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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第8話 大きな敵

「ふぅー。腹減ったな。そろそろ昼か」


 カメレオンを実験しながら倒すというなかなか面倒な作業を終えたところでふと思ったことを口に出す。


「ええ、そうですね。そろそろカルカへ戻りましょうか」


 俺の何気ないはずの一言にくすっと笑うとアドリアも賛同してくる。

 食い意地張ってるとか思われたりしたんだろうか。

 とりあえずカルカへ戻るとしようか。


「朝にプレイヤー経営の料理店を見かけたのでそこへ行ってみるとしましょうか」


「そんなのあったのか?軽くカルカを見て周った感じだと雑貨店みたいなのしかなかったんだが」


「そりゃあそうですよ。大通りにプレイヤー初の料理店なんて出したらご飯時にどうなるかは目に見えているでしょう。裏通りの人気のないところにあったのでそうそう混まないと思います」


 アドリアの言葉にそれもそうかと納得する。

 現時点でプレイヤー経営の料理店などほとんどないだろうから、飯時になればプレイヤーが超殺到して大混雑になるのは当然のことだ。

 ぶっちゃけると、NPC経営のレストランはあまり旨いわけではない。

 それがプレイヤー経営の料理店が繁盛するであろう理由でもあるし、人通りの少ない場所に作らざるを得ない理由でもある。

 まぁ存在が知られれば掲示板などで自然と人気になるだろう。

 そうなった時のためにも後続の料理人が頑張ってくれるといいな。


「それと、ご飯を食べ終わったら例の、防具を作れる生産者に案内しますね。リュウはとても強いですしゲーム攻略に貢献していただかないと」


「そりゃ有り難いが……ゲーム攻略ねぇ」


 俺の戦う理由は何なのだろうか。

 今俺がここにいるのも、俺の力でプレイヤーを救おうなどと大それたことを考えているわけではない。

 現実への未練があるから? ゲーム攻略に貢献したいから? どれも違う気がする。

 少なくとも昨日今日で狩りに来れる理由にはなる気がしない。

 戦いたくないならカルカでのんびりしていればいい。

 所詮俺一人いたところで攻略に差が出たりはしないだろう。


「戦う理由…か。」


 答えを出すには、もう少し悩む必要がありそうだった。







 のんびり行軍に変化が起きたのは、それから少し経ってからの事だった。


「待ってくれアドリア。――なんか来てる」」


 まず気づいたのは高い索敵能力を持つ俺だった。

 続いてアドリアが、同じものに気づいたのかピクリと身体を震わせる。


「でけぇのがこっちに来る。ヘビっぽいけどサイズが普通の奴の比じゃないな」


 音としては間違いなくヘビのそれだ。

 だが断続的に聞こえるその音は相手が途轍もないデカさであることを物語っている。


「こんなに強いモンスターが居るなんて……リュウ、具体的な大きさは分かりますか?」


「聞くまでもないみたいだぞ。もう、すぐそこに居る。サイズの分足はかなり速いな」


 そう言った瞬間、轟音と共にそいつが姿を現す。


 周囲の木々を薙ぎ払って現れたのは全身がオレンジ色の巨大なヘビだった。

 恐らくウワバミという奴だろう。

 大きさは直径2mはある。

 全身が見えていないため長さは不明。

 俺の聴覚範囲から真っすぐ向かってきていた時点で予想していたが、既にこちらを敵と認識しているようで太い鎌首をもたげ臨戦態勢に入っている。


「でっか……こんな奴倒せるのか……?」


「[強弱把握]無い方が気持ちがマシだったかも……」


 普通のゲームならまだしもこれはVRゲームだ。

 相手のでかさが如実に分かるためかなり怖い。

 が、逃げ出しても逃げ切れる気がしない以上やるしかないだろう。


「覚悟を決めろアドリア。もう見つかってるんだからうだうだ言って居られない」


「わ、分かりました。リュウがしばらく相手をお願いします。勝てなくてもせめて情報だけは集めたいので」


「……了解。でもいつまで保つかはわかんないからな。[威圧(オーラ)]も効きそうにないし、なるべくすぐ援護頼む」


「分かりました。少しの間お願いしますね」


 そう言ってアドリアは姿を消す。

 俺の仕事は少なくとも、アドリアが調査を終えるまでヘビを抑えることだ。

 音でアドリアがヘビの横をすり抜けて後方へ周ろうとしているのを把握し――。


「きゃあ!」


「なっ!?」


 普通に見えているかのように薙ぎ払われた尻尾を躱せずアドリアが吹き飛ぶ。

 視界に表示されているPTのHPゲージ、アドリアのそれがごっそりと6割程削れた。


「隠蔽も、効果なしですか……」


 アドリアのスキルにどれほどの効果があるのかは分からないが、このウワバミはどうみても格上。

 今までのヘビがなんとかなっていたのだとしても、この敵に隠密は効かないということか。


「くそっ!」


 悪態を吐き、追撃を受けようとしていたアドリアの前に躍り出て尻尾による攻撃を[放撃]で受ける。

 それでもHPが2割削れるのを見て、思わず顔が引きつった。

 この力量差では敗北は必至だろう。

 アドリアの[隠密行動]も効かないとあっては情報収集もままならない。


「でも、やるしかないよな」


 アドリアに手を貸しながら、自分に言い聞かせるように呟く。

 俺はともかくアドリアは一撃でも食らえばHPが全損するだろう。

 俺も既に[放撃]を使った以上、ディレイが過ぎるまではすべて躱すしかない。

 絶望的だが、勝ち目はある。

 ならば死ぬまで足掻くだけだ。


「上等だヘビ野郎。やってやるよ!」


「ふふっ。威勢がいいですね」


「フシュルルルルルッ!」


 長い戦いが始まりそうだった。


 


 




「はぁ……はぁ……硬すぎるだろ……!」


「いくらなんでもここまでとは……でも、効いてるはずですよ……」


 戦闘開始から1時間は経っただろうか。

 ウワバミはまだ倒れる気配を見せない。

 序盤から比べると動きのキレが落ちているから攻撃が効いてきているのは間違いない。

 それでも一撃でも食らったら死ぬ、という緊迫感の中で1時間以上戦い続け、俺もアドリアも精神的に限界が来ている。


「シュララッ!」


「っ!」


 俺に向かって噛みついてくる巨大な頭をいなし、カウンターで[直拳(ストレート)]を放つ。

 タイミングを合わせてアドリアも長い胴に切り傷を負わせるが、その硬さ故どちらもほとんどダメージを与えられていないだろう。

 ウワバミは尻尾による攻撃、噛みつき、そして横回転による圧殺攻撃と、3種類の攻撃しか持っていないため慣れてしまえば回避はできるが、この長丁場で俺たちの集中力も途切れ始め、躱しきれずにダメージを少しずつ食らっている。

 また攻撃速度は速い為[直拳(ストレート)]等の、隙は小さいが威力も小さめの技で攻撃するしかないのも戦闘時間が伸びている原因だろう。


「アドリア! 10時の方向からトカゲが来てる!」


「了解です!」


 こうして戦闘している間にもヘビやトカゲ等の邪魔が入るため、俺が位置を伝えてアドリアが仕留めるという戦法を取っている。

 が、ヘビはともかくトカゲは瞬殺できるわけではないのでその間俺が一人で支えることになる。


「めんどくせぇ!」


 叫びながら尻尾の薙ぎ払いを屈んで躱し、そこに噛みついてきたウワバミの鼻っ面を全力でぶん殴る。

 そして噛みつきを中断し仰け反ったヘビの胴に放つのは、無刀流初級技[連拳打(ラッシュ)]。


「うおおおおおおっ!」

 

 全力を込めた拳を次々とウワバミの胴体に叩き込んでいく。

 それに合わせて鈍い音が周囲に響き渡るが、ウワバミはまだ倒れる様子はない。

 多少の怯みの後、足元に居る俺に再度噛みつき攻撃を行ってくる。


「全く……馬鹿力にも程がありますよ」


 トカゲを倒したらしきアドリアが、呆れ声で呟きつつウワバミの眼にカマを叩き込む。

 急所に重い一撃を食らったウワバミは堪らず攻撃を中断し、長い首を振り回しながら咆哮。


「馬鹿力じゃなくて豪快と言え!」


「豪快なのは良いことですが、特攻するのは感心しませんね。とは言え、見てください」


「ああ」


 アドリアの示す先には片目を潰され激昂したウワバミさんの姿があった。


「最終ラウンドってこったな」


「シュララララララッ!!」






 猛り狂うウワバミの前に立つ。

 戦法は今まで通り、俺が引きつけてアドリアは[隠密行動]でヘイト上昇を抑えて攻撃に専念といった感じだ。

 ちなみにヘイトとは、モンスターが相手をターゲットする優先順位のような物だ。モンスターはヘイトが高い相手に攻撃をする傾向がある。ヘイトは、モンスターに攻撃する、回復を行う、モンスターの近くに居る、などの条件で上昇する。

 アドリアの[隠密行動]などの隠蔽スキルはそのヘイト上昇を抑える効果がある。ピット器官があるウワバミと言えど少しは効果があるらしい。


「かかってこいよ!」


 叫びながら[威圧(オーラ)]を放つ。

 怯み効果自体はないがヘイト上昇には効果があり、俺をターゲットとみなしたらしい。

 ウワバミが首をたわめて何かを吐き出すような予備動作をする。

 今までにないモーションに、俺は全力で横に跳ぶ。

 直後、かなりのスピードで吐き出された紫色の水塊が俺の横をすり抜けて背後の木に激突した。


「うへぇ……」


 後ろを見て顔を引き攣らせる。

 俺の背後にあった巨大な樹が根元からへし折れる瞬間だった。

 根の付近――水塊が当たった部分は綺麗に溶けており、シュワシュワと煙が上がっていた。


「……毒ですか。当たったらどうなるかは、想像するまでもなさそうですね」


「だな……このタイミングで使うようになったって事はHP減少がトリガーってことか」


「なんにせよ、これからは一撃も食らうわけにはいきませんよ」


「ならさっきまでと一緒だ!」


 叫びながら噛みつき攻撃を紙一重で回避して逆に横にあった樹に噛みつかせる。

 普通なら噛んだ方がダメージを受けるものだろうが、予想通りというかなんというか樹が溶けてなくなっていた。


「はっ、怖いなぁ」


 だが攻撃後の隙は激昂前と変わらないようで、きっちりアドリアと共にスキルを叩き込んでおく。

 その攻撃で更に暴れるが、その時には既に距離を取っている。

 怒った分攻撃の速度は上がっているが、怒りに身を任せている分軌道は読みやすい。

 攻撃を躱しながら、着々とダメージを与えていった。

 再び毒塊を放ってくるが、圧力版[威圧(オーラ)]で消し飛ばしてカウンターの攻撃を浴びせる。


「あの無差別攻撃にも使い道はあったんですね!」


「あれは実験だ実験! 範囲は大体操れるようになった!」


 軽口を叩き合いながら時に躱し、時に[威圧(オーラ)]で防ぎつつ攻撃をし続ける。

 そして――。


「これで――」


「――終わりです!」


 攻撃後の隙を逃さずしっかりと両側面から同時にスキルを叩き込む。

 力強い手応えとともに轟音が森中に響き渡った。


「シュ……ア……」


 ウワバミが身体を仰け反らせて、フラフラとその巨体を揺らせる。

 言葉なく見守る俺達の先で、ウワバミはようやくその巨体を地に横たえた。


「やった……か?」


「みたい……ですね」


 そのまま30秒ほどぼんやりとその巨体を眺め続け、その後にのろのろと右腕を天に突き上げる。


「 「勝った!!!」 」


 ゴルゴ山の麓に、勝利を告げる叫び声が響き渡った。



△△△△

取得アイテム

 橙大蛇の肉×30

 橙大蛇の皮×27

 橙大蛇の牙×2

 橙大蛇の毒液×10

 橙大蛇の尾×1

 大蛇の紅玉×1



 

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