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巨人現る 1

15

日曜日の休日、山中渓 司は車を走らせていた。高速を降りて難波へ向かう。ホテルに車を入れチェック・インする。

それからホテルに閉じ籠り何もしない。ベッドの上で逆さまになり、壁に足を立て掛け、時々思い出したように「ヒヒヒ」と笑う。何をしてるでもない、彼の気晴らしらしい。こうでもしないと、精神の均衡を保っていられないらしい。

「アッハッハー」と最後に一笑いすると、ベッドの下から反応があった。鞄から無線機を取り出す。レシーバーを耳に当てる。「ちっ!」と舌打ちをする。

六月の昼下がり、ミナミの街をそぞろ歩く。地下街は早くもエア・コンがつけられ快適だ。山中渓は娘に買ってやる物を探しに店を覗き回る。ファンシーな縫いぐるみをニタついて触っていると、女子校生がヒソヒソ気持ち悪がっていた。

新鮮な空気を吸いに外へ出ると、たちまちブーブー音が鳴り響く。「ちっ!」。再び舌打ちをすると、建物の陰で今度はトランシーバーを取り出す。

庶民の日曜日の昼食、エビ・ピラフとレーコー(冷コーヒー)を喫茶店で食ってると、今度はポケベルが鳴り騒ぐ。山中渓はぶつくさ公衆電話をかけ大きく「ちっ!」と舌打ちをする。いい歳をして戦争ごっこか刑事ドラマか?

山中渓 司は苦虫を噛み潰し、ホテルに戻り、チェック・アウトを済ますと、車を回した。夕闇の青い、ラブ・ホテル街だ。

間もなくラブ・ホテル街より二人の女性が出てきた。まだ若い。

山中渓が車から降りて二人に近付くと、女達は気付いたらしい。吃驚している。やがて二人は青菜塩らしくうなだれ、山中渓のドウゾと開けたドアから後部座席に乗った。すると後から熊のような巨大な男が現れ乗ってくる。グイグイと多力で、女達を押しまくってる。女達は畏れおののいている。「バチン!」と大きな音を立ててドアが閉められた。「ちっ!」。山中渓は大舌打ちをする。

車は発進した。やがて

「社会見学もいいけど、あんまりやりすぎると頭が禿げるゾぉ」

何処かで聞いた風な台詞を吐く。大学の教え子達だろう。大男は腕組みをしたままそっぽを向いている。

「お父さんとお母さんには内緒にしといたげるからね」

いい先生だか悪い先生だか分からないようなことを言う。

教え子達をうちまで送り届けると、山中渓は手を振って見送った。

車に乗り、山中渓は高速に乗った。

「・・・・・・。

さてと。

お客さん、どちらまで?」

「おいあくま。折角教えてやったのに、集団的自衛権は、行使しないのか?」

「集団的自衛権はすぐに行使しなくてもいいんだよ」

「おいあくま。又、年寄りいじめてるそうじゃないか」

「人聞きの悪い。誰れもいじめてねえよ」

「おいあくま。マリーをいじめてるじゃねえか」

「さっきからあくま、あくまって、五月蝿い。誰れがあくまだ。一体何なんだ、お前は」

「マリーを解放しろ。自由にしてやれ」

「自由にしてやってるよ。あれしきの噂でどうにかなるもんじゃない。かえって平和を愛する良い人、と思われていいんじゃないか。それに、噂の出所は、私じゃないからな」

「平気で嘘を吐くな」

「それはそうと、お前、誰れの生まれ変わりだった?」

「トゥーレの王だ」

「アハハ誰れだそれ?」

「俺が知るか」

「お前は誰れだ?あくまか?」

「誰れがッ!弁慶だ」

「べんけ~ェ?アハハ、何で弁慶なんだ?前世では補佐する側では、なかったんだろお?辻褄が合わねえ。お前の馬鹿さ加減にはついてかれねえ。腹痛ェ。だから俺は決勝で、貴様に負けたんだ」

「妻にはそれでいいんだよ。

お前はトゥーレの王の生まれ変わりだから、王ということで、戦争をする。だから、自衛隊に入った。私は弁慶の生まれ変わりだから、主君を補佐する」

「やれやれ、又、戦争呼ばわりか。狡猾な猿め。戦争はそっちだろ。俺は改憲だが、個別的自衛権だ。戦争は常識的にしない。俺は理屈に合わないことは認められない。憲法の理屈に合わない部分は直す。俺は体力バカだから、自衛隊を選んだ。俺は自衛隊が憲法に則るよう、改憲を目指す。お前のように、外国に行って、人殺しをするなんて、絶対にしない」

「あいも変わんない甘ちゃんだなあ。ええかいな、ユナ・ステが全てなんだよ。ユ・ナ・ス・テ。我々はユナ・ステの意向によって動かされている。ユナ・ステの望む通りそれを行う。ユナ・ステの望む物をやる。言われる前に用意しておく。ユナ・ステを怒らせない。ユナ・ステに良い子ちゃんだとベタ褒めされる。ユナ・ステ万歳。ユナ・ステ最高。ユナ・ステ帝国に栄えあれ」

「いっつも、いっつも、ユナ・ステ、湯菜捨て、って、カップ焼きそばのお湯捨てみてえに、うるせーんだよ。お前・・・ほんとーは、アメリカ嫌いだろ。さては・・・お前・・・ウルトラだな。アメリカに最後までついてって、土壇場で裏切るタイプだろ」

「お前、何処で降りる気だ?」

「自衛隊に一番近い所」

関目(せきめ)か?」

「それは機動隊だろ」

山中渓はバック・ミラーをちら見した。

「偉い大荷物やなー。人でも撃ちに行くんか」

「釣竿だ」

「釣竿ォー?」

少し考えて

「釣竿かぁ・・・。

ほ~か、ほ~か、お前は(けん)が好きだからなあ。武士だからなあ。そんなに剣が好きか」

車はこれよりどんどん西に・・・曲がって行く。

「六甲山が見える」

車は長時間走った挙句、高速を降り、誰れも知らぬ波戸へと辿り着いた。倉庫が並ぶ比較的大きな波戸である。

「ほら、降りろ」

男は山中渓の言うまま素直に降りた。海の風が黒い磯臭い。

「不破~あ、自衛隊から一番程遠い場所で降ろしてやった。ここは『バナナ埠頭』と言ってな、鯖が釣れる。太刀魚が釣れる。存分に釣りを味わうといい。せいぜい木刀でも振って剣の修行をするといい。アッハッハ」

車は行ってしまった。

不破はしばらく風に吹かれていた。やがて懐ろバナナを取り出すとむしゃむしゃ食べ始めた。近くで釣りをしていた男が雰囲気に気付くと、隣りに雲つく男が仁王立ちしているので腰を抜かした。その威圧感たるや凄い。不破は背中に背たろうたカバーを抜くと野球のバットを取り出した。ブーン、ブーンと素振りをくれた。側にいる者は立っていられない。

「なんだ。なんだ」

人だかりが出来た。

その中の一人が

「あんた、もしかして・・・」


16


山中渓


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