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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第二章 交錯する各々の意志
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閑話 いつもと違う日常

「さぁ! 今日も無事に一日を終えられたことに感謝して! かんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」


「乾杯!」


 立ち上がってジョッキを掲げるイアンの言葉を復唱し、仲間達とジョッキを打ち合わせていく。

 ガチンゴチャンとガラスの音が複数回響き渡った後、皆してジョッキを盛大に煽った。


「っぶはっー! やっぱ一日のシメの酒は最高だな!」


「狩りの結果が良けりゃ、尚更酒も旨くなるってもんよ!」


「ほら、あんたらはそうやってはしゃぎすぎない! ちゃんと座って飲みなさいよ」


 ジョッキを持ったまま立ち上がり叫ぶ双子を、リリィが呆れた眼差しを向けながら窘める。

 ジョッキを傾け笑いながらそれを眺める私とアリアを合わせて、私達のパーティーのいつもの光景だ。


 私は騒がないのかって?

 そうしたいのはやまやまだけど、私が飲んでいるのは酒ではなくただの果実水だ。

 酒を飲んでいないのにあれと同じテンションで騒ぐのは、やはりちょっと恥ずかしい。


 ちなみに何故私が酒を飲まないのかと言うと、私の持つスキルの効果のせいだ。

 勿論私が未成年であることも挙げられるけど、この異世界にそんな法律は存在しない。

 このパーティーの皆も、二十歳を超えているのはアリアだけなはずだし。


 スキル[天衣無縫]。

 このスキルの効果は、自分の半径一メートル以内が攻撃の対象にならない、という、一見すると分かりにくいものだ。

 私の初期スキル三つのうちの一つなのだけれど、あまりにも[絶対切断]と相性が良いために[百花繚乱]と二つで一組なのではないかと疑っていたりする。


 例えば、[アイスボール]という魔法がある。

 氷の塊を発射して相手にぶつけるだけの単純な魔法だ。

 私がこれに対処しようとすると、そのまま氷の塊を[絶対切断]でぶった切って終了となる。


 では同じ氷の魔法でも、[氷柱(アイスピラー)]になるとどうなるか。

 これは地面から氷の柱を生み出して攻撃するといったもので、発動する場所を特定して使用する魔法だ。

 詠唱は長いわ詠唱完了から発動までに時間があるわで普通の戦闘ならまず使わない魔法だけど、発動するとすぐ効果が出るという理由から、使い道がないとは言えない。

 私の[絶対切断]も、こういう魔法にはお手上げな訳だし。


 私の[天衣無縫]の能力は、自分の半径一メートル以内を、この『発動する場所を特定して使用する魔法』の対象外にするというものだ。

 [天衣無縫]の効果で私の足元から土槍を生やすことも、私の周囲に毒霧を発生させることも不可能で、[絶対切断]はその気になればレーザーや衝撃波だろうとなんでも斬ることができる。

 ……二つのスキルの合わさった私は自分でもびっくりするほどのチートっぷりだ。


 ということでお酒を飲んでも酔えない私はちびちびと果実水を飲んでるわけだけど、戦闘なんて無縁の現代日本ならいざ知らず、ここは剣と魔法のファンタジー世界で、私はモンスターを狩って生計を立てる冒険者。

 チートで最強なスキルを持っているのだから人生勝ち組か――と思ったのだけど、リリィ達にはあまり自分のスキルを見せびらかさないほうが良いと言われてしまった。


『アタシ達はスキルなんて便利なものは持ってないし、そもそも〈所持者(ホルダー)〉なんてそうそう居るもんじゃないんだけどね。強いスキルを持っている人が居たら必ずそれを悪用しようって奴は出て来るし、王国軍も戦力になる人材を血眼で探してる。王国騎士団に拝命されたらそりゃあ栄誉なことだけど、好んで戦争に参加しようなんて奴はそうそう居ないしね。皆自分のスキルは必要な時以外は隠しておくのが普通だよ。それでもアタシは羨ましいけどねぇー』


 要約すると、面倒ごとに巻き込まれたくなけりゃ自分のスキルは隠しとけ、ってことかな。

 確かにモンスター相手に無双してお金持ちってのは憧れるけど、ここは日本とは違う物騒な世界だ。

 自分の身は自分で守るのが基本なわけだし、[絶対切断]や[天衣無縫]があるとは言え、誰かの恨みを買って暗殺とかされそうになったら私は生きていける気がしない。防御ゼロだし。


 そんな訳で、パーティーメンバー以外には自分のスキルを教えず、狩りの時にしかスキルは使わないようにしている。

 本当は狩りの時にも使わずにいくのが一番良いんだろうけど、[絶対切断]は常に発動しているから自分の意思ではどうすることもできない。

 次善策として、人の居ない狩場でしか使わないということで決定となった。

 鮮やかな着物は必要以上に人の目を引くけど、おかげで今のところは誰からも目を付けられていない――と思う。


 当分の私の目標は、冒険者稼業を続けてお金を貯めること。

 それと、この世界に関することを少しでも知ることだ。


 私は今、元の世界に関する手がかりを何も持っていない。

 だから少しでも帰還に近づくために、この街を離れて旅をして、元の世界に戻るアテを探そうと思っている。

 当然そのためにお金が必要だし、この世界に関する最低限の常識は不可欠だ。

 しばらく冒険者をして準備を整えて、それから各地を巡って情報を集める。

 それでも何も手がかりが得られないようだったら、またここに戻ってきて正式にリリィのパーティーに入れてもらう予定だ。

 リリィ達は、いつでも私のことを歓迎すると言ってくれた。


 この一週間でリリィ達に散々助けてもらって、これからも私はリリィ達に甘えようとしている。

 ――やっぱいつか、ちゃんと恩返しをしなきゃね。








「それじゃあね、皆! また明日!」


「おうよ!」


「また明日な!」


「お疲れ様」


「おつかれー!」


 ひとしきり騒いで酒場を出れば、それで私達の一日は終わりだ。

 労いの言葉を掛け合って、この場で解散となる。


 イアンとシュラインは実家暮らしだから自分達の家に帰るし、修道院に住むアリアもそれは同じだ。

 残るリリィはパーティーのリーダーとしてモンスターから入手した素材を商業ギルドへと売りに行くし、リリィの泊まっている宿は全く別の方向にある。

 必然的に、私は一人で宿屋へと帰ることになるわけだ。


「やあ、ミオちゃん、おかえり」


「ただいまー。明日もおいしい朝ご飯待ってるよー」


 いつもの宿に帰りつき、一階のカウンターの向こうにいる主人のおじさんに手を振る。

 家族経営の小さめの宿だけど、おじさんは優しいし料理は美味しいしで満足度は高い。

 イアンとシュラインの双子にはうちに泊まればいいとしょっちゅう言われるのだけれど、一応は自分で稼いでいるわけだし、そこまで甘える訳にはいかないだろう。


 それに、一人でいるこの時間は、今の私には必要なものだ。


「ふぅ……」


 二階の廊下の突き当たり。

 私が借りている部屋へと入り扉を閉めると、自然とため息が漏れる。

 明かりを灯すことすら面倒になって、そのまま硬いベッドの上に倒れ込んだ。


 真っ暗で、窓から差し込む僅かな月明かりだけが唯一、この部屋を照らしている。

 狭い部屋、木製の硬いベッド、窓だって木でできていて、隙間から少しだけ風が吹き込んでくる。

 その風がベッドからはみ出ていた私の着物の裾を揺らして、さわさわと衣擦れの音がした。


 自然と、体の奥からこみ上げてくるものがあった。


「……やだ」


 溢れる涙を拭ってベッドへと顔を押し付ける。


 一人になるといつも、考えてしまう。


 見知らぬ世界。

 何もわからない世界。

 私を知る人なんて誰も居なくて。

 常識なんて何もわからなくて。

 何が起きたのかもわからないまま、時間だけが過ぎていく。


 元の世界に戻るアテなんて何もない。

 どうしてこうなったのかもわからないのだから、元の世界に帰る方法なんてわかるはずがない。


 もう、帰れない。

 お母さんともお父さんとも、弟とも友達とも、要くんとも、もう二度と会えない。


「嫌だよ……お母さん……お父さん……会いたいよ……」


 私はこの世界で一人ぼっち。

 リリィ達は優しくしてくれているけど、それは皆の善意に私が縋り付いているだけ。

 元の世界のことを知らない皆に、元の世界を全て失った私のことはわからない。

 この悲しみは、私がただひたすら抱え続けていくしかない。

 

 帰りたい、帰りたい、帰りたい。

 狩りをしている間は――皆と一緒にいる間は忘れられる想い。

 抑えがたい元の世界への未練が、いつものように私の心を蝕んでいく。


 多分、この想いは、この世界で生きていくうちに薄れていくものなんだろう。

 今の生活だって楽しいと思うことはある。

 私のスキルがあれば、生きていくことはそう難しいことじゃないはずだ。


 そうだとしても、辛いことだとしても、私はこの想いを忘れたくなかった。

 元の世界の思い出に浸る時間を、なくそうとは思わなかった。

 会えないのだとしても、帰れないのだとしても、帰りたいと思う気持ちを忘れたくなかった。

 

 旅に出る。

 行くアテなんてない、帰る方法なんてさっぱり分からない。

 それでも、私は帰るために何かしらの行動を起こしたかった。

 結果が実らないのだとしても、ずっとリリィ達に甘えていくことなんてできない。

 それが私の、私なりの意地なんだ。


 涙は止まることなく流れ続ける。

 溢れる悲しみに身を任せながら、私はただ一人、ここではない世界へと思いを馳せるのだった。









 いつもと同じ一日。


 翌日、おじさんに変わってカウンターに座っていた女将さんと挨拶をして朝食をとり、そのままの足で皆と合流。

 リリィの先導に従って街を出て、昨日と同じ森に入る。

 なんやかんやでいつもの調子で狩りを終えて、皆上機嫌で酒場へ突入。

 いつものように双子が騒いで、いつものようにリリィがたしなめて、いつものように私とアリアでそれを眺める。


 いつもと違ったのは、それからだった。


「はい、それじゃあ、これで解散ね! アタシはこれからギルドに行ってくるから!」


 いつもと同じようにリリィが言い、皆は各々の家へと散っていく。

 そしていつものように商業ギルドへと向かおうとするリリィの背中に、私は声を掛けていた。


「あー、待って。私も行くよ。いっつもリリィに任せっきりじゃ、悪いしね」


 いつもと違う、私の言葉。

 振り返ったリリィは予想外だったのか、一瞬呆けた顔をしていたが、それをすぐに笑みへと変える。


「いいの? 来て面白いものでもないと思うけど?」


「いいのいいの! どうせ帰っても寝るだけなんだし! さぁ行こう!」


 私よりちょっとだけ背が高いリリィの背中を押して歩きだす。


 どうして急にリリィに付いていこうと思ったのか自分でもわからないけど、まぁ気まぐれというやつでしょう。

 まだ夜は長いんだし、帰ってからも時間はあるさ!


「それにしても、どうしたのよ、急に。商業ギルドに依頼でもしに行くの?」


「違う違う。リリィに任せっぱなしにするのは悪いなって思っただけだってば」


「へぇー怪しいね。就寝の時間が決まってるアリアはともかく、あのバカ共は一度もそんなこと言い出したことなんてないのに」


「……それはあの二人が薄情なだけなんじゃないかな。って、今まで言い出さなかった私も同類か!」


「良いのよ! あなたの優しさだけで十分だわ! なんていい子なのかしら!」


「うにゃー!」


 ふざけて抱きついてくるリリィの良いようにされながら、二人してのんびりと夜道を歩く。

 ともあれ、商業ギルドはそれ程遠くない……というよりも、この街自体がそれ程広いわけではないので、数分歩くとすぐにギルドの前まで来ることができた。


「とうちゃーく。って、なんか騒がしいね」


「んー、そうね。何か揉め事でもあったのかしら」


 建物の外に居ても、中での言い合いの声が聞こえてくる。

 とは言え、人が多く集まるこの場所では言い合いなんてそう珍しいことでもない。

 とにかく素材を売ろうと、リリィと共に建物の中へと入った。


「だーかーら。俺は気が付いたらあそこに居たんだっての! それで罰金払えってのはおかしいだろうが!」


「気が付いたら居たで済む話か! 洞窟内は騎士団管轄の立ち入り禁止区域! そこに入ったのだから当然の処分だろう! 大した額じゃないんだから払えば済む話じゃないか!」


「払おうにも金がねぇんだって! 見逃してくれよ! なぁ!」


「……なーんかめんどくさそうな話になってるね」


「うん……」


 建物に入って右奥。

 三つあるカウンターの右側で、一人の青年とギルドの職員が怒鳴り合っていた。

 話を聞く限りでは、罰金を払おうとしない青年が職員に食って掛かっているというところか。

 どう考えても青年が悪いのだが、青年は退こうとしない。

 何人かの人たちは遠巻きにニヤニヤ眺めているし、職員は皆迷惑そうな顔をしている。


 とは言え、私たちには関係ない話だ。

 とっとと売却を済ませてしまうとしよう。


「気が付いたらシャツにズボンのこの格好であそこに居たんだよ! 金どころか、荷物なんて何も持ってない! あるのはこの槍一本だけだ! なぁ、ホントなんだって!」


「んん……?」


 無心でカウンターへ向かおうとする私に、なおも叫ぶ青年の声が届く。

 なんかその状況、覚えがあるような……。


 何となく違和感を感じて、ついつい青年の方を見てしまう。


「え……?」


 そこに居たのは黒髪黒目の、二十歳かそこらと言ったまだ若さの残る男性。

 灰と白の、地味で薄いシャツとズボンだけを身につけ、短めの髪はボサボサと言っていいほどはねている。

 そしてどう見てもその顔立ちは日本人のもので。



「――なんだってんだこのゲームは……」



 その呟きに、私は天地がひっくり返るような感覚を味わった。

  

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