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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第29話 始まりを告げる音

 空気が裂けるような音を上げながら飛んでくる尻尾を拳で逸らす。

 それだけで毒状態に陥るが、全てを毒に包まれた拳が吸収し、武器へと変える。


 ふと思いついて実践した方法だが、やはり[毒付与(ポイズンエンチャント)]で敵の毒を防ぐことはできるようだ。

 副作用でどんどんと付与毒の強さも上がっているようだがバジリスクは毒にはならないだろうから意味はない。


「リュウ、行くわよ! [氷砲弾(アイスキャノン)]!」


 氷の塊が飛んでくる方向を察知し、俺が逸らすことで微調整しながらバジリスクの胴体へと命中させる。


「ギャアアオオ!」


「よし、どんどん行くぞ!」


 視覚に頼れないこの状況では、『仲間攻撃(フレンドリーファイア)』が一番怖い物になるため、察知系スキルがないプレイヤーは後方支援に回っている。

 後方から放たれる遠距離攻撃を俺たちがバジリスクへと逸らし、当てる戦法を取ったわけだ。


 そしてこの作戦に重要な、バジリスクのターゲットを一身に背負う役目は、ゴルムが担っている。

 見もせずに巨大なヘビの咢を逸らすことができるのはあいつくらいの物だ。

 俺もバジリスクの近くに立ち、尻尾や牙が振り回される音、後方から遠距離攻撃が飛んでくる音、そしてゴルムが凄まじい速度で大剣を振り回しバジリスクの攻撃を弾く音を聞きながら、少しずつダメージを与えている。


 正直言って、状況はかなり厳しい。

 少しミスをすれば、一瞬で戦線は崩壊するだろう。

 そしてこの先、激昂状態になった時にどうなるかは想像もつかない。


「シュアア!」


「っ! なんか来るぞ!」


 バジリスクが首をたわめ、何かを射出する。

 塊が飛んでくる気配はない。

 放射状に算出されるそれは――。


「ゴルム! 霧だ!」


「了解! [突風(スコール)]!」


 ゴルムの魔法によって発生した風が毒霧を吹き飛ばす。


「ジュアア!」


 そこにできた隙を狙ってバジリスクがゴルムに噛みつこうと躍りかかるが――。


「読んでるっつの!」


 間に滑り込んだ俺が殴り飛ばして逸らす。


「サンキュー、リュウ!」


「ああ」


 手短に応答し、暗闇の中バジリスクの気配に向き直る。


 

 ふざけるな、なんだこれは?


 相手の目を見たら石化する?

 そんなゲームが存在していいのか?


 状態異常だというのならまだ分かる。

 一定の間動くことができないというのなら他のゲームにもあるだろう。

 だが今回の件は違う。

 行方不明になったプレイヤーは2日前から行方不明になっているのだから、最低でも1日以上は石化したままだということだ。


 そんなゲームが存在していいのか?


 アドリア達は、このバジリスクを倒さなかったらずっとこのままなのだろうか。

 いや、バジリスクを倒したとして、石化は解けるのだろうか。

 分からない、何もかもが。

 元々のオリジナルオンラインというゲームの仕様なのか?

 はたまた、魔神が関わっているのか?


 そもそも奴らは何なんだ?

 

 全てを知っていると思えるのは――女神ライラだけだ。

 敵か味方かも分からないが、あいつに会えれば全てが分かるのだろうか。


「……くそっ」


 闇の中で無限に続きそうな思考に嵌っていた俺を現実に引き戻したのは、わずかな、それでいて決定的に致命的な音だった。

 

 唐突に響く、何かが折れる音。


「え?」


 わずかに遅れてガラン、という、平たく重い金属が地面に落ちたような音がした。


「あはっ、やっば」


 ポツリとゴルムが呟き、次の瞬間に吹き飛ぶ。

 HPが一気に7割は減り、エリアの端に叩き付けられた。


「ゴルム!」


 駆け寄ろうとして、何かを踏みつけた。

 硬い何か……剣?


「剣が折れたってのか……?」


「リュウ! 前!」


「っ!」


 隙のできた俺を噛み砕こうと迫ってくるバジリスクを、ギリギリで受け止める。

 牙から毒液が垂れ、地面を溶かした。


「溶解毒……!? 剣を溶かされたのか!」


「ライトヒール!」


 後方支援のメイジの一人が駆け寄り、ゴルムにヒールをかける。


「シャアアアア!!!」


 バジリスクが頭を引っ込め、とぐろを巻き始める。


「全員防御! [放撃]!」


 叫んだ直後、バジリスクが高速回転し、凄まじい速度で尻尾が薙ぎ払われる。

 全方向に衝撃が巻き起こり、周囲のプレイヤーが散り散りに吹き飛ばされた。


「くそっ、連携が……」


 俺のHPはしっかり[放撃]で防いだおかげで2割程の減少に留まった。

 だがゴルムは大剣を失いヒール中、プレイヤー達は散り散りに吹き飛ばされ、邪魔をする者が居なくなったバジリスクは――。


「おい! 石化した奴らが壊されちまう!」


 誰かが叫んだ。

 バジリスクは一直線に石化したプレイヤー達へと向かっていき――。


「や、やめろおおお!」


 一番手前にあった石像を飲み込んだ。


「な……飲んだ!?」


 石化した像を飲み込む。

 その行為に一体どんな意味があるのか、全く分からない。


 バジリスクは更に前進を続け、もう一人も飲み込もうとしたところで――。


「ふ、なろぉ!」


 ワープして間に割り込んだショウマが、大槌を薙ぎ払いバジリスクの牙を弾く。


「ちっ、硬くなってやがる!」


 石化したプレイヤーを飲み込んだ副作用だろうか。

 となると、石化したプレイヤーを最優先で守らなければいけない。

 ゴルムは実質リタイアだ。

 武器を持たない以上、戦うことはできない。


「全員! あんま長く戦ってたら武器がボロボロになっちまう! 短期決戦で行くぞ!」


「おう!」


「了解!」


 プレイヤー達の応答を聞きつつ右腕に力を込める。

 同時、周囲のプレイヤーも次の一撃に全力を注ぐべく構える。


「3,2,1! [氷牢獄(アイスプリズン)]!」


[麻痺光(バラライズライト)]!」


「[闇の緊縛(ナイトバインド)]!」


 レイナの掛け声とともに複数のプレイヤーがスキルを使う。

 魔法がバジリスクへと届いた瞬間、確かに巨体の動きが停止した。


「今だ! [発勁・大蛇(オロチ)]!」


「[大震撃]!」


「[氷槍の雨(リオートジュビア)]!」


「ジュラアアアア!」


 動きの止まったバジリスクに、全員の全力攻撃が降り注ぐ。

 轟音が響き渡り、周囲の状況が感じ取れなくなる。


「やったか?」


 誰かが呟く。

 全員が息を殺して状況を探っていると――。


 ――何かが爆心地から飛び出してきた。


「ふん!」


「オラァ!」


 俺とショウマが回り込んで受け止める。

 だが次の瞬間、その何かはボロリと崩れ落ちた。


「な!?」


 驚愕に声を上げると、その声に重なるようにしてもう一つの何かが別の方向へ向けて飛び出す。


「そっちが本体か!」


 先程の倍近い速度で移動するバジリスク。

 一回り小さくなったらしい身体で素早く後方支援のプレイヤー達の元へと突き進んでいく。

 それを追おうとした――直後。


「イェアアアアアアア!!」


「なっ……!」


 喉の奥から絞り出すような、甲高い声。

 思わず耳を手で覆うが既に遅く、キーンという耳鳴りが聴覚を封じられたことを証明していた。

  

「俺のスキルを理解して……!?」


 止まらない耳鳴りの所為で、バジリスクの居所が感知できない。

 向かっていたのはレイナ達が居た方だ。

 死んだら何が起きるか分からない状況でレイナを死なせるわけには――。


「くっそおおおお!」


 覚悟を決めて、目を開く。


 隣に居たショウマが慌てたように走っている。

 もう既に[背後転移(バックワープ)]の圏外に居るらしくワープすることができていない。


 俺とショウマが受け止めたのはバジリスクの抜け殻のような物だった。

 トカゲが尻尾を切って囮にするように抜け殻を操ったのだろう。


 そして前方には脱皮して一回り小さくなったバジリスクが、やはり激昂状態に入ったのだろう、赤いオーラを立ち昇らせながら素早く一直線に進んでいる。

 そしてその先には目を瞑り、状況が分からず戸惑っているレイナ達の姿があった。


「止まれえええええ!」


 走り出しながら右腕を目いっぱい引く。

 右腕に装備した腕輪が淡く光りだす。


 これは昨日のうちにラナに作ってもらった腕輪だ。

 大イノシシからドロップした『暴獣の紅玉』が使われている。

 それにより取得したスキルは言うまでもなく――。


[突進(チャージ)]!」


 体が見えない何かに押されるように加速する。

 激昂状態のイノシシ程ではないが、ショウマを軽く抜き去る程の速度でバジリスクに追い付き――・


 ――バジリスクが、待っていたとばかりに振り向いた。


「なっ……」


 眩しいほどの日光の中で、怪しく光る一対の眼。

 それを認識した途端、体が動かなくなった。


 石の膜が体を覆いだし、だんだんと意識が薄れる。


 これで、終わり?

 俺の負け?


 ふざけるなよ、まだこいつを殺してない。

 まだライラに会ってない。

 こんなところで、こんな形で――。


「――終わらせられるかよ!」


 凍り付いたように動かなかった足を一歩踏み出す。

 瞬間、石の膜が砕け散り、体に自由が戻った。


[両手直拳(シンクロストレート)]!」


 油断して無防備になっているバジリスク、その両目に拳を叩き込む。


「ギャアアアア!」


「……っ! どうだよ!?」


 何が起きたのか、呆然と両手を眺めてみても、石化の気配はない。

 いや、確かに俺は石化し始めていた。

 身体が動かなくなるのを確かに感じた。

 なのに、無我夢中で足を踏み出したら身体を覆っていた石が砕けて――。

 

 ――いや、そんなことはどうでもいい。

 重要なのは俺が石化を免れたこと。


 そして――。


「両眼を……潰したぞ」


 バジリスクが、目から血を滴らせながら身体をのたうち回らせていることだ。


 これでもう石化は効かない。

 全力で戦える。


「全員! もう眼は開けていい! 全力で行くぞ!」


 俺の言葉にプレイヤー達が恐る恐る眼を開け、のたうち回るバジリスクを見て歓声を上げる。


「さすがだな! リュウ! ってうわ、大丈夫か!?」


 思わず座り込んだ俺に、ゴルムが慌てたように駆け寄ってくる。


「ああ……ちょっと疲れただけだ。まだ戦闘は終わってないぞ」


「分かってる! 剣ないけど、俺も戦ってくるよ!」


 ゴルムはそう言って、ドタバタと駆けて行く。

 まだ毒が消えたわけではないので攻撃したら毒を食らうだろうが、大丈夫なんだろうか。


「おう、レイナ」


 入れ替わるように駆け寄ってきた女剣士に声を掛ける。

 ずっと目を瞑っていたからか、こうして再びレイナを目にできることが言葉にしようもなく嬉しいことに感じられた。

 勿論、口には出さないが。


「随分無茶したのね。顔、真っ青じゃないの」


「はは、ちょっとはしゃぎすぎたかな。ま、ゲームなんだから無茶してなんぼだろ」


 レイナの差し出してきた手を取り、立ち上がる。


 気を張った所為か、石化し掛けた反動か、どうしようもなく身体が重いが、戦えない程ではない。

 

「とりあえず、奴を倒そう」


「ええ、そうね」


 顔を見合わせて視線を交換し、バジリスクへと向き直る。


「無事で良かった」


「……そっちも」






 そうして再開されたボス戦だが、石化能力を封じられたバジリスクなど、突進をしてこない大イノシシのようなものだろう。


 大きな攻撃を食らうことなく、着々とダメージを与えていく。

 無論、腐ってもボスだ。

 一撃一撃は重く、速く、橙大蛇よりも強い。

 激昂状態になったことによって体中から溢れ出す毒液も攻略難度を上げている。


 だが、今の今まで眼を瞑った状態でこいつと戦っていたのだ。

 視覚という新たな情報を得られる今、負けるはずはなかった。


「もうすぐだ! 動きも鈍ってきてるぞ!」


 バジリスクの撒き散らす毒もしっかりと無効化できている。

 潰した目が回復するような兆しもない。


「ギャアアアアアア!」


「っ!」


 バジリスクが奇声を上げ、狂ったようにのたうち回る。


「よし、ラストだ! 抑えるぞ!」


 ゴルムが叫ぶ。

 間違いなく最後の一撃。

 これを乗り切れば俺たちの勝ちだ。


「ギュルオアアアア!」


 ズズズズという気味悪い音と共にバジリスクが地面へと潜っていく。

 そしてずんずんと地中深くへと進む。


「何が来る? 逃げたわけじゃないよな。」


 恐らく、バジリスクは地中からでも俺たちの位置を感じ取れるだろう。

 そして、逃げた訳でもないのは確かだ。


 俺の耳はしっかりと、地中深くで蠢き、少しずつ地上へと上がってくるバジリスクの音を捉えている。


「レイナ、気を付けろよ」


「ええ、分かってる」


 ぐるぐると、ボスエリアを取り囲むように回転しながら上昇して来るバジリスク。

 そして――。


「グリュアアアアア!」


 バジリスクが地中から飛び出す。

 同時に、俺達の周囲から毒液が吹き上がった。


 バジリスクに纏わりつくように吹き上がった紫色の液体。

 凄まじい量のその毒は数秒後に落下を始め、俺達へと降り注いでくるだろう。

 そして回避する暇もなく、バジリスクがその口を大きく開けて落下してくる。


「リュウ! 毒は任せた! ショウマ!」


「おう!」


 ゴルムがショウマに向かって大きく跳ぶ。

 そのゴルムを迎え撃つように、ショウマが大槌を大きく振りかぶった。


「[大旋槌]!」


「いっけぇええ!」


 ショウマの持つ大槌、その打面に両足を付けたゴルムを、ショウマが思い切り吹き飛ばす。

 方向はもちろん、落下して来るバジリスクに向けてだ。


「[風刃生成・旋風剣]!」


「[威圧・ドーム]!」


 降り注ぐ毒液を、俺達を中心として展開させた威圧(オーラ)で防ぐ。

 そして風の大剣を生成し、両手に握ったゴルムが宙を舞い――。




「アー」




 ズン! と鈍い音が辺りに響き渡った。

 ゴルムとバジリスクが交錯した音ではない。


 バジリスクのちぎれた首が、地面に激突した音だった。


「……は?」


 突然空中に現れた何か。

 それから発散された粘つくような殺気を感じ取れた者は、一体何人居ただろうか。


 一番最初に動いたのはゴルムだった。


 バジリスクへと飛んでいた軌道のまま何かに接近し、両手に持つ大剣を薙ぎ払おうとした。


 だが振り下ろされた無骨な棍棒はゴルムの大剣をへし折り、そのままゴルムをも地面に叩きつけた。


「ゴルム!」


 轟音と共に、何かが着地する。


 太い緑色の足。

 薄汚れた腰巻。

 ぶよぶよとした肉に覆われた3mを超える巨体。

 そして手に持つのは荒削りの巨大な棍棒。


「こいつは……!」


 あの時の光景を思い出して、背筋が冷たくなる。


 大イノシシを倒し、魔神が現れた時のこと。

 覚悟はしていた、こいつが現れることも頭には入れていた。

 だが、実際に直接相対するとあの時の魔神の殺気が蘇る。


 自分がまるで、プレス機の間に挟まっているかのような感覚。

 相手がその気になればすぐ自分を殺せるだろうという確信。


 あの時、魔神と共に居た異形の怪物。


「トロール……」


 誰かが呟いた。

 動ける者は誰もいなかった。


「アー」


 気付けば、トロールが手に持つ巨大な棍棒を振り上げていた。

 最も近くに居たプレイヤー、レイナに向かって。


「あ……」


 咄嗟にスキルを使うことも、トロールに攻撃をすることもできなかった。

 レイナを押しのけて間に入ることしかできなかった。


 俺は、巨大な棍棒に叩き潰されて死んだ。



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