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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第二章 交錯する各々の意志
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第37話 誰かに届く

「はぁ…。」


 ため息しか出てこない。


 ここは城下町カルカ南エリア、キーア海岸。

 総勢30名のプレイヤーがボスエリアに向けて行軍中だ。


「レイナさん、大丈夫ですか?」


 重々しいため息を聞きつけたのだろう。

 私より頭一つ分低い位置から声が掛けられる。


「ええ、大丈夫よ。ごめんね、心配かけて。」


 そう返すものの、こちらを見上げる少女のその幼い顔にはまだ不安の表情が浮かんでいる。


 彼女の名前はティア。

 外見年齢15,6歳の、短剣を腰に下げた少女だ。

 同じパーティーでIWのボス討伐に同行するパーティーメンバーでもある。

 彼女がボス討伐同行に志願したのを、私とアドリアが受け入れたのだ。

 私 個人としてはこんな小さい少女を巻き込むのは嫌だったのだが、アルフレイドにそれはお前も同じだろうと言われて大人しく引き下がるしかなかった。

 向こうからしたら私も子供と言う事なのだろう、実際大人からしてみれば17歳も15歳も変わらないのだろうが、少々やるせない気持ちにもなった。

 とは言え、ティアを連れていくしかないとなった今すべきことは、何かが起きたとしてもこの子を守ることだけだろう。


 ため息の原因…アルフレイドの傲慢さや魔神達への不安をとりあえず思考の隅に追いやり、ティアに微笑んで見せる。


「ティアこそ、気楽にいけばいいのよ。何かあっても私やアドリアさんが守ってあげるから。」


 私としてはティアの身を案じていったのだが、ティアは栗色の短髪をピョコンと傾かせた後、ぷくーっと頬を膨らませた。


「もう、そんな子ども扱いしないで下さいよ。僕だって自分の意志で戦いに来てるんですから。僕は僕にできることをするんです!」


 その言葉に、先ほど噴水広場で言われた言葉を思い出す。


『僕も最初は絶望してました。ゲーム攻略なんて僕にはとても無理だと。でも、ある人に言われたんです。自分にできることをすればいい、って。だから僕は戦います。自分一人じゃ何もできないかもしれないけど、それが僕にできることなんです!』


 ある人というのが誰なのかは分からないけど、その言葉を聞けば戦うことを止めるなんてできなかった。

 きっとこれは彼女にとって、絶対に譲れないことなのだろう。

 私が攻略を任せてカルカに籠っていることなんてできないように。


「はいはい、分かった、頼りにしてるわよ。」


 火が出そうな程目を爛々と輝かせ始めたティアの言葉を苦笑とともに流し、着々と進んでくプレイヤー達を見る。


 ボスに挑むIWのメンバーは4パーティーの20人。

 そして私たちの申し出で同行することになって非戦闘メンバーが10人。

 たった一体のボス、しかもバーサークボアと同程度の力しかないであろうボスには多すぎる戦力だ。

 慎重に戦えば初見でも十分IWのメンバーだけで対処できるだろう。

 それに――。


「アドリアさん、ここのボスの情報はもう掲示板に載せてあるのよね?」


「あ、はい。3日程前に偵察だけはしたので、知っている情報は全て掲示板に挙げてあります。」


 そう、既にここの最低限の情報は誰でも手に入れられる状態にあるのだ。


 ボスエリアは全面が深さ50cm程の水に覆われているため、常に行動にペナルティを受けながら戦うことになる。

 とは言えこれ自体はキーア海岸のエリアそのものが似たような地形のため気にするほどのことでもない。

 そしてボスそのものも、それほど警戒する必要はないと思う。

 ボスはライオンのような姿をして全身をサメの肌で覆った、通称海獅子。

 体高は2m程で、鋭い爪による引っ掻き攻撃と、大アゴの噛みつき攻撃がメインだそうだ。

 アドリアさんが得られる情報は序盤のみなので、HPを減らしていけば攻撃パターンも変わるのだろうが、少なくともバジリスクよりかは楽なボスだろう。

 というか、バジリスクの難易度がおかしすぎたと思われる。

 石化の邪眼により目を開けることもできず、触れたらすぐに毒に冒されるし、武器で攻撃しようと、腐食して使い物にならなくなる。

 明らかに序盤エリアで出て来るボスではなかった。

 その後にトロールが出てきたことからも、もしかしたら魔神らが関係しているのかもしれない。

 とにかく、今回のボスで危険があるとしたら、ボス討伐後だろう。

 何かことが起きた場合、私とアドリアさんが率先して対処しなければいけない。


 もし何も起きなかった場合は――。


「っ!?」


 視界の端で何かがキラリと光り、反射的に剣を抜きざまに斬りつける。


 真っ二つに斬れて視界の外に飛んでいったのは、おそらく矢だ。

 もちろんその矢はモンスターが射たものではなく。


「あれあれまぁ、悪い悪い。手が滑っちゃってよォ。」


 そうヘラヘラ笑いながら近寄って来たのは、小柄な体躯に猿のような顔をした男だった。

 その後ろではパーティーメンバーと思われる数人の男プレイヤーが、今倒したと思われるカニ型モンスターの側でニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。

 どうやらモンスターと戦っていたらうっかり流れ弾でこちらに矢が飛んできてしまった・・・ということにしたいらしい。

 

「はいはい分かったわよ。こっちも怪我とかはしてないから問題なし。許してあげるからさっさと戦闘に――。」


「しかしお嬢ちゃん方ァ。あんまチョーシ乗ったこと言ってるとボス戦でもうっかり流れ弾が当たっちゃうかもしんないぜェ?」


 関わりたくなかった私はすぐ話を終わらせようとしたが、言葉を遮られてそんなことを言われてしまう。


 チョーシ乗ったこと、とはまぁ要するにホラ吹き云々だろう。

 この弓使いも私たちの言う事を信用せずにちょっかいを出しに来たわけだ。


「ここはゲームだぜェ?魔神がどうとか、痛みがどうとか、そんなことあるわけねェだろうが。頭イッっちゃってんのか?」


 その言葉にアドリアがムッとして何かを言いだそうとするが、手で制す。

 こう言われることはある程度想定していたはずだ。

 ここで言い返しても、何かが進展する訳じゃない。


「別に信用してくれとは言わないわ。私たちはあった事実をそのまま伝えただけ。だからそれを信用して行動するのも、嘘だと断じるのもあなたたちの自由。それでも私たちは、あなたたちのリーダーに同行の許可を求めてそれを承諾してもらったの。ならあなたが文句を言う問題じゃないわ。私たちは勝手に警戒するだけ。だからあなたたちは遠慮なく力自慢に勤しみなさい。」


 相手の目を睨みつけながら言う。


 弓使いもこちらの目を見て不満そうに鼻を鳴らす。


「ケッ、随分と自信満々なこったァな。そんなに言うからには本当に今回のボス戦でなんかあるんだろうなァ?」


「さぁ、どうかしら。」


 先へ進むIWのメンバーからおい、行くぞ!との言葉が掛けられ弓使いが再び鼻を鳴らす。


「ここはゲームだ。レベルとスキルが全ての世界なんだよ。下らない戯言なんか言ってねェで大人しく強ェやつに従っておけ。」


「あらそう。ならそのお力存分に見させてもらおうかしらね。張り切って頑張るといいわ。無敵の戦士達(インビンシブルウォリアーズ)。」


 ケッ、と言いながら弓使いが歩いていく。


 少々気分が悪くなったものの、大事には至らなかったことにホッとしてアドリアの方を見る。


「…なんですかアレ。ほんとにあんな奴らがゲームを指揮できるんですか?ちょっと調子に乗り過ぎじゃないですかね?」


 …少々お怒りのようで。


「はぁ…。レイナさんはよくあんなのと会話できますね。私はレイナさんが止めなければ怒鳴っていたかもしれません。」


「ああいうのはまともに相手しても意味ないから、適当に流すのが一番いいのよ。まぁ確かに、イラッとする相手ではあったけど。」


 本当にあんなことを考えているプレイヤーが居るというのは、実際に目にするのと予想していたのでは随分勝手が違った。

 信用されないのは分かっている。

 突然突拍子もない話を聞かされてはいそうですか、と信用する馬鹿はいないだろう。

 しかしここまで毛嫌いされているというのは驚きだった。

 私たちは注意喚起をしているだけで、物理的に攻略の邪魔をしている訳ではないのだ。

 そのことにすら文句を付けて来るのは単純にホラ吹きが気に食わないだけか。

 それとも限りない馬鹿で自分たちの力を妄信してプレイヤー達の上に立ちたいだけなのか。


「それも、これからのボス戦を見れば分かること…か。」


 見極めなければいけない。

 自分達に任せておけばゲーム攻略は終わると豪語するアルフレイド達の力を。

 私達と共にゲーム攻略をしようと思う判断力があるかを。

 魔神達の目的を。


 そう決心して先を進むIWのメンバーを追いかけようとして、そういえば、とティアの方を見る。


「なんで…。」


「ん?」


「なんであんな偉そうなんですかあの人たちは!」


 …どうやら怒っているようだ。


「僕は、言い方は気に食わなかったけど意見自体には賛同してたんです!力を持っているから戦うという決意は素晴らしいと思いましたし、そのために多少の見返りを要求するのも仕方ないと思いました。でも、あれはなんですか!あんなの独裁者と一緒ですよ!」


「うん…。」


「あんな人たちにゲーム攻略を任せられるわけがありません!どんな力を持っていたって関係ないです!」


 揚々と歩く弓使いの背中を睨みつけながら毒づく。


 ティアも、傲慢なアルフレイドの演説には思うところがあったのだろう。

 今の弓使いの言葉も、要約すれば俺たちの邪魔はするなってことだ。

 ティアのこの性格を見る限り、怒っても不思議じゃない。


「ティアは…私たちの言う事を信じてるの?」


 YesかNo。

 簡単に答えられるだろうと思ったからこそ聞いたのだが、ティアは難しい顔をして睨みつけるのをやめた。


「ちょっと…信じがたい話ではありますよね。正直、最初聞いた時はどうせデマなんだろうって思いました。でも、実際にレイナさん達と会ったら、やっぱり本当なんじゃないかって思えてきて。100%信じてる訳じゃないですけど、それでも、レイナさん達を見ていると思うんです。この人たちは嘘なんか付かないんだろうなって。」


 そう言って、ティナは朗らかに笑う。


「まぁ、それでもちょこっと信じきれてない僕が言う事じゃないと思うんですけどね。でも、だからこそ、人の言う事を根本から否定するあの人たちのやり方は納得できません。」


「…そっか。」


 胸が詰まるのを感じた。


 彼らが信じていなくても、信じてくれている人はいるのだ。

 そう思うと、今までの自分の行いを肯定されている気がして、無駄じゃなかったんだと思わせられる。


「じゃ、行きましょうか。早くしないと遅れちゃいますよ!」


 無邪気な、けれどこちらを気遣う優しさを持った彼女の微笑みに、不覚にも涙が出そうになってしまった。


「ありがとう。」


「あはは、何言ってるんですか。お礼を言うのはこっちですよ。アドリアさんの情報も、レイナさんの活躍も、全部OOプレイヤー全員の助けになってるんです。だから、お礼なんて言う必要ありません。」


 本当に、よくできた子である。

 おっと。


「確かに、子供扱いなんてしてられないわね。」


「そうですよー、僕はこの世界でなら大人となんら変わりません!」


 ずんずんとティアが歩き出す。


 今日、ティアに会えてよかったと心の底から思う。

 そして、やっぱりこの少女のため、皆のために、できる限りのことをしていこうと思える。



 こうして、ボス攻略を目指すIWメンバー、そして私やアドリアさん、ティアを含む攻略組は、キーア海岸ボスゲートへとたどり着くのだった。



 

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