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第2話 ゲームの始まり

 いやいやちょっと待て、ありえないだろ。

 なんだ基礎能力倍加って。なんだよ武器使用不可って。


 OOでは戦闘には必ずと言っていいほど武器が必要になる。

 魔法でさえも最初の武器選択で(ロッド)を選択、またはそれぞれの武器との複合技として使うものだ。

 つまり武器を持つことができない俺は、モンスターとまともに戦うことができないわけで。

 新しいスキルを覚えれば話も変わるかもしれないが、このままだとお荷物状態でPTプレイなどほとんどできないだろう。

 一体どうすれば良いと言うのか。


 当然の様に武器選択は省略され、『Welcome to Original Online』 の文字とともに体が浮遊感に包まれる。

 おそらく8時になり、初期場所への転送が始まったんだろう。

 OOでは二人目のキャラを作ることもできないし、キャラをデリートして新しく作り変えることも不可能だ。

 生産をするという選択肢もなくはないが、それだったらOOをあきらめた方が100倍いい。

 こうなったら武器を使わずに戦闘をする方法を考えるしか。

 基礎能力倍加を生かして、どうにかモンスターと戦う方法が見つかれば――。


 そんなことを考えているうちに完全に転送が終了。

 目を開けた瞬間、目の前に溢れるプレイヤーの数に思わず目を回す。

 最初のエリアは城下町だったか、待機していたプレイヤーがログインしてきたのだろう。

 このまま初期位置に居ては邪魔になるし、身動きも取れない。

 少し離れた場所まで人を掻き分けていき、ぼんやりと周囲を眺める。


「OO来たぞー!」


「スキルゴミすぎぃぃぃ!」


「南エリア行きます!PT組みませんか!」


 叫ぶ者、外のエリアへ向かって猛然とダッシュする者、キョロキョロとあたりを見回す者、わざと転んでいる者など、たくさんの人がいた。

 たぶんキョロキョロ組は待ち合わせ組、転んでいるヤツは一早くスキルを手に入れようとでもしたんだろう。

 俺はスキルのせいで手放しに喜べずそんなプレイヤーたちをのんびり眺めていたが、キョロキョロ組の一人が俺を見つけて走ってきたので、手を振ってみる。

 癖のある黒髪に、人懐っこい笑顔。

 現実とほとんど変わらない要の姿がそこにあった。


「おーっす、りゅう、リアルと変わらんなー、すぐわかったよ」


「それはお互い様だろ。名前は? 俺は波沢竜聖からそのままカタカナでリュウだ」


「おう、俺も大宮要からそのままカタカナでゴルムだ」


「その名前のどこからゴルム成分を持って来たんだ……?」


 俺は名前考えるのが面倒だから本名からとったが、張り合わんでもいいだろうに。


「そんなことはどうでもいいだろ! さぁ、スキルだ! 一体どんなスキルを手に入れたんだよ!」


 俺の疑問を放り投げ、要もといゴルムは息せき切って質問を投げかけて来る。

 思わず顔を引き攣らせてしまうが、これは当然の質問だろう。

 ちなみにゴルムは背中に身の丈ほどの大剣を背負っている。

 リアルと同じ感覚で武器を扱うVRゲームに自分の体と不釣り合いな武器は合わないが、おそらくいいスキルを手に入れたんだろう。


「あー。そういうお前はどうだったんだ? 見たとこ武器は大剣で合ってるみたいだが」


「俺は反動制御、自動回復(リジェネレート)、読書上手、の三つだよ。もう読書上手とか運営の遊びとしか思えないけど。反動制御は説明に書いてある限りだと、反動の大きさを多少コントロールできるものだと考えてる。自動回復(リジェネレート)はまぁわかるでしょ。まだ回復量は微小らしいけど、スキルのレベルを上げれば強くなるんじゃないかな?」


「やっぱ説明じゃ分かりにくいけど、なるほど。それで大剣か。[反動制御]に合いそうでいいんじゃないか?」


「うん、大槌と大剣どっちにしようか迷ったがやっぱ大剣がいいよなー。で、リュウはどうだった?」


「……俺は威圧(オーラ)と放撃だな。威圧(オーラ)は自分より弱い相手を威嚇して、動きを止められるみたいだ。放撃は物理攻撃の衝撃を外に逃がしてダメージを軽減するスキルだな」


「おぉー、そっちは単純で分かりやすいね。んで? もう一つのスキルは? と、武器は?」


 急かすように聞いてくるゴルムにいい加減俺は腹を括った。

 ゴルムなら俺を茶化したりはしないだろう。


「あんま笑うなよ? もう一つのスキルが身体異常、能力は基礎スキル倍加。デメリットがあって武器装備不可」


「………はぁ?」


 ゴルムがぽかーんと首を傾げる。

 だが段々俺の言葉を理解したのか、少しずつ目が見開かれていく。


「え、ちょ、マジ? それ。なに基礎能力倍加って。というかなに武器装備不可って。それどうやって戦うん……」


 うん、反応が俺と同じだ。

 やっぱりおかしいだろう、メリットもデメリットもでかすぎて。


「だからリュウは武器持ってなかったのかぁ。……どうすんの、生産職にでもなるの? 一緒に戦いには行けないの?」


「生産は俺の好みじゃないしなぁ。武器を使わずに戦う方法を見つける。いざ無理だったらPTのサポートでもなんでもやるさ。さすがに何かは見つかると思ってるよ」


「まぁそれもそうだよな。任せとけ。リュウが戦えるようになるまでは俺が守る!」


「身体異常のおかげで体力も防御力も初期のお前の2倍で、さらに放撃があるんだぞ? むしろお前の方が危ないんじゃないか?」


「おおう、そうだった。やっぱ恐ろしいスキルだな……」


 そんな風に話しているとだんだん初期場所にいるプレイヤーも少なくなってきた。

 OOのスキルには限りがあるし、俺らもとっとと行動を開始するべきだろう。





 とりあえず、そのままフィールドに行くこともできない俺達はしばらく検証に徹してみた。


 まず一つ目、本当にすべての武器が装備できないのかどうか。

 これについては当然だが、全滅だった。

 近接武器の刀剣や槍、遠距離の弓、魔法の(ロッド)に至るまで、完璧に装備不可能だった。

 武器を掴もうとしても、バチッ! と衝撃が走って弾かれる。

 まぁこれは装備できちゃった場合、スキルの欠陥で即修正されるんだろうが。


 次に二つ目、武器以外の物なら装備できるのかどうか。

 まず初期装備を付けている時点である程度判明していたことだが、防具は装備することができる。

 OOには武器で直接攻撃する以外にも、投げ矢を投擲して攻撃する、地雷を設置して攻撃するなどの攻撃方法もあるようだが、これらはまずアイテムを手に持つことすらできなかった。

 まぁ手に持てても、まだ該当するスキルを手に入れてないのでまともに使えないのだが。


 最後に、生産を試そうとしてみた。

 楽しければ最悪生産プレイヤーになることも考えていたのだが、こっちにも落とし穴があった。

 鍛冶にはハンマー、木工にはノコギリなどという、生産に必須なアイテムすら持てなかったのである。

 あまり生産には期待してなかったがこれには少し落胆した。


 というわけで俺はOOを続けるなら、完全に武器を持たずに戦闘をするか、PTのサポートをするかという状態なってしまったわけだ。

 PTのサポートをするにしても武器を使えないプレイヤーを入れるくらいなら武器とサポート両方できるプレイヤーを誘いたいだろうしあまり見込みはないだろう。

 俺に付き合ってもらって若干スタートダッシュに遅れてしまったゴルムに申し訳なく思いつつ近くにあったベンチに腰を下ろす。


「まぁこればっかりは初期の運だからしょうがないよ」


 ゴルムはそう言って慰めてくれていたようだが、その言葉は落ち込む俺には届かない。

 楽しみにしていたOOがまさかこうなるとは予想だにしていなかった。


「こりゃOOはあきらめるかな。せっかく基礎が2倍になっても生かせないんじゃあしょうがないし。これだったら他のゲームをやった方がマシな気がする」


 不貞腐れて本気でOOをやめることを検討していると、見かねたようにゴルムが手を叩く。


「ちょっと暗い気持ちになってきたしフィールド行ってみる? 武器無し戦闘の参考になるものが見つかるかもしれないし。俺はちょっとリュウに付き合って時間とられたんだから。その分のお返しとしてリュウも付き合えよ」


 ゴルムが気分転換に誘おうとしているのが分かって俺も頭を振って内心の陰りを振り払う。

 こうして気遣いをしてくれる友人が居るのだから、いつまでも自分のことを引きずってはいられない。


「おう、俺もゴルムの大剣と反動制御の組み合わせを見てみたかったしな。ちょっくら行ってみるとするか」


「まだ初挑戦なんだから、あんま期待しないでよ。んー、ほかのプレイヤーの大半は南エリア行ったみたいだし別のエリアなら比較的空いてるかな?」


「じゃあ西エリアに行こう。虫の巣窟らしいからきっと誰も寄らない」


「俺虫苦手だから他の場所にしない?」


「じゃあ西エリアに行こう。虫の巣窟らしいからきっと誰も寄らない」


「リュウ? なんかちょっと八つ当たりしてない?」


「じゃあ西エリアに――」


「分かったよ! やってやるって!」


 いつもの様に下らない掛け合いをしながら、俺達は西エリアへと足を向ける。


 城下町に流れ始めている、不穏な空気に気付かないまま。




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