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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第19話 再戦の準備

 横なぎに振るわれる大剣を全力のバックステップで躱し、一転して接近。

 がら空きになった胴に拳を打ち込もうとするが、それに対してゴルムは回転して二度目の横なぎを放つ。

 とっさにしゃがんで何とかやり過ごすと、回転の勢いを殺さないまま跳ね上がった大剣が今度は垂直に振り下ろされる。


 ゴルムの戦い方はまるで踊るようだ。

 常に剣を動かし続け、相手の力さえも利用する。

 素手の間合いに入ろうと前進するがゴルムは巧みに大剣がギリギリ届く間合いをキープしながら攻撃を入れてくる。

 それならばと急接近し、さすがの反射速度で振るわれてきた大剣を思いっきり弾き飛ばす。

 と、ゴルムが回転。

 弾き飛ばされた大剣の勢いを殺さず逆に利用して回転切りを敢行してくる。

 それを読んでいた俺は両手を掲げ――。


「っ!」


 開いた掌に力を込め、大剣を両側から挟み込み止める。

 [身体異常]により強化された筋力が、大剣をガッチリと受け止め封殺する。

 ゴルムの目が見開かれるが、俺からしたら矢を捕まえることよりは楽なことだ。

 大剣を掴んだまま接近して殴りかかろうとするがゴルムが左手を大剣から離し口を開き――。


〈吹き荒れる風〉


[突風(スコール)]!」


「魔法……!?」


 前へと突き出した左手から風が爆発してお互いを吹き飛ばす。

 完全に虚を突かれたが、飛ばされないように踏ん張ることは難しくなかった。

 しかしゴルムはあえて、風に飛ばされて宙を舞う。


「なろっ!」


 落下点へと走る。

 空中なら躱せないだろう。

 落下する場所を予測して無刀流初級技[スカイアッパー]をゴルムへと放ち――。


「うぇ?」


 その拳は空を切った。

 ゴルムが昨日のように、真下に技を放ち反動を増幅させることで一瞬宙に浮いたからだ。


 そう気づいた時には大剣の腹が頭へと叩き付けられていた。





 時刻は午前7時。

 朝から手持無沙汰だった俺とゴルムは、アドリアから召集を受けるまでの暇な時間に決闘をしていた。

 決闘ルールは単発エンド。

 一定以上の強い攻撃が入るか、相手のHPを2割削った方が勝ちという決闘法だ。

 『WINNER ゴルム』という文字を苦笑いしながら眺め、その場に座り込む。


「お前、いつの間にあんな魔法覚えたんだ?」


 同じように隣に座ったゴルムに聞く。

 もちろん、お互いを吹き飛ばすのに使ったあの魔法のことだ。

 魔法に関しては知ることが少ないので何とも言えないが、少なくとも最初の武器選択で杖を選ばないで魔法を使った奴は初めて見る。

 こいつの場合、最初の3つのスキルにもなかったはずだ。


「うん、まぁ大した物じゃないけどね。西エリアで魔法を使うアリを倒したときに手に入れた」


「魔法を使うアリ……」


 西エリアといえば初日に行ったバグズフォレストの事だろう。

 俺は入口の付近しか探索していなかったが…そうか、奥に行けばそんな奴がいるのか。


「どうやら俺は風の適性があるみたいでね。昨日使った[烈風斬(ウインドスラッシュ)]も大剣と風の複合スキルだよ」


「なるほどな」


 まぁ互いを吹き飛ばす程度の魔法ならそこまで強いとは言えないが、スキルレベルが上がって魔法の種類が増えたらもっと強くなりそうだ。

 こいつとの決闘は、いろいろと学べることも多いな。


「それじゃあとっとと朝メシ食いに行くぞ。バナミルの店が混んでなきゃいいんだが」







「いらっしゃい。っと、リュウじゃねえか」


「おう、昨日ぶりだな、バナミル」


 幸い、人はまばらに居たもののまだ早い時間のためか待たずに入店することができた。

 入るなりバナミルが歓迎してくれる。

 どうやらこちらを忘れてはいなかったらしい。


「おうおう、よく来たな。座ってくれや。」


「今日は仕入れ足りてんのか? 昨日みたいにならないといいけどな」


 昨日みたいなこと、とは無論昼過ぎ時点での品切れである。


「攻略組がだいぶ頑張ってくれたからな。ジュラス広原の食材がだいぶ流通して手に入りやすくなったぜ」


「そいつはよかった。なら朝からガッツリ食えそうだ」


「俺はゴルム。美味しい飯頼んますよおっさん」


「バナミルだ。おっさんて……俺はまだ20代だぞ」


 昨日のNPCレストランの味を思い出したのかゴルムが言う。

 しかしバナミル、あの厳つい見た目で20代とは驚きだ。

 無論口には出さないが。


「お前ら朝から肉でいいのか?」


「おーよ。これからボス戦だからなー。しっかりエネルギー補給だぜ」


 まぁ厳密にはここでの飲食は現実の体には全く影響しないんだがな。

 俺もこれから大イノシシに挑むことも考えるとガッツリ食いたいのは事実だが。


「そんじゃ待ってろ。俺の今の最高傑作を食わしてやろう」


「おーいいね。そんなら奴にも勝てそうだ」


 ゴルムが超リラックスしてナイフとフォークの柄を机にカンカンたたきつける。

 おい、黙って待て。


「お、アドリアさんからメッセージ」


 カンカンを中断したゴルムの言葉と同時に、俺の方にも着信を示すアイコンが表示される。


《午前10時に噴水広場に集合して大イノシシ討伐に向かいたいと思います。掲示板でも呼びかけているので大人数での討伐となるでしょう。ご協力お願いします》


「大人数での討伐……ね」


 アドリアの丁寧さが感じ取れる文面に、そう言葉を漏らす。

 このゲームで大規模戦闘はしたことがないが、各々が好き勝手に行動しているだけでは意味がないのが常だろう。

 あのイノシシの超高速突進も相まって、どう転ぶのかはまるで分からない。

 最悪全く統率を取れずにドカドカ突進を食らっていって戦線崩壊、などと言うこともあり得るだろう。

 序盤なのだからできれば躓くことなくすんなりと倒して、今後のために勢いをつけておきたいと思うのだが――。

 

「大丈夫、俺がいるんだ。ちゃっちゃと倒してやるよ」


 隣のゴルムが、軽くそう言い放つ。

 その言葉に呆気にとられた俺を見て、ゴルムが笑った。


「心配なんかしなくて良いんだよ。これはゲームなんだから。気楽にいこーぜ」


 どうやら俺の心情をあっさりと見抜いたらしい。

 こいつとは長い付き合いになるが、それでも少し驚いた。


「ああ……期待してるよ」


 その驚きを隠しながらそう言うと、ゴルムも肩をすくめて笑って見せた。


 そんなこんなで時間が過ぎ、しばらくすると奥からバナミルが姿を現す。


「ほらよ、これが俺の最高傑作だ」


 そう言ってバナミルが俺とゴルムの前にどんぶりを一つずつ置いた。

 何の変哲もないただの肉丼。

 だが俺はこれが何なのか一目で分かった。


「お前……これまさか……」


「おう、よく分かったな。昨日お前さんらにもらった素材と今日の仕込みでようやく調理できるようになったんだよ」


 これは間違いなく、俺が昨日バナミルに提供した橙大蛇の肉だった。

 レア度6。

 昨日はスキルレベル不足で調理できなかったが昨日今日でバナミルも頑張ったらしい。

 さぞ美味いことだろう。


「おおおおお、美味そう!」


 ゴルムもこの素材の良さが分かったみたいだ。

 旨そうな飯を目の前にして眼を輝かせている。


「 「いただきます!」 」


 大きく一口頬張ると弾力のある肉に辛みのあるタレが絡まって最高に美味い。

 朝からガッツリヘビ肉丼。

 俺とゴルムは喋る間も惜しんでガツガツと食べ進めていくのだった。







「ごちそうさまっと」


 幸福な時間も終わり食後の茶をすする。

 緑茶でもほうじ茶でもない不思議な香りのするお茶だ。

 バナミルに聞いてもNPCで売っている品で具体的には何のお茶か分からないそうだ。

 こういう飲食物は現実にも存在する味覚を再現しているんだろうか。

 それとも架空の味を創造しているんだろうか。

 ……まぁ気になるところではあるが、考えても栓のないことだ。

 今後も美味い飯に出会えることを祈ろう。


「いい食べっぷりだったな。見てるこっちもいい気分だ」


「最高に美味かったよ。ありがとう」


「はっ。お前さんにもらった食材だしこれくらいは当然だ。今日のボス討伐、俺たち生産者の分も頑張ってくれよ」


 いい笑顔で親指を立ててくるバナミル。

 それに同じポーズで応えながら、席を立った。


「よし、そんじゃそろそろ出るかな。ごちそうさま。また頼むよ」


「そろそろほかのプレイヤーも料理店出すと思うがな。精々ご贔屓にしてくれよ」


「ごちそうさまー」


 軽く挨拶を済ませ、俺とゴルムは店を後にするのだった。





 時刻は9時50分。

 俺たちがいるのは噴水広場だ。


「結構人いるねー」


「そうだな。40人近くいるんじゃないか?」


 すでに多くのプレイヤーが集まっていた。

 まぁたぶん今は居ても参加しない奴とかもいるんだろうが、結構多い。

 これだけ居ればきっと勝てる……と信じる。

 これからボスに挑戦するプレイヤー達に買ってもらおうとしているのか結構な数の露店もある。

 そして噴水の付近に知っている顔があるのを見つけて歩み寄っていく。


「おはようアドリア」


「あ、おはようございます」


 アドリアは昨日と武器が変わっていた。

 ラナに作ってもらっていたものだろう。

 近づいてくる俺たちを認めると、笑顔で挨拶をしてくる。


「今日は頑張りましょうね」


「おう。これだけ人がいればいけるだろ」


「楽観視はいけませんよ。しっかり緊張感を持っていきましょう」


「当然。リュウは駄目だねぇその辺」


 何故か馬鹿にされる。

 ゴルムの発言はまともに相手をしないのが常なので気にしないのだが。

 

「では、そろそろ挨拶をしておきましょうかね」


 そう言ってアドリアが噴水のある池の淵へと登った。


「皆さん! 今日は集まっていただきありがとうございます!」


 アドリアの大きな声にプレイヤー達も会話をやめてアドリアを仰ぎ見る。


「今日の目的は、掲示板にも載せたとおり、ジュラス広原のボス、大イノシシの討伐です。全員で力を合わせて、ゲーム攻略の第一歩としましょう!」


 見回せば、多くのプレイヤーが力強く頷いていた。

 どうやら皆、準備はできているようだ。


「パーティなどの制限はないので、各自で組んでください。ドロップ品は自分が手に入れたものを自分のものに。現金は自動分配システムを使います。大イノシシの攻撃は―――」


 アドリアの説明が続く中、ゴルムと視線を交わし、頷き合う。


「いよいよだな」


「ああ、絶対勝つ!」


 ボス戦に挑むプレイヤーの総数は32人。

 熱い戦いになりそうだ。








 攻略法などをしっかり伝えた後、ぞろぞろとジュラス広原へと移動。

 出てくるモンスターなどは瞬く間に瞬殺。

 皆も思い思いに会話をしている。

 緊張しすぎるのも良くないし、リラックスしているのは良いことだろう。


 何となく歩くプレイヤー達に目を向けていると、ふとどこのグループにも属していない一人のプレイヤーが目に入る。

 アドリア以外で唯一の、女性のプレイヤーだ。

 一切喋ることなく黙々と歩を進めている、かなりの美人。

 暗い表情をしているものの、整った顔立ちに、山吹色のポニーテール。

 灰色の軽装に武器は片手剣。

 右腰にさしているのを見るに左利きなのか。


 思わずじろじろと観察していたからか、向こうも気づいて睨まれたので慌てて目を逸らす。

 そんな変な目で見ていた訳じゃなかったんだが。


「ここら辺でいいですかね。ゴルム、お願いします」


「あいよー」


 全員が見守る中ゴルムが地面に大剣を突き刺す。


《立ち昇る風》


小竜巻(スモールサイクロン)!」


 大剣を刺した部分に竜巻が発生してゴルムを上空へと吹き飛ばす。

 そのまま空中で技を連発して反動で上昇。

 しばらく滞空したと思ったら落ちてきた。

 今度は激突寸前にも技を発動させて落下ダメージを軽減してある。


「あったぞー。あっち」


 そう言ってゴルムが10時の方向を指さす。

 おー、とプレイヤー達がどよめいた。

 まぁあんな派手なことは普通やらんよな。

 

「では皆さん、もうすぐです。進みましょう」


 先ほどの女性はなぜかプレイヤー全員を睨みつけていた。






「10分休憩を取ります。装備の点検等を準備をしっかりしてください」


 その言葉と共に全員がボスゲート前の安全地帯で腰を下ろす。

 アドリアも俺とゴルムのところに来て座った。


「ふぅ。大人数を先導するのは緊張しますね」


「中々様になってたぞ。皆しっかり言う事聞いてるし」


 何事もなくボスゲートに到達できたんだしアドリアのリーダーシップは中々のものだと思う。

 俺やゴルムがやってもああはできないだろう。


「皆さんがしっかりと行動してくれますからね。私は何もしていないです。今回も、ゴルムがいなければ辿り着けすらしなかったですからね」


「そう自分を卑下することもないだろ」


「そうそう、これもアドリアさんのカリスマと行動力のおかげ」


 そう言われたアドリアは苦笑しながらも、少し嬉しそうだった。






「皆さん、厳しい戦いになると思いますが、全力を尽くしましょう」


 ボスゲート前で仁王立ちするアドリア。


「戦闘方法は先ほど言った通り。勝負は激昂状態に入ってからです。あの突進を攻略しなければ勝ちはありません」


 そう言いながら俺、そしてゴルムを見る。

 シャラン、と背中に背負っているカマを下ろして上へと掲げ――。


「皆さん、絶対勝ちましょう!」


「おおおおおっ!!」


 次々とプレイヤー達がボスゲートへ踏み込んでいく。


「よし、リュウ! 行くぞー!」


 そう言ってゴルムも突っ込んでいった。


「俺は……」


 振り返ると難しい顔をしてゲートを睨んでいた件の女性と目があう。


「あー…あんたも行くぞ。参加するんだろ?」


 そう言われて周囲を見渡しようやくもう人が残っていないことに気付いたのか、こちらを睨みつけながらゲートに入っていった。


「……」


 ゲートの揺らぎに消えていった山吹色の輝きを追いかけ、俺もゲートへと足を踏み入れるのだった。






 ボスゾーンに入ると同時に体が動かなくなり、視点が切り替わる。

 二度目の挑戦なのでこれがイノシシの視点だという事は分かっている。

 だが、遠くに見える影に向けてどんどんと視点が近づいていくにつれて俺は違和感を感じ始めた。

 ある程度近くまで近づいたところで再び視点が切り替わる。

 そこでようやく違和感の正体に気付いた。


「ブォォォォォオ!」


 イノシシが叫ぶと体が動くようになる。

 だが俺はしばらく行動に移れないでいた。


「嘘だろ……」


 このボスエリア内に居たのが、俺と山吹色の髪を持つ美人だけだったからだ。



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