閑話 訪れる始まり
「……今、なんて?」
「ん?」
思わず発した私の問いに、声を荒げていた青年がこちらを見て疑問の声を上げる。
「ミオ……?」
後ろでリリィが戸惑ったように私の名前を呼ぶが、私の耳にはその声はほとんど届いてこない。
だって、今、この人は――。
言葉が出ない私と、呆気にとられたように私を見つめる青年。
いや、この青年が見つめているのは私じゃなくて私の着ている――
「……着物? なんでそんなものを……」
小さな声量の、独り言に近い言葉。
それでも、私の硬直を解くには十分な効果があった。
「や、やっぱり! お兄さん!」
思わず、食いつくように叫ぶ。
気が付いたら武器だけ持って知らない場所に居たという当初の私と同じような状況。
ゲームという言葉。
日本人的な顔立ち。
それに着物を知っていることといい、この人は間違いなく私の居た、日本の人間だ。
「あ、あ、あの!」
引き止めたい。
引き止めてどうするかは分からないけど、とにかく話さなきゃ。
でもギルドの人は怪訝な顔をしている。
後ろのリリィも戸惑っているだろうし、それに当の本人も訝しげな視線を向けてきている。
この状況でなんて言えば良いのか!
日本人ですか? いや、ダメダメ。
見ず知らずの人がいっぱいいるこの状況で、目立つような事は言えない。
さりげなく、さりげなく! 二人だけで話す状況に持っていかなくては!
ああ、でもどうすれば! 沈黙が痛い! なんか、なんか言わなくちゃ!
なんか――!
「――ひ、一目惚れです! 一緒にお茶しませんか!」
言ってから 気づいてしまった 何言ってんだ私 (字余り)
「……………」
ギルドの建物内を、沈黙が支配する。
誰も、何も言わない。
ああ、痛い。
皆の視線が痛い。
職員の人なんてすごい気まずそうにこっち見てるし。
後ろからはリリィの含み笑いが若干届いてるし。
数秒の時が過ぎた後、青年が勿体ぶるように右手をこちらに向け――言った。
「俺、ロリコンじゃないんで」
爆死しました。
「はーんなるほど。あんたも俺と同じ境遇で、俺の先輩ってわけか」
えぇ、色々ありました。
「あんたじゃなくてミオね! ……まぁ、そういうことになるんだろうね。私もなんでこんなことになったのか分かんないし、先輩なんて大したもんじゃないけど」
色々ありましたとも。
重々しい沈黙の後にギルド内の皆が大爆笑。
それに必死に弁解していると自分の仕事を成し遂げようとした職員が青年を奥に引っ張っていこうとして。
とにかく青年を逃すわけには行かなかったから罰金を私が肩代わりして、そのせいで更に皆に冷やかされて。
なおも笑い続けるリリィと戸惑った様子の青年を引っ張って近くの酒場へと入り。
とりあえずの自己紹介と、私が日本人であることを告げ終えたところだ。
「俺は……あー、こういう時ってゲームの名前を名乗るべきか? ……まぁいっか、俺の名前は栗山 鳴海。ゲームじゃ、シェイスって名乗ってた」
「ナルミね、はいはい。……名乗ってた?」
「OOでのキャラネームの話な。あんた……ミオもどっかのタイミングでこっちに来たわけだろ? ……ってか、原因はなんだよ?」
「タイミング……原因……?」
話に全くついてこれていないリリィと共に首を傾げる。
ちょっと何言ってるかわかんない。
「あー……一回状況のすり合わせしとくか。同じ境遇とか言ったけど、もしかしたら全然違う可能性も――」
ナルミのその言葉を皮切りに、私達はここに至るまでの経緯を話し始めた。
――結果から言えば、私とナルミは大本の流れは一緒でありながら、過程の全く違う道を歩んできたということが発覚した。
「おいおい、まずOOにログインすらしてないってどういうことだよ。……ってことは、OOがログアウト不可になったってことも知らなかったわけか?」
「そりゃそうだよ! 私はゲームを始めたらすでにこの世界に居たんだから。……今の今まで、OOがこういうゲームなのかもってちょっとだけ思ってたくらいで……」
「それじゃ話も通じない訳だ……」
二人揃ってがっくりと首を落とす。
ちなみにリリィは早々に話から脱落して豆をつまみながら酒を飲んでいた。
……どうやら、帰るつもりはないらしい。
「とにかく、俺らはオリジナルオンラインってゲームに閉じ込められて、ゲームクリアのために必死こいて攻略の日々を送ってたんだよ。なんでミオが初っ端からこんなとこに居たのかは分からんが、それ以外のプレイヤーは皆ゲームに閉じ込められてたはずだ……多分」
「むむ……」
はっきりしないナルミの言い方だが、とにかく彼の知る限りではゲームに来るはずだった人が居なくなったりはしていなかったのだろう。
私もOOをやることは恥ずかしくて誰にも言っていなかったから、騒ぎにならないのは仕方がない。
こっちに来てから同じような境遇の人に会ったことはないし、恐らくナルミの言うことに間違いはないのだろう。
「それで、ここに飛ばされた原因は――」
「モンスターに、殺されたんだよ」
「……へ? 死んだらゲームオーバー的な?」
「違ぇよ。普通だったらそんなことはあり得ない。死んだところでリスポーン地点で復活するだけだ。痛みも、当然感じない。だけど、奴だけは違った」
「攻撃されたら痛みを感じて……死んだらゲームオーバーってこと?」
「……多分な。俺は蹴り潰されて即死だったけど、それでもその瞬間の激痛はまだ覚えてる。殺されて、気づいたら見知らぬ洞窟の中に居た。彷徨い歩いて衛兵に見つかったのが今日の昼頃だ」
「ひぇえ。一回死ぬってのは……ちょっと経験したくないなぁ。それにしても、まだそんなに時間は経ってないんだ」
「ミオは……ゲーム開始って言うと一週間前か。随分先輩だな」
「生きるのに精一杯で大して知ってることなんてないよ。この世界がゲームと何かしらの関係がある世界だ、ってことは、多分確実だけど」
「……やっぱそうか」
ナルミは私の着物と自分の装備を見比べながら呟く。
「あれ? でもゲームをやってたってことは、装備とかも揃えたんじゃないの?」
「そのはずだけど、こっちには引き継いでこれないみたいだな。武器も防具も初期装備だ。向こうで覚えたスキルはそのまんまだけど」
そう言ってナルミは卓の上に置いてあった使っていない木匙を手に持つと、ぽいっと通路に放り投げる。
それを目で追うと、突然木匙が空中で消失した。
驚いてナルミの方を見ると、いつの間にかナルミの手の中には先程の木匙がある。
何が起こったのかは分からないが、これもナルミのスキルなのだろう。
「ふーん。あんたも〈所持者〉なんだ。ミオのお仲間ってのは皆そうなの? 羨ましい」
「ホルダーってのが俺の想像通りの言葉なら、他に数千人は居たぞ。何、この世界じゃ珍しいのか?」
「貴重なのは確かよ。スキルって言ってもピンキリだから何とも言えないけど」
一連の流れを見ていたリリィの言葉にナルミが答えると、リリィは興味深げに頷く。
そして少し考え込むような動作を見せた後、私達を見ながら口を開いた。
「――もしかしたら、そのスキルこそが目当てなんじゃない?」
「……え?」
思いがけないリリィの言葉に、思わず聞き返す。
目当て――って、誰の?
「スキルっていうのは貴重なものな訳。だからこそ王国は優秀なスキルを持つ人材を集めようとしてるし、良い能力を持ってたら色々な人に目を付けられる。そんなスキルを、ミオの世界の人は皆持ってるわけでしょ? そしたら、それを利用しようとしてる人が居てもおかしくないんじゃないかしら」
「スキルを……利用……」
数日前、リリィ本人から聞いた話だ。
言うとおり、私の[絶対切断]を含め、スキルと言うのはとても役に立つ。
自分の身を自分で守るのが常識のこの世界ならば、優秀なスキルはそのままが力となり財産となる。
「……でも、おかしいよ。私達のこのスキルはゲームで手に入れたものなんだから。ただの遊びのステータスが、この世界で力になるなんて……」
リリィには理解できない言葉。
それでも私は、口に出すのを抑えられなかった。
何が起きているのか。
ゲームと同じスキルが使えて、魔法があって、それ以外は現実と何も変わらない世界。
しかも、この謎の世界に私達が飛ばされたのは、何らかの意志が働いていたから?
ならばどうして、私はゲームではなく直接この世界で目覚めたのか。
どうして、私を呼び出した何者かは姿を現さないのか。
「なぁ、リリィさんだっけ」
「ん?」
考え込む私をよそに、ずっと黙り込んでいたナルミが口を開く。
「――リリックって名前。聞き覚えあるか?」
「――っ!」
私には分からない、名前。
しかしその言葉がナルミの口から飛び出した瞬間、リリィは目を見開いて驚きを露わにした。
「……知ってるのか」
「……女神ライラ様の神化する前の御名が、その名前だったはずよ。昔読んだ絵本で……アタシと似たような名前だったから、覚えてる」
「女神……?」
聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
話の流れがイマイチ掴めていないものの、ナルミは真剣な顔をしてリリィの言葉を聞いていた。
「この世界を治める、神のこと。ライラ様は三代目の女神ね」
「神って、代替わりすんのか……」
「長い歴史の中での三代目なんだから、そんな頻繁にじゃないわよ。って言っても、先代と交代したのがほんの三百年前って話だけど」
「……それでほんのね」
ナルミが苦笑い混じりに言う。
日本で三百年前と言えば江戸時代だ。
その時代からずっと世界を見守ってきたと言えば確かに長い気も……いや、でも神様だし……。
――って、そんなことはどうでもよくて。
「神様かぁ……やっぱ異世界には居るもんなんだね」
「あなた達の世界には居ないの?」
「俺らの世界じゃ、物語として居るだけで、実在はしないんだよ。いろんな地域に伝承ってのは残ってるが」
「じゃあ、神様って根本が違うのかもね。アタシ達の世界の神様は、元は人だもの」
「人が……神になるの?」
「長い年月世界を見守ってきた女神が代替わりする時は、最も神に値する女性が選ばれる。その人に女神様が力を継承して、新しい女神が誕生するのよ。で、今代の女神のライラ様が人だったときの名前が――」
「――リリックだったってことか……」
リリィの説明に、ナルミが難しい顔をして腕を組む。
「で、その女神様に何の用があるって?」
「あー、いや、用って言うかな……あれが本人だとも限らないし……」
俯きながらボソボソと何事かを呟くナルミ。
しばしの後に意を決したように顔を上げると、私を、そしてリリィを見ながら言った。
「俺達ゲームプレイヤーを閉じ込めた張本人が、そのリリックって名前を名乗ってたんだよ」
「……あなた達をこの世界に呼び入れたのが、女神ライラ様だってこと?」
「……女神のことを知らないから何とも言えないけどな……心当たりはあるか?」
ナルミの言葉に、今度はリリィが難しい顔をして黙り込む。
「女神様が異世界から人を拉致してくるなんて想像もできないけど……あなた達のスキルが目当てだって言うんなら、動機はあるわね」
「力を欲するような状況にあるってことか?」
「女神様が、というよりも、人族が――ね。女神様も、アタシ達を含めた民も、それに王国も」
「王国……」
頻繁に耳にするその単語。
私達が今居るこの場所は、アトランティア王国の端にあるリューリクという街だ。
王国というからには当然王が居て、王族が居る。
そしてそれに敵対する勢力も。
「――魔族との戦争に力が必要だから、そのために私達を召喚したっていうこと?」
人と長きに渡って戦いを繰り広げている魔族。
詳しい内容は知らなくても、人族が魔族と戦争しているということは私でも知っている。
「ちょ、ちょっと待て! 魔族って言ったか?」
しかしその単語には、ナルミの方にも覚えがあったらしい。
「……言ったけど」
「魔族ってのは、要するに人じゃないわけだよな?」
「まぁ、そうなるわね」
真意の分からない曖昧な質問に、リリィが答える。
「それならだ、リリィ。トロールってのも魔族に入るのか?」
「トロール?」
「緑色の、巨人だ。肉がブヨブヨしてて……こう、荒削りの棍棒を持ってて……」
トロールと言えば、ゲームが好きな私には馴染みにある言葉だ。
鈍重で、攻撃力が高くて、知能の低いようなイメージがあるのだが、それがこの場面にどう関係するのか。
「ああ、トゥローのことかしら。今はどうか分からないけど、三百年前の人魔大戦では魔族側が大量のトゥローを使役してたみたいよ。それが一体――」
「――それだ。俺はそのトゥローって奴に殺されてここに来た。死んじまったから分かんないけど、あの出鱈目な強さなら、もっと大勢のプレイヤーが殺されてたとしてもおかしくない……下手したら、城下町にまで……」
ナルミが、何かに耐えるかのように歯を噛み締めて拳を握る。
しかしすぐに力を抜いて笑みを浮かべると、呆気にとられていた私達に向けてひらひらと手を降った。
「これは今考えてもしょうがないな。とにかく、今は向こうに帰る方法だ」
「あれ、帰る方法について模索してたんだっけ。というか、帰れるの?」
「それを今検討してるんだよ。――俺を殺したのはトロール……リリィの言葉からするにトゥローで、魔族だ。あいつは突然ボスエリアに現れてゴルムさんをぶっ飛ばして……それで……」
「……ん?」
尻すぼみに小さくなっていくナルミの言葉に疑問の声を上げる。
しかしナルミは、今の自分の言葉が鍵となったかのように眉間にシワを寄せていた。
「そうだ……そうだよ! 奴は突然あそこに現れた! あいつが魔族だってんなら、この世界から向こうに行ったんだって考えて間違いない!」
「ちょっと! 静かに!」
急に立ち上がって叫び出すナルミに、周囲の人間が怪しむような目を向ける。
しかしそれを意に介さずに、ナルミは目を輝かせて叫んだ。
「魔族だ、魔族だよ! よく分かんねぇけど魔族だ! 魔族なら世界を超えて向こうにいける! それを利用すれば俺達だって、帰れるはずだ!」
帰還への道標。
あるのかすら分からなかった元の世界へと続く道。
唐突に姿を現したその道は、遥か遠くまで続いていて。
その果てに、皆が。
求めていたものが、待っている。
「嘘……」
「そうと分かりゃ行くしかないな。リリィ! 魔族ってのはどこに居るんだ!?」
「え、そりゃあ、魔族なんだから魔族領に……ってちょっと!」
「そんだけ分かりゃ十分だ! ありがとう!」
思わぬ事実に言葉を失う私をよそに、ナルミは礼を言うと店の外へと飛び出していく。
私とリリィは突然のことに顔を見合わせ、それを追うしかなかった。
「ちょっと! ナルミ!」
ナルミは店のすぐ外で立ち止まっていた。
当然だ。
この世界に来てすぐの人間が、この街の、この王国の、この世界の地理なんて知っているわけがない。
魔族領になんて、そう簡単に行けるわけがない。
「それでも……行くの?」
「俺な、兄妹でゲームやってたんだよ」
私の問いに、ナルミは振り返りながら言う。
脈絡のない言葉。
しかしその言葉には、彼の様々な感情が込められていて。
「妹が二人、まだゲームやってんだよ。あのトロールが、何を目的にしてたのかは知らねぇけどさ。俺の妹達が危険に晒されるかもしれねぇって分かったら、こんなとこでじっとしてられない」
淡々とそう言ったナルミは、次いで正面から私の目を見る。
「ミオにだって、帰りたいって思う気持ちはあるんだろ? 何なら一緒に行こうぜ。あー、安心しろ、俺はロリコンじゃないから」
ナルミは真面目くさった顔で、そんな見当違いのことを言った。
旅をして、帰る手段を探す。
掲げていた私の目標。
実行するのは、もっとずっと先のことになると思っていた。
少なくとも、こんな準備も何もしていない段階で決断を迫られることになるとは思っていなかった。
それでも、帰れるかもしれない。
根拠の薄い考え。
本当に帰れる確証なんてどこにもない。
それでも、帰れる可能性があるのなら。
わずかでも、元の世界に戻れる可能性があるのなら、私は――。
「うおおおおおおっ! 本当に行っちゃうのかミオ!」
「うおおおおおおっ! 俺たちゃ悲しいぜ!」
「ほーら、そう言ってミオの重石になってたら仕方ないでしょうが。男なら黙って見送る!」
「無事を祈ってるわ。無茶はしないでね。 ――駄目だったら、いつでも帰ってきて良いのよ?」
翌朝。
リューリクの街の入り口に、私とリリィ達四人、それとナルミは集まっていた。
「皆、今まで本当にありがとう。帰る方法が分かったら、絶対帰ってくる。必ず、お礼をするから!」
「んなこたぁどうでも良いんだよ!」
「おうおう! 礼なんていらねぇ! 行くからにゃあ、ちゃんと成し遂げてこいよ!」
「だーかーら! あんたらは黙ってなさい!」
いつものように双子が騒ぎ、いつものようにリリィが窘め、いつものように私とアリアでそれを眺める。
私にとってこの世界での全てだった一週間の『いつも』が終わって、リリィ達は私が現れるまでの『いつも』の生活に戻る。
それでも、私にとってリリィ達の存在は紛れもなく救いだった。
リリィ達の存在が、この一週間でどれ程私を励ましてくれたか分からない。
「好かれてんな、ミオ……ほんとに良いのか? 俺なんかと一緒に街を出ちまって」
「街を出たって、何も変わらないよ。私は皆を大好きだし、皆も私を大好きだから」
あえて皆にも聞こえるように言うと、皆は笑顔で頷いてくれた。
「これ、アタシ達からミオに、ね。急だから、大したものは用意できなかったんだけど」
そう言ってリリィが差し出してきたのは、カラフルな木製のアクセサリーだった。
一本の紐に五つの珠が連なった、簡素なもの。
「おんなじものを、アタシ達全員分買ったの。五つの珠はアタシ達パーティーの人数。離れてても、アタシ達はいつも一つ、ってことで」
言いながら、リリィ達皆が一斉に自分のアクセサリーを掲げて見せる。
「……ありがとう」
礼を言って、そのアクセサリーを受け取る。
軽くて重いそれをそっと握った後、しっかりと懐へとしまい込んだ。
「……それじゃあね」
最後にそれだけ言うと、リリィ達は何も言わずに頷いた。
その皆一人ひとりの顔を心に焼き付けて――背を向ける。
先に歩き出していたナルミに追いつくと、ナルミは私をちらりと見て笑みを浮かべた。
「なーに泣いてんだか。そんなに寂しいなら急ぐ必要もなかっただろうにさ」
「……」
溢れる涙。
同じ涙でも、それは毎晩流し続けた涙とはまるで違った。
別れの悲しみと、それを遥かに上回る感謝の念が体の奥から溢れてくる。
ナルミは、泣き続ける私を見ても、それ以上は何も言わなかった。
「行くか。王都ティマイオス」
アトランティア王国最大の都市にして王の住む都、ティマイオス。
魔族領への長い道のりの第一目標として私達が選んだのがその都市だ。
魔族と戦い続ける王国軍の本拠地であり、女神ライラを祀る最大の神殿、クリティアス神殿もまたそこにある。
そこに行けば間違いなく、魔族に関する情報は得られるだろう。
「待ってろよ、汐里、雫」
ナルミが、何かを決意するようにぽつりと呟く。
その呟きは、風に紛れて空の彼方へと消えていき。
そうして、私達の旅が始まった。
これにて第二章『交錯する各々の意志』は完結です
登場人物紹介を挟んで次章へと移ります




