたろう)と違うか」

「誰や?」

「四天王寺さんの今川焼きで有名な・・・」

「今川焼きが今何してんねん?」

「高校の文化祭の練習とちゃうか?」

帰りの途中のべら本の隣を、良秋の自転車がモーレツな勢いで追い抜いて行った。

「何や、アイツ」

家に着くなり良秋は頭から蒲団被り、プルプル震えていた。


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