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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第27話 偵察の結果

 フウマは一人、暗い森の中を突き進む。


 時刻は22時。

 周囲はすっかり闇で覆われ、全くプレイヤーの影はない。


「ここらから中層か」


 空気が変わったのを感じ取り独り言ちる。


 フウマは昼間、2PT程のパーティを組み、リーダーとして行方不明者の捜索を行っていた。

 中層のサルの集団に襲撃されたおかげでパーティは壊滅し、行方不明者の発見に至らないまま捜索は打ち切りになってしまった。

 ゴルゴ山の入り口で出会った何やら雰囲気の違う、丸腰の青年と、山吹色の髪の女剣士を捜索隊に引き込めていれば結果は変わったかもしれないが――それは考えても栓のないことだ。


 カルカに戻り暫くすると、情報屋のアドリアさんから、ゴルゴ山のボスゲートが見つかったという報せが届いた。

 情報源は明かされなかったが、考えるまでもなくあの二人だろう。


 明日の10時からゴルゴ山の討伐のための攻略組を募集すると言っていたが――今フウマはゴルゴ山を疾走している。

 それは何故か。

 ボスの情報が全くないのだ。


 アドリアさんは、懸念があるのだと言っていたが、フウマからすると正気の沙汰とは思えない。

 十分な情報もあって挑んだ大イノシシ戦でさえ、たった6人しか生き残ることができなかったのだ。


 ――同時期に挑んでたった二人だけで大イノシシを討伐した謎のペアもいるという噂もあるが、そんなものはデマに決まっている。


 少なくとも、フウマは何かしらの情報が必要だと考えていた。

 だから今、頂上へ向けて走っている。


「キッ!」


 頭上に潜んでいた一匹のサルが鳴き声をあげる。

 だがどうやら気付かれたわけではないようだ。


 スキル[影歩(シャドウステップ)]。

 隠蔽力はアドリアさんの[隠密行動]程ではないようだが、ここら辺のサルにならば気付かれずに通り過ぎることができる。

 [隠密行動]と違って、移動するときにスピードが落ちないのがメリットだ。

 このスキルを使えば、ボスゲートまで到達できる、そうすればボスの姿も、特徴も、攻撃パターンも分かるのだ。


「アドリアさんは何を考えているんだか……」


 呟くが答える声はない。

 フウマは一人でゴルゴ山に入っている。

 [影歩(シャドウステップ)]は個人にしか使えないのだから当然だが。


 サルの存在に十分注意しながら走る。

 時折サル以外の何かの気配も察知するが、今は無視だ。

 未発見のモンスターである可能性はあるが、ボスの確認の方が優先的である。


 脇目も振らず走り続け、結局一度も戦うことがないまま、密林を抜けることができた。


「上層到達か。ったく、無駄に人なんか集めないで最初っからこうしてりゃ良かったんだ」


 ぼやきつつも走り続ける。

 既に頂上にゲートは見えていた。

 情報通り、上層はそこまで広くないようだ。

 ただし――。


「ギャアア!」


「くっ!」


 ギリギリで気付いて横に転がる。

 直後に元居た位置を飛来した黒い生物が通過していった。


 少し離れた場所にその生物が着地する。

 緑色に怪しく光る黒い鱗。

 3mはあろう巨大な体躯。

 間違いなく、情報にあった怪鳥だろう。


「ちっ! [影歩(シャドウステップ)]もバレんのかよ!」


 起き上がって素早く背中から刀を抜き、構える。

 フウマも攻略組の一員である。

 怯むことなく突進し、太い首を切り落とそうと斬りつけたのだが――。


「ギャオオ!」


「ぐっ!」


 難なく弾かれ、同時に太い尻尾で薙ぎ払われた。

 凄まじい衝撃に息が止まり、そのまま転がる。

 

「くそっ、デタラメすぎるだろうが!」


 更に2体の怪鳥が舞い降りる。

 時間が経てば更に増えるだろうと直感し、焦る気持ちを抑えながら必死に考える。


「倒すのはまず無理か。だがここで帰ったらここまできた意味がねぇ!」


 目指すのはあくまでボスエリア。

 わざわざ立ちはだかる敵すべてを倒す必要はない。

 そう判断し、フウマは強行突破を図る。


「うおおおおっ!」


 刀を構えて斜面を駆け上がる。

 振り下ろされる嘴を紙一重で躱し、怪鳥の股を潜り抜ける。

 続いて他の個体から繰り出された嘴の攻撃を刀で受け流す。

 

[煙幕(スモーク)]!」


 隙ができたところで走りながら詠唱していた魔法を発動。

 フウマを中心に膨れ上がった煙が、傍に居た怪鳥もろとも周囲を包み込んでいく。


「よし、鳥どもは全部煙の中だ、このままゲートまでいける!」


 元々フウマはスピード型だ。


 走り続け、すぐに煙から出る。

 ゲートはもうすぐそこにある。

 だが勝った、と気を抜いてしまったからか、それに反応するのが遅れた。


「ギャアアオ!」


 飛来した一匹の怪鳥が、速度を減速することなく地面に激突。

 咄嗟に躱したものの、呆気にとられて動き出すことができなかった。

 土埃に紛れて怪鳥の尻尾が薙ぎ払われ、空気が裂けるような音ともにフウマは吹き飛ぶ。


「ぐっ……!」


 受け身も取れずに壁に叩きつけられる。


「ここまでか……? いや!」


 諦めかけたところで、フウマは気付いた。

 自分が叩きつけられた壁が、ボスゲートそのものであることに。


「はっ、助かったぞ。俺の勝ちだ!」


 フウマは叫び、迷うことなく揺らぐボスゲートの膜に触れた。





 転移した先は、何もない台地。

 大小さまざまな石が転がった、直径100mはありそうなフィールドだった。

 そして眼下には真っ白い雲が広がっている。

 ここは恐らくゴルゴ山の頂上という設定なのだろう。



 気になるのは台地の中央付近。

 見慣れない細長い岩が2本、地面から伸びていた。


「――なんだあれは?」


 近づこうとするフウマ。

 だがボスエリアでそんな悠長なことをしている暇もなかった。

 ゴゴゴゴゴ、と地響きとともに台地が揺れる。

 立っていることすらままならず慌てて地面に手を付いたフウマを他所に、地面から巨大な生物が姿を現す。


「フリュアアアアッ!」


 奇怪な鳴き声と共に地面から飛び出した何かが轟音と共に着地する。

 ゆっくりと視線を上げたフウマは、地面から順にその巨躯を視界に入れることになった。


「シュルルルルル!」


 触れるだけで切れそうなほど鋭い尾。

 ぬめぬめと光る尖った緑色の鱗で覆われた身体。

 大の大人が両手で抱え込めないほどの太さを持った胴。


「ボスはヘビか! この情報だけでも持って帰れれば対策は――」


 ボスの正体を認識したフウマは思わず叫ぶ。

 だがその途中で、誰も居ないボスエリアに響いていた声は途切れることとなった。

 

 ――当然だ。

 それがこのボスの能力なのだから。


 フウマが最後に見たのは、宙に浮かんだ一対の黄色い目玉だけだった。


 大蛇は闖入者が呆気なく動かなくなったのを見ると、何もなかったかのように地中へと帰っていくのだった。







「また一人、行方不明になった?」


 朝早くから、半ば習慣となりつつあるゴルムとの決闘をしていたところに乱入してきたアドリア。

 彼女からもたらされる情報に、俺は思わず聞き返してしまう。


「はい……刀使いのフウマという方です。昨晩、ボスゲートが見つかったからボス討伐に参加してほしいと言ったのですが、まだボスの偵察はしていないと言ったら少々憤慨してしまいまして……」


「自分でボスを確認に行ったってのか……」


 思わずため息を吐く。

 独断行動の結果への呆れ。

 これからのことへの焦燥と恐怖。

 そしてあの時ボスに挑まなくてよかったという安堵。

 それらがごちゃ混ぜになって、俺の胸中を掻き乱す。


 一体、何が起きていると言うのか。


「彼は隠密スキルの所持者です。ボスエリアまで辿り着けてもおかしくないのですが……」


「そこから帰ってきていない――と」


「すいません、私がしっかり状況を説明できていれば……」


「いや、アドリアのせいじゃない。俺だって確実に危険があると思ってたわけじゃないんだしな……で、どうするかは決めたのか?」


「はい、日程は変わらず、今日挑むことにしようと思います。ただ、三十人全員で突撃するわけではなく、数人はボスゲートの外に待機させようかと」


「なるほどねー、確かに全員で突入して同時に罠にでも引っかかったら意味ないしね。メンバーは?」


 話を聞いていたのか、ゴルムが割り込んでくる。


「リアルタイムで通信できるスキルを持ったプレイヤーが一人と、回復魔法持ちのプレイヤーを一人、それと――」


「――俺だ」


 俺とゴルム、アドリアが向かい合う場に、巨大な盾を背負った新たな闖入者が姿を現す。


「おー、ルークじゃん。ボス戦に参加する気になったんだ?」


「……一人欠員が出たからと頼まれたから協力するだけだ。ボスゲート前で鳥を抑えるだけなら、さほど苦労もしないだろうしな」


 相変わらず無愛想なルークは不機嫌そうに言う。

 大イノシシ戦をご一緒したらしいゴルムは気にすることもないようだが。


「お前達がどうなろうと知ったことではないが、頼まれたことはしっかり遂げてやる。お前達もせいぜい、力を尽くすことだな」


「ははっ、任しときなって。あ、でも、ヤバかったら援護よろしく」

 

「ふん」


 鼻を鳴らすルーク。

 不機嫌そうに見えるがこれが普通なんだろうか。


「よし、アドリア。そろそろ広場に行こう。もうすぐプレイヤーが集まってくる時間だし作戦会議を――おーい、アドリア?」


 ルークが現れてから無反応だったアドリアに手を振る。

 ぽけーっとルークを眺めていたアドリアはびくっと体を震わせると、何事もなかったように微笑を浮かべた。

 ちょっと引き攣っているのだが。


「す、すいません。そうですね、そろそろ移動しましょう!」


 慌てて逃げるように背中を向けて歩き出すアドリア。

 うーん、この慌てようとタイミングからして……そうなんだろうなぁ。

 アドリアも立派な女性ということか。


 ちらりとルークを見やるが、全く気付いていないようだった。

 よりによってこのガードの硬い男が相手か……アドリアも大変だなぁ。


 ため息を吐きつつ、俺達は慌てすぎて躓いたアドリアの背中を追いかけるのだった。







「皆さん、今日は集まっていただきありがとうございます」


 時刻は9時45分。

 少々早いが、皆がかなり早く揃っていたこともあり、予定を早めて開始することにした。


 いつも通り噴水の縁に立つアドリアは、先程までの慌てようはすっかり消え去り、凛々しいお姿に戻っている。

 ちなみに俺の脇には、藍色の大剣を構えたゴルムと、未だパーティ組んだままのレイナの姿があった。

 ここにいるプレイヤー全員が、アドリアが選んだ精鋭であり、イノシシを討伐した実力者であるらしい。

 全く人が居るところで活躍したことのない俺やレイナも、アドリアに誘われたことでここに居るわけだ。

 変に活躍して二つ名を頂戴することだけは避けたいのだが。


 ちなみになんだかんだ言ってショウマと、光線銃使いのケイゴの姿もある。

 あいつらはかなり積極的に攻略に参加しているらしい。

 なんで最初から真面目にやらなかったんだと突っ込みたくなるが、それは置いておこう。


「事前に説明した通り、今回のボス戦は通常の戦いとは全く異なるものになることが予想されます。最初に行方不明になった二人に加え、今朝もう一人の行方が分からなくなりました。これがシステムの異常なのか、仕様なのか、はたまた外部からの影響があるのかは分かりませんが、慎重に事に相対しなければなりません」


 アドリアを見るプレイヤー達の目は皆真剣だ。

 少なくとも、アドリアの言葉を疑っている人間はいないようだ。


 魔神だのが関わっている可能性があるとは言っていないが、やはり言わない方が良かったのだろう。

 まだ確定したわけではないし、この結束力をわざわざ崩すこともない。


「作戦は、先程説明した通りです。ボスの情報が何一つない以上、無暗に攻撃することは避けて、序盤は情報収集に徹してください。もし何かしらのトラブルがあった場合は、パニックになったりせず、しっかりと指示を聞いてください」


 何が起きるのかは全く予想できない。

 これが普通のゲームだった場合はNPCに話を聞いたり、クエストをこなすことで情報を手に入れることも可能だろうが、現時点のOOでは無理だ。


 もしここにいる全員が帰ってこれないような状況に陥った場合、これからの攻略は非常に難しいものになるだろう。

 絶対に負けることはできない、何があっても原因を突き止め、ボスを倒す必要がある。


「それでは、出発します。必ず勝って、ゲームクリアへ近づきましょう!」


 おおおっ!!!という鬨の声が上がり、総勢三十名のプレイヤー達が、彼方に見えるゴルゴ山に向けて移動を開始するのだった。



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