幽霊屋敷3
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「ええか、初めて入った屋敷や、最初はグルッと回って様子を探るんや。
うちと言えば・・・森やんのうちは南住宅の側にあるのに、南住宅よりも貧乏やねん。
普通やったら、うちの家は昔っから鶴見にありますんで、貧乏住宅なんぞ入りません、ゆーのが普通やのに、実は貧乏住宅にも入れんやった。指くわえて見てた。
それから、森やん・・・」
みんな
「アハハ(もうやめてあげて)」
スピーカーは「口が病気」なだけで、「悪気はない」のである。よって、スピーカーの二番目に悪い所は「悪気はない」という所だ。
一同はスピーカーの後を付いて建物の周りを回った。これと言って何もなかった。庭の隅にピンクのコスモスが咲いている。風に揺れた。スピーカーは淋しげに建物を見上げ
「屋敷、屋敷、ゆーから、どんな屋敷?かと思たら、ただ単なる、ただのちっちゃい鉄筋やな」
みんなは「ふふふ」と笑う。みんなの中にも失望感は隠せない。「ちさー」みんなは「ただの鉄筋やな~」「鉄筋。鉄筋」と言う。
「あれはなんや?」
スピーカーは突然言う。
「どれ?」
指差す。
「玄関の上に張り出してる奴」
「あれ?・・・あれは、確か・・・バルコニーとちゃう?・・・庇にも似てるけど・・・この場合、バルコニーでええんちゃうか?」
「ベランダとちゃうか?」
スピーカー。
「あはは」
みんなは受ける。
「ベランダ。ベランダ」
「みんな聞いてくれ」
スピーカーは演説する。
「オレらは今、庭の周りをグルッと回って気が付いた。お化け屋敷、幽霊屋敷はオレらが思っていたもんより遥かに小っさい。オレらはもっと遥かに広い物を連想していた。ほんと只の鉄筋コンクリートと言った感じだ。庭も同様。狭く、これと言って隠れる障害物もない。こんな小さな所に、キュラー夫人が来るわけがない。これから後、少し様子を見た上で、引き上げるとしよ・・・」
「あのォ・・・」
その時、何時も帰りたがりの上村君が・・・
「あのオ・・・ボチボチ帰んないと母ちゃんに叱られるんですけど・・・。夕飯の前には帰って来ないとメシ食わせてくれへん」
「おお!上村君か。ワレワレは後少し探索をしてから、帰るとするから。君の意見を参考にして、少し帰還を早めるとしよう」
「?よく分からんけど、帰っていい?」
「おお!いいゾォ。
そう言えば・・・上村君・・・阪神のこと、なんだが・・・」
上村君
「なに・・・?阪神がどうかしたの?」
上村君は熱心な虎キチである。
「最近のタイガースはどうですか?」
上村君は阪神と聞いて目を輝かせ
「新庄の宿舎に毎晩ナゾの特上寿司が届いて・・・新庄は寿司が嫌いなんで、間違いもなく嫌がらせに違いない・・・(話長いので省略)・・・グラウンドに正座させられたんやで新庄。お茶とちゃぶ台持ってくれば寿司食べられたのに・・・(話が長いので省略)・・・人間て、人の不幸大好きやん。いつまでも弱いまんまの『ダメ虎』でいて欲しい」
上村君は帰って行った。
「アレ、巨人の日本シリーズ見に帰るんや」
「越後屋・・・」
「いい名前ってなんだろう(ポツリ)・・・」
竹河君は自分の名前で悩んでいた。自分の『竹河雅都』という源氏物語にでも出て来そうな雅な名前が気になってしょうがなかった。憂鬱に成って以来、竹河君は喪服のような黒い衣服ばかりを着て、機械化人間のように動きがぎこちなくてしょうがなかった。女生徒には最近緑に出来た『戦国・名古屋コーチン・みそラーメン・ひばり』よりマシだと慰められていた。「ガンバッ!」
「それは織田信長だろ」
スピーカーは即答である。
「なんで?」
森やんはあどけなく尋ねる。
森やんは顔は不細工だが誰からも愛される愛嬌者で、森やん可愛さ全開!
「白柄に朱鞘のような名前だ。天下を獲れる名前だ」
スピーカーの言うことはいつも適当だ。たまたま大人にでも聞いたものを、自分の手柄にでもしたのであろう。
悩みは解決しなかったようだ。
「それだけ聞きたかったんや・・・」
竹河君は帰って行った。
「アイツ何しに来たんだ・・・?」
「さあァ?」
「帰ってアニメ見るんや」
昼過ぎは過ぎて、みんなの背後を段々と夕焼けが忍び寄って来ている。みんなの腹はグウゥっと鳴る。カラスは鳴く。この季節、夕暮れは既に肌寒い。森やんはブルッと身震いしたまま身動きしない。口を開けたままバカ丸出しの格好で立っている。夕焼けに照らされて顔が赤黒い。空腹の余り、成長ホルモンが止まってしまったのかも知れない。あるいは、小便を我慢しているのかも知れない。みんなは里心が付いて早く帰りたがっていた。背後を見たことのない鳥が飛んで行く。
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