君を育てる
自信なんて
なかったよ
だって
自分の面倒さえも
満足に見れない奴が
別の人格育てるなんて
ありえないって
でもね
君の父は
かたくなに願ってくれた
二人の間に
大切に積み上げてきたものが
新しい命に
繋がっていくことを
その誠実な熱量が
情けないわたしの背中を
そっと押してくれたんだ
この世に生を受けた君は
いつだって真っ直ぐに愛を呼んだね
全身全霊を震わせて
弾かれるように駆け寄って
ずしりと湿ったぬくもりを
この手に抱きしめるたび
苦しく失い続けてきた何かを
今度こそ確かに
埋めることができると
そんな予感に満たされた
正直に言おう
君を育てるのは
それでも
とても
辛かったよ
だってわたしは
ダメなんだ
他愛ない
子どもらしいワガママさえも
愛せなくて
許せなくて
そんな自分が
苦しくて
マイペースで
頑固な君を
諭してみたり
怒鳴ってみたり
どうしていいか
わからないまま
本当はいつも
怯えてたんだ
わたしのいびつさが
いつか君を
壊してしまうんじゃないかって
その不安は
あの日
現実のものになって
家中に響き渡る怒声
冷たく凍る空気
固く閉ざされたドア
行き場を求めた君の拳は
闇雲に壁を叩き
わたしは
息つく間もないほどに
怒りを振りかざし続けた
すっぽりと入りこんでしまった
暗く深いトンネル
果てがあるとも思えないまま
もがき続けた長い時間のあとで
いつしか
苦しむ君の姿は
あのころの自分と重なって
やっと
わかったんだ
わたしがどうしても
うまく愛せずにいたのは
君じゃなく
自分自身なのだと
駆け上る
果てしない螺旋は
くるりくるりと
軽やかに裏返りながら
小さな点へと繋がっていく
そうか
君は
わたしにそれを教えるために
生まれて来てくれたのか
凍えていた心が
熱く流れ落ちていく
深い闇に
差し込む光の放物線
置き去られていた欠落は
その軌跡と重なりながら
ひとつ
また
ひとつと
満たされていくのだね