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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第28話 ヘビの王

「ひっ! ヘビ!」


 時刻は10時20分。

 現在はのんびりと下層を行軍中である。


「ちょっ、来ないで! リュウ、潰して!」


 三十人もの大人数で山登りをするのだから急ぐのは危険だ。


 そしてボス戦前の緊張感を忘れてはならない。

 誰一人欠けることなく堅実に進む必要がある。


「きゃああっ![氷散弾(ショットガン)]!」


 俺のパーティーは俺とレイナ、ゴルム、アドリア、ショウマ、カリスだ。

 なんだかんだで知ってるいるもの同士でパーティーを組んでしまったため、まだあまり攻略組の顔すら覚えることができていない。

 あちらさんも、日々の攻略や大イノシシ討伐で顔見知りが増えているだろうし、俺も乗り遅れないようにしないといけないのだろうが。

 

「ふぅ、倒したわ。ってひぃぃ! 音で新手がああ!」


「あああうるさいな! 一人で何をやってんだお前は!」


 隣に居たはずの山吹色の髪がちょこまかと動き回っているのを若干苛立ちながら眺め、それを追いかけていたヘビを呆れと共に潰す。


「だって! しょうがないじゃない! 怖いものは怖いのよ!」


「そうですよリュウ。女性がヘビを見て怖がるのは仕方がないことなんですから、少しは大目に見てください」


 軽鎧に包まれた胸を偉そうに張るレイナと、それを援護するアドリア。


「……はぁ。ゴルム、なんとかしてくれ」


「俺は知らない。レイナさんを守るのはリュウがやればいいんだよ。本人だってそれを望――」


「はいはいゴルム君。ちょっと黙って」


 何か言い出したゴルムの口をレイナが引っ張って止める。

 いつの間に打ち解けてたんだ、お二人さん。


「はっは! 全員ボス戦前だってのに緊張感ゼロだな! ちょっとは集中しやがれよ!」


「お前が言うな、ショウマ」


 まぁこのメンバーで一言も喋らないってのが無理な話か。

 アドリアの隣に居るルークだけは無言で歩を進めているが。


「あ……」


 アドリアが呟くと空を見上げる。


「雨……?」


 俺も釣られて見上げると、ぽつぽつと小さな雨粒が落下しつつあった。


 OOでは特殊なステージ――雪原や火山など以外では、基本的に天気はランダムに決まる。

 サービス開始初めての雨が今日になったわけだ。

 すぐにザーザーと降り始めた雨の中、レイナが嬉しそうに顔をほころばせる。


「いいわね。雨が降れば水が増えるし、私の魔法も威力が上がるもの」


「そうですね。この雨音ならサルの斥候にも気づかれにくいでしょうし、遠くも見通しにくくなると思います」


「俺の聴覚が機能しなくなるからそこは勘弁してほしいな。あとレイナ、ボスゲートは雲の上だから晴れてるぞ」


「あ……」


 とまあこの調子で、のんびり行軍は順調に進んでいった。







「あ、雲を抜けましたね」


 ゴルゴ山に入って30分は経っただろうか。

 中層はアドリアが[隠密行動]でサクサクと斥候を倒してくれたことで、実にスムーズに進むことができた。

 そうして俺達はサルの大群に遭遇することもなく、雲の上、上層へと到達することができた。

 太陽の光に照らされた山道、その頂上にうっすらとボスゲートの影が見える。


「ここからはでかい鳥が出てくる。稀に火を吐いてくる奴もいるから気を付けろ。あと崖から転落したりもしないようにな」


 ゴルゴ山には結構な数の崖がある。

 登るだけならさして気にする必要もない崖だが、戦闘に気を取られていると転落の可能性も出てくる。

 落ちたらまず落下ダメージで死は避けられないだろう、注意していくべきだ。


「分かりました。各自、パーティーごとに行動し、怪鳥の排除をお願いします。最低でも三人以上で一匹を抑えるようにしてください。守りを意識して、絶対に死なないように」


 アドリアのその言葉で各パーティーごとに散らばっていく。


 次々と怪鳥が降りてくるが、気合を入れれば俺とレイナの二人だけでもあれだけの数を相手にできるのだ。

 30人もいれば苦労することは何もない。

 一人だけ、尻尾の直撃を受けたプレイヤーが居たようだが、回復魔法で大事には至らなかった。


 そしてついに、ゴルゴ山のボスゲート前に三十人の攻略組全員が揃うことができた。


 最初にアドリアと下層で出会ってから、中々時間がかかったものだ。

 掲示板では攻略は後回しにした方がいいと言われていたが、なんだかんだ言ってこうしてボスに到達することができている。


 ゲートの前にアドリアが立った。


「言うことは、もう全部言いましたしね」


 そう言って、プレイヤー全員を見渡す。

 その目が待機役のルークを捉え、アドリアが強く頷いた。

 それには無反応なルークだったが、こいつはやることはしっかりやるだろう。

 心配することは何もない。


「じゃ、行きますか」


 そんな軽い言葉と共に、俺達はボスゲートへと入っていくのだった。








 ボスエリアに入った瞬間、違和感を感じた。


 そこは直径百メートル程の台地だ。

 ここは雲の上なのだろう。

 雨は降っておらず、太陽の光が台地一面を照らしている。

 そしてエリアの中央付近、二本の細長い岩あった。

 長さは丁度人間と同じくらいだ。


 遠目だとよく見えないが、あれは一体なんなのだろうか。


「ボスはどこだ?」


 後から入ってきたプレイヤーがばらばらと辺りに散らばり、武器を構える。

 平らな台地には何もいない。

 ――いや。


「なんだ? この石像」


 ボスエリアに入って程なくしたところに、もう一つ細長い岩――いや、石像があった。

 気づかなかったのは、それが余りにも人の姿にそっくりだったからだ。



 ――まるで、人そのものを石化させたかのように。



「もしかしてこれ……フウマさんじゃ……」


 アドリアが呟く。


 その時になってようやく気付いた。

 エリア中央に立つ一対の岩も、人型をしていることに。

 ――台地の地下から、巨大な何かが近づいてきていることに。


「敵が来るぞ! 地面からだ! 全員構えろ!」


 戸惑いながらも武器を構えるプレイヤー達。

 地面から何かがだんだんと近づくのを耳で感じ取りながら考える。


 消えた2人のプレイヤー。

 ゴルゴ山のモンスター。

 ボスの情報を手に入れようとしたプレイヤーの失踪。

 ボスエリアの3つの石像。


 これらが示す答え。


「まさか――!」


 その答えが出ると同時に、隣に居たゴルムが叫んだ。



「全員、目を瞑れ!」



「えっ……?」


「ギャアアアアッ!」


 地面から緑色の鱗がほんの少し出てきた瞬間、慌てて目を瞑る。

 少し遅れて地面が割れ、巨大なモンスターが宙に身を躍らせ、轟音と共に着地したのが分かった。


「シュルルルルル!」


 嫌な予感をひしひしと感じつつ、必死に耳で周囲の様子を確認する。


「おい……マズイだろ……これ」


 両隣に居たゴルムとレイナ、詳しくは分からないがその他にも無事なプレイヤーが居るのは確認できた。

 だが、アドリアやカリスを含む、ボスエリアに入った大半のプレイヤーが、ピクリとも動かなくなった。

 そのことが一層、俺の予想を確固たるものへと裏付けしていく。


 爬虫類が多く生息するゴルゴ山に出現するボス。

 プレイヤーを『石化』させることができる能力。

 そして前方でズルズルと蠢く太く長い生物。


「フリュルルルアァァ!!」


 その叫びだけでHPが少しずつ削れていく。


「はっ……冗談きついな」


 その生物については諸説ある。

 

 説によっては、その生物は八本足を持っていたり。

 説によっては、触れただけで猛毒に侵されたり。

 

 だが、どの話に置いても、一つの共通点は存在する。


 曰く、その生物と視線を合わせただけで石化する、と。


「……レイナ、絶対目を開けるなよ。奴と目が合ったら終わりだ」


 

 その生物の名はバジリスク。

 空想上の生物であり、ヘビの王とされている。

 







「うわあああああっ!」


 バジリスクが動き出したのだろう。

 前の方まで行っていたプレイヤーの叫び声で我に返る。


「くそっ、ゴルム! 目瞑ったままでも戦えるか!?」


「そりゃ完全に視覚頼りってわけじゃないけど……ああ、もう! とにかく止めてくる!」


 ゴルムが前方へ向けて走り出す。


「ちょっと! どういうこと!?」


「俺も分からないけど、とにかく落ち着くぞ! 気を抜いたら一瞬で全滅だ!」


『もしもし、聞こえますか!?』


 動揺を隠せない俺達の頭を冷やすように、一人のプレイヤーの声が響く。

 音の出どころは俺の右に装備している指輪だ。

 紛れもなく、外に待機しているプレイヤーからの言葉だろう。


 スキル[情報伝達]は、媒体となるアイテムを持ったプレイヤー複数人と会話ができるというスキルで、他のエリア同士でも会話ができるスキルだ。

 彼と通話ができるのはアドリアと俺で、媒体となる指輪を右の指に装備している。


「ああ、聞こえてる!」


『良かった! 突然アドリアさんとの通信が途絶えてしまったからどうしたのかと! 状況は!』


「最悪だ! ボスはバジリスク。不意を突かれて大半が石化させられたちまった! 目を瞑ったままなら何とかなるけど――!」


『――! バ、バジリスクですか! 目を瞑ったまま戦うってそんなの――』


『――おいリュウ。増援は要るのか?』


 焦りを募らせるプレイヤーの声を遮るようにして、ルークの声が届く。

 どこまでも冷静なその声。

 ルークの言葉に俺は目を瞑って状況を整理して、口を開く。


「……いや、駄目だ。今ここに来てもあまり状況が変わるとは思えない。カルカに情報を伝えて、何かあるまで待機していてくれ」


『……分かった。なら勝て。ゲームのボス一匹、とっとと倒して帰ってこい』


 その言葉を最後に、通信が切れる。


「……了解」


 石化せずに生き残ったプレイヤーは10数人といったところか。

 既に暴れ始めているバジリスクをゴルムを含む数人でなんとか食い止めている状況だ。


 視覚なしで受け取れる情報は少ない。

 その少ない情報から相手の挙動を察知し、回避し、攻撃を加えて行かないと勝つことはできない。


「レイナ、覚悟はできたか?」


「とっくにできてる。私はそこまで察知能力は高くないから、あまり前には出ない様にするわね」


「分かった。行くぞ!」


 走りながら[毒付与(ポイズンエンチャント)]を掛け、轟音のする方へと突っ込む。


「[爆裂毒拳(ヴェノムエクスプロージョン)]!」


 紫の光を帯びた拳を、バジリスクの胴体に叩き込む。


 こうして、ゴルゴ山の決戦は始まった。



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