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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第二章 交錯する各々の意志
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第48話 謎に満ちた世界

「ん…。」


 隣で、寝心地が悪そうに小さく声を出すキシン。

 眠りにはついたらしいが、この硬い岩肌の上ではノンレム睡眠まっしぐらだろう。

 どうにかしてやりたいのは山々だが、生憎毛布の類は一切持っていない。

 せめて冷えないようにと、上着を脱いで被せてやる。


 さっきまで決意に溢れていた顔も、眠っている間は無垢な子供そのままだ。


 『僕は知りたいんだ。どうして兄さんが消えたのか。消えなくちゃならなかったのか。兄さんが何を見たのか。僕たちは何で戦うのか。兄さんに言われて気付いたよ。自分がどれだけ何も考えずに過ごしてきたのか。もう迷わない、無駄にしない。全てを知るまで止まらない。その結果兄さんみたいに消えることになったとしても、最後まで足掻き続けるんだ。』


 兄への少なくない想いを漂わせながらあの日のことを語り終え、キシンは最後にそう言った。

 それが俺に向かって言ったものなのか、自分自身に言い聞かせていたものなのかは分からない。

 それでも、覚悟の程を感じることはできた。

 軽口の多い15歳程度だろうこの少女も、この世界では立派な戦士なのだ。


「知りたい……か。」


 今は見張りのために俺が起きて、キシンが休んでいる状況だ。

 勿論しばらくすればキシンを叩き起こして見張りを交代することになるが、長い長い夜は二分したところで長いままだ。

 それ故に考える時間はいくらでもあり、様々な思考が浮かんでは消える。


「俺もそう思ってたはずなんだけどな……。足りなかったか。」


 魔神に出会い、ライラに出会い、トロールと戦った。

 恐らく、このゲームの中で謎に一番触れているプレイヤーは俺だと言って良いだろう。

 そんな状況の中で、謎を解明したいとはずっと思ってきたことだ。

 それでも、俺は特に何も考えてこなかった。

 ただ漠然と謎を思い浮かべ、情報が足りないからと諦めて来た。

 よくよく考えてみれば不自然な点など、いくらでもあったにも関わらず。


「キシンの兄さんに感謝しなきゃな。」


 俺の手元にある一枚の便箋。

 これは寝る前のキシンに渡されたものだ。

 キシンの兄さんが書いたものであり、二人の妹に遺されたもの。

 それを俺が見るのには抵抗があったが、キシン自身が読んでもらうことを望んでいたため、お言葉に甘えることにした。

 兄さんがこの手紙を自由にしていいと言ったのだから何も問題はない、この話をしたからには君にもこれを見る権利があるはずだ、とそういうことらしい。

 何が書いてあるのか気になっていた部分はあったのでこの暇な時間を利用して目を通しておこうと思った訳だ。

 そして暗い中炎の明かりのみを頼りに便箋を読み終えた俺は、なんとも言い難い脱力感に包まれていた。


 なにせ、仮にこれが本当ならば、このゲームは現実と幻想の境界すらなくしてしまうことを意味するのだから。


『キシン、ティア。そしてこれを読むかもしれない誰か。俺が伝えたいのは、OO開始前から抱いていた違和感と、実際に始めて思った謎。それに関係するリリックの謎についてだ。俺なりに考えて考察した結果、オリジナルオンラインというゲームはかなり大きな闇を持っていることが分かった。勿論、俺の考察が正しければ、という注釈は入る。それでも、明らかに不審な点が多すぎる。俺の考察と事実を踏まえた上で、自分なりに解釈してみてほしい。』


 便箋はこの書き出しから始まる。

 ただ、自分の持つ情報を相手に伝えようとする意志。

 それはまるで、自分が消えることを予め確信していたかのようだ。


『まず一つ目、OOを始める前に感じた謎について。と行きたいが、恐らく一つ目は、OOを楽しみにしていた奴ならば一度は考えたことがあるはずだ。結局ゲームを始めるまでは分からず、始めてからは考える暇もなかった謎。つまり、オリジナルスキルというシステムそのものだ。プレイヤー一人ひとりに序盤からスキルが3つ与えられ、その後に取得可能なスキルも全て個々人のユニークスキル。このゲームの核ともいうべきシステムだが、これがまずおかしい。通常のオンラインゲームにオリジナルスキルが存在しないのは、それがオンラインゲームという種類のゲームであるからだ。ゲームが何年続くかも、どれだけの人がプレイするかも分からない中で、オリジナルスキルを実装する訳にはいかない。それを可能とするのは、スキルの数が無限であった時だけだ。それなのに、OOではそれがゲームとして確立されてしまっている。そしてスキルについて問う声は山ほどあったにも関わらず、それに明確な返答がされることはなかった。ゲームを開始されれば自然に判明するかもと思っていたが、結局はこれだ。もし仮にOOが通常のゲームとして普通に運営されていたとしたら、すぐにスキルが足りなくなるだろう。どれだけ優秀な人材がアイデアを出し続けたとしても、オンラインゲームとして成り立たせることは不可能だ。そしてそこから導き出される仮説は一つ。』


「――オリジナルオンラインは、ログアウト不可になる前提で作成されていた。」


 便箋に記されたその一文に、思わずため息を吐く。

 この文章を見た瞬間、ずっと胸の内に溜まっていたものがスッと消えるような感覚を覚えた。

 引っかかっていた部分はいくらでもあった。

 気付こうと思えば気付けたはずなのに、気付けなかった。

 

『このゲームがログアウト不可前提で作られたというのなら、リリックと製作者は無関係じゃないはずだ。もしかしたら、リリックがこの世界を作ったのかもしれない。だがリリックと接触ができないこの状況では何も分からない。だから俺なりにこのゲームの事実を裏付ける証拠を探してみた。』


 ここで一端文章が途切れ、その下にいくつか文が並んでいる。


『一つ、料理スキルという存在。食べたらバフが付くなどの理由で料理があるのなら納得できるが、このゲームでは完全に食事という概念で存在している。食べるのに必要な時間が現実と何ら変わらず、バフも付かず、腹は膨れる。こんなシステムがゲームとして存在する意味が無いように思える。』


『次いで一つ、掲示板のことだ。あの日の夜間にリリックが追加したシステムだが、聞いてみりゃ深夜1時には既に実装されていたらしい。どう考えても早すぎるし、しかも掲示板ボタンが置かれたのはログアウトボタンがあった場所だ。これもリリックと製作者との間に無関係ではないように思える。』


『最後に一つ、クエストとNPCについてだ。知ってると思うが、このゲームにクエストは存在しないし、NPCは必要最低限のこと以外は話さないようになっている。これも通常のゲームなら有り得ないことだ。そして、OOがログアウト不可になる前提で作られたというのなら説明が付く。プレイヤーがゲームからの脱出のためにゲームクリアを目指す。現状でしかありえないグランドクエストが成立するからだ。』


『もう文字制限も近くなってきたから端的にまとめるが、俺が言いたいのはこのゲームには謎が多くあって、通常のゲームと異なる違和感を発し続けているということだ。俺の仮説が正しい根拠はないし、この謎を解くことでゲームクリアが捗ることもない。ただ、俺が疑問に思ってきたことを誰にも遺すことがないまま終わらせるのは惜しいと思っただけだ。だからこの便箋をどうしようと構わないし、読んだことは忘れてくれたって良い。俺の予想が正しければ、いつかは無視できない話になってくると思うけどな。』


『ゴルゴ山のボスエリア。今日のボス戦では必ず何かが起こる。そうなった時、俺の意志を継いでくれる誰かが居てくれたら嬉しい。』







 そっと便箋を閉じて、長くため息を漏らす。

 落ち着こうとしても、頭の中で考えが浮かんでは消え、心臓は素早く鼓動を刻むことをやめようとしない。

 

 それだけ、受けた衝撃が大きかったという事だろうか。


「俺は魔神と接触した。だから、分かる。」


 あの時、魔神は何か訳が分からないことを呟いていたはずだ。

 あそこで抱いた恐怖を忘れることはできていない。

 だからこそ、鮮明にあの場での会話を思い出すことができた。


『ここが箱庭か。随分大層な場所を作ったものだな。』


 そうだ。

 魔神は確かにそう言った。

 この言葉こそがキシンの兄さんの言葉を裏付ける証拠となるのではないだろうか。


 あの場で見る限り、女神ライラと魔神シルファリオンは敵対している。

 そして『女神の居る場所へ立ち入って来た魔神が追いだされた』のだ。

 その魔神が放ったのが先ほどの台詞。

 ならばやはり、女神ライラがこの箱庭と呼ばれるゲームを作ったのだろう。


 リリックの目的は、あるゲームにプレイヤーを閉じ込めることではない。

 女神は俺たちを招き入れるためにこの世界を作ったのだ。


『焦る必要はない。女神の加護もそう長くは持たないのであろう?』


『そのようです。我々が待っていればそのうちこちらへ来ることでしょう。』


『どうせすぐ君の下に行くことになるんだから大人しく待っていればいいのに。』


 女神の加護、こちらへ来る、すぐ君の下に行く。


「俺たちは今、女神に守られている……とか?」


 真偽は分からない。

 だが、あの会話ではそう考えるのが自然だ。


「そんで加護はそう長く保たずに切れて、魔神の所に行くことになる……。意味分からんなぁ。」


 女神ライラ/リリックがゲームを作った。

 俺たちはそのゲーム内に居て、女神の加護の下にある。

 ある時魔神と共にいたトロールが現れて、そいつに殺されたプレイヤーは――。


「消えて帰ってこなくなった……まさか……。」


 消えたプレイヤーは、女神の加護から外れて魔神の下へ飛ばされたのではないか?


「そんなことが有り得るのか…?」


 突拍子のない話。

 あの短い会話で判断したことだ。

 何のためにだとか、トロールの攻撃で痛みを感じる理由も不明だ。


 だが、有り得ない話ではない。


「トロールは俺たちが倒した。奴はカルカを目指していたんだから目的は未達成のまま終わったはずだ。となれば、また奴らが攻めて来ることはあり得る……。」


 あれ程の危機感を感じさせる魔神だったのだから、奴らに殺されて魔神の下に送られたらゲームオーバーだと考えていいはずだ。

 時間が経っても加護が切れて自然とゲームオーバー。

 俺の予想が正しいのだとすると、現状はなかなか厳しい事態であると言える。


「だけど、猶予はまだあるはずだ。」


 そうでなければ、あの場でトロールを送り込んでくるはずがない。

 待っていればプレイヤー全員が女神の加護から離れるにも関わらず、トロールを送り込んできた。

 それはつまり、女神の加護が切れるまでに時間があり、且トロールを送り込む必要がある状況であると言える。


「俺たちにできることはまだある。」


 強くならなければいけない。

 俺の予想が正しかろうとそうでなかろうと、またいずれ何かが起きる、それは確実だ。

 そうなった時に対処できなくては、消える。

 これはゲームだがゲームではない。

 負ければ死ぬ。殺される。魔神にはそうできるだけの力がある。


「ゲームクリアへの道も見えた。」


 強くなり、送り込まれてくるだろう魔神からの刺客を退け、女神の加護が切れた段階で魔神を倒す。

 実際そうすることでゲームクリアになるのかどうかは不明だが、これを達成しなければ俺たちの負けなのも事実だ。


「ま、そのためにはとりあえず、ここから帰りつかないとな。」


 棚に上げていた事実を思い出して、思わず苦笑いする。

 何が起こるにせよ、俺たちにできることは戦うことだけだ。

 重く考えても軽く考えても、事実は何も変わらない。

 ならば気負いせずに、楽しみながら堅実に強くなってやろう。



 夜はまだまだ明ける気配がない。

 漆黒の闇が辺りを埋め尽くす中で、穏やかに眠るキシンの寝息だけが静かに響いていた。

 

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